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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第四章 平民ライフ災難編
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82.彼と彼女は絡まれる。

side ラディンベル

 俺は、今、正直、ちょっと複雑な気分だ。


 商会の防犯強化のための話し合いの場で。

 リディの誘拐未遂があったことを知った。


 聞いたときは、カッとなってしまいそうだったけれど。

 ここで俺が怒ったって何にもならないし。

 俺の気持ちなんかよりも、リディのほうが心配だったから。


 唖然としてしまったリディの手をぎゅっと握って。

 この手は絶対に離さないって心の中で誓ったわけだけど。


 我に返ったリディは、俺の予想に反して、何というか、普通だった。

 驚いてはいたけれど、それだけだったんだよね。

 当たり前に受け入れていたように思う。


 誘拐されそうだった、なんて聞いたら。

 怖がったりするもんじゃないかと思ったんだけどね。

 そういう素振りはなかったんだ。

 無理してそうしているっていう感じでもなかった。


 だからって、安心できるわけでもなくて。


 どう考えたって、全く平気ってことはないだろうし。

 こんなにも普通にしているってことは。

 恐ろしいことに、慣れている可能性だってあるわけだよね。


 レンダル時代のリディは。

 王子の婚約者で、筆頭公爵家の一人娘で。

 義父上の政敵だっていたのだから。


 過去に危ない目に遭っていたのかもしれない。


 影として、そういう話を聞いたことはなかったけれど。

 そんなの、俺が聞いてなかっただけかもしれないしね。


 そう考えたら、なかなかに複雑な気分だ。

 安心していいものなのか、心配するべきなのか。

 判断が難しい。


 でも、俺にできることはリディの側でしっかり守ることくらいだから。

 全力で護衛していくしかないよね。


 そう思って、気持ちを切り替えて。

 まずは、商会の防犯強化のための具体策を検討したんだけど。


 リディって、本当に引き出しが多くてびっくりする。

 まさか、防犯にまで詳しいだなんて思ってもいなかった。


 結界強化や魔法契約については、なるほどって思ったし。

 防御の魔道具に至っては、相変わらずの規格外ぶりで。

 リディアはさらっと言ってたけど。

 そんな魔法を付与できる人なんて、あんまりいないんだからね?


 おまけに、異世界の防犯道具には、内心、慄いたから。

 防犯ブザーはまだわかるけど。

 催涙スプレーとかスタンガンとやらは、もはや、武器だよね?


 そんなものを女性が持たなくちゃいけない世界なんて。

 異世界って、そんなにやばいとこなのかと心配しちゃったよ。


 そういえば、シェリー様は通り魔に刺されたって言ってたし。

 やっぱり、相当危ないところだったんだろうけど。

 リディが前世で怖い目に遭っていないといいな、と思う。


 なんて、話は脱線したけれど。


 リディが提案してくれた防犯対策は、一考する価値があるはずだから。

 とりあえずは、一通り試作品を作って。

 デュアル侯爵や義父上に実物を見た上で検討してもらうことにした。


 そうして、それからは。

 俺も手伝いつつ、試作品作りに励んだんだけど。


 出来たものが、また凄かったよね。

 実際に見ると、機能のすばらしさを思い知る。


 結界・認識阻害・解毒・精神干渉防御の魔道具は、俺も欲しいくらいだしね。

 腕輪にそれぞれの機能を付与した四つの精霊石を埋め込んだから。

 見た目的にもなかなかいい感じになったと思う。


 異世界の防犯道具は、思いの外コンパクトで持ち運びも便利そうだった。

 実は、スタンガンは、影の仕事でも使いたいと思ってるんだよね。

 雷魔法をこんな風に使うなんて、目から鱗だったから。

 これも侯爵たちに相談だな。


 そんな風に、すっかり引き籠って自宅作業をしていた俺たちだけど。

 だからって、防犯道具だけを作っていたわけでもなくて。


 次回のドラングル出張の準備だってしていたし。

 ―――前回の講義は、実は、万引き騒動前に一度済ませている。


 誘拐未遂話のせいで頭から吹っ飛んでいた『電卓』についても。

 商会に出向いて、詳細を詰めたりしてた。


 ―――どうやら、電卓という名前はこの世界にはそぐわないらしいから。

 わかりやすく『計算機』って名前に変更になったけどね。


 リディが温存している他のアイデアについても。

 確認してみたら、今のところは、すぐに出てこないようだったけれど。


 作るかどうかは別として。

 これからは、俺には、思い付いたらすぐに話してもらえるようにお願いした。

 その後は、一緒に判断すればいいからね。


 あ、もちろん。

 岩塩やラーメンの諸々だって、ちゃんと進めてる。


 岩塩のほうは、やっと商品のラインナップが決まってきたところだけどね。

 そのまま使えるように細かくした岩塩とミルで砕いて使う粗い岩塩の他に。

 ハーブやスパイス入りの岩塩も数種類用意することになっているんだ。


 ラーメン事業も。

 インスタントラーメンの販売はもう少し先になりそうなんだけど。

 ラーメン屋は、先日、遂にオープンしたんだよね。


 俺は、この日を待ってた!!


 ということで――――――。


 今日は、リディと一緒に、ランドルのラーメン屋さんに行く予定だ。


 そりゃ、誘拐については心配だけど。

 だからって、ずっと家にいたらリディもストレスが溜まるだろうしね。

 たまには息抜きや気分転換も必要だよね。


 あ、でも、一応、確認はしておこうかな。


「リディ。外出るの、怖くない?大丈夫?」

「え?なんで?怖くないけど」

「でも、ほら、商会関連でいろいろと物騒だから」

「………ああ!そういうことね!ありがとう、大丈夫よ」

「本当に?」

「あー…、えっと、慣れてるわけじゃないし、経験があるわけでもないけど、心得くらいは学んでるから。令嬢教育や王子妃教育で結構脅されたのよ」


 ああ、よかった。

 実際に怖い目には遭っていなかったようだ。


 でも、そういう教育を受けてくれててよかった。

 俺は、もちろん何が何でも守るつもりだけど。

 リディが意識してくれてるかも重要だからね。


「経験がなくてよかったよ。これからも経験させるつもりはないけど、落ち着くまでは俺の側を絶対に離れないでね」


 そう念を押してから、俺たちはランドルに向かった。


 自転車ではちょっと遠いし、盗まれても困るからね。

 今日はルーカスにふたり乗りしている。

 これなら、リディだけを狙うのは難しいはずだ。


 もちろん、警戒は怠らなかったけどね。


 今日は怪しい気配もなさそうだったから、少しだけホッとして。

 ランドルのラーメン屋さんまで来たのはいいのだけど。


 俺たちは、目の前の光景に唖然としてしまった。


「え、これ、通行の邪魔じゃない?」

「想像以上に繁盛してるね。ありがたいけど」

「そうね。うれしいけど、ちょっと、この状況はよろしくないわね」


 そうなのだ。

 来てみたら、ものすごい行列だったのだ。


 いや、わかるよ。

 病みつきになるのも、評判を聞いて食べてみたくなるのも。


 だからって、ここまで人が集まってしまうのはいろいろと問題がある。


 ということで、俺たちは行列整理を手伝って。

 今日用意している麺の数を超えた人たちには、お詫びをして。

 残念だけど、俺たちもラーメンを食すのは諦めることにした。


「じゃあ、ここまで来たから、お弁当屋さんに寄って帰ろうか」

「そうね」


 お弁当屋さんにも全然来れてないからね。

 これはこれでよかったかな。


 そう思って、ルーカスを引き連れて歩き始めたら。


「やっと見つけましたわ!」


 俺たちの真ん前に娘が立ちはだかって、叫ばれた。

 しかも、左手を腰に当て、右手の指でこちらを指している。


「え、誰?」

「ラディも知らないの?」

「うん」


 失礼な娘だとは思ったけど、知らない娘なのは確かだ。


 それで、リディとこそこそと話していたら。

 娘がこちらに向かってきて。


「貴方をずっと探していたのです」


 と、胸の前で手を組んで俺を見つめてきた。

 いや、本当に誰?


「覚えていらっしゃいませんか?わたくし、貴方に助けていただいたのです」

「………申し訳ないけど、人違いではないですか?」


 じっと見つめてくるから、仕方なく返事はしたけれど。

 本当に知らないから。

 俺、人助けとかした覚えないし。


「先日、この近くでひったくりに遭いましたの」


 ひったくり?


 ああ!そう言えば、リディに留守番を頼んでひとりで買い物に来た時に。

 そんなことがあった気がする。


「あの時の……。ですが、俺はただ通りかかっただけですよ」

「そんなことありませんわ!騎士の方とご一緒でしたもの!」


 まあ、確かに、見知った自警団員がいたから話は聞いたけれど。

 俺は、犯人捕縛には全く関わっていないんだよね。


「助けたのは自警団の方々ですよ。その中に知り合いがいたので少し話しましたが、俺は、本当に何もしていませんから」

「そんな……っ」

「御礼とかでしたら彼らにしてください。では、失礼しますね」


 自警団員と話したのなんて、ほんの数分のことだったのに。

 よく俺の顔を覚えてたよね。


 って、これ、もしかして、また俺を篭絡する感じなのかな?

 怪しい気配を感じなかったから、油断してた。

 リディから俺を引き離そうとしてるなら警戒を強めないと。


 そう思って、リディと繋いでいた手をぎゅっと握りしめた。

 それでリディも気づいたのか、ハッとした後、握り返してくれた。


 さっさとここから離れよう。

 リディと顔を見合わせて、頷いて。

 歩き始めたのに、娘はまだ言いたいことがあるらしい。


「ちょっと待ってください!」


 そう言われても、俺たちに話はないから。

 無視して歩き続けたんだけど。


「ちょっとあなた、この方に馴れ馴れしくしないでくださる?」


 あろうことか、リディの腕を掴んで、ふざけたことを言ってきた。


「え、わたし?」

「そうよ!」

「君、本当に何なの?妻にも何か用?」


 さすがにイライラしてきたから、敬語もやめたんだけど。


「妻………?結婚されてるんですの?」

「そうだけど?」

「まだお若そうですけれど」

「結婚できる歳は過ぎてるんで、問題はないはずだけど」


 若かったらなんだっていうんだ。


「そんなにお若いのに結婚だなんて!きっと、その女に騙されているに決まってますわ。色気仕掛けで迫ったのか何なのか知りませんけど、そんなことをする女は貴方様に似合いません!」

「はあ?」


 何言ってるんだ、こいつ。


「わたくしのほうがずっと貴方様のお役に立てますわ。わたくし、ガンズ商会の会長の娘なのです!」


 勝ち誇った顔でそう言われても、困るんだけど。

 っていうか。


「ガンズ商会って……」

「うん。うちの劣化品を売ってる商会だよね」

「なっ!」


 リアン商会の類似品を扱い始めた商会は多いけど。

 中でも、ガンズ商会の商品の質の悪さは有名だ。


「別に役に立つ人を結婚相手に選んでるわけじゃないけど、君には何の利点も感じないよ。俺はリアン商会の人間だからね」

「…っ!なんてこと!まさか、貴方があの卑怯な商会の方だなんて!」


 今、聞き捨てならないことを言ったよね?


「卑怯?」

「リアン商会は、ガンズ商会の真似ばかりしているではないですか!」

「「は?」」


 いやいやいや。

 一体、何をどうしたら、そういう話になるんだ?


「真似をしてるのはそっちだろう?言いがかりも甚だしいね。俺は、君にもガンズ商会にも全く興味はない。もう話しかけないでくれ」

「なっ……!」


 娘はわなわなとしていたけれど。

 これ以上話をする気もなかったから、俺たちは今度こそその場を去った。


「一瞬、刺客かと思ったんだけどね」

「あれは違うわね。結局、ラディに一目惚れしただけだったってことかしら。何か、前にもこんなことがあったような気がするわ」


 ん?それは、俺の婚約者を名乗った娘のことかな?


「ラディって、思い込みの激しい人に好かれやすいのね」


 まったく嬉しくない。


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