11.研究が捗りそうです
食事が終わって、資料室へ寄る。魔道具の小型化についての資料を浮遊魔法で取り寄せる。魔法って便利。
正直なところ、研究している補助アイテムだけれど、「いくらでもお金を積んでいい」から「巨大なものを」というのであれば可能なのだ。自分だけの能力値で都合をつけることも前提となるが。
でも、それって実用的ではない。
(だから叔父さんもなかなか作らせてもらえなかったんだもんね)
学生の身なら尚更だ。
いくら「お願い、お父さん!」という必殺技があるにしても、一花ちゃん結構備品とかぶっ壊してるらしいので私までめちゃくちゃな費用を出させるのはどうかと思うし。多分言えば出してくれるけど、他人にも協力を頼むのであれば費用はもう少し抑えないといけない。
能力の器が大きいほどコントロールの鍛錬はしっかり積むべきだと思うんだけど、そういう人ほど攻撃とかに極振りしがちなイメージがある。身の周りに二人ほどそういうのが居たからかもしれない。
能力によっては頭打ちになる能力だってあるけれど、それって鍛えなくていい理由にもならない。
私だって攻撃魔法はA評価だけど、コレはもうおそらく伸びない。だけど、逆にいうとAまでは伸びた。
特にコントロールなんて評価が伸びにくくても周囲の安全のために必死に伸ばすべきものだと思っているので、それを疎かにする人とは関わりたくないなってちょっと思う。
ただ、この話題を出した時の優奈には「二菜って割とゲームとかやり込むタイプでしょ」と言われた。間違ってはいない。間違ってはいないけど、コントロールだけはみんな絶対妥協しないで。本気の本気。被害者の言うことは聞いて。
それはそれとして、確かにそういう能力の器が大きい人は魔力のコントロールが非常に難しい側面もある。最大速度で走る車より、それなりの速度で走る車の方が操作がしやすいとかそういうことだろうと思ってる。
そういう人のためにも補助アイテムというのはあってもいいと思うのだ。
…もう安全性を求めるなら私が作って管理するのが正解なのでは?
そんなこんなで学習中である。今は普通に流通しているものだって元々は大きいものだったのだから小型化自体はきっと出来るはずだ。……ただ初めから小さいものを作成するというのが非常に困難なのだけど。でもコストを考えると作るならやらなきゃなんだよなぁ。
そんな事を考えながらページをめくる。参考になりそうなページに付箋を貼るとアラームが鳴った。
「そろそろ寝るかぁ……」
お母さんが寝食を忘れて没頭するタイプなので、念のために時間を決めていた。学校ではちゃんと勉強をするべきだし、実技授業もあるから自分の体調はある程度整えておいた方がいい。自分が誰かを傷つけるのは嫌だしね。学生の身なので第一に考えるべきは学生生活だろう。たぶん。
資料室を出ると、日上先輩と八神先輩がちょうど来たところだった。
「早速資料室か」
「えぇ。みたいものが沢山あります!」
本を抱える私を見て何が楽しいのか面白そうな顔をしている日上先輩と八神先輩。
「今までのとは違うようだな」
「面倒がなくていいんじゃないか、光一」
言っている意味はよくわからないけれど、悪感情では無さそうなのでご挨拶をして別れた。
朝は日課のランニングがあるので時間までゆっくり寝よう。
「僕たちを見ていた割にはそれなりの距離感を保ち、突撃はなく、成績もSクラス所属な上に上位で性格の問題も見受けられない……」
「更には家との関係で見ても基本的に俺たちとは敵対関係になく、四家の出身の割には話が通じる。良い拾い物をした」
「千住勇樹と小鳥遊一花に巻き込まれたくない、とこちらに来たという報告も上がっているね。千住勇樹……良い仕事をしてくれるよ」
日上光一は楽しそうに笑う友に、胡乱な目を向けた。
目の前にいる友には婚約者がいた。それは京都にある古くから続く名のある家の子女で、互いの意思とは関係がないものだったがある程度の誠意は持って接していた事を彼は知っている。
ところが、去年の話だ。
家同士の結びつきを深める婚約のはずであったのに、「本当に愛する人と結ばれたい」と一方的に破棄された。
恋に夢見る少女へと変わった彼女は、千住勇樹という男に惹かれたという。
(随分と愚かな選択をしたものだ)
千住勇樹には、想い合う幼馴染みがいる。
それが小鳥遊一花。
小鳥遊二菜の姉である。
ただ、付き合っている訳でもないため男一人に女が群がっている状態になっている。
八神終夜という男は、それを調べて「随分と醜悪になったものだね」と苦笑していた。元婚約者の存在自体は終夜にはどうでもいいものだ。誰だって良かったが、親が結んだ契約であったため、それなりに接してはいた。夢を見ることは罪ではないが、身勝手に契約を破棄してくるような女を伴侶にするよりはマシだったとは考えている。
終夜はこれによって「千住勇樹」というイレギュラーの名前を記憶したが、別に恨んでも憎んでもいない。邪魔になるかもしれないその他大勢の上位にはいるが。
そんな中、元婚約者と男を取り合う女の一人である小鳥遊一花。その妹がそんな理由で入学してきたのだ。多少興味が出ても仕方がないだろう。
そして、しばらく調べさせた結果、小鳥遊本家が用無しとした二菜という少女は、本来贔屓目無しに有能だと考えられるだけの情報が手に入る。
埒外の才能など扱いにくく、その性格が奔放であれば尚のこと。優秀であっても側には置きたくない。
「本当に良い子が来てくれたよね」
珍しく本当に嬉しそうに微笑んだ友に、光一は溜息を吐いた。




