96.彼と彼女は案内役を務める。
side ラディンベル
いや、ほんと、やってくれたよね。
半年準備してきた兄上たちの結婚パーティーの日を迎えて。
二日酔いもしじみで乗り切って。
着飾ったリディが綺麗すぎて俺的に時が止まったりもしたけども。
このまま部屋に閉じ込めておきたい。
なんて、不埒なことを考えながらも。
会場に向かったら。
ウェディングケーキも前菜も評判がよさそうなことに、安心して。
―――リディ監修なんだから、当然だけど。
登場した兄上たちが、本当に幸せそうで。
兄弟なのに、思わず、ふたりのダンスに魅入ってしまったり。
リディとの初めてのダンスに浮かれて。
俺に合わせて踊ってくれたリディが綺麗で可愛くて。
俺としては、相当舞い上がっていたんだけど。
今、目の前で起きてるこれは、一体なんなんだろう?
なんで、花嫁が、俺の奥さんにダンス申し込んでるわけ?
変な声を出さなかった俺を褒めてほしい。
リディだって、目をぱちくりさせてるし。
いや、ほんと、何してくれちゃってるの?
「あー…、リディア。すまないが、踊ってやってくれないか。今日のために、シアはかなり練習したんだ」
兄上まで何言ってんの?
「「「リディア様!お願いします!」」」
そして、貴方たちは、誰ですか?
……まあ、恐らく、シア義姉さんの女性騎士仲間なんだろうけど。
っていうか、こうなったら、もうリディの逃げ場なんてないよね?
リディが助けを求めるように俺を見てきたけど。
こんなの、俺だって、苦笑して頷くことしかできなくて。
「………わたくしでよろしければ」
「うきょっ!」
「「「わぁ!!」」」
戸惑いながら、リディが誘いを受ければ。
シア義姉さんは奇声をあげるし。
女性騎士のみなさんからも歓声が上がって。
めちゃくちゃ注目されているこの状況は。
リディが一番避けたい流れだろうな…、とは思いつつも。
俺は見送るしかなかったよね。
花嫁衣裳をパンツスタイルにしたのって、こういうことだったのか。
ほんとやってくれたよね。
とはいえ、いざダンスが始まったら。
シア義姉さんは男性パートを完璧に踊れてるし。
リディは当然優雅だし。
まあ、結局見惚れるしかなかったんだけどね?
「随分と変わった余興だな?」
しばらく見てたら、話しかけられたから振り向いたんだけど。
その人物に驚いた。
「ルドルフ様!お越しいただいていたんですね!」
「ああ、もちろんだ。アンディの晴れ姿を見逃すわけがないだろう?」
あ、そっか。
兄上とルドルフ様は学園でも同じ騎士科だったか……。
兄上のほうが一年先輩だけど。
爵位の関係もあるのか、お互い気安い関係なんだよね。
「それに、今日は護衛も兼ねていてな」
護衛?
婚約者の王女様はご一緒じゃないみたいだし。
護衛が必要な人なんて招待していただろうか。
と不思議に思ってたら。
ルドルフ様の後ろからアルフォード殿下がひょっこり顔を出した。
気づけば、フィンまで居る。
は?
なぜ、こんな騎士家族の結婚パーティーに第二王子が?
本来ならば、すぐに礼を取って挨拶をするべきなんだろうけど。
あからさまに『お忍びです!』
という体を取られていて、どうしていいかわからない。
それは、殿下もわかっているようで、お互いぎこちない笑顔でお辞儀し合った。
まあね、もちろん、殿下はそんなことしなくて全くいいんだけれども!
相変わらず、丁寧な人だよね。
にしても、フィンは、随分と殿下に良くしてもらっているようだ。
良きかな良きかな。
なんて思っていたら、奇声の混じった歓声が聞こえてきて。
めちゃくちゃご機嫌なシア義姉さんがリディをエスコートをして戻ってきた。
「おお、ふたりとも綺麗だったぞ」
「私、めちゃくちゃ幸せです!!」
「ああ、よかったな。お前、無駄に練習がんばってたからな」
「アンディベル殿。レティシア殿。本日は、誠におめでとうございます」
シア義姉さんもリディもやりきった感満載の顔をしてたんだけど。
最後に掛けられた声の主を見て、さすがに目を丸くした。
ああ、うん。だよね。
前代未聞のダンスから戻ってきたら、殿下に迎えられるとか。
想定してなかったよね。
「ふたりが揃ってから祝いの言葉を、と仰っていてね」
「勿体なきお言葉。誠にありがとうございます」
「……っ……っ」
シア義姉さんは言葉も出なくてハクハクしちゃってるけど大丈夫かな?
「リディア姉様もご無沙汰しております」
「お会いできてうれしいですわ。あの……、今日は、何とお呼びすれば?」
「アル、と呼んでください」
「リディア、久方ぶりだな」
「ルド様も、お久しぶりでございますわ」
リディは立ち直りが早いね。
さすが、元公爵令嬢。
「おふたりとも素敵でした」
「ありがとうございますわ。にしても、本当に驚きました」
「視察でもお世話になりましたし、本当は母上も来たがってたんですけど」
「いえ、さすがに、それは……」
「はい。ですから、僕が代表で。お忍びっぽくしてみたんですけど、バレバレですよね。失敗しちゃいました」
あー。やっぱり、リディと話してる時の殿下は弟仕様でかわいいな。
周りも微笑ましく見てるよ……。
シア義姉さんも、やっと動悸が治まったかな?
「あ、あのっ……、お目に掛かれて大変光栄でございます。わざわざ足をお運びいただいて、本当にありがとうございます」
「いえ、僕も、おふたりにご挨拶できてよかったです。それに、今日は、姉様のお料理が食べれるって」
「そうなんです!どれも、本っ当に美味しいので、是非堪能してください!」
「シア、お願いだから落ち着いてくれ」
「はっ、すみません」
「いえ。そんなに畏まらないでください。僕も楽しみにしてきたんです。母上からも、レポート提出指令が出てるんですよ」
王妃様、なんて指示を出してるんですか……。
「というか、僕が引き止めていたら、申し訳ないですね。是非、皆さまのところに行ってあげてください」
「お気遣い、痛み入ります。では、嫁が早々にやらかしましたので、その弁明に行って参ります」
兄上のその言葉には笑ってしまったけれど。
シア義姉さんを応援していた女性騎士仲間もソワソワしてこっち見てるし。
確かに、そろそろ、兄上たちは解放したほうがいいよね。
ってことで、ここで兄上たちとは別れて。
俺とリディとフィンで、ルドルフ様と殿下をご案内することにした。
「おふたりとも、前菜は召し上がりましたの?」
「ああ、どれも、うまかったよ。また海老が食べれてうれしかったな」
「海老って、丸まった鮮やかな魚介類ですよね?」
「ええ。ラディがたくさん仕入れてきてくれたんですよ」
「そうだったんですね!ぷりぷりでおいしかったです!」
そんな話をしながら、ライブキッチンまで辿り着いたら。
ちょうど鉄板でベーコンやソーセージを焼いているところで。
「おー、これは、すごいな」
「目の前で作ってるのを見れるのですね!これ、王宮でも取り入れたいです!」
「フィン、資料を差し上げて」
「あ、ごめんね?仕事を増やして」
「いえ、全く問題ありませんので」
なかなかの好感触に、リディとふたりでほくそ笑んだ。
ちょうどいいことに、揚げ物も到着したところだったから。
―――さすがに大量の油は危険なので、厨房で揚げている。
それらを、適当に盛り合わせてもらえるように使用人に頼んで。
俺たちは、ライブキッチンを冷やかしながら、テーブル席に向かった。
「こんなに豪華な食事の出るパーティーは初めてだな」
「大抵は軽食ですもんね」
「今日の招待客の大半は騎士ですから」
「「なるほど」」
いや、ほんと、リディがんばったしね。
ぜひとも、多くの人たちに食べてほしいよ。
「あ、で……、アル様。これも海老ですよ」
「これは丸まってないんだ……。変わった食べ方をするんだね」
「あら?アル様は唐揚げはお召し上がりになったことがないですか?」
「あります!グラント家の焼き鳥屋さんで戴きました」
「「「は?」」」
殿下があんな庶民的な店に?
「父上と母上と変装して行ったんです」
「王女殿下には、我が家に取り寄せて食べさせたぞ?」
「「「は?」」」
どの国の王族も、実は庶民的な料理が好きなのかもしれない。
知らないけど。
「そ、そうなんですのね……。基本的には、このエビフライと唐揚げは、同様の調理方法なんですよ。衣が違うだけで」
「衣っていうのは、この周りに付いてるものか?」
「ええ、衣が変わるだけで、食感が変わるんです」
「なるほどなー」
「姉様!おいしいです!」
「おお、確かに。これが今日しか食べれないなんて、残念だな」
フィンよ。眼で、海老輸入の圧力をかけるのはやめたまえ。
ちゃんと、検討するから。
なんて思ってたら、別の方角からも視線を感じたから。
何かと思えば、鉄板の前にいる料理長からだった。
「そろそろ、ステーキを焼くみたいです」
「あら。ならば、ぜひ、目の前でご覧いただきたいですわ。お食事の途中で申し訳ないんですけれど」
「それは構いませんけど。ステーキ、なんですよね?」
ステーキだけで言えば、レンダルにもあるからね。
珍しいものではないんだけど。
但し、今回はリディが演出を用意しているのだ。
あれは見てほしい。
「ラディン兄様。何か特別なことをするんですか?」
「まあね」
そう言いながら、ライブキッチンのほうに向かったら。
そんな俺たちに気づいた人が、遠巻きに集まってきて。
気づけば、兄上たちも仲間を引き連れて来ていた。
そうして、頃合いのいいところで。
料理長とリディがアイコンタクトをして。
ボゥ!
料理長がフランベをしたら。
「「「「「うわあ!!!」」」」」
「え、何、あれ」
「え、肉、焦げるんじゃないか?」
そう思うよね?
でも、出来上がったステーキが綺麗に焼きあがってるのを見て。
みんなが驚いてた。
もうね、さすがに、殿下だってバレてるから。
まずは、殿下にお出ししたわけだけど。
「ジューシーでとってもおいしいです!」
殿下、ありがとう!
その言葉だけで、今日の肉は完売決定だね。
おまけに、その後のパエリアやラザニア、グラタンも大好評で。
殿下にもルドルフ様にもご満足いただけたようで何より。
そして、結婚パーティーというよりも。
もはや、試食会とも言える催しになってしまったものの。
ご招待客にも喜んでいただいて、無事、閉宴したわけだけど。
翌日からは、若干、大変な目に遭った。
というのも。
パウエル家嫡男の奥方様から。
息子さんの誕生パーティーのケーキをオーダーされたり。
―――デザインとレシピを渡すだけだけど。
あのいけすかない、パウエル家次男夫婦からは。
今の三倍の給料で料理人として雇ってやる、と言われて、困ったり。
―――シア義姉さんが、払えるわけがない、と一刀両断してくれた。
招待したほとんどの家から。
パーティーメニューのレシピの問い合わせが殺到して。
とはいえ、レシピは、おいそれと教えることはできないから。
ならば、『レシピ本』を作ろうか、とリディが言い出して。
その事業が始まることになってしまったり。
―――当然、侯爵たちやギルドから許可も取っている。
休暇で来たつもりが、すっかり仕事漬けの日々となってしまって。
結局、お疲れモードで帰国することになったのだ。
まあ、でも、こんなのはよくあることだし。
ここしばらく続いていた災難に比べたら何てことはないんだけど。
後日行われた、領地での次期当主結婚お祝いイベントで。
―――リディ発案による『お祭り』とやらが開催された。
かつての学友に絡まれたときは、さすがに頭を抱えたよね。
俺たち、いつになったら、平穏な生活に戻れるんだろうね?
このお話で第四章終了となります。
ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございます。
もしよろしければ、引き続き第五章もお付き合いくださいませ。
※このお話の最後の『元学友による絡まれ事件』については、
第五章の一話でちょっとだけ触れています。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。




