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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第三章 平民ライフ出張編
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63.彼女と彼は仕上げにかかる。

side リディア

 わたしったら、何をしているのかしら。


 ラディと事業計画書を見直していたら。

 ラディの婚約者を名乗る娘が乱入してきた。


 乱入娘の思い込みなんだ、ってことは理解できたのに。

 ラディの婚約者、というワードが頭に残ってしまって。


 わたしと結婚したときに婚約者がいないことは知ってたけど。

 それ以前にはいたんじゃないかな、とか。

 結構釣書が来てたんじゃないかな、とか。

 婚約に至らなくても仲がいい子はいたんじゃないかな、とか。


 そんなことが頭の中でぐるぐるしてしまって。

 今まで必死に隠してきた嫉妬心まで出てきてしまって。

 余計なことまで口にしてしまった。


 それなのに。

 自分でも面倒な女だと思ったくらいだったのに。


 ラディはわたしを特別だと言ってくれた。


 わたしはつくづく良縁に恵まれたと思う。

 ラディと出会えて本当によかった。


 わたしだって、もちろん、ラディだけが特別だ。

 その言葉は言えずに抱き着くことしかできなったけれど。

 抱き着いたところからそれが伝わったらいいな。


 なんて都合のいいことを考えつつ。

 これからは変な嫉妬なんかしないでラディを信じようって強く思ったのよね。


 そうして。

 お互いに照れ臭い感情のまま、仕事を再開して。

 むしろ、照れ隠しのためにさっきよりも真剣に事業計画案を練り直して。

 水道工事をした場合の事業計画書まで用意して。


 お義父様とお義兄様に報告しようとおふたりを探したら。

 いつも通りに執務室で仕事をしていらした。


「あれ?叔父上って人はもう帰ったの?」

「ああ、ふざけたことばかり言ってきたから追い返した」


 あらま、なんと。

 わたしが嫉妬したりしてる間に話は済んでいたようだ。


 詳しく聞けば。


 その叔父という人は、幼い頃から真面目に勉強もせず。

 鍛錬もさぼってばかりだったから、先代伯爵は早々に見限ったそうだ。

 影の教育はおろか、影のことも伝えず終いだったとか。


 そして、なんとか子爵家に婿に入れたものの。

 結婚してからも、子爵家の仕事は執事や使用人に任せきりで。

 甘い話を聞きつけては、媚を売りに行く、という生活らしい。

 うん。大分、残念な人のようだ。


 グラント家からしたら勘当したも同然の人だから。

 これまでも付き合いはなかったようなんだけれど。


 今回の来訪は、グラント家が何やら始めるらしい、というのを嗅ぎ付けて。

 先触れもなく、本当に突然、乗り込んできたようなのよね。


「自分はグラント家の出身なんだから、利益を受け取る権利があるって言ってきたんだよ。儲けの二割を渡せと言ってきた」

「は?」


 ラディが思わず声に出したのもわかる。

 なんでそうなるかな。


 一枚噛ませろ、という話ならば、百万歩くらい譲ってわかるけれど。

 何もせずに、ただ、家族だから利益をよこせだなんて、横暴すぎる。

 大体、今の牧畜業の利益だって貰ってないだろうに、なんで、新規事業なら貰えると思ったんだろう。


 そりゃ、追い返すわよね。

 当然だ。


「そういう人なんだ……」


 ラディは呆れ返っていたけれど。

 この様子だと、ラディも会ったことすらないのかもしれない。


 ちなみに、あの乱入娘は。

 やっぱり、わたしが思った通り、ラディを一方的に慕っていただけだった。

 学園時代にパーティーで一目惚れして、婚約者がいないことも掴んで。

 父親に婚約者にしてもらえるように頼んでいたようだ。


 お義父様の話では、ラディに話をするまでもなく断ったらしいのだけど。

 叔父とやらはそれを認めず、娘にも断られたことを話しておらず。

 娘は娘で、父親に頼んだから婚約者になれたと思っていたとのこと。


「そもそも、俺とリディが結婚したことって、知られてないの?」


 ラディの問いも尤もで。

 わたしも気になっていたのだけど。


 どうやら、わたしたちが国を出たばかりの頃は大して知られてなかったらしい。

 もしくは、偽装結婚だと思われていた――ある意味、正しい――ようだ。


 でも、ハインリヒ様が幽閉された時にわたしたちのことも一気に広まったから。

 今では知らない貴族はほぼいないらしいんだけど、叔父とやらは、未だに知らないか、今でも偽装結婚だと思っているんじゃないかとのことだ。

 娘のほうは、単に、知らなかったようだけど。


「そう……。何でも自分に都合よく捉える家族なんだね」


 本当にそうね。


「まあ、あいつのことはしばらく監視するよ。ただ、うちが動いていることがどこまで広まってるかが問題だな」

「広まっていると言っても、店舗を探してるってことくらいだろう?技術流出なら問題だが、じゃなければ、放っておけばいいんじゃないか?」

「確かにな。でも、そうだな、技術やレシピの流出は避けたい。そこは、今よりも徹底しよう」


 これは商会でも言えることだけれど。


 新しいものを世に出せば、すぐに類似品だって出てくるし。

 技術だって、流出とは言わないまでも、似たことを考えられる人はいるのだから、いつまでも独占することはできない。


 だから、いつかは技術も広まっていくんだろうけど。

 初動時には流出しないように気を付けないと、下手をしたら、技術を盗まれたとか、言いがかりを付けられ兼ねないから。

 新しいことを始めるときは慎重にいかないといけないわよね。


「ここはいいとしても、工場の方は気を付けないといけないな」

「警備、増やしますか?」


 執務室にはお義姉様もいて。

 ドラングルでは警備のことも学んだようで、積極的に意見を言ってくれている。


 でも、技術流出の心配ならば。


「あの、もしよかったら、防音結界の魔道具を作りますけど」

「「「は?」」」


 お義父様とお義兄様とお義姉様の声が重なった。


「あ、そうか。リディは結界魔法が得意だったね」

「リディア様!すごいです!」

「リディアは、もう何もかもが反則だよな」


 あら、お義兄様ったら言ってくれるわ。

 でも、確かに、わたしは前世の記憶があることからして反則だとは思う。


「みなさんが剣の鍛錬をしている時に、魔法の習得をがんばっただけですよ」

「それにしても、それは凄いな。作ってもらえるなら嬉しいが、いいのか?」

「はい。精霊石も持っていますので。少しだけお時間をください」


 そう言って、わたしは早速魔道具造りに入って。

 その間に、ラディは、さっき作った事業計画書の説明をすることになった。


 部屋に籠って、構造を検討して。

 工場は平民の方ばかりだというから、少ない魔力で発動できるようにして。

 操作も簡単にしないと。


 そんなことを考えた結果、生活魔法程度の魔力を一度かざせば発動して、もう一度かざせば解除するような防音結界の魔道具を作り上げて。

 おまけで、重要書類を保管する場所に置く結界の魔道具も作っておいた。


 そうして、できあがった魔道具を持って、みなさんのところに戻ったら。

 事業計画のほうも最終案ができたようだった。


 ラディが初期費用を抑えたかったのは。

 業務用冷蔵庫や水道工事に加えて、今回の新事業を始めることになったから。

 グラント家の財政を圧迫しているんじゃないかと心配したからなんだけど。


 どうやら、先代伯爵が、かなりお金を貯め込んでくれていたみたいで。

 有事の時のためにとっておいたようなんだけど。

 今回の事業にそのお金を使って、利益を有事費用に戻そうと考えているらしい。


 ということで。

 焼き鳥屋さんや焼き肉屋さんといった飲食店については。

 最初から水道設備を取り入れた店舗を作ることになったようだ。


 お義兄様の希望で、ホットドッグとハンバーガーのお店も検討しているらしく。

 ―――多分お弁当屋さんを知ってるからバーガーを思い出したのだと思う。

 ハンバーガーなら、グリーンフィールで利益が出るのも実証されているし。

 グラント家ならば、お肉の原価も安いから向こうよりも利益が出るはずだ。


 なかなかの多展開になったけれど。

 すべていっぺんに始めるわけではないと聞いて、ちょっと安心した。

 いくらお金があるからって、すべてを整えるには時間がかかるもの。


 まずは、お肉の販売方法の変更と、豚の加工肉の販売から始めるようだ。

 ならば、飲食店ほど初期費用は嵩まないし、販売店も既存の店舗がある。


 何なら、ホットドッグとハンバーガーはお肉屋さんの片隅で、持ち帰り用のものを売ればいいわよね、なんて口走ったら、すぐに採用されてしまったけれど。

 ―――ラディは、またやっちゃったね、って顔をしていた。


 そうして。

 わたしたちが持ち込んだ提案から始まったグラント家新規事業計画は。

 無事目途が立って、あとは準備の実作業に入るところまで話が進んで。


 わたしが作った防音結界の魔道具も。


「リディア様!これ、すっごい簡単で、全然音が漏れないです!」

「この短時間にこれを作ってしまうとは……。リディアは本当に規格外だな」


 と言ってもらえたから、使えるってことでいいかしら?


 保管場所の結界の魔道具も喜んでもらえたし。

 これで警備の人数を増やさなくて済むならよかったわ。

 警備の人間を雇うのも、お金がかかるものね。


 雇うと言えば。


「新規事業の人員にはね、今回の魔道具導入で仕事が少なくなったうちの使用人たちが立候補してくれてるんだ」


 おお。なるほど。


 今回は水道や浴室、トイレの他にも、コンロや洗濯機とかも導入してるしね。

 照明は以前遊びに来てくれたときに買ってくれていたし、グラント家にも魔道具が結構揃ってきた。


 となれば、当然、使用人たちの仕事も減ってしまうわけで。

 でも、今回のことで、仕事を失う人がいないのであれば、よかったわよね。


「リディアたちのお陰で色々なことが良い形に収まった。本当にありがとう」


 お義父様にそう言われて。

 わたしもラディも提案に来てよかったと心から思ったわ。


 ここまで来たら、あとは仕上げ作業のみ。


 わたしは、加工肉と飲食店のメニューのレシピ管理と材料の確保を任されて。

 レシピには閲覧できる人を限定する魔法処理をして。

 レンダルに流通していないスパイスやハーブ、大蒜なんかは、グリーンフィールからの輸入手配や畑の整備をしたりして。


 ラディは、ミンチ製造機や焼き台、炭といった必要な道具の手配をして。

 畑の整備も手伝ってくれたりして。


 ルイス伯父様や両親への報告もラディが引き受けてくれた。


「予定よりも長くなっちゃったけど、充実してたわね」

「そうだね。リディが何か言い出さないわけがないから、侯爵や義父上たちも出張の延長は想定していたようだよ」


 なんですって?


「当然でしょ?織り込み済みだよ」


 ラディにそう言われて。

 反論もできなくて、苦い顔をしてしまったけれど。


「本当に、色々とありがとうね。リディのおかげでいろんなことが便利になったし、事業も拡大できる。感謝しかないよ」


 ラディがうれしそうにそう言ってくれたから。

 わたしもうれしい。


 今回の長い出張も、そろそろ終わりね。

 思い起こせば婚約者騒動が多かったけど、実りも多かったと思う。


「帰国したら、また試作の連続だよ。がんばろうね」


 ラディ、その言葉はまだ聞きたくなかったわよ?


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