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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第三章 平民ライフ出張編
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59.彼女と彼は訪問する。

side リディア

 また、やらかしそうになってしまった。

 いや、ラディからは、結局やらかすことになるよって言われてるけど。


 今回初めてグラント領にお邪魔して。

 業務用冷蔵庫の追加分をお渡しして。

 お肉の部位販売と粉末スープのプレゼンをした。


 結果、みなさん提案を喜んでくれて。

 食べ比べも好評だったから、プレゼンは成功したと思う。


 それはそれでよかったんだけど。

 プレゼンの時に気になることを聞いたのだ。


 どうやらこの世界のハムは売れ残りで作っているらしい。

 ということは、部位関係なく茹でているってことよね?


 それって豚バラ部分も茹でるってことなのかしら。

 それに、売れ残りってことは。

 新鮮さが失われているわけだから、ハムにしたお肉は固くなりがちだ。


 だから、この世界のハムって微妙だったのね。

 なんて、ある意味、納得はしたけれど。


 だったら加工肉だって部位ごとに作り方を変えて。

 ハムの他にもベーコンやソーセージも作ったほうがいいと思ったのだ。


 このことをプレゼンの最中に考えていたんだけれど。

 今回はうっかり口にしていなくて本当によかったわ。

 でも、ラディに圧を掛けられなかったら口走っていたかもしれない。


 結局、王都のグラント邸に戻ってきて早々にラディに拉致されて。

 白状させられたわけだけど。


 伯父様たちへの報告という名の交渉はラディのほうが上手だから。

 あとは任せることにしたのよね。


 だから、加工肉の件は、とりあえずは伯父様たちからのお返事待ちね。


 それに、今日は―――。


 ランクルム公爵家に行かなくてはならないのだ。

 出来上がったスーツと農地の事業計画書をお持ちしなくては。


「リディ。馬車の準備が出来たって」

「はーい」


 当初は馬を貸してもらうか、乗り合いの馬車に乗ろうと思ってたんだけど。

 お言葉に甘えて、グラント家の馬車をお借りして。

 ラディとランクルム公爵家に向かうことになった。


「乗り合いの馬車なんて、よく知ってたね?」

「一般的な乗り物なんじゃないの?」

「平民にはね。普通、公爵令嬢は知らないんじゃないかな?それに、さすがにランクルム公爵家の近くにはいかないよ」


 ああ、そうか。

 わたしは前世のバスのイメージだったけれど。

 貴族は使わないし、確かに公爵家の近くに乗り合いの場所はないわね。

 旧サティアス邸の近くにもなかったし。


「リディは、時々、びっくりするくらい庶民的な考え方をするよね」


 まあ、わたしは、前世庶民だったからね。

 それに、最近は、どうも前世の記憶のほうが強く出てくるから。

 令嬢時代なんかなかったかのように庶民的になってしまう。


 そんな話をしていたら、あっという間にランクルム公爵家に到着して。

 門番の方にお約束があることを伝えて。

 玄関まで案内してもらったら、執事らしき人が眉を下げて佇んでいた。


 どうしたのかと思えば。

 どうやら、ルド様の前の予定が長引いていて、まだ帰って来ていないと言う。


 ならば、待たせてもらうか、出直すか。

 どうしようかな、と思っていたら、物凄い勢いで騎馬がこちらにやってきた。


「ラディンベル、リディア、すまない。遅くなった」


 今度は何かと思えば、ルド様が急いで帰って来てくれたらしい。


「いえ、私たちも今来たところですから」

「そうか。ならばよかった。父上は先に農地に行っているから、ここでは私が対応させてもらう。執務室は別邸なんだ。付いてきてもらえるか?」


 そう言われて、執事さんにも対応してくれた御礼をして。

 ルド様についていったら、執務室には、グリーンフィールにもいらしていた従者のレインさんが居た。


「ラディンベル様、リディア様。視察の際にはお世話になりました」


 そんなご丁寧なごあいさつをいただいて。


 早速ではあるけれど、まずはルド様にスーツをお渡ししようと思って。

 キャスター付きのハンガーラックごとお出ししたら。

 ルド様がハンガーラックにも興味を持ってくれたようだったから。

 ラックごと、サービスのネクタイも付けて差し上げた。


 そうしたら、すぐに試着するということで。

 ラディとふたりで執務室に隣接している小部屋に入ってしまったから。

 わたしは、レインさんに珈琲の抽出道具をプレゼントして。

 ―――視察の際に、公爵もルド様も珈琲をいたく気に入っていたのだ。


 珈琲を淹れながらふたりを待っていたんだけど。


「ああ、いい香りだ。珈琲まで持って来てくれていたのか」


 そう言いながら小部屋から出てきたルド様は、三つ揃えのスーツを着ていた。


「まあ!ルド様、大変お似合いですわ」

「そうか。それなら安心した。にしても、このネクタイとやらは難しいな」

「そこは慣れなので、数をこなして何とかしてください」


 そんな話をしながら、お互いの近況報告なんかもして。

 いい感じに雑談が終わったところで、事業計画書を出したんだけど。


 ここで、執務室にノックの音が響いた。


「誰も入れるなと言っておいたのに。万が一、父上が農地から戻ってきているなら別だが、他の者なら追い返してくれ」


 ルド様がレインさんにそう言ったものの。

 レインさんが対応するも、相手はなかなか引かないどころか。


「ルドルフ!」


 レインさんを振り切って、執務室に乱入してきた。


 そして、その乱入者を見て、わたしは頭を抱えて。

 相手の立場的に礼を取ろうとしたら、ルド様に止められた。


「どうして本邸に顔を出さないのです!」

「殿下。突然やってきて、失礼ではありませんか」


 わたし、すっかり記憶の隅に追いやっていたけれど。

 ルド様の婚約者は、レンダルの王女様だったわ。


「昼食を共にしようと、本邸で待っていたのですよ」

「今日はお約束はしていなかったはずです。それに、私は今、来客中です」

「来客?」


 そうして、王女様がわたしたちの方を向いて。

 目を吊り上げた。


「なぜ、この女がここにいるのです?!」

「彼女たちはグリーンフィールの使者として此方にいらしています。いくら殿下とあっても、礼儀を弁えていただきたい」

「まあ!平民に成り下がった女を使者にするだなんて、グリーンフィールも随分と落ちぶれたものですわね」

「礼儀を弁えていただきたい、と申したのですが、聞こえませんでしたか」


 いや、ルド様。

 わたしを庇ってくれているのだし、大変ありがたいけれど。

 王女様に対してそんなに好戦的にしなくてもいいんですよ?


「事実を言って何が悪いのです?!」

「まさかとは思いますが、レンダルがグリーンフィールにしたことをお忘れですか?殿下は、レンダルを亡き国にしたいのですか!」

「なっ!」

「先のハインリヒ殿の件は、彼女たちの口利きによって温情を戴いたのです。それなのに、今、ここでまた無礼を働いたら、今度こそどうなるかわかりません」

「………っ!」


 王女様は我儘で勝手だけど、馬鹿ではない。

 ルド様が言いたいことも解っているはずだ。


 だからか、継ぐ言葉は出なかったようで。

 わたしをキッと睨んで、そのまま執務室を出て行ってしまった。


「………リディア、すまない」

「いえ。ある意味、相変わらずで、むしろ、懐かしかったです」


 わたしのその言葉にルド様は苦笑して。

 ラディはきょとんとしていた。


「わたし、昔から、王女殿下に嫌われているのよね」

「あれは、嫌っているというよりも嫉妬だろう?リディアは完璧令嬢として名高かったからな。劣等感を抱くところは、ハインリヒ殿と似ているな」


 そうだろうか。

 それだけでもないように思うけれど。


 とにかく、王女様はわたしを毛嫌いして遠ざけていた。

 おかげで、同じ王族の婚約者という立場だったのに、ルド様ともお会いする機会がなくて、この前の視察の時が初対面だったのだ。


 そういう話をしたら、ラディがものすごく納得に満ちた顔をして。

 似た者姉弟なんだね、と言っていた。

 なぜ、それで説明がつくのかはわからないけれど。


「それよりも、もしかしてルド様。お昼、食べていらっしゃらないんですか?」

「ん?ああ。前の仕事が押してな。でも、一食くらい構わないぞ?」


 いや、それは、食欲旺盛なルド様には酷だろう。


 ということで。

 焼き肉店ランチの試作としてストックしていた焼肉定食と牛丼をお出ししたら。


 ものすごい速度で完食した。


「相変わらずリディアの飯はうまいな。これを外食できるなんて羨ましい」

「お義父様やお義兄様にお願いしたら、出店してくれないかしら?」


 思わずそう言ったら、ルド様がかなり乗り気になって。

 出資してもいいからよろしく頼む、とラディに懇願していて。

 わたしはラディにジト目で見られた。


「それは追々。それよりもクリス殿下から事業計画をお預かりしていますので」

「おお、そうだったな。そこまでしてもらって本当に申し訳ない」


 ラディはさっくりと話を変えるのが本当に上手よね。

 そもそもは、わたしがすぐ脱線してしまうのが問題なのだけれど。


 でも、そうして、わたしたちは本来の話し合いに突入して。


「これは……。グリーンフィールは、本当に懐が深いのだな」


 事業計画書を確認したルド様が感動に震えていた。


 でも、その反応は、わからないでもない。

 だってクリス殿下が作ってくれた事業計画通りに行けば。


 一年目はどうしたって赤字になるけれど。

 三年目には農作技術を買い取れるくらいの利益が出るようになるし。

 五年から十年かければ紡績や機織りの工場だって買い取れるほどに成長できる。


 そんな事業計画なのだ。

 今回は処遇という形ではあるけれど、グリーンフィールは何もレンダルを潰そうとしているわけではなくて。共存できるようにちゃんと考えてくれている。


 以前のような、敵対していたような両国の関係性を思えば。

 そんなことはあり得ないと言う人もいるかもしれないけど。

 誠意を見せればグリーンフィールはそれ相応の対応をしてくれる。

 元々、グリーンフィールには善良な人が多いのだ。


「本当にありがとう」

「私たちはただの使者ですから。御礼は陛下や殿下に」


 ラディの言葉にわたしも頷いて。


 それからは、事業計画通りに進められるように三人で案を出し合って。

 公爵家の転移陣を使わせて頂いて、農地の視察にも行かせてもらった。

 ―――ランクルム領の本邸から該当の農地までは距離があるため、一泊させていただくことになっている。


 農地には、お話に聞いていた通り、既に、ランクルム公爵がいらして。

 試着したままスーツを着ていたルド様に、狡いと文句を言っていたり。

 公爵も事業計画書に感激して、ちょっと泣きそうになってしまったり。


 派遣されて来ていたグリーンフィールの農業政策のご担当様にもご挨拶をして。

 農地を耕すのを手伝おうと思って、調子に乗って広大な面積に土魔法や風魔法を放ってしまって魔力が尽きかけたり。

 そのせいで、ラディにこっぴどく叱られたり。


 まあ、いろんなことがあったけれど。

 やるべきことをすべて実行できて、わたしは満足だ。

 なかなかの充実ぶりだったと思う。


 そうして、ランクルム公爵家でのミッションも完了したわたしたちは。

 これからも連絡を取り合うことを約束して公爵家を後にしたのだけど。

 ―――ルド様には魔法転送装置をお渡ししてある。


 グラント家に戻ったら。

 レンダルの王妃様、マリアンヌ様からのお手紙が届いていた。


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