1.転生したようです
目を覚ました、という感覚はあったのにあまり周囲は見えない。
どうにもならなくて声を上げようとしたら、新生児特有の泣き声となった。
「元気な女の子ですよ!」
どうやら私は生まれたての赤ちゃんらしい。
いや、なんで!?
これまでのことをきちんと考えるべきだろう、と赤ちゃんなので無駄にある時間を活用してみた。現実逃避ともいう。
私はどうやら、「にな」という名前らしい。漢字はわからないけれど、日本人のようだ。日本人ということと、以前生きていた時代とそう変わらないだろう文化水準にはホッとした。少し目が見えはじめてきた今だから、病院の部屋の様子がよくわかるので、そこから感じたことなのだけれど大幅に間違っていることはないはずだ。
また、とても驚くべきことにこの世界には「魔法」があるらしい。
とは言っても、だいぶ現代向けの魔法になっているように感じる。例えばだけれど、魔力の数値がわかる機械があるようだし、魔力の暴走した赤ちゃんに投与して鎮める安心度の高い薬もある。
本を読めるようになったら絶対に魔法やそれに関わる文化についての本を読み漁ると思う。こういうファンタジーのような出来事って好きだし。かつて好んだ漫画やゲーム、小説を思い出す。
私が転生したことの背景についても一応思い出した。
私は大手のショッピングモールに入ったお店で店員をしていた、しがない社会人だった。電車で毎日死んだ目で通勤していた記憶がある。
ある日、私は朝のラッシュ時にホームへ向かう階段で後ろから来る人に押されて転落してしまった。そこからの記憶がないので、まぁ……そういうことなのだろう。
両親と兄弟には大変不孝をしてしまったと思うけど事故なのでどうか許してほしい。あとできれば幸せに生きていてほしいと思う。
……そろそろ現実的逃避を止めないといけない。お腹がすいた。
成人の意識がある赤ちゃんなのでどうにも私はお世話されることに抵抗があるのだけれどそんな私でも流石にわかっている。
赤ちゃんとは、放置されれば死んでしまう、自分の意思では体が満足に動かせない、割と弱い生き物なのだ。
覚悟を決めて母を呼ぶために泣き叫んだ。