83.彼女と彼に招待状が届く。
side リディア
なんていうか、ラディの引き?の強さには驚くわよね。
商会の防犯を強化することになって。
わたしは、新しい防犯道具造りを任されていて。
おまけに、わたしを狙う輩までいるせいで。
わたしは、今、ある意味軟禁状態だ。
と言っても、別に、不満に思っているわけではなくて。
ダズルの結界が張られた我が家にいるのが一番安全なのはわかっているし。
わたしが下手に動かないほうがいいのも理解している。
防犯道具造りを含めて。
今、わたしが抱えている仕事は自宅でもできることだし。
お弁当屋さんだって、信頼できるスタッフばかりだから問題ない。
転移陣のおかげで、サティアス邸や商会本部には行けるのだから。
全く外に出れないってことでもないしね。
それに、防犯道具が完成する度に、ラディが褒めてくれるから。
なかなかにご機嫌でもある。
………わたし、単純だわね。
ということで、軟禁状態ではあれ、普通に生活していたつもりなんだけど。
ラディが気を遣ってくれたお陰で、外出許可が出た。
最近は、お買い物すら一緒に行けていないから。
ラディとのデートも物凄く久しぶりだ。
何よりも、今回のお出かけの目的地はラーメン屋さんなのだ。
あれだけ、ラディたちががんばって実現させたのだから。
わたしだってこの目で見たかったのよね。
そうして、いつも以上に警戒を強めたラディと一緒にランドルに行ったら。
想像以上にラーメン屋さんが繁盛していて。
結局、お手伝いとかしちゃって、ラーメンも食べれず終いだったのだけど。
それを残念に思う暇もなく、わけのわからない娘に絡まれた。
いや、本当に。
ラディって、どうして、ああいう思い込みの激しい娘に好かれるのかしら。
びっくりするほど引きが強いわ。
更には、今回は同業者の娘とか。
わたしも刺客の可能性は考えたけれど。
あの無知ぶりと暴走加減に裏があるとは思えなかった。
とはいえ、我が商会について聞き捨てならないことを言っていたから。
さすがに、伯父様や両親に報告しないわけにはいかないわよね。
ちょうど、防犯道具の改良も終わったことだし。
―――既に一度提示していて、改良指示を受けていた。
計算機の件で商会にも行かなくちゃならない。
―――実は、割り算の答えの表示方法が悩ましいのだ。
割り切れない部分をどう表示するかが問題なのよね。
余り表示にするのか、小数点以下という概念を理解してもらうのか。
そのあたりを技術者と決めたいと思っている。
そういったこともあって。
今日は、ラディと一緒にサティアス邸まで来たのだけど。
同業者の娘のことも、簡単には事前に伝えておいたから。
「ラディン君、とんだ災難だったわね」
開口一番に、お母様にそう言われた。
ラディは苦笑してる。
「まあ、ラディンがモテるのはね、今に始まったことじゃないから。それは、リディアに誤解されないように頑張ってもらうしかないんだけど」
あ、やっぱり!
ほらー!ラディがモテてるのは周知の事実なんじゃないか!
ラディは腑に落ちない顔をしているけど。
いい加減、認めてほしいわ。
「問題は、ガンズ商会だな」
ああ、そうね、そうだった。
今は、そっちのほうが問題だわ。
「まさか、娘に嘘を教えていたなんてね」
「販売時期だってこっちのほうが早いのに、うちが真似してるなんてよく言えたもんだよね。大体、あの品質のものを真似ようなんて思うわけがない」
まさに、その通り。
伯父様たちも憤慨してるわね。
どうやら、ガンズ商会は、過激派のひとつらしくて。
最初は、店舗や工場への侵入未遂や嫌がらせ程度だったらしいのだけど。
それがうまくいかなくなったら、今度は、結界への攻撃を始めたようだ。
あの話、ガンズ商会だったのか!
もちろん、実行犯は捕まえているけれど。
捕まったのは下っ端ばかりで。
黒幕のガンズ商会は身代わりを立てて、自分たちは安全圏にいるらしい。
だから、余計に、伯父様たちが怒ってるのね。
「あいつらの言い分を信じる人はいないだろうが、噂が立つだけでも腹立たしい。絶対に潰してやる」
普段温厚な伯父様がここまで言うだなんて。
これは、多分、本当に潰されるんだろうな。
ご愁傷様。
「これまでの彼らの攻撃にも迷惑はしていたが、大したことはできないと思って放置していたのが間違いだったな。今後は、真似すらもできなくしてやろう」
お父様まで好戦的だわ。
「やつらを潰すのはこちらでやるから、リディアちゃんたちは、身の回りに気を付けてくれれば大丈夫よ」
ああ、お母様も協力的なのね。
むしろ伯父様たちの方が暴走しそうだけど、こうなったら止められないから。
わたしもラディも、正直、若干引いてるけれど。
後の始末はお願いすることにした。
「あいつらの話をいつまでもしているのも気分が悪いな。今日は、防犯道具の改良版も持ってきてくれているんだろう?」
よし!話が変わった。
あのまま、伯父様や両親の悪い顔を見続けるのも精神的によろしくないので。
ここぞとばかりに、防犯道具の説明をしたわ。
「この前言われた通りに結界を改良しておいたわ。結界操作権限の登録魔道具も、登録者がわかるようにしておいたから。防御の腕輪は、腕輪本体と精霊石をバラで持ってきたの。必要に応じて精霊石を埋め込んでもらえるかしら」
無効化魔法は、工場の結界に限定するのはやめて。
念のため、すべての結界に付与することになったのよね。
他にも、要望があったことには応えているはずだけど。
「さすがリディア、仕事が早いね。それで十分だ。その改良版でしばらく試してみよう。魔法契約も皆に理解してもらって条件を追加できたし、携帯用の防犯道具もね、個人の希望を聞いて、持ちたい人には持たせてあげることにしたよ」
よかった。
とりあえずは問題がないみたいだ。
異世界版防犯グッズも、初めて見せたときは驚かれたけれど。
性能や使うタイミングを説明したら、受け入れてもらえて一安心。
「ああ、そうだ。ラディン、スタンガンは量産することになったから、必要な数をまた教えてくれ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
何かと思えば、ラディは、スタンガンを影でも使いたいらしい。
なるほど。
死ぬわけじゃないしね、捕えるなら、確かに有効かもしれない。
そうして、ガンズ商会と防犯道具の話が終わった後は。
商会の技術者のところに寄って、計算機の割り算問題を話し合って。
小数点以下については、ここにいる人たちは理解できるけれど。
教育が遅れている平民に説明するのが大変だという理由で。
余りを表示する形になった。
これで、計算機についても機能はフィックスしたはずだ。
足し算・引き算・掛け算は、表示できる桁数の問題だけだったしね。
そこは、ディスプレイの問題だから、任せるしかないのだ。
「計算機が売り出されたら、またガンズ商会が難癖付けてくるかしら」
「んー、あの商会、計算機を再現できるほど優秀じゃないと思うよ。これから真似するなら、インスタントラーメンじゃない?」
そう言われてみれば、録映機とかはまだ真似されていないのよね。
面倒な魔法術式が必要な商品には手を出されていなかった気がする。
魔道具に比べて、食品は真似しやすいから。
やられる可能性はあるけれど。
確か、粉末技術はまだ真似されていないんじゃなかったかしら?
だとしたら、インスタントラーメンも難しいわね。
そんなことを話して、技術者たちとも話がついたわたしたちは。
そのまま帰宅したわけだけど。
「あれ?実家から、手紙が届いてる」
あら。グラント家からお手紙だなんて。
また新たな注文をいただけるのかしら。
とは思ったけど、レンダル支店ができたから、その必要はないわよね?
じゃあ、何かあったのかしら。
若干不安に思いつつも、手紙を読んでいるラディを見守っていたら。
「招待状だったよ」
「招待状?」
「うん。兄上とシア義姉さんがやっと結婚するみたい」
「まあ!すてき!おめでたいわ!」
言うなれば、わたしのやらかしのせいなのだけど。
お義姉様が帰国されてすぐにグラント家の新事業が始まってしまったから。
おふたりの結婚は、事業が落ち着いてからってことになっていたようなのよね。
大分、申し訳ないとは思っていたけれど。
無事、結婚が決まって本当によかったわ。
最近、こっちは物騒な話ばかりだったものね。
こういうお目出たいお話は大歓迎よ!
「と言っても、半年後だけどね。俺たちの仕事のことも考えてくれたのかな。余裕をもって連絡をくれてよかった」
「絶対に参加するわ!お母様にもお休みの許可を取らないと!」
「リディ、落ち着いて。話はまだ終わってない」
ん?どういうこと?
実は何か問題があるのかしら。
「結婚パーティーの食事のメニューをリディに考えてほしいんだって」
「あら!」
もう、ちょっと気構えて損しちゃったわ。
そんなの、もちろん引き受けるに決まってる。
「任せて!最高のメニューを考えるわ!」
「あ、うん、ありがとう。すごくありがたいんだけど、リディ、会場はレンダルだからね?グリーンフィールみたいに食材は多くないからね?」
あ、そうか。
お魚とかハーブやスパイスは入手が難しいってことね。
それは結構な難問だわ。
「あとね、水道設備の視察や加工肉とか飲食店の商談で、新たに懇意にし始めた貴族もいるらしいんだけど、うちもパウエル家も武家だからね。招待客の半数以上は騎士なんだ。だから、がっつりしたものも用意してもらえないかな?」
パウエル伯は騎士団長だものね。
なるほど。ということは。
「じゃあ、ダンスよりも食に走る人が多いってこと?」
「だろうね。騎士も踊れなくはないけど、食べるほうが好きだと思うよ。兄上もシア義姉さんもリディの料理が大好きだからね、みんなにも食べてもらいたいんじゃないかな」
そう言ってもらえるのは嬉しいけども。
わたしが作るものって、庶民的な料理ばかりなのに、それでいいのかしら。
これは、かなりの熟考が必要ね。
ちょっと今日から、試作をがんばらないと。
「リディ、気合を入れてもらって申し訳ないけど、パーティーは半年後だし、そこまで急がなくていいよ?」
「え、でも、食材の準備もあるし、早いほうがいいわ」
それに、防犯道具も計算機も、今日で一旦、片が付いたもの。
しばらくは、仕事も忙しくないわよね?
しかも、わたしは、今、気軽に家を出れない身なのよ?
そう言ったら。
ラディも、それもそうか、と言って協力してくれることになった。
「ああ、あとね、これはどうでもいいことだけど。シア義姉さんが花嫁用の豪華なドレスが嫌だって駄々をこねてるらしいよ」
あら、それは大変。
花嫁はうんと着飾るものなのに。
でも、そういうことなら、わたしに考えがあるわ。
そう思ってラディに提案したら。
わたしの企んだ顔が、両親にそっくりだと言われた。
わたし、あんなに悪い顔はしないわよ?




