2.『落ちこぼれ魔法使いの魔法目録』かもしれません
成人の意識を持つがために苦痛を伴う数年をなんとか、なんとか乗り切った。
おむつ替えなどが次回あるとすれば、私が無事におばあちゃんになった時の介護の時である。今度はおばあちゃんまで生きたいものである。
私の生まれた翌年には弟の三月くんも生まれ、一花・二菜・三月の三人の兄弟となった。
上から順番に数字がついている。
三歳の時には千住勇樹くんと出会い、姉の一花ちゃんと遊ぶ彼らを三月くんのお世話をしながら見ていた。母は美人だしめちゃくちゃいい人なんだけれど基本的に何かに熱中すると周りの音が聞こえないタイプなのである。私も基本的にはそういうタイプだけど勘弁してほしい。三月くんに何かあっても責任取れない。小さい子怖い。いや、私も幼児か。
あと、異世界転生で知ってる世界観か、全く知らない世界観か……姉だけでは判別がつかなかったけれど勇樹くんと出会ったことで“知っている世界観”じゃないか、という考えが大きくなった。
おそらく、だけれどこの世界は魔法が使える近代日本を舞台としたラノベの世界だ。なんだっけ、「落ちこぼれ魔法使いの魔法目録」だっけな。魔法目録でビジュアルアーツってどうやって思いついたんだ。読めるかよ。
そのラノベの主人公である千住勇樹の幼馴染み。優等生ヒロイン小鳥遊一花の妹が私こと二菜である。
原作では陽玲学園魔法科高等学校2年生編から登場する。
主人公にほのかな恋心を抱き、けれど尊敬する姉と主人公の関係を進めるための当て馬になるのが私だ。弟は滅多にでてこない。
まぁ、とどのつまり。
私は幼馴染みの妹、という負け確ヒロインなのである。ちなみに原作では、告白もできないうちに「やっぱりお前は最高の妹だよ(意訳)」なんて言われるし、二菜は姉と勇樹くんの背中を押してあげるツンデレかつ心の優しい女の子だ。
今の私はどこをどうあがいても心優しい女の子にはなれないのだが。人生をそれなりに生きると多くの人間は目が澱むのである。現実は厳しい。
そんな私は小学生に上がると小鳥遊家の主婦業をこなすことになっていた。
理由?うちのお母さんは家事ができない。非常にできる研究者だと母方のおじいちゃんやおばあちゃんは言っていたけれど、生活力がない。そして、割と由緒正しいお家だし使用人入れれるかというとそうでもなかった。
お父さんは軍にいるそこそこ偉い人らしく、機密を漏らす可能性を減らすために人は雇えないらしい。
一花ちゃんは勉強良し、運動良し、魔法良しの美少女だが、一花ちゃんも家事ができない。
フライパンで溶き卵を爆発させたのはどうやったのか聞きたい。生卵をレンジに突っ込んで爆発は聞いたことあるけど。
お母さんといい、一花ちゃんといい、呪いにでもかかっているのかな。本当に疑うレベルで調理スキルがない。
お父さんは家事ができるけど忙しくなると難しい。結構上の立場の人なので。
消去法で小学生になる頃には私が三月くんと家事をやることになっていた。
「ねぇ、二菜ちゃん、三月くん……お姉ちゃんも手伝おうか?」
ソワソワしながら顔を出す一花ちゃんに三月くんはクールに「要らない」と返した。謎の物質Xを何度も作り出した姉に弟は厳しかった。弟は食べ物を無駄にする時の母と姉に厳しかった。
しょんぼりとする一花ちゃんに「お皿並べてくれる?」と聞くと、表情を明るくして準備を始めた。流石未来のヒロイン、とても可愛い。
「ドレッシングだろうとサラダだろうと絶対に手を出さないでね」
三月くんは念押ししていた。
ピクリと肩が震える一花ちゃんを見て溜息を吐く。
「一花ちゃん、本当に運ぶだけでいいからね」
申し訳ないけど、私も命が惜しい。