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【電子書籍化】転生したらラノベヒロインの妹だったので推しの顔を見にライバル校へ行きます。  作者: 雪菊
1章

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27.保険は必要だと思います




2回戦マジで何もなくて、日上先輩が秒で片付けておしまいだった。

開始!ドーン!終了!!みたいな感じでマジで何もなくて相手唖然としていた。勝負内容としては各校代表の校章がついた腕章を奪取するか破壊するのが勝利条件です。じゃないと無駄に怪我しちゃうしね。というわけで開始と同時に破壊完了しちゃったのでマジですぐに終わって何も言うことない。次が決勝戦です。


なんかここまで来ると、自分史上初の一花ちゃんに勝利ができる気がする。

なんか、昔からどんなにテストの点数がよくても、他の人より運動をうまくやっても成績とか勝ったことないし、魔法はほら……彼女チートなので……。


転生者なのに私にはチートないのか、とは思ったことないんだよなぁ。だって、他者から見ると私だって十分すごい人だと思うし。

ただ、勇樹くんたちの近くにいると自己肯定感が低くなっていくのを感じるけど。なんだろう、あの人たち。私を引きこもりニートにでもしたいんだろうか?



「小鳥遊さん、今いいですか?」


「はーい!なんですか?遥先輩」


「頼まれていたものを回収してきましたので確認をお願いします」



名前を呼ばれて現実に意識を戻す。

遥先輩から受け取った4つの袋には各々名前が記入されている。中に入っているのは魔力蓄積の魔法陣が刻まれた球状のガラス玉のように透き通った石…だったもの。

体外に魔力を蓄積する際に扱う、とある石があるので、それを使用してなるべく魔力を溜めてもらった。魔力を吸い上げることで色が変わる。


作ってもらった理由としては……うん。保険、と言うしかない。

最近、なんか周囲でちょっと怖めの出来事が起こっていることもあって、試合終了後とかの魔力が無くなったタイミングで襲われたら死ぬなって思って皆さんに協力してもらいました。私以外が巻き込まれるのは私が巻き込まれるよりも嫌だしね。身につけられるように加工して返します。



「ありがとうございます!」


「いえ、黒幕が捕まっていない以上、君の立場では不安で仕方がないでしょうし」



苦笑する遥先輩。少し考えるような素振りをしてから、彼は御守りのようなものを差し出してきた。



「なんですか、これ?」


「最近不運なようですので」


「否定ができない!!」



ふふ、と笑う遥先輩は美しいけども。



「最後まで、諦めないでくださいね。そうすればきっと……道は開けると信じています」


「なんですかその何かを知っている感じの口振り!!何かあるなら言ってくださいお願いだから!!」


「すみませんが、知っていることがあるわけではないんです。ただ……なんとなく、です」


「月岡家、巫術極めた家系なんですからそういうの怖いんですけど!?」


「僕はそういうのは専門外なので、本当に知りたいなら弟か母に問い合わせを」



はっきり言われてしまったけど、何か悪いことが近々起こるような気配しかない。

……対抗戦終わったらマジで見てもらおうかな。月岡くんに頼み込んでみようかな。最近、態度がマシだし話もできるようになってきたからいける気がする。流石にちょっと気になりすぎる。














「渡してくれたか?」


「ええ。君が他者を気にかけるなんて、珍しいですね」


「ふん、別に気にかけては……いや、あんなに死の臭いが濃くなっては気にかけるのも当然だろう」



月岡新は溜息を吐いた。

それを見て、遥は苦笑する。


元々、新という子は不器用で意地っ張りなだけで優しい子なのだ。家の教育のせいで少し歪んでしまっただけで。


藍川穂積に諭されてその意見を取り入れ、家族と話し合う場を持つくらいの素直さもある。「一番でなければ」なんていう家の教育だって、婿養子で苦労した父親の暴走でもある。

あくまで月岡は巫子の家系で、他の四家とは毛色が違う事はそろそろ理解してほしいところだ。ただそれは、兄弟が自分の身を守るためであるので仕方がないのだけれど。遥が一冬を座敷牢に入れられてひたすら勉強とトレーニングさせられていた時だって、一応父親は見にきていた。


問題のある二人の父だが、ただただ母を愛しているという気持ちだけは本物で、その力を利用したいと思っていないという一点では尊敬できる人物ではあるのだが。



「僕もライバルである級友が死ぬのは寝覚めが悪いというものだし」



そう告げる新の前で兄が、小鳥遊さんは厄介なクラスメイトだと思ってそうですが、と考えているなんて、弟は知らないし遥の意見こそが正しい。


四家のうちの「月岡」という家は巫子の家系である。神を降ろし、先を見通すものこそが後継になる。

今の当主は月岡兄弟の母であるし、その前は母の叔父であった。血縁の中で最も相応しい力を持つ者が後を継ぐ。

新はその中でも抜きん出て、他者の生命エネルギーや魂の質を見ることに適性がある。術式さえ整えば一族で一番、精度の高い先見もできる。月岡の中では定められた王と言っても過言ではない。


その少年が対抗戦が始まる頃に見てしまったものは個人に関わる災厄の気配だった。それは日を追うごとに黒くなっていき、今の彼の目には辛うじてその少女の魂の光が見えるくらいだ。むしろ黒過ぎてそれで個人を判別をしている節さえある。それを新は「死の気配」だと言う。月岡としては優秀な弟の言うことであるので無視はできない。ただ、個人的にそういうことを伝えると煩いものも多いため、彼らは彼らにできる範囲で守ることしか出来ない。新の能力は、無粋な一族の人間から見ると「金になる」のだ。


新が昔、能力を目的に誘拐された際に救った小鳥遊誠二。その娘である二菜。

だからこそライバルとして認め、関わろうとしていたのだが、すぐに心のドアを閉ざす彼女と新は相性がとてつもなく悪かった。コンプレックスを刺激された彼女は心のドアに鍵どころか南京錠までつけている。バリケードを作り出す前に止まったのは穂積のおかげだろう。


完全に日上光一と八神終夜の庇護下に入った彼女は、ようやく少し警戒心を解き始めた。



「言っておくが!優秀かつあの女と張り合うに相応しいのは僕だ。せいぜい死なせないよう努力しろ!」



言動のせいで評価がマイナスなのに何を言ってるんだ、と言いたい気持ちを抑えて遥は微笑んだ。

言動がこれでも、彼にはそれなりに可愛い弟なのである。兄がそう思っていることなど弟は知りようもないだろうけれど。

古戦場始まりました

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