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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第四章 平民ライフ災難編
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89.彼女と彼は感謝される。

side リディア

 どうやら、杞憂に終わったようで、内心ホッとしたわ。


 お義兄様とお義姉様の結婚パーティーのために。

 わたしは、こっそり生ハムを仕込んでいて。


 そろそろラディにも試食してもらおうと思ったところで。

 この世界の人たちは、生ものに抵抗があることを今更思い出した。


 それで、途方に暮れてしまったんだけど。


 優しいラディは、生肉――加工済だけど――も受け入れてくれて。

 しかも、おいしいと言ってくれて、ぱくぱく食べてくれた。


 あの食べっぷりを見たら、作ってよかったって本当に思ったわよね。


 そうして、伯父様や両親にも提案することになって。

 ちょうど、インスタントラーメンと計算機が発売になったところだから。


 そのお祝いのお食事会を開催することにして。

 その時に、生ハムをお披露目しようと企んだ。


 でも、正直、今回ばかりは駄目出しされるかも、って覚悟してたわ。


 ラディもそうだったけれど。

 この世界では、お刺身もなかなか浸透しなかったしね。

 生、っていうだけで、難色を示す人は多いのよ。


 すき焼きの生卵だって、温泉玉子にしてるくらいよ?

 じゃなければ、食べてもらえないと思うの。


 だから、内心ドキドキしながら、お食事会を開催したのだけど。

 ―――もちろん、場所はサティアス邸よ?お料理も手伝ったわ。


「あのね、今日は、新作があるの」

「まあ!リディアちゃん、また新しいお料理を作ったのね!」

「それは楽しみだな。リディアの料理は何でもうまいからな」


 あ、これ、自分でハードル上げちゃったかしら?

 ドキドキが止まらないんだけど。


「元々は保存食なんだけどね、お肉を生のまま加工したものなの」

「ん?生の肉なのかい?」

「加工してあるなら、生ではないのではないか?」


 そうよね。そう思うわよね。


「加工というか、熟成させてるんだけど、火は通してないの」

「「「……………………」」」


 あ、だんだん、皆の目が懐疑的になってきたわ。


「あの!俺も試食しましたけど、すごくおいしかったですよ!全然臭みもなくて、ワインにすごく合うんです」


 ラディ、援護ありがとう!


 ここで、ワイン好きの伯父様の眉がピクっとしたわね。

 お父様とお母様も、試してもいいかな、くらいにはなってきたかしら。


「生のまま食べても平気なの?」

「腹を壊したりはしないのか?」

「加熱はしてないけど、加工はしてあるもの。熟成過程で殺菌されているのよ。精霊にも安全性を確認してもらったわ」


 あら、少し、興味が出てきた顔をし始めたわ。

 これは、あともう一息ね。


「前菜やサラダにいいのよ。もちろん、無理して食べなくてもいいけど、よかったら食べてみてね」


 そう言って、盛り付けてきた生ハムをマジックルームから取り出して。

 お披露目をしてみたけれど、やっぱり、まだ懐疑的かしら?


 でも、わたしとラディが食べるのを見て。

 伯父様も両親も意を決したようで、そろそろと生ハムに手を伸ばしていた。


「あら………」

「これは……」

「………おいしいね」


 そこからは反応がラディと一緒で、ちょっと笑ってしまったわ。


 話をしたときは、あんなに難色を示していたのに。

 一口食べた後は、三人とも次々と口に運んでいる。


「リディアちゃん、これ、本当に生のお肉なの?全然そんな気がしないわ」

「塩味が効いていて旨いな。口当たりもいい」

「これはいいね。ラディンが言った通り、ワインが進むよ」


 よし!なかなかの高評価!

 思わず、ラディとハイタッチしちゃったわ。


「加熱してないと聞いたときは驚いたけどね。これなら、すぐにでも商品化したいよ。どうしてベーコンやソーセージと一緒に提案してくれなかったんだい?」


 あー、そこ、やっぱり突かれますか。


 ってことで。

 すごく手間暇がかかって、完成までに時間がかかることを説明して。

 今日の試食分も、今出している分しかないと伝えたら。


 三人とも絶望した顔になった。


 でも、その反応は、気に入ってくれたからこそよね?

 ならば、わたしの心配は杞憂に終わったってことだ。

 よかった!


 そうして、すぐに、レシピ起こしと追加の試作品作りを指示されて。

 なけなしの在庫を、フレイル伯爵への提案のために提出させられた。

 もちろん、結婚パーティー用の分は死守したわよ?


 あ、ちなみに。

 インスタントラーメンと計算機は、想定通り、爆発的な人気を得ている。

 おかげで、製造ラインと販売部隊はてんてこ舞いだそうだ。


 おまけに、ベビー用品もやっと商品が確定したから。

 今は、販売用に量産を進めているところ。


 この状況からして、今、また新たな商品を提案したら発狂されるわよね。


 だから、製造期間が長い生ハムは、実は丁度いいのかもしれない。

 それに、製造自体は、フレイル伯爵にお任せできるものね。


 ということで。

 販売は来年以降にはなるけれど、商品化に向けて動くことになったから。


 それからは、ラディにも手伝ってもらって、生ハムを追加で作り続けて。

 レシピ起こしにも追われていたのだけど。


 そうこうしていたら、遂に、王太子妃殿下が出産されたのよ!

 玉のようにかわいい男の子!

 第一王子のご誕生よ!


 おかげで、国中がお祝いムードに包まれている。

 商会からも、早速、ベビー用品をお届けしたわ。

 完成が間に合ってよかった!


 と同時に、商会でもベビー用品を発売したのだけど。

 これについては万人に必要なものではないのだから。

 地道に売っていけばいいわよね。


 なんて思ってたら――――。


「ラディ!お呼び出しがかかったわ!」

「は?」

「王太子妃殿下がお茶会に招いてくださったの」

「………侯爵じゃなくて、俺たちを?」


 まあね、わたしもそう思ったけれど。

 これ、多分、拗らせたクリス殿下のお相手をしたからだと思う。


 そう言ったら、ラディも納得して。


 お茶会当日。

 わたしたちは、緊張しながら参内したのだけど。


「お待ちしておりましたわ。お忙しいところ、お呼び立てしてしまってごめんなさいね。来てくださってありがとう」


 王太子妃殿下が笑顔で迎えてくれて。

 わたしもラディも、ちょっとだけ緊張がほぐれた。


 ―――妃殿下は、一見、清楚でおしとやかな完璧な淑女だ。

 だから、実は行動派だと聞いたときは本当に驚いたけれど。

 クリス殿下は、そういうギャップにやられたかもしれない。


「この度は、第一王子の御誕生、誠におめでとうございます」


 そう言って、まずは、お祝いをお渡ししようと思って。

 朝からがんばって作ったフルーツ寒天とハーブティーを差し出したら。


「まあ!既にたくさんのお祝いをいただいておりますのに。今日は、その御礼にお呼びしたのよ?」


 と言いつつも、早速、包みを開いてくださって。

 カラフルなフルーツ寒天に声を上げて喜んでくれた。


「なんて美しいお菓子なのかしら」

「寒天は、実は海藻なんです。食物繊維がたっぷりで、産後にもよいと耳にしましたの。ハーブティーも、カフェインが含まれていないものにいたしましたので、安心してお飲みいただけると思いますわ」

「食物繊維?カフェイン?」


 ……………あ。やってしまった。

 この世界では、まだ、食べ物の栄養素や含有物は解明されていないんだったわ。


 ここは、いつもの通り、読書好きで通すしかないわね。

 ラディ、お願いだから、遠い目をしないで。


「わたくし、お恥ずかしながら、本とあれば、どんな内容でも構わず読んでしまうのです。その際に、いろいろと覚えたのですけれど」


 そう言って、食物繊維は、低カロリーで肥満を抑える効果があって。

 お通じもよくなること――これは、もちろん小声で――を説明して。


 カフェインには刺激作用があって。

 お茶や珈琲に含まれていることをお話させていただいた。


 まあ、妃殿下が直接授乳することなんて、ないのかもしれないけれど。

 どちらも、知っていて損はないわよね?


「本当に何でもお詳しいのね。素晴らしいわ。陛下が重用するのも当然ね」


 え?重用されている覚えはないのだけど?

 とは思ったけど、その話は掘り下げたくないので曖昧に微笑んでおいた。


「リアン商会からいただいたベビー用品も、乳母が本当に驚いていましたのよ?とっても便利で、もっと早く知りたかったと申しておりましたわ」


 あー、それは、申し訳ない。

 さすがにわたしも、何かタイミングがないと思い出せないし。

 開発にも時間がかかるから、その辺は許してほしい。


「勿体ないお言葉ですわ。大変光栄でございます」

「うふふ、そんなに固くならないでくださいな。クリスと話すときのようにしてもらえるとうれしいのだけど」


 え、それは、無理。

 クリス殿下はアニキだと思ってるから、たまに口調も崩れるけど。

 妃殿下はいくら行動派でも淑女だから!


 とはいえ、断れないわよね。


「では、お言葉に甘えまして、少しずつ……」

「ええ、そうしてちょうだい」


 そう言って、妃殿下はころころと笑ったけれど。


 ラディから、だからって本当にやるなよ?という圧がかかっていて。

 わたしは、またしても、曖昧に笑うしかなかったのよね。


「そうそう。ベビー用品もそうなのだけど、貴方たちには本当に感謝しているのよ。あのうざ……、過保護なクリスを諫めてくださって、とっても助かったの」


 今、うざいってはっきり言いそうになりましたよね?

 妃殿下は実は毒舌なのかしら。


 でも、これで、何か、妃殿下と仲良くなれそうな気がしてきた。

 ………一方的にだけど。


「それに、教えていただいたヨガと運動用のお洋服も!あれも、すごくよかったわ。実は、ヨガは今でも続けているのよ?」


 そうだったわ。


 クリス殿下が拗らせて我が家まで来た後に。

 わたし、お手紙で、ヨガのことをお伝えしておいたのよね。

 おまけでストレッチ素材のスウェットもお送りしたのだけど。


 気に入ってくださって、本当によかったわ。


 スウェットは本当に庶民的だし――デザインは検討したわよ?―――

 ヨガも、体勢によっては、はしたないと思われるものもあるけれど。

 私室でやれば、問題ないと思うの。健康にもいいし。


「まあ!本当ですか!わたくしも時間を見つけてやっているのですが、続ければ続けるほど効果が出ているのがわかりますわ」

「そうなの?でも、解るような気がするわ。やっているとすごく調子がよくなるもの。本当に、貴方には教えてもらってばかりね。ありがとう」

「そんな、御礼など仰らないでください。わたくしではなく、先人たちがすごいのですわ。わたくしは真似しているだけですもの」


 うん、手柄の横取りはだめよね。


 そうして、その後は。

 健康法や食べ物の効果について質問攻撃を受けたりもしたけれど。

 新商品の計算機についてもお褒めいただいて。


 クリス殿下がラーメンに嵌まっているというお話を聞いて。

 食べすぎると体によくないことをお伝えして。

 ―――ここでラディがショックを受けていたけど、話してなかったかしら?


 なんだかんだと、終始和やかにお話させていただいた。

 ラディはすっかり聞き役に徹していたけれど。

 にこにこと話を聞いてくれてたから、苦痛ではなかったはずだ。

 そう思いたい。


 そんなわけで、来る前の緊張感はどこへやら。

 すっかりとご機嫌のまま、お茶会の場を辞したのだけど。


 まさか、その後、誘拐されるとは思っていなかったわよね……。


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