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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第三章 平民ライフ出張編
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閑話:王子の初めての視察。

 僕は、アルフォード・フォン・レンダル。

 レンダル王国の第二王子だ。


 兄上がやらかして幽閉されてしまったから。

 僕のことを第一王子だと思っている人もいるみたいだけど。

 兄上は王位継承権は剥奪されたけど、まだ王子には変わりない。

 だから、僕は今でも第二王子のままなのだ。


 と言っても、実質は、第一王子の扱いを受けているし。

 兄上のことを王子と呼ぶ人もいなくなったように思う。


 こんな状況で、我が国の王子は兄上と僕のふたりだけだから。

 僕が馬鹿な真似をしない限り、僕が王太子になることはほぼ決まっている。


 僕は、積極的に次期国王になりたいわけではなかったし。

 幽閉される前の兄上は、自分が王太子だと思っていたみたいだから。

 だったら、兄上がそのまま国王になってくれてもよかったのに。


 兄上が、リディア姉様を冤罪で国外追放したのに留まらず。

 勝手なことを言って呼び戻そうとしたり。

 大国であるグリーンフィールの王の書状を破ったりなんかしてくれたから。


 そこまでされたら、王家と言えど、庇い立てはできなかった。

 まあ、個人的には、庇う必要もないとは思ってたけどね。


 ただ、父上は兄上にすごく甘いから。

 幽閉している間にちゃんと反省したら。

 処分も解除して、適当な爵位を与えて臣籍降下するつもりみたいだったけど。


 今、兄上の面倒を見てくれている臣下たちによれば、それも難しそうだ。

 どうやら、魔力採取の度に。


『なんで、私がこんな目に遭わなくてはならないのだ』

『リディア様にしたことをお忘れですか』

『あいつは罪人だから、当然のことをしたまでだ』

『殿下が仰るリディア様の罪は、すべて冤罪だったと判明しています』

『それだって、あいつが手を回しているに決まっている』

『はぁ………。でしたら、書状の件は、覚えていますか』

『くっ!あれは!知らなかったから!』

『王妃殿下からはちゃんと説明されていたと聞いています。それに、知らなかったら何をしてもいいと?しかも、殿下は謝罪すらしていないのですよ』

『なら、今すぐ謝罪するからここから出せ』

『もう遅いのですよ』


 という会話が繰り広げられていて、まったく反省の色が見えないようだから。

 こんな調子なら、一生塔から出れないかもしれないね。


 そんなわけで、僕は、今、王太子になるべくがんばっている最中だ。


 教育も少しずつ厳しくなってきたし。

 我が国の政についても、今までよりも詳しく説明されるようになってきた。


 教育の一環で、魅了魔法のことを聞いたときは本当に驚いたけど。

 実際に、それも、ほんの数年前に起こったことだと聞いて気を引き締めた。

 グリーンフィールから魅了防御の魔道具を取り寄せてもらったから、僕は、今では毎日つけるようにしている。


 政務についても、レンダルのことを一通り説明してもらってから。

 グリーンフィールからの処遇の経過についても教えてもらうことができた。


 基本的に取り仕切っているのは母上だけど、担当者も大分慣れてきて。

 宝石工場は活気が出てきたようだし。

 ランクルム公爵に任せた農地も順調のようだ。


 そうして、イレギュラーな政策も徐々に落ち着いてきたら。

 母上は、今度は、新しい事業を始めたいと思っていると教えてくれた。


「水環境の整備ですか?」

「そうよ。お水は生きていく上で大切なものなの。だから、皆が清潔なお水を手にできるようにしたいのよ」

「それは素晴らしいことですけれど、僕にはどうしたらいいかさっぱりわかりません。勉強不足ですね……」

「そんなことないわよ。私もね、リディアに教えてもらったのよ」

「リディア姉様に?」


 聞けば、もう何年も前にリディア姉様から提案されていたらしいのだけど。

 功績を渡したくない貴族に邪魔をされたとかで頓挫していた計画だったようだ。

 正直、こういう貴族の足の引っ張り合いって本当に無駄だと思う。


「それでね、アルフォードに視察に行ってほしいのよ。グラント家にね」

「グラント家ですか?フィンの家ですよね?」


 フィンは母上の薦めで友人になったグラント伯爵家の三男だ。

 つい先日顔合わせをしたばかりだけど。

 リディア姉様に聞いていた通り、素直ないい子だったと思う。


 ただ、初対面の際、最初は緊張していたのか口数も少なかったのに。

 リディア姉様の話になった途端に饒舌になって、すごく驚いた覚えがある。

 僕もリディア姉様が大好きだけど、フィンの傾倒ぶりは本当に凄かったな。

 気持ちはわかるけどね。


 あの時は、都合が合わなくて乳兄弟を紹介できなかったのが残念だったけど。

 今思えば、それでよかったのかもしれない。


 僕の乳兄弟は、アンディール公爵の嫡男なんだけど。

 サティアス家とアンディール家はあまり仲良くなかったから。

 リディア姉様の話で盛り上がってしまったらちょっと空気が悪くなったかも。


 ついでに言えば、僕の婚約者はその乳兄弟の妹で。

 この兄妹は、というか、アンディール家の人間はみな選民思想が強いから。

 伯爵家のフィンのことを見下さないかが心配だ。


 乳兄弟や婚約者も負けず嫌いで気は強いけど、悪い奴ではないし。

 フィンとは仲良くなりたいから。

 彼らの関係は僕も気を付けていこうと思う。


「アルフォードは視察には行きたくない?」


 あ、思考を飛ばしていて、母上に返事をしていなかったようだ。


「いえ。そういうわけではないんですけれど、なぜグラント家なんですか?」

「以前、グリーンフィールのリディアたちの家に遊びに行って、邸の設備に感動したそうよ。それで、同じものを導入するために水環境を整備したそうなの。つい先日完成したらしいから見せてもらうといいわ。きっと参考になるわよ」


 なるほど。

 水環境整備の話から、どうしてフィンの家への視察になったのかと思ったら。

 既にグラント家に導入してあるからなのか。


 詳しく聞けば、グリーンフィールは水環境整備の先駆けで。

 既に何年も前から整備されていて、今ではどの家でも手軽に水を扱えるそうだ。


 母上は、兄上の件で謝罪に行っているから。

 実際に今のグリーンフィールを見てきたわけだけど、どこもかしこも清潔で、便利な設備がたくさんあって、理想の国なのだと話してくれた。


 ということは。

 それらを導入したグラント家は、小さな理想の国だということだよね。

 それは、すごく楽しみだ。


 だから、視察の件は、もちろん承諾して。

 どう出るかはわからなかったけど、乳兄弟も誘うことにした。


 そして、視察当日――――。


「グラント伯爵家って、最近、急成長しているところですよね?」

「ああ、変わった形態で肉の販売を始めたよね。おかげで、以前よりも手軽に肉を入手できるようになったって喜ばれてるみたいだよ。それに、新商品のベーコンとかソーセージもおいしいよね。パンに挟んだ軽食も人気みたいだ」

「……美味しいのは認めます」


 ふふ。伯爵家の評価が高いのが悔しいんだろうけれど。

 こうやって認めたりもするから憎めないんだよね。

 それに、ちゃんと行く先の家について調べてきているから偉いよね。


「今日は三男のフィンディベルが案内してくれるそうだよ。僕らのひとつ年下」

「そうですか。お茶会にも来ないから、私が会うのは初めてですね」

「僕もこの前初めて会ったばかりなんだ。控えめだけど、いい子だったよ。優秀そうだと思ったんだけど、本人は、勉強より剣のほうが好きみたいだ」

「ああ、グラント家は武家でしたね」


 見た目はラディンベル殿みたいに優しい感じだったから。

 動くほうが好きだと聞いたときはちょっと驚いたけどね。


 そんなことを話していたら、あっという間にグラント家に到着して。

 馬車を降りたところで、家族総出で迎えてくれた。


「ようこそ、いらっしゃいました」

「今日はお世話になります。こちらは、僕の乳兄弟のクラウスです」


 クラウスを紹介したら、フィンも丁寧にあいさつしてくれて。

 初対面のときからそうだったけど、フィンは本当に礼儀正しいと思う。

 それで、クラウスも少し態度が軟化したようだった。


 そうして、早速、フィンに邸内を案内してもらったんだけど。

 それはもう、驚きの連続だった。


 おまけに、メモ帳まで用意してくれていて、気遣いも万全で。

 ますます、フィンの評価が上がったよね。


「こちらが水道という設備で、ここをひねるだけで水を出すことができます」

「お湯も出るの?」

「はい。炊事も湯あみも大変容易になりました」


 聞けば、水場から直接水を引いているとのことで。

 いちいち桶や甕に入れて重たい水を運ばなくてもいいだなんて。

 なんてすばらしい設備だろうか。


「なっ!これが厠なんですか?!」


 厠には、僕もクラウスも言葉を失うくらいに驚いた。

 こんなに清潔な厠は見たことがない。


 そういえば、馬車を降りた時も空気がきれいだと思ったんだった。

 これは、母上が導入したいのも納得だ。


 その後も、水道だけじゃなくて、色々な魔道具を見せてもらって。


 実は、母上が取り寄せているから、冷蔵庫や照明は僕も知ってたんだけど。

 コンロや洗濯機は初めて見たから、その性能に唸ったよね。


 クラウスに限っては、すべての魔道具が初見だったようで。

 ずっと目を丸くして、驚き続けていたな。


 そうして一通り見せてもらった後は。

 我儘を言って、フィンの部屋に招待してもらった。


 きちんと整頓されていて、居心地のいい空間だ。


「この邸は本当にすごいですね」

「僕も驚いたよ。ここまで便利なものばかりだなんて思わなかった」

「まだ導入したばかりで使い慣れていないものもあるのですが、それでも、かなり快適になりました。支度をするのも早くなったと思います」


 確かに、そうだろうな。

 これだけ清潔な空間で、便利なものに囲まれてたら、さぞかし快適だろう。


「というか、この部屋にも見慣れないものがたくさんあるね」


 じろじろ見てしまって申し訳なかったけれど。

 球体の何かや変わった形の靴なんかがあったり、壁には数字が並んでいる紙が貼られていたりして、どうしたって目に付くんだ。


「グリーンフィールにいる兄から取り寄せているんです」


 ああ、そうか。

 これもサティアス家の商会の商品なのか。


 ここでサティアス家やリディア姉様の名前を出さないあたり。

 フィンも人間関係や派閥について勉強してくれていたのかな。

 僕は何も話してなかったからね。


「丸いのは遊ぶ道具で、あの靴は運動に特化していて動きやすいのです。壁に貼ってあるのは日付を並べたカレンダーというものなんですが、予定も書き込めて便利なんですよ」


 なるほど。

 さすがアーリア商会。じゃないや、今はリアン商会だったかな。


「へぇ。珍しいものばかりで、どれも興味深いですね。このメモ帳やペンもすごく使いやすいですし、グリーンフィールには便利なものが多いんですね」


 クラウスは、以前はグリーンフィールを見下しがちだったけど。

 僕からも色々説明したし、兄上の処遇の件もあって、最近はあまり悪く言わなくなって安心してきたところだ。


「私も取り寄せることができますか?」

「兄に相談してみます。取り寄せに時間がかかってしまうかもしれませんが」

「それは構いません。ちなみに、幾らくらいのものなのでしょう?」


 クラウスがそう聞いたら、フィンはそれぞれの単価を書き出して。

 全部買い揃えたら幾らになるかを計算してくれたんだけど。


「え、ちょっと待って。フィン、計算早すぎない?」

「確かに。どうやったんですか?」


 クラウスも驚いて、フィンに計算方法を聞いてみたら。

 聞いたこともない方法だったけど、ものすごく画期的な方法で。


 僕もクラウスも、視察そっちのけで計算の習得に時間をかけてしまった。


 そんなことをしていたら、かなり長い時間滞在してしまったから。

 最後にフィンのご両親にもお詫びして邸を後にしてきたのだけど。


 今度、球体のものを使った遊びを教えてもらえるように約束してきたし。

 クラウスも、フィンのことを気に入ったようだったから。

 これからも、ずっと仲良くできたらうれしいな。


 ―――母上。


 よい友人を紹介して頂き、大変ありがたく思います。

 でも、視察のレポートについては、時間をください。

 纏めることが多すぎるので。


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