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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第三章 平民ライフ出張編
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64.彼と彼女は帰国後も忙しい。

side ラディンベル

 予定よりも長くなった出張も、遂に最終日。


 俺たちのレンダルでの仕事は終わっているから。

 ―――粉末技術の売買や飲食店の水道工事なんかは帰国してから調整予定だ。


 朝の散歩と称して、もう一度、森にデートに行ったり。

 ―――今回はクルミの実だけ採ってきた。チップ用の木材は、ずっとこの森の木を伐採するわけにはいかないから、領地で栽培することになったと聞いている。


 家族総出でバスケの試合をしたり。

 ―――ゴールをふたつに増やして、うちに来ていた商会のメンバーや使用人を巻き込んで、ゲームとやらをやってみた。想像以上にハードな運動だった。


 皆からのリクエストで、リディに最後にカレーを作ってもらったりして。

 ―――シア義姉さんが食べすぎて、みんなから顰蹙を買っていた。


 午後には帰国予定だから、短い時間ではあったし。

 リディにはまた料理してもらうことになってしまったけど。

 俺もリディも、休暇という形で自由に過ごさせてもらった。


 そうして、グリーンフィールに発つ時間になって。

 俺たちは、前回のように家族と使用人総出の見送りを受けている。


 母上とフィンはもとより、シア義姉さんもぼろぼろと泣いていて。

 リディとの別れを惜しんでいるんだけど。


 今生の別れでもあるまいし、毎度そこまで大袈裟にしなくてもいいと思う。

 リディも、また来ますから、って何度も何度も言ってるし。

 その辺にしてくれないかな?


 っていうか。


 俺たちは、結局、二週間くらい滞在していたんだけど。

 シア義姉さんも同様にうちにいたわけで。

 留学から帰国して間もない身だったのに、実家にいなくてよかったんだろうか。

 まあ、よかったからうちにいたんだろうけど。

 時々、実家にも顔を出してたみたいだし、パウエル家も放任だからいいのかな。


 なんて思ってたら、シア義姉さんが聞き捨てならないことを言い始めた。


「私、ラディンよりも護衛できると思うんです。だから、」


 手合わせしてもらったし、強くなったのは知ってるよ。

 でも、自分が兄上の婚約者なのは、わかってるよね?

 そもそも、旦那の座は渡さないよ?


「却下」


 俺が即座に否定したら、シア義姉さんが睨んできた。

 悪いけど、俺も負けないよ?


「ふたりとも落ち着け」

「お義兄様。なんか、このふたり、とっても仲がいいんですけど」

「「よくない!」」

「ほら。息もぴったり」


 くっ!めちゃくちゃ反論したいけど!

 でも、正直、そんなことしている時間がないのもわかってる。


 というのも。

 今回は、商会のメンバーと馬車で帰国するからだ。


 ちょうどいい具合に、俺たちが帰る頃には水道工事が終わっていて。

 馬車には、俺たちふたりが乗れるくらいの余裕があるということで。

 俺たちも便乗させてもらうことになっているのだ。


 シェンロン様は、また迎えに来てくれるって言ってくれたんだけどね。

 久々にチビ竜に会ってるんだから、せっかくならゆっくりしてほしい。


 そういうこともあって、馬車で帰るんだよね。


「お前たち、そろそろ出たほうがいいぞ」


 結局、俺とシア義姉さんのやりとりはみんなに笑われて終わって。

 ―――でも、俺たち、結構真剣だった。


「ふたりとも、身体に気を付けるのよ」


 母上のその言葉を最後に、グラント家を出立して。

 リディはみんなに大きく手を振って。

 みんなが見えなくなるまで馬車の窓から外を見ていた。


 俺は、実は、馬車で長距離を移動したことがない。

 レンダル時代は、遠出の時はいつも騎馬だったし、グリーンフィールでは、いつもダズル様やシェンロン様が転移してくれるからね。


 ということで、公共の転移陣はあまり使ったことがないし。

 ―――使うとしても、デュアル侯爵家やギルドの転移陣ばかりだった。


 あんなに推していたけれど、野宿セットを使うのも初めてだ。


 だから、今回の帰国は結構楽しみにしていたんだけど。

 楽しむというよりも、想像以上に勉強になった。


 馬車の長距離移動がこんなに体に負担がかかるなんて思ってなかったし。

 ―――思わずリディに愚痴を零したら、スプリングがなんとか、って言ってたから、改良案を出してくれるかもしれない。


 公共の転移陣は長距離になればなるほど酔うことがわかったし。

 ―――酔う事もなく一瞬で転移するダズル様やシェンロン様は本当に凄いよね。


 野宿セットは、思っていた以上に優れた品だった。


 寝袋は、地面のゴツゴツも大して気にならない上にすごく温かくて。

 正直に言えば、ちょっと綿が入っているからって、野外だからあまり期待していなかったんだけど、実際のところ、かなり快適だった。


 まあ、欲を言えば、ふたり用のものがあったらうれしかったけど。

 リディを抱き込んで寝れたら、もっと寝心地もよかったのに。

 商会のメンバーも一緒だったからそんなこと言えなかったけどね。


 卓上コンロも、薪がなくても料理ができるから、本当に便利だったし。

 簡易テーブルや折り畳み椅子だって、ちょっとした休憩の時には大活躍だった。


 男所帯の騎士団だったら、ここで缶詰やレトルトも大活躍しただろうけど。

 今回の旅路には、リディがいたから。

 食材さえあれば、コンロで美味しい料理を作ってくれて。

 俺たちは、道中、まったく食に困らなかった。


 ―――――そうして、帰国した俺たちは。


 まずはサティアス邸に帰り着いて。

 義両親と、わざわざ出迎えてくれたデュアル侯爵に各々報告したんだけど。


「水道なんだけどね。やっぱり、レンダルでも取り入れたいみたいなんだよね」

「かつては却下されてしまったのにね。でも、以前からマリーは取り入れるべきだと声を上げていたし、反対派は今は肩身が狭いみたいなのよ」


 義母上の話を聞いて、王妃様はさすがによくわかってる、って思ったよね。


 反対派というのは、旧サティアス公爵家に敵対していた家なんだろうけど。

 義父上が宰相の職を辞して、サティアス公爵家がなくなって。

 今はアンディール公爵が宰相をしているけれど。

 いろんなことがうまくいっていないのは、既に、周知の事実なんだろうな。


「だから、今となっては水環境整備に反対する人間も少なくてね。今回、グラント家が水道を設置してくれたことで、それをモデルケースにしたいようだ。グラント家にはこれから視察に行く人間が増えるかもしれないが、その対応や先行投資分は王家から援助があるという話だよ」


 はあ?


 父上、そんなこと、一言も言ってなかったのに。

 あの狸親父め。


 水道や魔道具導入で使ったお金が結構な金額になったと思って。

 他の事業ではなるべく費用がかからないように、がんばって計画したのに。

 援助されるだと?


 くそー。

 援助のことは、わざと俺には伝えずに。

 最小限に経費を抑えた事業計画を立てさせたってことか。

 やられた!


「と言ってもね、王子の件の処遇もあるからさすがにね、レンダル王家と言えども、現時点で国を挙げて事業化するのは難しいらしいんだ。だから、すぐにどうこうという話じゃないんだけどね。いずれ、グリーンフィールとレンダルが水環境整備の技術提携を結ぶようだよ。来年以降だろうけど、また、こういう仕事が入ることを頭に入れておいてもらえるとうれしい」


 なるほど。

 その時は、今回、実家に行っていた商会のメンバーもまた駆り出されるかもしれない、ってことだよね。


 実家の飲食店のリフォーム時にはまた誰かに行って貰うことになると思うけど。

 グリーンフィールに移住したのに、何度もレンダルに戻る可能性があるなんて。

 確かに、そう言うことは事前に言ってもらっておいたほうがいいよね。


「お話はわかりました。ただ、私たちも、個人宅の工事はなんとかなっても、国全体となると難しいかもしれません」

「うん、そうだよね。でも、レンダルが国主導で始める場合は、我が国で事業化した人間も介入するはずだから、その辺は大丈夫だと思うよ」


 そう言われて、商会のメンバーはホッとしたようで。

 諸々を了承して、彼らはそこで解放されたんだけど。


「リディアはまたやらかしてくれたな」

「ごめんなさい……」

「謝ることはないよ。でも、フレイル伯爵も期待しているし、帰国早々申し訳ないけど、試作に入ってくれるかな?」


 これは。こんな話になってるってことは。

 デュアル侯爵たちも試作品を見る前から事業化するつもりだってことだよね。

 お膳立ては万全ってことだ。


「「はい」」


 俺たちに、拒否権なんて、あるわけがない。

 特に今回は出張を伸ばしてもらってるしね。


 ということで。

 帰国した翌日から、俺たちは、豚の加工肉とスモーク商品の試作に入った。


 ―――お弁当屋さんには、レンダルのお土産を持って行って、またしばらくいけないことを伝えておいた。本当に、シフト制にしておいてよかった。


 レンダルとグリーンフィールでは、使える材料が違うから。

 というか、グリーンフィールのほうがいろんな食材を使えるから。


 加工肉については。

 ハーブやスパイスをブレンドしたり、スモーク用のチップも色々試して。

 レンダルで試作した時よりもバリエーションを増やしていて。


 スモーク商品については。

 チーズや各種ナッツの他にも帆立とかの海産物のスモークも作り上げて。


 ―――リディは、また、サケっていう魚が欲しいって言っていた。

 結構な頻度で話に出てくるこの魚については俺も気になってきたから。

 ちょっと情報を集めようと思う。


 それらの試作品を持って、再度サティアス邸に行ったら。


「ほんと、リディアが作るものは、何でも美味しいよね」

「リディアちゃんは、小さい頃から天才的な料理人だもの。当然よ」

「これがハムか……。今までのは何だったんだっていう位に違うな」


 言いたいことはわかるんだけど。

 最後の義父上のコメント以外は加工肉もスモークも関係なくない?


 とは思うものの、三人の顔付きを見れば。

 やっぱり、既に商品化は決定しているということに違いない。


「商品化する場合は、万人受けするようにレシピの調整をしてくれるのよね?」


 リディも懸念もわかるけど。

 俺たち、ぶっちゃけ、リディのレシピが一番おいしいと思ってるからね。

 でも、最終的には調整してくれると思うから、大丈夫だよ?


 そうして。

 当然のことのように、ハム・ベーコン・ソーセージの販売が決定して。

 お弁当屋さんでのホットドッグの販売も即決したから。


 まずは、ソーセージの製造を急がせることになって。

 序にケチャップやマスタードも商会で販売することになった。


 ―――フレイル伯爵は、豚の加工肉に大喜びだったそうだ。

 おかげでお弁当屋さんや飲食店で使う肉の入手が更に格安になった。


 そして。

 海産物のスモークは、港町の食品加工工場での取り扱いとなって。

 チーズのスモークは、豚の加工肉と一緒にフレイル伯爵領での取り扱いに。

 ナッツのスモークは、生産から販売までを商会で扱うことになった。


 そんなことをしていたから。

 俺たちは、帰国後も、商会の仕事もお弁当屋さんも引き続き任せっぱなしで。

 新規事業のことばかりしていたけれど。


 帰国してから二週間ほどで、漸くイレギュラーな仕事が片付いて。


 思い起こせば、視察に、新事業に出張があったから。

 本当に久しぶりだと思うんだけど。


 やっと、俺たちに、日常が戻った。


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