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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第一章 平民ライフ突入編
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06.彼は義父に詫びられる。

side ラディンベル

 昨日の家族会議の後、父上は公爵閣下の手紙に返事を書いて、閣下の訪問を了承する簡単なやりとりをしていたようだ。


 そして今日。閣下は時間通りに我が家まで来てくれた。

 お詫びの品をもって。


 俺も王子の仕事絡みで王宮に行くことがあったから、宰相である公爵閣下を遠目に見たことがあるし、何よりもデキる男だという噂は腐るほど聞いた。

 正直なところ、陛下は人任せでちょっと頼りない人だけど、それを補うように、閣下がいつも的確な判断をして最適な采配をしてくれるから、かろうじて国がまわっていると誰もが思っている。そのためには冷酷な判断も辞さないとも。


 実際、それが事実なのだろう。

 じゃなければ、この国は終わっていてもおかしくない。


 そんなわけで、俺は、閣下に対しては、厳しくて怖そうな人だな、という印象だった。笑った顔も見たことなかったし。目力すごいし。


 でも、昨日初めて会った閣下は、やっぱり笑わなかったし、厳しい顔をなかなか崩さなかったけれど、公爵夫人やリディア嬢に向ける顔は少しだけ穏やかだったように思う。何よりも、娘のことをすごく心配しているのは伝わってきた。


 それに、突然やってきた俺の話もちゃんと聞いてくれて、本当に公平な人なんだと思った。俺の立ち位置からしたらもっと苦々しく思ってくれてもいいのに、そんな素振りは見せずに、客観的思考で判断してくれていた。


 だから、今の印象としては、厳しい人には違いないが、怖さは薄れている。

 どちらかと言えば憧れさえするほどだ。


 そんな俺とは違って、これまで閣下とは接点がなかったらしい父上はさすがに緊張しているようだ。まあ、顔と噂しか知らなければそうなるのも無理はないか。


 うーん。この打ち合わせ、大丈夫だろうか。

 家族総出で出ていくのも閣下には煩わしいだろうから、父上と俺のふたりだけでの対応にしたのだけど、父上がこの調子だとちょっと心配だ。


「わざわざご足労いただいて申し訳ありません」

「こちらこそ、時間をもらって感謝する」


 無難に始まったけど、やっぱり硬いね。

 だからと言って、俺が緩衝材になれるわけでもなく。

 でも、昨日の御礼は言っていこう。


「閣下、昨日は突然の訪問だったにもかかわらず、ありがとうございました」

「いや、礼を言うのはこちらだ。娘を助けてもらって感謝している」


 あ、やっぱり、リディア嬢のことになると若干穏やかになるんだな。

 いい父親なんだろうなー。


「早速であるが。この度は娘の醜聞に巻き込んで申し訳なかった」


 うわわわわ。閣下、やめてください。伯爵家ごときに頭を下げないで。

 訳の分からない挨拶という体の探り合いとかから始まらなくてよかったけど、だからってそれはだめです。筆頭公爵家当主にして宰相様が簡単に頭を下げていいわけがない。………まあ、簡単ってわけでもないんだろうけど。


「閣下、頭を上げて下さい。今回は、公爵家はむしろ被害者ですから」

「そう言ってもらえるのはありがたいが、巻き添えを食ったのは事実だ。伯にもラディンベル君にも想定していた未来があっただろうに、娘や私が不甲斐ないばかりに迷惑をかけることになってしまった」

「そんなことはありません。確かに突然のことで家族も驚きましたが、息子はもう決めたようですし、話を聞けば聞くほど、今回の決断が一番おさまりがよいのではないでしょうか。それに、不甲斐なかったのは、当家も同じです」


 そうなんだよね。

 俺が王子の学友ってこともあるけど、影の一族として陛下に王子のことを諫言することだってできたはずなのだ。だから、そこまで詫びられると恐縮してしまうからやめてほしい。


 影ということについて、父上は明言は避けているけど、閣下には伝わっているだろう。父上と視線を合わせて、無言の会話をしているように見える。


 ここは、俺は静かにしていよう。きっとオトナのやりとりだ。

 しばらく無言が続いたが、ふと、閣下が俺のほうを向いた。


「昨日我が家で話したことを覆すつもりはないが、再度確認させてほしい。ラディンベル君、本当によかったのだろうか」


 これ、最終確認だよね。

 少し心配を含んだ顔をしてくれているから、試しているっていうよりも、俺の意思を尊重してくれているんだろう。本当に公平でいい人なんだろうな。


「はい。もちろんです。昨日お話したことは本心ですし、家族にも了承してもらえました。昨日のお話の通り、リディア嬢と行くことをお許しください」

「伯も、納得されてるだろうか」

「ええ。息子とは昨日散々話しましたし、送り出す準備もできています。それに、あんなにいいお嬢さんと縁を結べるなど、我が家には恐れ多いことです」

「いや、傷物の娘との縁談となって申し訳ない。グラント家に不利益がないよう、できる限りのことはさせてもらうつもりだ」

「お気遣い感謝します。ですがどうか程々に。我が家はひっそりと動きます故」


 あらま。またオトナのやりとりが始まったようだ。

 でも、ほんと、程々にしてほしいと思う。公爵家に対して程々に、なんて失礼だとは思うけど、閣下に本気出されたら父上も母上も寝込んでしまうだろうから。


 無言のやりとりの後は、今後の両家の対応について打ち合わせたのだけれど、俺は国を出るし、基本的にオトナの話だから、任せることにした。


 あ、リディア嬢の冤罪は、父上も協力して無罪を証明するようだ。

 うちの影からの情報もあるし、閣下と父上なら問題なくできるはず。


 そして、俺たちの婚姻については、閣下が既に提出書類を準備してくれていた。

 貴族間での婚約・婚姻は単に申請すればいいわけではなくて、婚約の場合は家同士の契約と陛下の許可が必要となり、婚姻となると、魔力がないという特殊な場合を除いて、本人の魔力が必要になるのだ。

 だから、てっきり、後日移住先に書類が送られてくるのだと思っていた。

 昨日の今日でここまで準備できるなんて、さすが公爵家。さすが宰相様。


 せっかく準備をしてもらったことだし、父上にも内容を確認してもらってから、俺もサインをして魔力を流した。

 リディア嬢のサインもあったから、これで俺たちは夫婦だ。

 隣国でも嘘偽りなく、夫婦として過ごせるのはありがたい。


 ここまでしなくてもいいのかもしれないけど、既成事実があったほうが何かと便利だしね。リディア嬢と王子の婚約は昨日付で解消しているように閣下が手をまわしてくれるらしい。やっぱり、さすが公爵家。さすが宰相様。


 その後も細々としたことを話していたけれど、ここで、ひとつ、確認したいことを思い出した。


「護衛として、保護にしろ、監視にしろ、報告は必要でしょうか」

「それは、建前だと思っていたのだが、違うのかい?」


 ばれてた。

 その通りなんだけど、俺が護衛につく理由にした限りは、それなりのことをしなくてはならないと思っていたのも本当だ。


「いい理由ができてありがたいが、我が家ではそこまで求めていないよ。うるさい輩もいるだろうが、適当に躱そうと思っていた。伯もそうではないか?」

「ええ、そうですね。……いい機会なのだから、こちらのことは気にせず、自由にやってみなさい」


 え、そこまでばれてるの?

 閣下も頷いているということは、お見通しってことだ。

 うわー。なんか恥ずかしい。


「うちの娘も同じだろうからね。特に報告はいらないが、何か問題が起きたり、困ったことがあったら遠慮なく言ってほしい」

「ありがとうございます」


 リディア嬢も俺も、親に恵まれているなあ。

 なんてしみじみしていたところに、ノックがあって、新しいお茶が出された。

 確かに冷めちゃったしね。

 気を遣ってくれてありがたいけど、どうして母まで来たのかね?

 しかも、若干挙動不審なんだけど。


「お話し中お邪魔して申し訳ありません」

「粗方終わったところだから問題ないが、何かあったのか?」

「あの、先ほどいただいたお品なのですけれど」


 ん?それってお詫びの品のこと?

 昨日、実は、我が家の好みを聞かれていたのだけど、断ることもできず。大層なものを用意されても困るから、適当に、甘いもの、とか答えておいたんだよね。それがまずかっただろうか。


「お気に召さなかっただろうか」

「いえ、そんな!大変人気で入手も難しいお菓子に、家族一同感動しております。ただ、こちらは……」


 そう言った母の手にあったのは、まさかの竜の鱗だった。

 なんで!?


 竜の鱗は、とってもとっても貴重なものだ。

 我が国の守護竜と言われるシェンロン様の鱗は、どうやら定期的に剥がれるらしいのだけど、その剥がれた鱗の中に稀に魔力を溜めることができる鱗があるのだという。属性を問わず、込めた魔力に応じて使うことができるため、大変便利なのだが、稀だけあってなかなか市場に出回らない。


 一体、誰が、いつどのようにして鱗を回収しているのかも謎だが、守護竜を怒らせることはできないので、勝手に盗ってきていることはないはずだ。きっと、担当の人がいて、定期的に回収に行っているのだろう。


 そんな貴重な竜の鱗が目の前にある。

 俺も初めて見た。超感動している。


「あの菓子は日持ちがしないらしくてね。できるだけ長く保存できるように氷の魔力を込めておいたのだが。数日は持つはずだ」


 は?何それ。保冷剤ってこと?

 え?竜の鱗だよ?めちゃくちゃ貴重な鱗だよ?使い方おかしくない?

 父上も母上も唖然としているけど、仕方がないと思う。


「いただいてしまって、本当によろしいので?」

「勿論だ。魔力が切れたら、グラント家で自由に使ってほしい。詫びにも支度金にもならないもので申し訳ないが」


 我に返った父上が確認するも、大したことないように返事されて更に困る。

 いやいやいや。聞けばひとつじゃないみたいだし、むしろ、支度金にしても貰いすぎなんじゃないのか。公爵家おそるべし。


 その後、今日話したことを簡単に再確認して、家族総出で全力で御礼を言ってから王宮に向かうという閣下を見送ったのだが。


 俺、これからリディア嬢を迎えに行って、そのまま国を出るんだけど。

 王宮に行くの?帰ってリディア嬢を見送らなくていいの?

 閣下、最後に反応に困ることばかりするのやめてください。


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