34.婚約者が決まりました
入院している間にシルバーウィーク終わってました。連休を出歩けず悲しみしかない。
私も周りに本を積み上げてひたすら読んだり、スイーツ食べ歩きがしたかった……!くそぅ。
でも心身共にだいぶ回復しました。
そういえば、八神先輩ほぼ日参だったんだけどよもやもうお話がいっていらっしゃった?1日だけ実家に帰らないといけないとかでこなかった。その翌日帰ってきた時めちゃくちゃご機嫌だった。一体何のお話だったんだろう。
そういえば、私は正式に花守二菜になりました。お父さんがしょんぼりしていた。いや、マジでごめんね。私のせいかどうかはわかんないけど。というか正直あの連中のせいかなって思うんだけど。
今日は花守のお家で婚約者との顔合わせである。そのために学院も休まされたわけだけど、相手もそうだろう。
だって相手は学校の先輩だもんね!?
「どうしたんだい?二菜」
「うん。聞いてたけど現実がちゃんと理解できないんですよね」
「だろうねぇ」
隣で超絶美形が自分の婚約者として微笑んでいるという現実がちゃんと理解し切れない。楽しそうに笑う八神先輩の顔は今日も綺麗だけど。毎日見ても本物って飽きが来ないんだなって学校で顔合わす度に思っている。
月岡くんに聞いてなかったら顔合わせた瞬間に超絶美形を目の前に気絶していた。なお、「せっかく婚約することになったんだから名前で呼び合うといいんじゃないかしら!」という花守の祖母の言葉で「恥ずかしいな」とはにかみながら即座に名前呼びに変更した先輩が怖い。私の方が慣れない。
「深く気にしなくてもいいんじゃない?君の大好きな顔を常に隣に置いておく権利が生まれただけなんだし」
「それを言われると正直ちょっと嬉しいから困っちゃうんですが……!?」
いやでも死亡フラグ折るには婚約者と仲良くやった方がいいって言われてるから婚約者っぽくした方がいいのかどっちだろう。
小さく呟いた言葉に反応してか、「二菜」と呼ばれて八神先輩と目を合わせようと顔を上げた。
「その話、もう少し詳しく聞かせてくれないかな?」
そう言われたので月岡くんの占い結果を知らせると、妙な顔をしていた。
(この婚約は、今まで姉の被害にあってきた二菜のために、できることなら彼女の知り合いから信頼のできる婚約者を選びたい。そういった、花守の意向を汲んでのものであったはずだけれど……ちょっと僕に都合が良すぎる気がするな)
「えーっと、嫌だったら早めに言っといて頂けた方が傷が浅いです先輩」
「二菜、僕のことも名前で呼んでほしいと言っただろう?」
「うっ……ぐぅ……」
顔が良すぎるからちょっと離れてくれ頼むから!!
あと私色々あって先輩を直視するの今大変に恥ずかしいです!!
「僕の方は全く問題はないよ。君との婚約は僕にとっては嬉しいものだから」
「はい?えっと……?」
あ!終夜さんどっちにしても家の都合の良いところか結構良さげなお家の女の子捕まえろって言われてるんだっけ?日上先輩がそれっぽいこと言ってた気がする。
四家の一つである花守との婚約ならそこらへん解消だし嬉しいよね?
うんうん、と頷く。それならば納得もできる。
「なんだろう。何か勘違いをされているような気がするんだけれど……時間をかけるしかないか?」
何か言われたかな、と思って首を傾げると終夜さんは苦笑して私の手を取った。
「そういえば言い忘れていたんですけど、今日の羽織袴最高に似合ってますね。写真撮っても良いですか?」
「君も一緒に写ってくれるならね」
いやいや私邪魔でしょ、と思ったのだけど一緒に写りました。自分切り取って引き伸ばしても良いかな?
えっ、だめ?
そっかぁ。いやでも本当に似合うな。着せ替えめっちゃしたいけど今日の感じでいくと「君も一緒なら」で押し切られて私もめちゃくちゃ着替える羽目になりそうだし最終的に私だけが延々と色んな服着る方向に持っていかれそう。
翌日、学校に戻って優奈に報告入れたところ、昼休みに「私の方が二菜のことを好きなのは覚えておくと良いのだわ!」と言いに行って穂積くんに引き摺られて帰ってきた。
「小鳥遊……じゃなくて花守よりも俺への好きの比重を上げてくれ。頼むから」
「付き合っている年数が違うのよ。修羅場の数も違うわ」
「あー、これ八神先輩も絶対花守に同じこと言われるな。どんまい……」
「あなたの事は好きよ。友情の好きと恋情の好きはまた違うのよ。今は友達が取られたようで気に食わないわ」
好きだ、と口に出された事で照れている間は目の前のカップルは大丈夫だな、と思ったし目の前でイチャイチャしだした。
末永く仲良くいてくれ。
ちょっと羨ましいような、すぐに素直になれる気がしなくて恥ずかしいような、そんな私だった。
「なんであんなこと言われなきゃいけないの!!本家だって急に婚約者を勇樹くん以外にしろなんて……」
そう叫ぶと、部屋に置いてあった枕は切り刻まれ、机の上のものは割れたり砕けたりする。
小鳥遊一花は、千住勇樹との婚約を条件に本家に養子に入った。
それが、月岡の女の占いを受けて本家の人間は別の男を勧めてくる。そんな連中を契約違反だと叱れば、現当主だとかいう老爺が「我らの血筋を何だと思っているのか!」などと言うので、彼が当主としての務めを果たせなくなるように彼らが自分を悪者にした呪いを使って魔法回路をギタギタに壊して見せしめとした。浄化なんてものはさせはしない。そのまま役立たずとして朽ちればいい、と思った。
恋のために、家族を捨てさせられたのだ。
他の何も惜しくはない。
そう言った彼女を化け物でも見るような目でそれらは見た。
実際には、父親の提示した施設に入り、反省した後に出て、それから関係をもう一度始めればよかっただけの事なのだ。
(捨てさせられた、じゃなくて捨てたんだよな。コイツが。あーあ、厚顔無恥ってこういうのをいうんだろうなー)
部屋の外から怒り狂う一花の様子を覗いてしまった壱流は溜息を吐いた。
彼女の妹はようやく動けるようになったところだと聞く。妹を自分の思い込みで殺しかけるやつに仕えたくはない。
母親はそれを望んでいたようだが、いつもは何も言わない父親が「あれを上に置くならば私と壱流、三芳だけでもここを抜ける」と宣言したおかげで彼は小鳥遊を出て行くことになった。
宗二……彼の弟は母親と同じ考えらしく残るようだが。父も離婚をしたようだし、元々父は分家筋だ。もう関係はないだろう。
元々、壱流の忠誠心を疑問視していた当主のおかげで中枢までいくことがなかったために抜けられる。中央にいたならば巻き込まれることは必定であっただろう。手を合わせて拝んでおいた方がいいだろうか、と薄ら笑った。
屋敷を出て、立派な庭のついた生活感のある家へと入った。
「あ、おかえりなさい」
自分を見つけて嬉しそうに微笑む妹の三芳。
「ただいま」
彼は妹に向かって穏やかに微笑んだ。
本来の二菜を本家の命令で殺すはずだった青年は、小鳥遊を離れた事でその役目を解かれた。
……が、それはそれとして。
(外野としてならあの姉妹のこととか見てんの面白そうだな)
助ける気はさらさらないが、娯楽として騒動を見続けようと思う程度にはろくでなしだった。




