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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第三章 平民ライフ出張編
73/149

71.彼女と彼は援護に向かう。

side リディア

 わたし、そんなに意外なことを言ってしまったかしら。


 シェリー様たちからのご要望を受けて。

 うちの商会の商品をドラングルでも扱えるように。

 魔道具の改良もしたし、お互いに譲歩できるだろう範囲での書類も用意して。


 先方の商会との会合のために、ドラングルに向けて出立したら。

 シェリー様たちが治めている辺境伯領で魔獣が出たという連絡が来て。

 おまけに、お義姉様とお義兄様までもがその討伐に向かったと聞いた。


 そんなの、当然、援護に行きたいに決まってる。


 彼らは、わたしにとって、大切な人たちだから。

 彼らが戦ってるのに。

 自分だけ安全圏で呑気に商談している場合じゃないと思うのよ。


 だから、商談なんてちゃっちゃと終わらせて。

 わたしも援護に行く気満々だったんだけれど。


「リディア、何を言っているんだい?辺境伯領の魔獣討伐は毎回苦戦していると聞いてるよ。そんな危険なところに行かせるわけがないだろう?」

「リディ、本気で行く気なの?」


 ルイス伯父様がかなり厳しい顔をしてそう言ってきて。

 ラディも、強くは言ってこないけれど、できれば行ってほしくないと思ってるのがわかった。


 でも、わたしだって諦めるつもりはないのだ。


「わたし、辺境伯領の魔獣討伐には向いていると思うのよ」


 辺境伯領の魔獣討伐に苦戦するのは、魔獣が巧みに魔法を繰り出すからで。

 騎士や冒険者が優れていても、魔獣の攻撃魔法を避けながら戦うとなれば。

 どうしたって、人間側が不利になる。


 でも、その点から見れば。

 ある特殊魔法を習得しているわたしなら、それなりに援護できるはずなのだ。


「それに、今回、シェリー様たちに持ってきたお土産も役に立つと思うの」

「…………どういうこと?」


 伯父様は、わたしが使える魔法についてはあまり知らないから。

 そう言うのも無理もない。


 ということで、シェリー様たちへのお土産のことも含めて説明したら。


「はあ……。リディアは本当にとんでもないね」


 実際のところ、伯父様は、まだ反対していると思うけれど。

 話を聞いて、わたしたちが行くことの意味はわかってくれたようだ。


「わかったよ。どうしても行く気みたいだし、そういうことなら、確かに助けにはなるだろう。但し、絶対に無事に帰ってくること。それは約束だよ?」


 そう言われて。

 絶対、なんて、ないのはわかっているけれど。

 無茶はしないと、伯父様とラディに誓った。


「でも、まずは、さっきの件を片付けてからだよ」


 そうよね。


 さっきのドラングルの商会との会合は、結果として言えば、決裂した。

 先方は、こちらのことを見下しすぎていたと思う。


 先方の話を聞きながら。

 わたしは、メモを取るふりをして、相手の話の内容をグリーンフィール語に翻訳して伯父様に見せていた。すぐ後ろに控えていたラディにも見えていたはずだ。


 ふたりともドラングルに赴く前に、勉強はしていたけれど。

 理解度に不安があったようだから、そうしていたのだけど。


 わたしの翻訳を見て、伯父様も相手の意向がわかったようで。

 わたしの判断を後押ししてくれたから。

 わたしも、迷うことなく断ったのよね。


 今回の話をどう聞いていたのかわからないけど。

 あの商人は、自分たちのほうが優位だと思っていた節がある。

 高圧的な話も当然と言った感じだったし。

 なんなら、商談がうまくいかないことで。

 縋られて、更に優位な条件にすることを想定していたようだったけれど。


 こちらは、今回の商談がなくなっても何ら問題はないし。

 あんなに上から目線で話されたら、付き合いを続けようなんて思わないわよね。


 お生憎さま。


「こっちの話が終わったら、声を掛けるように言われているんだ」


 そうだったのか。

 でも、まだ、アンヌ様たちとハリスさんの話し合いは終わっていないはずだ。


「部屋の前にいる護衛騎士に伝言を頼もうか」


 伯父様はそう言って。

 商談の様子を簡単に記したメモを護衛騎士に渡したら。


 すぐにメモを読んだらしいアンヌ様から室内に入るように言われて。

 説明を求められたから、ありのままを話していたんだけど。


 先ほどの商人が割って入ってきた。

 わたしたちが報告していることを知って急いで駆け付けたらしい。


「博識のようでしたから此方の言葉もご存じかと思って、ドラングル語で話してしまったんです。それで、うまく伝わらなかったのかもしれません」


 何を抜けしゃあしゃあと。


 わたしはとっとと辺境伯領に援護に行きたいのだ。

 こんなところで、茶番に付き合う気はないのよ?


「では、こちらをお聞きいただいたうえでご判断くださいませ」


 そう言って、わたしは、ラディや伯父様に驚かれた魔道具を取り出した。

 こんなこともあろうかと、ボイスレコーダーを作っておいてよかったわ。


「リディア、これは?」

「音を記録できる魔道具です。先程の会話はこちらに録音してありますわ」


 できれば、録画できる魔道具を作りたかったのだけど。

 そこまでの時間はなくて、録音機能しか付けられなかったのよね。


「まあ!遂にそんなものまで作ってしまったのね。さすがリディアだわ」

「なっ!そんなものは偽造に決まっております!」


 悪あがきもいい加減にしてほしい。


 録音には彼の声が入っているのだ。

 今日初めて会った人の声を事前に偽造することなんてできるわけがない。


 そう説明して、録音内容を聞かせたら。


「このような対応だったとは……。今回はこちらから貿易をお願いしたうえに、本来はこちらが出向くところを、わざわざ我が国まで来ていただいたというのに。本当に申し訳ない」


 王太子殿下自ら、謝罪をしてくれるという事態に陥って。


 これには、こちらもびっくりしてしまって。

 どうか頭を上げていただけるように懇願したのだけど。


 当の商人は、顔を青くしていたものの、意向を変える気はないようだった。


「そうですの……。リアン商会の品は、質が高いのにお手頃で、便利な物も多いんですのよ?ですから、この国でも扱えれば、民にも喜んでいただけると思ったのですけれど。残念ですわ」

「今回の話は、商会にとっても益があると思ったのだがな。自分たちで商品を開発するとなれば、申し出のあった技術提携よりも、費用も時間もがかかるだろうが、それも覚悟の上、ということであるな?」


 殿下方にそう言われて、商人は初めて自分の判断ミスに気づいたようだったけれど、今となっては、後の祭りだ。


 結局、ドラングルの商会との取引はなくなって。

 シェリー様たちとは個人での取引とさせていただくことになった。

 対個人の輸出入に対する手数料や保存食の取り扱いについては、この後、伯父様が交渉してくれることになっている。


 ちなみに、水環境整備にかかる費用は、国全体ともなれば莫大になるわけで。

 アンヌ様の持参金もそこに消えてしまうから、新商品の開発と言えど、商会に援助できる費用はないのだという。


 いくらアンヌ様が嫁いだ国だからと言って。

 グリーンフィールだって、ドラングルを養うために国庫を蓄えているわけではないから、何もかも援助することはできないわよね。


 そんな状況でも、技術提携ができれば行く行くは商会の利益にも繋がるから。

 それくらいは商会も理解していると踏んで、今回の会合の場を設けたようだ。


 それがこんな結果になってしまって、本当に残念よね。

 聞けば、あの商会はドラングルで一番の商会だったようだけど、慢心してたんじゃないかしら。


 そうして、その後は。


 わたしとラディが辺境伯領の援護に行くことを伝えたのだけど。

 話を聞いて真っ青になったアンヌ様から引き留められて。

 王太子殿下からも、他国の人間にそこまでさせられない、と言われてしまった。


 そこで、さっき伯父様に話したことを再度伝えて。

 何とか、援護に行くことを許してもらって。


「リディアもラディンも、自分の身を守ることを一番に考えるように」

「そうですわ。絶対に無事に帰ってきてね」

「「はい」」


 伯父様とアンヌ様からありがたい言葉を貰っていたら。

 王太子殿下が魔術師団の方に話をしてくれたらしくて。

 条件はあったものの、転移陣を用意してもらえることになって。


 わたしとラディは、あっという間に辺境伯領の討伐隊の詰め所に到着した。


 どうやら、ここ数日は膠着状態が続いているため、結界を張った詰め所で、討伐隊が治療をしたり休息をとっているようだ。

 冒険者の出入りも多いからか、わたしたちを気に留める人はほとんどいない。


 まずはシェリー様たちを探そうと思って、詰め所内を見渡していたら。


「リディア様!」


 いち早く、お義姉様がわたしたちに気づいてくれた。


「援護に来ちゃいました」

「っ!なっ!そんなっ……!そりゃ、リディア様がいれば、私だってがんばれますけど、だからって、此処はだめです。リディア様には安全な場所にいていただかないと。え、どうしよう。一番近い安全な場所は……、えっと」

「シア義姉さん、落ち着いて」

「ラディン!どうして、リディア様を連れて来たの!」


 混乱中のお義姉様をラディが諫めようとしたけれど、逆効果だったようだ。

 お義姉様は、ラディの胸倉を掴んで詰め寄っている。


「レティ、落ち着いて。っていうか、ほんと、どうしてリディアとラディンベルがここにるの?ラディンベルはレティの弟なの?一体どうなってるの?」


 わたしたちの騒ぎを聞きつけたのか、シェリー様が来てくれたけれど。

 お義姉様を諫めつつも、シェリー様自身も若干パニックってるようだ。


「あー、ラディンは俺の弟なんだ」


 何から説明しようかと思っていたら、今度はお義兄様が登場した。

 その後ろにはラルフクト様もいらっしゃる。


 そうして、知り合いが勢揃いしたところで。

 わたしたちの関係性を説明することから始めたのだけど。


「まさか、あなたたちが繋がっていたなんてね。レティは、去年の討伐の時にすごく活躍してくれたのよ。御礼を言いたかったんだけど、討伐が終わった途端にいなくなってしまって。今回また来てくれただけでも驚いたのに、もっとびっくりするなんて思ってもみなかったわ」


 どうやら、お義姉様はレティという名で冒険者をしているらしいのだけど。

 その腕前はかなりのもののようだ。

 さすがAランク冒険者だわ。


 そう思って、お義姉様を尊敬の眼差しで見つめていたら。


「援護に来てくれたのはありがたいが、ラディンベルはまだしも、リディアは戦えるのか?無理なら、安全な場所に連れていくが」


 ラルフクト様にそう言われてしまった。


 まあ、そうよね。

 心配されるのも尤もなんだけど。


「わたし、無効化魔法と反射魔法が使えるんです」

「「「「は?」」」」


 あらま。お義姉様とお義兄様にも驚かれてしまったわ。


 確かに、この特殊魔法を使える人は少ないけれど。

 だからこそ、思わず習得に燃えてしまったのよね。


 そうして、がんばって身に着けたこの特殊魔法は。

 結界魔法とも組み合わせることができるから。

 後方支援にはなるけれど、魔法に長けた魔獣にも対抗できると思うのだ。


『マジで?』

『マジです』


 しばらくは沈黙が続いていたのだけれど。


 ものすごく驚いたらしいシェリー様が日本語で聞いてきたから。

 わたしも、この世界に来て初めて日本語を使った。

 マジ、なんて、一体何年振りに使った言葉かしら。


 でも、他の人たちが怪訝な顔をしてしまったから。

 適当にごまかして、すぐにこちらの言葉に戻したのに。


「リディアはあの猫型ロボット……、っていうよりはセー〇ームーン?ま〇か?何にしてもチートが過ぎるわ!」


 シェリー様、いくら何でもそれはないと思うわ。


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