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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第四章 平民ライフ災難編
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73.彼女と彼は相変わらず。

side リディア

 早いもので、今や、グリーンフィールに移住して三年目。


 基本的な仕事は、商会とお弁当屋さんのままではあるけれど。

 去年あたりから、イレギュラーな仕事がかなり増えてきて。


 ここ数ヶ月は特にものすごく忙しかった。

 ―――自業自得だけど、ドラングル出張前後のやらかしが効いている。


 最近は、商会の仕事はほとんど魔法転送でのやりとりだし。

 お弁当屋さんなんか、二週間に一度行ければいいくらいだ。


 とはいえ、スタッフみんなががんばってくれているから。

 お弁当屋さん自体は順調でラディもわたしも嬉しい限り。


 ホットドッグもBLTサンドも、今では、人気商品になって。

 ハムの製造方法を変えたからか、ハムサンドの売上も好調で。

 エビカツサンドやエビマヨおにぎりもすっかり定着してきた。


 今は、幕の内弁当よりも安価なお弁当を検討しているところで。

 海苔弁当とか唐揚弁当なんかは、すぐに許可が下りそうだ。


 もちろん、順調なのはお弁当屋さんだけじゃなくて。

 商会のほうも、新商品を次々と出しているから。

 貴族宅への訪問販売も、訪問員の予定はびっしりだそうだし。

 店舗の客足も途絶えることはないらしい。


「貴族に人気なのは録映機と写真機だね。最初は監視用として興味を持たれていたんだけど、リディが思い出の記録にもなるって言ってたでしょ?それを謳い文句にしたら、飛ぶように売れ始めたよ。旅先に持っていったり、結婚式とかでも喜ばれてるみたい」


 ドラングル出張には間に合わなかったけど。

 帰国してから、録映機――要はビデオだ――を完成させたのよね。

 どうせだから、写真機――カメラ――も作ってみたんだけど。


 ルイス伯父様たちが、かなり感動してくれて。

 妙にやる気に満ちてしまって製造と販売を急がせたのだ。


 伯父様たちの狙いは、恐らく、王宮の監視用だと思うのだけれど。

 グリーンフィールは成長が目覚ましいから間者も多いみたいだし。

 影にも持たせてるようなのよね。


 でも、一般的にも喜ばれているみたいでよかった。

 まだ高価だから貴族や裕福な平民しか手にできないけれど。

 行く行くは、安価なものも販売できればいいなあ、と思う。


 あ、もちろん、録音機も販売はしている。

 こっちは、どちらかというと専門職の人たちに人気のようだ。

 記者――この世界にも新聞みたいなものはある――とかには、確かに便利よね。

 影も、場合によっては撮影が難しいから、併用している人が多いらしいわ。


「店舗のほうもね、どのお店の商品も定着してきたから、売上も高水準を維持してるよ。リピーターも増えたし、食品店舗も評判がいいんだ」


 既存店舗には、特出して新商品を出したわけではないけれど。

 随時、商品の改良はしているし、バリエーションを増やしたりして、お客様が飽きないようにはしているのよね。


 売上が好調なのは、そう言った努力もあるのだと思う。


「でも、今、平民はお金を貯めることに必死だそうだよ。自転車を買うのが目標なんだって」


 あらま、なんと。


 そりゃ、あれば便利だと思って作ったものだけど。

 そこまで欲しがってもらえるとは思ってなかったわ。


 シェリー様にも驚かれた自転車は、漸く納得できるものが完成したから。

 ひと月くらい前に、両親や伯父様にもお披露目をしたんだけど。

 平民に喜んでもらえるんじゃないかと、すぐに商品化してくれたのよね。


 平民は、馬を飼うにも限度があるし。

 乗り合いの馬車だって、行く場所や乗れる人数に制限が出てくる。

 だから、遠い場所に行くにも、歩いて行かなくちゃいけない人も多くて。

 荷物を運ぶのだって大変なのだ。


 だから、確かに、自転車は平民向けに作ったのだけど。

 今はまだ販売を始めたばかりで、受注販売だし。

 正直、まだ安価とは言えないのよね。


 それに、自転車って、乗るのにコツがいるから。

 万人受けはしないんじゃないかとも思っていたんだけど。


「店頭で試し乗りをしてるでしょ?それに順番待ちの行列ができてるみたいで、注目度は抜群なんだ。移動も楽になるし、歩くよりもかなり早いからね、欲しい人が多いみたいだよ」


 なるほど。試し乗りがいい効果を出していると。


 自転車って見た目だけじゃ、どういうものなのかがわからないと思って。

 試し乗りも、実は、気軽な気持ちで勧めてみただけなんだけど。

 いい具合に作用してよかったわ。


「ここしばらくは本当に忙しかったけど、何とか落ち着いてよかったね」


 ちょっと根詰めてやりすぎたとは思うけれど。

 トラブルなく進んで、目途が付いたのはよかったわよね。本当に。


 というか、さっきから、ラディがいろいろと教えてくれているけれど。


 これは、今後の販売戦略を検討してるというわけではなく。

 リビングで寛いで、近況を話しているというわけでもなく。


 今、わたしたちは馬車に乗っていて。

 移動の合間にラディと話をしているだけである。


 今日は、ドラングルの魔術師団での講義の日なのよね。


 シェリー様たちの援護にも行った、前回のドラングル出張の時に話に出た通り。

 わたしは、二ヶ月に一回ほど講義のためにドラングルに行くことになったのだ。

 もちろん、護衛にはラディを指名している。


 今日の講義は第一回目なのだけど。

 本当はもっと早く行く予定だったのが、ここのところの新商品の発売だなんだで少し予定よりも遅れている。


 お互い様と言って、あっさり予定を変更してくれたのはありがたかったけれど。

 ―――王太子殿下やアンヌ様の口添えもあったと思われる。


 でも、やっぱり申し訳ないことをしてしまったわけだから。

 結界展開や無効化・反射魔法を付与した魔道具は予定よりも多く持ってきた。

 追加した分は、サービスにするつもり。


 あとは、実は改良を施した馬車も。

 気に入ってもらえるならば、お安く譲ろうと思っているのよね。


 馬車に乗ることが多くなって、以前、ラディが愚痴ってたことが身に染みて。

 座席のスプリングを改良して、振動が少なくなるようにしたのだ。


 これで馬車での旅も快適になったし、ラディもすごく喜んでくれたから。

 ドラングルでも使ってもらえればうれしい。


 そう思って、ドラングルに到着してからサービス分なんかの話をしたら。


「実は、辺境伯領じゃないのですが、また魔獣が出てしまって、魔道具が不足していたところなんで助かります。お気遣いありがとうございます」

「馬車も大変興味深いのですが、そこまでしてもらうのは分に過ぎます。馬車のほうは、正規の金額でぜひお取引をさせてください」


 なんて言われてしまった。


 ドラングルは他国の人間を見下すって聞いていたのに。

 中にはこういう人もいるんだと感動してしまったわよね。


 そうして、予定していた講義をしたわけだけど。

 この前よりも参加人数が多くてびっくりはしたものの。

 みなさん、本当に真剣に話を聞いてくれて。

 わたしのことを小娘って見下すこともなくて、ありがたかったわ。


 ラディに関しては。

 普通に護衛の予定だったのに、かなり気が利くから。

 助手としても優秀で、護衛なのか助手なのか侍従なのかわからなかったわね。


「大変有意義な講義でした。わざわざ来ていただくのは申し訳ないのですが、これからもよろしくお願いします」

「それで、あの、お疲れのところ申し訳ないのですが、王太子妃殿下からお話があるということでして」


 あら。アンヌ様からお話なんて。

 何かしら。


 そう思いつつ、魔術師団の方に挨拶して、アンヌ様のところに行ったら。

 王太子殿下もいらして驚いてしまったけれど。


「リディア!本当に色々ありがとう。馬車の件も聞いたわ。ぜひ売って頂戴!」

「リアン商会は本当に優秀だね。グリーンフィールが羨ましいよ」


 そう言われて、ますます恐縮した。


「馬車の件もそうなんだが、実は、また相談があってね」

「そうなの。技術提携の件は流れてしまったけれど、やっぱり、リアン商会の品を取り寄せたいという声が多いのよ」

「それで、提携に近いものになるかもしれないのだが、我が国に支店を出してもらうことはできないだろうか」


 おお、なるほど。

 そういうお話でしたか。


 支店といえば、実は、つい先日、レンダルに支店を出したところなのだ。


 グラント家からの取り寄せについては、ここしばらくは、出張やら水道工事やらのついでに商品を運んでいたけれど。

 ―――実は、その中にマリアンヌ様からの取り寄せ分もあったと聞いて驚いた。


 飲食店の水道工事もこの前終わったところだから。

 いつまでも、都度運んでいくのも効率が悪いし。

 驚いたことに、あのアンディール家からも注文をいただいたから。

 だったら、支店を出してしまおうということになったのよね。


 ただ、レンダルには、アーリア商会の頃のメンバーも少し残っていたし。

 国を出るときに、技術を売ったりもしてきたから。

 その関係者に対応してもらうことができたけれど。


 ドラングルでは、どこまで対応してもらえるだろうか。


「さすがにこの前の商会には頼まないけれど、我が国で対応する人間はこちらで用意するつもりなのよ。どうかしら?」


 そこまでしてもらえるならば出来ないこともないかな?

 そう思ってラディを見たら、ラディも頷いてくれたから。


「承知しました。では、改めて商会の人間から連絡させますね。ご連絡先だけいただければ、あとはこちらで進めさせていただきます」


 そう言って快諾した。

 んだけど、ちょっと気になることもある。


「これだけご贔屓にしていただいて、本当に恐縮ですわ。先日も、魔獣討伐の報酬をかなりいただいてしまったところでしたのに」


 そうなのだ。

 辺境伯領の魔獣討伐では、シェリー様からも後日、大量の御礼が届いたけれど、王家からも報酬をいただいている。

 ――――もちろん、お義姉様やお義兄様のところにも届いている。


 最近のことを思うと、こちらに利がある話ばかりのような気がするのよね。

 もちろん、対価ということはわかっているけれど。


 討伐はわたしが勝手にしたことだし。

 魔術師団の講義だって、報酬を貰っているけど相場よりも高いと思う。

 結界とかの魔道具もなかなかの金額でお取引いただいているのに。


 更に、商会の支店まで作ってもらえるなんて。

 ちょっと贔屓が過ぎないかしら。


 なんて思ってたら。


「リアン商会の商品がほしいのはこちらの我儘。討伐分も当然の報酬よ」

「その通りだ。対価を有耶無耶にすると、その後にも影響するからね。正当な評価をしているつもりなのだが、君は自己評価が低いのかな?」


 王太子殿下にそう言われてしまって。

 アンヌ様に加えて、ラディまで頷いていたから。


 そんなことない、と言おうとしたら。

 ふたりから目で圧を掛けられて、黙ることにした。


 そうして腑に落ちないまま帰国したんだけど。

 今度は、カイン陛下とクリス王太子殿下から呼び出しを受けてしまって。


「いい加減、褒美を与えたいのだ。ここ最近の功績はとんでもないからな」


 そう言われても、わたしひとりで出来たことじゃないのに。


 これは、本心からそう思っているから。

 褒美は辞退したい旨を伝えたのだけど。

 ―――だって、叙爵とか領地とか王都の邸とかもらっても困る。


 陛下たちも引いてくれなかったから。

 お酒と、我が家と国境間の転移陣の設置で手を打つことにした。


 これだけでも結構なご褒美だと思うのだけど、違うの?


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