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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第四章 平民ライフ災難編
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85.彼女と彼は困惑する。

side リディア

 わたしとしたことが、物凄くうっかりしていたわ。


 お義兄様とお義姉様のご結婚が決まって。

 お披露目のパーティーにご招待いただけることになって。

 パーティーメニューも提案させてもらえることになった。


 おめでたくて嬉しくて。

 浮かれたわたしは、ここぞとばかりに張り切っていたと思う。


 ちょうど仕事も一段落したところだし。

 わたしは相も変わらず軟禁状態だから。


 連日、パーティーメニュー候補を作りまくった。

 ―――わたしもラディも年俸制だから。

 やるべきことさえきちんと熟せば、時間は自由に使える。


 当初の予定では。

 第一弾に無難な料理を。

 第二弾で変わり種を試作しようと思ってたんだけど。


 どうやら、張り切って作りすぎてたみたいで。

 ラディに、第一弾で打ち止めされてしまった。


 それは残念だったけれど。

 確かに、毎日豪華でこじゃれた料理ばかり食べてたら。

 ラディの胃だって疲れてくるわよね。

 ラディ、ごめんね。


 でもやっぱり、ご飯ものが少ないと思う。

 だから、こっそり、ラザニアとグラタンを追加しておいた。


 それと、実は、今、仕込んでいるものもある。

 出来上がるまでは、まだ時間がかかるから。

 これは、後々提案させてもらおう。


 まずは、作りすぎた料理たちを片付けてもらおうと思って。

 サティアス邸にやってきたら、伯父様も来ていて。


 どうしたのかと思えば、王太子妃殿下がご懐妊だなんて。


 安定期に入ったといっても、この世界での出産は命がけだから。

 そりゃあ、まだ完全に安心できる状態でもないのだけど。


 次代の希望だもの。

 こんなにおめでたいことはないわ。


 お義姉様たちのご結婚に続いて、王太子妃殿下のご懐妊。

 おめでたいことが続くとうれしくなるわよね。


 おかげで、また口を滑らせてやらかしてしまったけれど。

 赤ちゃんには快適にすくすく育ってほしいから後悔はしていない。


 ベビー用品の商品化だってどんとこいだ。

 せっかくだから、粉ミルクと哺乳瓶も追加提案しておいたわ。


 そうして、結局。

 サティアス邸では、わたしが持ち込んだ料理をツマミに。

 ―――ここで、ラザニアとグラタンのことがラディにバレた。


 ベビー用品商品化会議をしてきたわけだけど。


 帰宅したわたしは、正直、大変落ち込んでいる。

 わたしは、なんてうっかりしていたのか。


 パーティーメニューに気を取られてばかりで。

 お祝いの品を考えていなかったなんて。


「リディ、本当に気を遣わなくていいからね?」


 ラディはそう言ってくれるけど、そういうわけにはいかないわ。


 とはいえ、この世界では貴族は料理はしないから。

 キッチン用品を差し上げても喜ぶのは料理長だし。


 お洋服だって、あのおふたりはラフなものが好きなのよね。

 それは、ちょっと、お祝いにならない気がする。


 そうして、ラディに相談しながら毎日悩んだ結果。

 おふたりの産まれた年のワインと大量のエール。

 ワイングラスとビアマグのセットを贈ることになった。


 お義兄様はエールが大好きだし。

 実は、お義姉様もお酒がお好きなのよね。


 この際だから、グラスもデザインさせていただいて。

 ラディに発注をお願いして。

 ヴィンテージワインも探してもらっている。


 そうこうしていたら、パーティーメニューのお返事が来たから。


 ―――実は、主役のおふたりが、ひと騒動起こしていたようで。

 写真だけでは我慢ならないとこちらに来るところだったらしい。

 使用人の方々も含めて、グラント家総出で止めてくれたそうだ。

 ラディの言った通りだった。すみません。


 わたしは、今、必死にレシピ起こしをしているところだ。

 どうやら、提案した料理はすべて採用になったみたいで。

 結構な数にはなるけれど、お祝いだものね。全力でやるわよ?


 ライブキッチンも気に入ってもらえたから。

 ラディは、その設備設置に必要なものを揃えている。


 そんな日々だけれど。

 だからって、パーティーのことだけをしているわけじゃないのよ?


 ベビー用品の商品化に向けて頻繁に会議にも参加しているし。

 さっくりとドラングル出張に行ってきたりもした。


 更に言えば、岩塩も遂に発売されたし。

 インスタントラーメンも前倒しで発売が決まった。

 ―――現在、この国では空前のラーメンブームが起きている。


 計算機だって、試作品が上がってきたところだ。


 おめでたいことが続いて、仕事も順調。

 軟禁状態ではあるけれど、それなりに楽しく過ごしていた。


 はずだったのだけど―――――。


「ラディ、大変よ。クリス殿下がいらっしゃるんですって」

「は?なんで?」

「よくわからないけれど、明日いらっしゃるそうよ」


 殿下から手紙が届いたことだけでも驚いたのに。

 我が家に来るとは、一体何事なのか。


 もしや、ベビー用品のことが既にバレているとか?

 でも、それならば、伯父様のところにいくわよね?


 商会の物騒加減を聞いていたとしても。

 王家が、特定の商会のために動くのはよくないはずだ。


 そもそも、妊娠中の妻を放ってこんな僻地まで来ていていいのかしら。


 とは思うけれど、断ることもできないわたしたちは。

 とりあえず、掃除をして、おもてなしの準備をして。

 殿下をお待ちした。


「やあ、すまないね。急に来てしまって」


 そう言って我が家に現れた殿下は。

 予想に反して、落ち込んだような様子だった。


 あら?どうしたのかしら。

 今は幸せいっぱいのはずなのに。


 そう思いながらも、リビングにご案内して。

 まずはお話を聞こうと思ったのだけど。


 その前に。


「殿下。この度は、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。祝いの品も嬉しかったよ。妃もすごく喜んでいた」


 それを聞いて、一安心。


 ベビー用品は、色んな意味ですぐには差し上げられないから。

 実は、まずは、マタニティドレスをお贈りしていたのよね。

 軽くて肌に優しい素材で拘って作ったから、喜んでもらえたなら嬉しい。


「勿体ないお言葉ですわ。光栄でございます。でも、そんな時ですのに、わざわざこちらまでいらっしゃるなんて何かあったのでしょうか?」

「あ、ああ、いや、あの、そのな?」


 ん?何故か急に挙動不審になってしまったわ。

 わたし、そんな変なこと聞いたかしら?


「追い出されたんだ」

「………はい?」

「だから!城を追い出されたんだ!」

「「は……?」」


 この人、この国の王太子よね?次期国王よね?

 追い出されるって、なに?どういうこと?


 思わぬ言葉過ぎて、思わず殿下を見つめてしまったのだけど。

 殿下はその後は口を閉じてしまって、気まずげな顔になった。


 いやいやいや、全然意味がわからないから。

 さすがに、これでは全く埒が明かないので。

 今度は一緒に来ていた側近の方を見つめてみたら。


 彼は、大きくため息を吐いて。


「この方、妃殿下が心配で、一時間おきに様子を見に行くのですよ」

「は?」

「やっと授かった御子ですし、初産ですからわからなくもないのです。でも、仕事を放り出して妃殿下のところに行って世話を焼くので、妃殿下がキレました」

「「………………………」」


 それは、うざいわ。

 かなり、うざいわ。

 お妃様、キレてもしょうがないわ。


 わたし、ものすごく残念な人を見る目で殿下を見てしまったかもしれない。

 殿下は、わたしから目を逸らした。


「それで、妃殿下から物理的に距離を離そうということになりまして。ご迷惑なのは承知しております。ですが、どうか、仕事ができるお部屋をお貸し願えないでしょうか」


 成程。それで我が家に来たと。

 でも、なんで我が家なの?


「あの、王都にも王家のお邸があるのではないですか?」

「ええ。昨日までは王都内の邸に隔離していたのですが、警備を目を盗んで王宮に戻ってしまうのです」


 はあ?

 そこまでして妃殿下の様子を見に行きたいの?


「それで、辺境の我が家に目を付けたと」

「はい。大変申し訳ございません」


 ああ、だから、ダズルは、彼らを送り届けてすぐに戻ってしまったのね。

 我が家には王都までの転移陣はないから、すぐには戻れない。

 ここに足止めしておきたいというわけですか。


「はあ………。不敬を承知で申し上げます。殿下、何やってるんですか?」

「いや!だって心配だろう?!」

「だからって、負担をかけては元も子もないでしょうに」

「あいつはじっとしていないんだ。安静にしてろって言っても聞かないし」


 そうか。なるほど。

 そういう心配なのか。


 そう言えば、王太子妃殿下は行動派だと聞いたことがある。

 じっとしているのもストレスなんだろうな。


 ならば、ここは妃殿下の味方をしよう。


「殿下。妊婦にも適度な運動が必要なのですよ?」

「なんだと?そんなの、聞いたことがないぞ?」

「出産がものすごく大変だということは御存じですか?」

「ああ。だから、それに備えて安静にしておくべきじゃないのか?」

「逆です。大変だから、体力をつけておかなくてはいけないのです」

「体力をつける……」

「はい。それに、今はお食事の量が増えているのではないですか?」

「それは、赤子の分まで食べなくてはいけないからだろう?」

「食べた分すべてがお腹の赤ちゃんにいくわけではないですし、食べる量が増えて動かなければ太ってしまいます。太りすぎは妊婦にもよくないのですよ?……と、本で読んだことがあります」


 うっかり前世知識を思い出しながら話してしまったけれど。

 わたしには子がいないのだから、言い切るのは不自然よね。

 うまく誤魔化せたかしら?


「そうなのか……。まあ、でも、確かに、太りすぎが身体によくないとは聞いたことがあるな。それは、妊婦にも当てはまるのか……」

「ええ。ですから、妃殿下が動くことは、むしろよいことだと思いますわ。もちろん激しい運動は禁物ですけれど、身体を伸ばしたり、お散歩したりするくらいは見守ってあげてくださいまし」

「………わかった。そういうことなら、私も耐えてみせよう」


 耐えるって、一体、どれだけ心配してるのかしら。

 妃殿下のこと、愛してるのね。

 それは素晴らしいことだけれど、うざがられる行動はまた別の話だわ。


「ああ、ここに来て本当によかった。リディアさん、ありがとうございます」


 あらま、側近の方が泣きそうな勢いなんですけれど。


 まあ、でも、何とか殿下にも理解してもらえたようだし。

 これで王太子妃殿下のストレスが軽減すればよいのだけど。


 そうして、その後は。

 ダズルが迎えにくるまで、殿下は本当に我が家で仕事をした。


 仕事部屋も掃除しておいて本当によかったわ。

 ―――もちろん、わたしたちの仕事関連の書類とかはマジックルームにしまって場所だけ提供した。序にランチのオムライスも提供した。


 そして、来た時とは打って変わって、殿下は明るい顔でお帰りになった。


「何だかものすごく疲れたわ」

「リディ、お疲れ様。お手柄だよ。良く知ってたね」

「異世界にはいろんな情報が溢れてて、気軽に入手できるのよ」

「本当にすごいところだね。でも、そのおかげで、殿下の行動も抑えられるわけだし、急襲も今日限りで終わると思うよ」


 え?もしかして、理解してもらえなかったら。

 殿下はこれからも我が家で仕事してたかもしれないってこと?


 なんてことだ。

 よかったわ、前世で雑学の情報番組を見ておいて。


 何にせよ、これでまた日常――軟禁状態だけど――に戻れるわね。


 なんて思っていたのに。

 その翌日、お母様から届いた手紙にわたしはげんなりした。


「ラディ。今度は訴えられたらしいわ」

「は?」


 一難去ってまた一難。

 わたし、今年は厄年なのかしら。


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