33.私たち、ライバルなのですか?
33.私たち、ライバルなのですか?
「ライバルの僕が来てやったぞ」
「私たちライバルだっけ?」
病室に突撃してきた月岡くんに言うと、「ライバルだ!」と怒った。
もうなんというか、最近の彼ツンデレ系なのでいっそ女子ならなぁ、ってたまに思ってしまう。残念ながら男子だが。でもこういうのが好きなお姉様方もいるだろう。たぶん。態度は軟化したのでそれはよかったと思う。
そして宮藤くんに咳払いされて、椅子に尊大な格好で座る。……病院の椅子でも尊大に見えるの、なんかすごいな。王子様とかがいたらこういう感じかもしれない。
月岡くんが来た理由だけれど、花守の後継者筆頭候補になってしまったらしい私の未来を占ってくれるらしい。
一花ちゃんは月岡母が見に行ったらしいんだけど、「護国の為であれば、せめて婚約者はしっかりとした方を選ぶべきでしょう」と発言して一花ちゃんガチギレしたらしい。益々手がつけられなくなってる気配するの私だけかな?
まぁ、そんな感じで後継とかその候補になると月岡の人に見てもらえるんだって。
「それはどうでもいいとして」
「うん。まぁ。たしかに」
「お前のことだが」
虚無の表情を見せていたらしいので、深呼吸をして精神を整える。
「まず気になるのは生命関連……要するに安全面のことだろう」
「お願いします!!」
「死相が薄れた。最低でも冬の終わりまでは今までより平穏に過ごせるだろう。春にある四家次期当主の顔合わせが次の死亡フラグ?というやつだ。用心するといい」
「何かやっておくべきことある?」
「婚約者と絆を深めておくと良い、と出ている」
婚約者とはなんぞや。
目を点にしていると、「聞いてないのか?」と言われたので頷いた。
「家を継げばそれなりの権力を持つことになるからな。早いうちに自らのパートナーを選んでおくのが暗黙のルールとなっている。もし、いい加減なヤツが伴侶になれば、家の威信も落ちるだろう?早くから教育をする、という意味合いもあるそうだ。
お前の場合も花守が今まさに選んでいる最中だろうが、筆頭候補はおそらく八神副会長だろう。今お前の周りにいる男で婚約者がおらず、都合の良い人間を選ぶと彼だけだからな」
「日上先輩は婚約者持ちだし、遥先輩は現月岡本家の直系で面倒になる可能性が高く、穂積くんは優奈と付き合い始めてるからか……」
一緒に見舞いに来たと思ったら「付き合うことになったわ」と宣言した親友のことを思い出す。「絶対に婿に来てもらうわ」と言って高笑いしていた。
前から思ってたんだけど、優奈ちょいちょい悪役令嬢っぽい感じがする。「おーほっほっほっほ!」っていう高笑いとか。穂積くんはニコニコと笑っていた。
……わ、私の方が優奈のこと大好きだし愛してるし仲が良いんだからね!という気持ちもあるんだけど、これは何という感情なんだろう。友達に彼氏ができるとそういう面倒くさい感情が出てきてしまう。一定数同じ気持ちになる人いるんじゃないだろうか?
「次に、これからのことだが……周囲の言葉に耳を傾けつつ、自分でよく調べ、学び、判断をすれば自ずと道は開かれよう。お前が無事である限り、本物の悪魔は目覚めない。お前が死ねば国家崩壊の危機が訪れる可能性が生まれるだろう」
「何最後の!!怖いんだけど!?」
なんか天然石みたいなのを覗きながらそう言った月岡くんに叫ぶと、「そう出ているのだから仕方あるまい」と言われた。何それ怖い。
「そもそも、次期当主の顔合わせなど人死に関わるようなものではないのだが……お前、姉と幼馴染との縁が切れていないぞ。そこが遠因かもしれない」
縁が切れてないのなんでだろう。
絶縁したって聞いてるんだけど。
助けて。
某日、八神家に1つの釣書が届く。
次男に宛てた釣書は殆どが美しい男を隣に置きたいという事が目的のものだった上に家に利益が少ないものだった故に無視をしていた。家にとって問題のある子どもであるため、さっさと出してしまいたくはあったが。だが、その釣書は封蝋からして無視のできない家からのものだ。
(花守家……?何故そんなところから)
当主である八神夕夜は怪訝に思いながらも、中央から自らの息子を呼び立てる。
本来であれば、京月との縁のための結婚を申し渡していたが、四家の一つからの申し出があった今、あそこで違約してくれたのは寧ろ歓迎すべきことだったかもしれない。そう考えながら口角を上げた。
「お呼びでしょうか、父上」
感情の読めない笑顔を浮かべる息子に女中を通してそれを渡すと、彼にしては珍しく表情を変えた。
「お前に選択肢など有りはしない。花守の後継者の婿に行け」
後継者の名は二菜。
花守の魔眼を現した直系に近い血を持つ少女。そして、小鳥遊より花守へ、養子として入った者。
彼の次男である終夜は微笑んだ。
確かに終夜の親友には幼少からの婚約者がいて、月岡の長男は中枢に近すぎる。後輩は彼女の友人と付き合い始めた。
……そんな今、無難なのは終夜である。
一から関係を築くよりも、ある程度彼女の信頼を得ている自分を選んだのは花守の二菜に対する心遣いだろう。
「謹んで拝命いたします」
終夜は自分が思ったよりもこの婚約を喜んでいることを自覚した。その感情に少し困惑したが、それと同時にホッとした。
以前までの自信なさげに俯く彼女は、今蕾から花開くように自信を持ち始めたばかりだった。残念ながら、あの戦いで心を傷つけてしまったが、それでも自己肯定感がとても低かった最初よりも今の彼女の方がきっと美しい。
そんな彼女が、他の男と一緒にいる姿を想像すると心に靄がかかるような気がした。
そこで、自分の中に生まれていた、ある感情に気付いて苦笑する。
(産まれた時から、家のための結婚が存在意義だと言われてきたけれど……)
彼は写真に写る二菜を見て、それをそっと撫でた。
(君が隣で、共に生きてくれれば…それはどんなにか幸運なことだろうか)




