22.夏期休暇がそれなりに平穏に終わったようです
例の爆発、やっぱり一花ちゃんが狙われていたそうで生活に制限が……普通かかるんだけど、勇樹くんが守ってくれるから大丈夫とかで普通に過ごしている。無理矢理。
そんな一花ちゃんにお父さんはもう匙を投げようとしている。お母さんは心配してはいるけど、多分もっと前に投げている。
私はと言うと、平穏無事に特訓生活を送っていた。休暇終わりが近づいてきた頃に課題ができていないとか言うお馬鹿さんもいないのでマジで平和です。
こんな平穏な夏休みがかつてあっただろうか、と思うと少し涙が出そうだ。
もしかしたらだいぶ病んでたのかもしれない。ここもしかして療養機関なのかな……。
休みが終わると、対抗戦の予選が始まるんだけど、私たちは心穏やかだ。基本会長たちがいて負けるのって想像つかない。
「調整は終わっているか?」
「僕らは問題ないよ」
「魔道具は」
「メンテナンス終了してます」
各々に備品を手渡す。媒介によって箱の大きさは様々だ。そして、役割によって違うスクロールをセットしている。
「一応、一度は訓練場で試運転してください」
「分かりました。ありがとうございます」
これで前準備の私のお仕事はほぼほぼ終了である。
それなりに満足頂けたみたいだし、問題もなさそうだし良かった良かった。
交流戦を前にして、複数の生徒……特に女生徒が日上・八神の両名の元へ度々出向く。
曰く、
「小鳥遊の落ちこぼれを入れるとはどういうつもりだ」
「藍川のできない方を採用するなんてどうかしている」
「同じ月岡ならば弟の方が相応しい」
そういった内容が多い。
多くは自分の方が相応しいというが、八神はそれらの言葉を聞きながら溜息を吐きそうになるのを堪えて微笑んだ。笑顔とは即ち武器である。特に自分のような存在の笑顔なら尚更。彼にとって、それは武器の一つだった。
「でも、君たちは僕たちの満足するだけの結果を何一つ残していないでしょう?何で僕たちの選んだ人間に対する不満を口に出す権利があると思うんだい?」
「で、でも!小鳥遊さんなんて八神さんの顔にしか興味がないただのミーハーで!!」
「そうだね。でも君たちと違って彼女は僕を異性とは見ていないし、仕事は完璧にこなしている。彼女にとって僕は美術品であって男ではないんだ」
「その方が無礼ではありませんの!?」
「どこが?」
八神終夜は愉快そうに微笑む。それを見て、彼の友は口角を上げた。
「僕が自ら許しているんだ。では、それのどこが礼を欠くというんだい?」
「そもそも、何を以て落ちこぼれなどと呼ぶ? 言ってはなんだが、姉より話が通じるだけ、部下としてというならば優秀なのは妹の方だろう。せめてお前たちが自ら研鑽し、俺たちに力を認めさせるというのであれば考えたが……下級生を貶めてもお前たちの能力が上がるわけではあるまい」
そんな時、藍川穂積は2年Sクラスのドアを開いた。「先輩方いらっしゃいますかー」という呑気な言葉付きだ。
「お前みたいなヤツが……!」
見境を無くした3年の男が炎を繰り出す。本来詠唱が必要なほどの炎は藍川に当たる前に霧散した。
唖然とする教室内の人間に「無法地帯かよ」と呆れたような声が届いた。
「それって小鳥遊さんの新作でしたよね?実用化するには個々の能力に依存しすぎると言っていた……」
「そです。攻撃に合わせてこう、バリアーを展開する魔道具。ただ、咄嗟の展開の強度が最低出力魔力に依存するせいで魔力がほどほどに高い人間でないと意味を持たないっていうアレ」
「僕たちであればそれなりに実用性がありそうですね。どうも害意を向けられているようですし」
その様子を見て周囲は黙るしかなかった。明らかに度を越した暴力であったのに、藍川穂積にとっては最低出力の魔力で防げる程度のものであったからだ。
そして、実用化できないとは言いながらもそういった魔道具を生み出した存在が果たして「落ちこぼれ」などと呼んでいい存在なのだろうか。
「俺は、俺と戦うに相応しい人間を選んだ。文句を言うのであれば相応の力を示して見せろ。そうでなければ考える余地すらない」
日上のその言葉に、ある者は悔しげに、ある者は感情を落とす。
「小鳥遊だけ何も知らずにチョー平和!平穏無事でサイコー!!って思ってそう」
そう呟いた藍川の言葉に八神は「それでいいんだよ。もう少し自信を持って対抗戦に挑んでもらわないといけないからね」と告げた。
実際に二菜はそう思っているだろう。八神は自分に懐く後輩を思って今度こそ、普通に感情の篭った笑みを浮かべた。




