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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第三章 平民ライフ出張編
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68.彼と彼女は相談される。

side ラディンベル

 ここまで驚いたのは、初めてこの邸に来た日以来だと思う。


 アンヌ様の紹介で我が家にやってきたシェリー様が。

 リディと同じ、前世―異世界―の記憶を持っていたことだって驚いたのに。

 シェリー様の祖国では異世界で作られた物語と同じ出来事が起きたという。


 時間を置いて、改めて考えてみれば。

 異世界の記憶を持った人が、少なくともここに二人いるのだから。

 異世界とこの世界に何らかの関りがあるのはわからないでもない。


 でも、話を聞いていた時は、ただただ、驚くことしかできなかった。


 しかも、乙女ゲームとやらをなぞったらしいシェリー様の祖国での出来事は。

 シェリー様が言っていた通り、まさに、リディが経験したようなことだった。


 もし、リディもその悪役令嬢とかで冤罪で断罪されて森に捨てられてたら。

 なんて考えたら、ゾッとする。


 おまけに魅了魔法なんてものまで使われていたとなれば。

 助けられたかもわからない。


 いや、本当に。シェリー様がご無事でよかったよね。


 リディと一緒にいるようになってからは。

 自ずと、俺も異世界文化に触れることが多かったし。

 規格外な出来事だって随分と経験してきた。


 だから、結構、奇想天外なことにも耐性が付いたと思ってたんだけど。

 さすがに今回のシェリー様の話にはびっくりした。

 こんなに驚いたのは、この邸に来て、魔道具を見て、リディの記憶の話を聞いたとき以来だと思う。


 リディですら、今回の話はうまく呑み込めていないようだったしね。

 あまりにも衝撃が大きかったようで、リディの記憶の話を受け入れた俺に対して、改めて御礼を言われちゃったくらいだ。


 でもね、そんなの、感謝してもらうことでもないんだよね。

 むしろ、あの時信じた俺は、本当にいい判断をしたと思う。


 もし、信じてなかったら、リディと俺の未来は変わっていたかもしれない。

 それは、本当に避けたいことだから。


 だから、そんなこと気にしないでね。

 って伝えたんだけど。


 リディは、シェリー様の祖国のように、作られた世界が存在するならば。

 他にもこちらの意思ではどうにもならないことが起こるんじゃないかって心配しているみたいなんだよね。


 そう言われれば、その可能性は俺にだって否定できないけど。

 でも、もしそうだとしても。

 俺は絶対にリディを守るよ。


 そう言ってリディを抱きしめたら。

 リディも、ぎゅっと抱きしめ返してくれたから。

 絶対に守り抜こうと心に誓ったんだけど。


 それにしても。

 異世界ってのは、何もかもが、俺の想像を超えてくるよね。


 技術にしても、俺からしたらお粗末な恋愛ゲームにしても。

 異世界人の想像力には脱帽する。

 できれば、恋愛ゲームに使った想像力は他に使ってほしかったけどね。

 おかげで、リディが不安に陥ってしまったんだから。


 そんな八つ当たり的なことを考えながら、驚きの連続の一日を終えて。


 ―――――そして、翌朝。


 昨夜は、深夜まで話し込んでしまったから。

 シェリー様たちは朝はゆっくりされるかな、思いきや。

 俺たちと同じくらいに起き出してきたから。


 リディも張り切って、異世界の祖国の定番らしい和食の朝食を作って。

 ごはんに味噌汁、焼き魚に玉子焼き、味付け海苔、というメニューに。

 シェリー様は大喜びで。

 ラルフクト様たちも、昨日あんなに飲んだのに朝から食欲旺盛だった。


 どうやら、味噌汁がいい酔い覚ましになったらしい。


「あーー。しじみ汁が染みるわー」

「これは、しじみ汁というのか。酒を呑んだ翌日には最高のスープだな」


 シェリー様たちがしみじみとしているけど。


 確かに、これには俺も同感。

 リディがダンさんにお願いして探してもらっていた小さい貝が、まさかこんなスープに化けるなんて思ってなかったよね。また作ってもらおう。


「さて、リディア。私たちに手伝えることはある?」

「え?」

「ただ飯喰らおうなんて思ってないのよ?できることがあったら言って頂戴」


 いや、お客様にそんなことはさせられない。

 大体、シェリー様たちはお貴族様。しかも、辺境伯領の御当主御夫妻なのだ。

 無理、無理。どうか、ゆっくりしてほしい。


 という俺たちの願いも空しく。


 どうにも手伝うと言い張られたので。

 馬や鶏の世話や、畑仕事なんかを手伝ってもらうことになったんだけど。


「え?もしかして、バスケットゴール?」


 ああ、やっぱり、知ってるんだ。

 畑に出ればゴールが見えるんだよね。


 聞けば、異世界ではバスケは有名な運動らしい。


「はい。作っちゃいました」

「何でも作るわね!私もバスケやりたいわ。これでもバスケ部だったのよ?」

「え!そうなんですか?!ならば、ぜひ!」


 お、これは、本場のバスケってのを見せてもらえるのかな?

 それは楽しみだ。


 とは思ったけど、まずは作業を片付けてからだよね。

 シェリー様やラルフクト様には馬のお世話をお願いして。

 俺たちは、鶏の世話や、畑や花の栽培を始めた温室の手入れに勤しんだ。


 そうして、お昼――たらこパスタも好評だった――を食べた後。

 俺たちのスウェットとかジャージに、スニーカーもお貸しして。

 早速バスケをしたんだけど。


「シェリー様、さすがに動きが速いですね。でも、負けません!」


 リディとシェリー様のドリブルの技が高度過ぎて。

 駆け引きしまくってゴールを狙うふたりの動きを見ていたら。


 俺がやってたことなんて、子供のお遊び同然だということがわかった。

 俺も、バスケは結構できるようになったと思ってたんだけどね。

 まだまだだったみたいだ。


「君も、あの運動をやるのか?」

「はい。あんなに本格的にはできませんけど。いい運動になるんですよ」

「そうなのか?あまり動いているようには、見えないが」

「やってみると、結構ハードな運動だってわかりますよ」


 これは、やらないとわからないかもしれない。

 動いてる範囲が狭いからね、そんなに動いてないように見えるんだろうな。


 ってことで、ラルフクト様たちにもボールを渡して。

 基礎的な動きを教えたら。


 意外とボールをうまく使えないことがわかったようで、悪戦苦闘していた。


「ふふ、結構難しいでしょ?」

「ああ、悔しいな」


 そうは言いつつも、やっぱりいつも身体を動かしている人たちだけあって。

 呑み込みも早くて、少しずつシュートも決められるようになっていった。


「バスケも楽しいけど、このスポーツウェアも最高ね!」

「うふふ。ありがとうございます」

「この服や靴のことか?これは、動きやすくていいな」

「運動用だもの。私も欲しいわ。これ、売ってるの?」

「うちの商会で売ってますよ。この後、お店に行ってみます?」

「行く!」


 そうして、バスケはいったんお開きにして。

 平民服に着替えて、ランドルのギルドや店舗に顔を出して。

 商会の商品を一通り見てもらったら。


 買い占めてしまうんじゃないか、ってくらいに買い漁ってくれて。

 買い物の後は、先日オープンした焼き肉屋さんに入ったんだけど。


「にしても、よくここまで再現したわよね?」


 席に着くなり、シェリー様にそう言われた。


 魔道具も衣類も下着も文具も雑貨も。

 シェリー様が欲しかったものは、大抵揃っていたようだ。


「これでも公爵令嬢だったんで、最初は公爵家のお金と人脈を使いまくりました。やっちゃった感もありますが、がんばりましたよ?」

「がんばりすぎよ。私だって、あったらいいな、とは思ってたけど、そこまではできなかったわー。よく、作り方までわかったわね?」

「いえ、魔法で強引に作ったり、簡単な説明をして、あとは技術者に丸投げしました。わたしもさすがに、詳しい構造とかまでは覚えてないですから」

「そうなの?レンダルにいたのよね?レンダルの人って優秀なのね」

「商会のメンバーは本当にすごいです。でも、レンダルでは素材が揃わなくて。これだけ量産できたのはグリーンフィールだからなんです」


 リディとシェリー様がそんな話をし始めたら。

 ラルフクト様たちも、興味深げに聞いてはいたのだけど。

 ラルフクト様たちは、それよりも焼き肉のほうが気になっていたようだ。


「確かに売っていたものはすごいものばかりだが。この肉は本当に旨いな!」

「ええ。いくらでも食べられますね」

「ああ、そうよ。まさか、この世界に焼き肉屋があるなんて思わなかったわ」

「ふふ。あと、焼き鳥屋さんもありますよ」


 リディがそう言って。

 肉の部位販売や粉末スープ、豚の加工肉の話もしたら。


「この国に移住するか」

「そうね」

「「いいですね!!」」


 と、思わぬ方向に話が行ったから、リディと焦ってしまった。


 いやいや、辺境は国の防衛の要だから!

 貴方たちが国を出たら大変なことになるから!


「まあ、それは冗談だが」


 ラルフクト様、冗談とかいうんですね。

 心臓に悪いんでやめてください。


「ひとつ、相談がある。今日見せてもらった商品の貿易はできないだろうか。今は辺境も少し落ち着いてるからこうやって出てきているが、毎回買いにくるのは難しくてな」


 そう言われて、リディと顔を見合わせる。

 まあ、できるかできないか、で言ったら、できると思う。けど。


「あの、恐らく、なんですけど、アンヌ様が何かしら進めてると思います」

「アンヌ様って、王太子妃殿下よね?」

「はい。アンヌ様なら、技術提携なり貿易なり、やらないわけがないかな、と」


 そうなんだよね。

 アンヌ様が隣国に嫁いだのには、そういう背景もあるんだと思う。

 元々外交担当なわけだし、アンヌ様はリディ以上に抜け目のない方だから。

 なんの益もない婚姻はしないと思うのだ。


「なるほど。両国に益があるように働きかけてくれているってことか」

「聞いたわけじゃないので、恐らく、ですけれど。それに、アンヌ様はグリーンフィールの水整備事業の主要メンバーだったんです。だから、水道とかは進めてくれると思うんですよね」


 リディがそう言ったら、シェリー様たちも納得してくれて。

 他の懸念事項にも期待をかけていた。


「じゃあ、魔道具も、ドラングル用に作ってくれるかしら」


 実は、今日の買い物では、魔道具には待ったをかけている。

 というのも、ドラングルの魔道具は、精霊石ではなくて魔石を使うから。

 魔石の魔道具に改良した方がいいんじゃないか、という話になったのだ。


「缶詰やレトルト食品についても、何とか輸入できるようにしてほしいな」


 これらの保存食品もね。

 やっと、少しずつ、他国への持ち出しも認められるようにはなったけど。

 大量の持ち出しはまだ禁止されている。


 戦回避のためだという説明をしたら、シェリー様たちもわかってくれたけど。

 魔獣討伐で遠征が多い辺境領での需要は高いよね。


「そこは、両国での取り決めになると思います。そのあたりも含めて、わたしたちからも、アンヌ様はもちろん、カイン陛下や商会にも話をしておきますね」

「そうしてもらえるとありがたい。俺たちも殿下に進言してみよう」


 どうやら、ラルフクト様は王太子殿下と同級生だったようだ。

 今でも付き合いは続いているみたいだから、殿下に話してもらえるならば、話も早く進むかもしれない。


 でも、そうか。

 リディが言った通り、俺たちもデュアル侯爵たちに話を通すとなれば。

 シェリー様たちが帰国されたら、また忙しくなりそうだ。


 そう思った俺は。

 その段取りを考えながら、残りのおもてなし期間を過ごしたのだけど。


 リディはシェリー様からリクエストされた異世界料理を作りまくっていた。

 とりあえず、今回、俺が知らない料理は出てこなかった。


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