84.彼は彼女に若干引いている。
side ラディンベル
リディが張り切ると、すごいことになるんだね……。
ガンズ商会の娘に絡まれた件も報告したし。
防犯道具や計算機についても、俺たちに出来ることはやり終えた。
となれば、本来は、通常の仕事に戻るわけだけど。
商会が持つ情報を狙う間者は、一向に減らないらしいから。
これから、更に結界が強化されることを考えると。
侵入や潜入を諦めた輩がリディや従業員を狙う可能性は高くなる。
ということで、まだしばらくはリディの軟禁状態は続くわけで。
それもちょっとかわいそうだな、と思っていたところに。
兄上とシア義姉さんの結婚パーティーの招待状が届いた。
リディにメニュー監修を頼みたいと書かれた手紙を読んだときは。
またリディが忙しくなっちゃうな、って思ったんだけど。
軟禁状態の今、自宅でやることが出来たのはよかったかもしれない。
好きな料理なら気晴らしにもなるだろうし。
このところ働きすぎだったから、ゆっくりしてもらうのもいいしね。
おまけに、シア義姉さんの花嫁衣裳まで提案してくれるなんて。
実家はありがたいし、リディは楽しんでいる。
なかなかにいい状態なんじゃないだろうか。
……………なんて、呑気に考えていた頃が懐かしい。
いや、招待状が届いてから、まだ一週間も経っていないんだけどね。
リディの行動力がすごくてね。
俺は、リディが張り切ると飛んでもないことになるって思い知った。
というのも―――――。
招待状が届いた翌日、リディは早速サティアス邸に乗り込んで。
義母上から、結婚パーティー前後二週間の休暇を獲得して。
なんかよくわからないけど、厨房に寄って。
レンダル時代に公爵家主催パーティーで使っていた食器を大量に借りていた。
そして、それらの戦利品?と共に帰宅した後は。
まずは、シア義姉さんの花嫁衣裳のデザイン画を書いてくれて。
突拍子もない発想にびっくりはしたけれど。
これなら確かにシア義姉さんも受け容れる、と俺も太鼓判を推して。
―――実際のところ、あの人はリディのデザインだったら何でも着ると思う。
俺が母上や兄上、シア義姉さんとやりとりをしている間に。
リディは、早々にパーティーメニューの試作に取り組んでいた。
「ラディ、試作第一弾ができたわ。意見を聞いてもいいかしら?」
確かにいい匂いがしていたけれど。
もうできたの?と思いつつも、リビングに行ったら。
テーブル一杯に料理が並べられていて驚いた。
ローストビーフにキッシュにカナッペ。
テリーヌに野菜のゼリー寄せ。
カプレーゼに色とりどりの野菜を使ったサラダ。
ドレッシングだって、何種類も用意されている。
その他にも、小さなガラスの器に入った冷製スープが数種類あって。
シュリンプカクテルまで並べられている始末だ。
…………………え?
作りすぎじゃない?
「こんなに作ってくれたの?」
「え?これは、前菜よ?パーティーメニューのほんの一部なんだけど」
「は?」
俺としては、これだけでも十分だと思うんだけど。
「前菜はね、どちらかというと、騎士じゃない人向けなの」
「ああ、なる、ほど」
確かにがっつりしてはいないけど、これだけあれば騎士も満足すると思うよ?
っていうか。
「海老はレンダルで入手できないんじゃないかな?」
「え、持ち込めないの?」
ああ、そういうことか。
そりゃあ、リディのマジックルームに入れていけば何とかなるけど。
「せっかくだから、皆さまにも食べていただきましょう?千匹くらい用意していけば、なんとかなるかしら?」
「千匹………」
まあね、招待客がかなりの数だから、それなりに必要だけども。
「半年後だもの。今から頼めばダンさんだって用意してくれるはずよ」
「ああ、うん、まあ、そう、だね……」
これは、俺が交渉に行くんだろうな。
「どう?」
「え、あ、うん、見た目もきれいだし、いいと思うよ」
「本当!?よかった。じゃあ、写真に撮るわね!」
ん?これを写真に?
「写真を印刷してお送りするのよ!そのほうがわかりやすいでしょう?」
ああ、なるほど。
言いたいことはわかる。けど。
「それって、拷問じゃない?見るだけで、食べれないってことでしょ?」
「え、でも、お料理は送れないもの」
そりゃ、そうだけど。
写真を見るだけなんて、兄上やシア義姉さんは発狂しそうだな。
お気の毒様。
なんて思っている間に、リディは全体図とそれぞれの料理を写真に撮っていて。
それに説明書きを加えると言っていた。
そして、その前菜たちは、俺が責任をもって食べたわけだけど。
――――相当、美味しかった。
翌日、ダンさんに海老交渉をしに行って、帰ってきたら。
――――当然、唖然とされた。けど、請け負ってくれた。ありがたい。
「今日は、サイドメニューよ!」
テーブルには、ローストチキンにソーセージにベーコン。
唐揚げにポテトフライ、エビフライやコロッケが並んでいた。
そう言えば、唐揚げは兄上からリクエストがあった気がする。
でも、肉や揚げ物ってサイドメニューなの?
そんな疑問さえも挟む余地はなく。
「スープは、五種類でいいかしら?」
いや、前菜に冷製スープもあったよね?
そんなにいるの?
という俺のつぶやきはリディに届かなったようだ。
「明日はメインよ!楽しみにしていてね!」
そう言われて、遠くを見てしまったのは許してほしい。
まあ、そんな俺の様子は全く気にならなかったようだけどね。
迎えた翌日に出てきたメインは、牛と豚のステーキだった。
塩・胡椒のシンプルなものから。
バルサミコソースやガーリック風味にオレンジソースまであって。
確かに、どれも本当に美味しかったけどね?
「あとは、デザートよね」
ああ、まだ作るのか………。
リディ、張り切りすぎだよ。
「でも、甘いものが苦手な人もいるわよね?そういう人たちのために、スモーク商品を持ち込めばいいかしら」
そうだね、それもいいよね。
そろそろ、若干、虚ろな目で対応しちゃってるとは思うけど。
さすがに、このパーティーメニューのオンパレードはキツイ。
もちろん、サイドメニューからは、俺も食べ切ることはできなくて。
食べ切れなかった分はリディのマジックルームに入れて貰っている。
そうして、デザートまで作ってくれたんだけど。
――――最終的に、十種類くらい作ってくれた。
しかも、プラス、フルーツも用意するつもりらしい。
「じゃあ、明日からは第二弾よ!」
と言われて、俺はさすがに止めたよね。
もう十分だよ?
煮込み料理とか、ご飯ものとかね。ピザとかパスタとかね。
美味しいよね。
でも、そんなにいらないと思う。
俺の胃も、おかしくなりそうだしね?
「えー、でも、パエリアくらいは作りたいわ」
ああ、パエリアかー。
あれならいいかもね。
海老以外にも、珍しい料理があってもいいだろうしね。
そう言ったら、ものすごくご機嫌になったから。
そんな嬉しそうな顔を見たら、反対できないよね。
「ああ、そうだわ!メインはね、ライブキッチンがいいと思うのよ」
「ライブキッチン?」
「目の前で作ってるところを見せるの。大広間に即席キッチン作ったら怒られちゃうかしら」
おお、なるほどね。
その設備設置は、なかなかの出費にはなるけれど。
確かに、それは、いい考えかもしれない。
出来立てが食べれるのも、うれしいよね。
リディは本当に、たくさんのアイデアを持ってるんだなあ。
試作の打ち止めはしたものの。
作ってくれたものは、どれも勿論ものすごくおいしかったし。
リディが作ってくれた料理に反論なんてあるはずもないから。
これまで作ってくれた料理を候補にして。
リディは、それぞれのメニューの特色をまとめ始めて。
俺は、即席キッチンの見積もりをして。
それらを実家に送り付けてから、俺たちは再度サティアス邸に向かった。
というのも、俺が食べ切れなかった分を食べてもらうためなんだけどね。
おすそ分けっていう形ならいいよね?
それは、事前に伝えてあったから。
義両親は待ち構えてくれていたんだけど。
何故かデュアル侯爵もいたから、ちょっとだけ驚いた。
「リディアの料理を分けてくれるんだろう?仲間外れは酷いな」
いや、そういうつもりじゃなかったんだけどね?
俺が食べ散らかした後だから、声を掛けられなかったっていうか。
「まあ、それもそうなんだけどね、ちょうど、僕からも相談があったんだ」
ああ、タイミングよく話があったってことか。
「その前に、ラディン、兄君のご結婚、おめでとう」
「え、いや、あの、ご丁寧にありがとうございます」
「僕からもお祝いを渡したいから、行くときに持っていってくれないかな?」
「え!?そんな!どうか、お気遣いなく」
「いやいや、君の家族だし、僕は一度会ってるしね。それくらいさせてくれ」
そう言えば、ドラングルで会っていたんだった。
でも、あんな一瞬だったのに、気を遣わせてしまって申し訳ないな。
なんて思ってたら、リディは何故かフリーズしてた。
あー、これは、お祝いの品を考えてなかったって感じかな?
リディだって、そんなの気にしなくていいのにね。
パーティーメニューを考えてくれただけでも、すごく喜んでくれてるよ?
「すみません、ありがとうございます」
「いや、本当に気にしないでくれ。ほんの少ししか話せなかったけど、僕もあのふたりのことは気に入ってるんだよ?」
え?どこを?
とは思うけど。
今は、あのふたりのことで盛り上がってる場合じゃないよね。
「それは光栄です。兄たちにも伝えておきますね。それで、その、相談とは?」
「ああ、実はね、もうひとつ、おめでたい話があるんだ」
今、商会は物騒な話ばかりだよね?
計算機やインスタントラーメンもそろそろできるだろうけど。
それは、めでたいってことでもないしね。
「王太子妃殿下が懐妊した」
「まあ!それは、本当におめでたいわ!」
クリス殿下たちのご成婚は、俺たちと同じ年だったというから。
三年目にして待望の第一子が産まれるってことだよね。
それは、確かに何にも増してお目出たい。
「安定期に入ってから公表されたから、もう六月は過ぎてるんじゃないかな?」
「じゃあ、もう、お腹も大きくなってるわね」
「だろうね。それでね、商会からもお祝いの品を送ろうと思ってね」
なるほど。その品の相談なのか。
「出産のお祝いは、ベビー服やおもちゃが定番かしらね」
「それは、他の皆からも貰うだろう?」
「そうね。リディアちゃん、何がいいと思う?」
え、ここでもリディ頼みなの?
「うーん。実用的なものだと、柔らかい素材のタオルとか。あとは、よだれかけや紙おむつとかかしら。ベビーパウダーも作れればいいんだけど」
は?詳しすぎない?
リディ、前世では出産してたんだろうか。
でも、自分のことはさっぱり覚えてないって言ってたよね?
ってことは、異世界ってベビー用品についても知識を授けられるのかな。
異世界、本当にすごいな。
「タオルはわかるけど、他のものは何?どういうものなの?」
侯爵にそう聞かれて。
リディは、またやらかしてしまったって顔をしたけれど。
言ってしまったものは返らない。
俺だって想像もつかないから、フォローはできないよ?
ということで、ひとつひとつ説明してくれたんだけど。
これがまた、やっぱり、ものすごく便利なものだった。
特に、紙おむつやベビーパウダーってのは。
すごく喜ばれるんじゃないかな。
「そんなの、商品にするしかないよね?」
ですよね。
お祝いの品ではあるけれど。
一番初めに王家で使ってもらうんだから。
その後なら、商品化しても、いいよね?




