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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第三章 平民ライフ出張編
54/149

52.彼と彼女は視察される。

side ラディンベル

 視察二日目は朝から大忙しだった。


 リディは早朝から昼食と夕食の準備をしていたし。

 俺も、畑や温室の手入れをして、ルドルフ様たちにお泊りいただく部屋を調えなくてはならない。


 特に、昼食は十一人分――公爵とルドルフ様には従者と護衛がひとりずつ付いて来ている――に影の護衛たちのお弁当も必要とあって、リディは大変そうだ。


 ふたりで何とか片付けて。

 一息ついたところで、皆様が我が家に到着した。


「みなさま、ようこそ」

「農作業時の服装のままで申し訳ありません」


 もうね、どうせ温室に行って、いろいろやってるところを見せるわけだし。

 服装だって農作業用でいいんじゃないかと話して、俺はワークパンツだし、リディに至ってはサロペットだ。


「もしや、ラディンベル君やリディア嬢が直々に手入れを?」

「ええ。そうなんですよ。彼らが栽培検証をしてくれました」

「てっきり専門家を雇っているのかと。そこまで手間をかけてもらって申し訳なかったね。ありがとう」

「いえ。我が家には畑もありますから、農作業はいつものことなのです。よろしかったら、畑もご覧になって下さいませ」

「ああ、ぜひ、見せてもらおう」


 そうして、早速ではあるけれど、温室にご案内した。


「温室と言っても、レンダルの気候に合わせましたので温かくはないのですが。こちらで、綿と大蒜と生姜を育てております」

「これは見事な綿だ。他の植物は、昨日食べさせてもらったものだね?」


 リディが魔法を駆使して慎重に成長を速めたから、綿も既にコットンボールができている。精霊の加護なしでここまでできれば御の字だと思う。


「はい。綿は概ね成功しました。昨日、お肉に香りづけしたのがこちらの大蒜です。昨日食べていただいたのも、この温室のものなんですよ」

「昨日の大蒜もそうだったのか。あれなら、売り物としても問題ないね」

「レンダルでどこまで栽培できるか心配だったが、この温室を見て安心したよ」

「そうですね。私たちもしっかり学ばせていただきます」


 レンダルは痩せた土地ばかりだから、そりゃ、心配だったよね。

 でも、魔法や肥料を使って土を作って手をかければこれだけできる。

 正直、俺も驚いたけど、やればできるんだ。

 レンダルにも自信を持ってほしい。


 その後は、失敗したハーブやスパイスの温室も見てもらって。

 公爵たちはどこが失敗なのかわからないと言っていたけれど。

 どれだけ手間がかかって品質も低いのかを説明したら残念がっていた。

 やってもきっと赤字だからね。これは手を出さないのが得策だ。


 うちの畑には結構感動してくれたみたいだった。

 肥沃な土壌と精霊の加護の話をしたら、物凄く羨ましがられて、ちょっと申し訳なかったけれど。


 そうして、温室や畑で一通りの質問を受けて答えられるところだけを答えて。

 ―――技術流出を避けるため、言ってはいけないことは指示されている。


 公爵たちにご満足いただいたところで、昼食となった。


「大蒜と畑のトマト、そして、近くの漁港で採れた魚介類を使ったパスタです。皆さまのお口に合うといいのですけれど」


 今日のお昼はペスカトーレのようだ。


 作り終えていたから出来上がったものをリディがマジックルームから出して。

 皆様に配ったら、グリーンフィールの面々はすぐにフォークを持ったけれど。

 公爵たちは不思議そうな顔をしていた。

 そうだった。レンダルではパスタは珍しいんだった。


 それに思い当って、義父上が食べ方を説明して、やって見せて。

 公爵たちもそれを真似して漸く食べ始めた。


「これもおいしいね。昨日の夕食も素晴らしかった。ここは美食の国なのだな」

「そうですね。何を食べてもおいしくて、本当に羨ましいですよ」


 パスタもなかなか好評のようだ。

 まあ、この国が美食の国というよりも、実際はリディの前世がそうなんだけど。


 皆の食が進んでいて、リディも安心したようだった。

 心配しなくても、リディの料理はいつも美味しいよ。


「大蒜がないとちょっと物足りない味になるんですよ」

「へぇ。裏方食材とは聞いていたけれど、いい仕事をする食材のようだ」


 そうなんだよね。大蒜があるとないでは、結構違う。

 まあ、匂いがね、強烈だから大量には食べれないけど。

 大蒜があると味にパンチが効くよね。


 そんな話をしつつ、畑や温室の話もしていたんだけど。


「あ、そうだ。急な話で申し訳ないのだけど、今日、この件の担当者が相談があるとかで、こちらに来るそうなんだ。少し早めに戻ってもいいだろうか?」


 デュアル侯爵のその言葉で、公爵と義両親たちは、昼食後すぐにサティアス邸に戻ることになった。ルドルフ様たちは予定通りこちらに残るけども。


 そうして、若干慌ただしかったものの、公爵たちを見送って。

 ルドルフ様たちを部屋に案内して寛いでもらっている間にリディに内緒話を。


「よりにもよって、あの護衛がこっちに残るなんてね」

「まさか、あの人がルドルフ様付の護衛だったなんて」

「リディ、絶対に近づいちゃだめだよ」

「それは気を付けるけど、限界があると思うわ」

「かもしれないけど、俺が絶対に守るから。ひとりにならないでね」


 絶対にリディに指一本触れさせないし。

 またわけわからないこと言い始めたら、今度は黙らせてやる。


 そう決意を固めていたら、ルドルフ様たちが戻ってきて。

 この邸の設備にも感心してくれて。

 この国の水環境や魔道具についての説明をしたらもっと感心してくれた。


「ああ、そうだ。もう一度、温室を見せてくれないか」


 そして、雑談の流れでそう言われたから。

 俺たちが温室を見ている間に、リディは夕食を作ることになって。


 これで護衛とリディを引き離せるとちょっと安心したのも束の間。

 温室に向かう途中で、護衛が聞き捨てならないことを言い始めた。


「ルドルフ様。やはり、あちらの邸に戻るべきです。使用人もいないうえに、あの女が食事を作るだなんて、ふざけています」


 あの女だと?

 ふざけてるのはお前だ。


「ラス、いい加減にしろ。お前は何をしに来たのかまだわかってないのか?」

「ルドルフ様は公爵家のお方なのです。こんな平民の、狭い邸に押し込まれていいわけがありません」


 ここにリディがいなくて本当に良かった。

 俺、ブチ切れてもいいよね?


 そう思いながら振り向いたら。

 視線の先に思わぬ人がいて、俺的にちょっと時が止まった。


「それは申し訳なかったね」


 幻かとも思ったけど、この声で確定だ。

 え、ほんと、なんでここにいるわけ?


「殿下………?」


 なんて驚いている場合じゃないんだよね。

 急いで礼を取ろうとしたら、止められた。


「ああ、いいよ。ラディンベル、楽にして」


 俺の殿下発言で、ルドルフ様たちが固まってるのがわかる。

 そんなルドルフ様に殿下が向き合って。


「ルドルフ殿とお見受けする。急に訪ねてすまない。私は、この国の王太子のクリスと言う。レンダルの件の担当でね、さっきまでサティアス邸でランクルム公爵と話をしていたんだが、ご子息はこちらだと聞いて挨拶に伺った次第だ」

「は、……。お初に、お目にかかります。レンダル王国ランクルム公爵が嫡男、ルドルフと申します。ご丁寧にありがとうございます」

「公式な場じゃないから貴方も楽にして」


 ルドルフ様はきっと頭が真っ白だろうけど、なんとか礼を取ろうとしていた。

 それも止めて、殿下は今度はあの護衛の方を向いた。


「この邸は、リディアの功績に対して陛下が下賜したものなんだ。この大きさになったのには様々な理由があるけれど、用意したのは我が王家だからね。苦情ならば王家に言ってくれないか」


 うわー。その話はキツイ。

 ルドルフ様、顔が青通り越して白くなってるけど。


 護衛は震えてる、かな?

 畏れもあるだろうけど、嫌悪が滲んでるから救いようがないね。


「それに、リディアの料理の腕前は王宮の料理人も認めるほどなんだけどね。そんな料理でもご満足いただけないようで残念だよ」

「とんでもありません!数々の失言、誠に申し訳ございません!」

「いや、ルドルフ殿からの謝罪も、私への謝罪も不要だよ」

「いえ、そういうわけには参りません」


 あー、ルドルフ様、地に頭が着きそうだな。

 それなのに、どうして護衛は直立不動のままなのか。


「君も大変だね。……………精霊王」

「なんだ?」


 ダズル様もいらしてたんですね。

 よく見たら側近の方も来ていた。


「彼らをサティアス邸までお連れしてくれ」

「……っ!」


 ルドルフ様が頭を下げたまま震えた。


「せっかく我が国まで来て頂いたんだ。ご不満があっては申し訳ないからね」

「相分かった。すぐに運んでいいのか?」


 え、それはちょっと待って。


「殿下、お待ちください!もし、向こうに行くにしても、荷物もありますし!」

「ああそうか。じゃあ、荷物をまとめてもらう間にリディアに説明しておこう」


 そう言って、殿下はすたすたとリディの元に行ってしまって。

 残された俺たちは途方に暮れた。

 俺、完全に、殿下に言う言葉を間違えたよね。


「ルドルフ様。すみません、殿下を止められなくて」

「いや、落ち度はこちらにある。というか、これはもう決定だろうか?」

「殿下はそのつもりかと」

「………どう詫びればいいんだ。どうしたら国が残る?」


 ルドルフ様がぶつぶつと物騒なこと言ってるけど。

 きっと、そこまでは酷いことにはならないと思う。


 結局、俺たちに抵抗なんてできるわけもなく。

 殿下の意向通り、ルドルフ様たちはサティアス邸に強制連行された。


「思いのほか楽にあの不快な者を追い出せたな」

「え?」

「………もしかして、そのために来てくださったのですか?」

「ルイスから話を聞いてね。どうやって追い出そうかと思ってたんだが、まさか自爆するとは思わなかったよ」

「「…………………」」


 俺たちが言葉をなくしていると、側近の方から補足が。


「本当にランクルム公爵に相談があったんですよ。そのためだけではないので、どうかご安心ください」

「そうだよ。綿を栽培してもらうだろう?その件で、あっちで紡績や機織りもしてしまったらどうかという話になってね。畑に近い場所に工場を建てられないか相談しに来たんだ。もちろん、こちらで管理するし、地代も払うよ」


 なるほど。

 そうできるなら、そのほうがいいよね。

 公爵も前向きに検討してくれるというから、このまま進みそうかな?


 そうして、工場の詳細なんかを聞いていたら、ダズル様が戻ってきた。

 デュアル侯爵からの『殿下のおもてなし、よろしくね』という言葉と共に。


 それを聞いたら、もう俺たちに選択肢はない。


 ただ、今日の夕食はかなり庶民的な料理らしくて。

 リディが申し訳なさそうにそのことを伝えたら、殿下はむしろ喜んだから。

 俺たちは急いで準備をした。


 んだけど。


「では!第一回!餃子パーティーを!始めます!!」


 リディがよくわからないテンションで仕切り始めて。

 俺たちはその勢いに圧倒されて。

 リディに勧められるがままに、その餃子とやらを食べてみた。


 結果。俺たちは、餃子に嵌まった。


「リディア。エールはないのか?」

「ありますよ!やっぱり、そうなりますよね!」

「リディ、ごめん。またなくなりそう」

「はーい!がんがん焼きますから!!」


 殿下にかなり気安くなってしまっているけれど、殿下もその方がいいらしく。

 俺たちは無礼講で餃子パーティーを楽しんで。

 そして、殿下たちが帰られた後、反省をした。


 ルドルフ様、すみません。

 フォローもせずに、餃子に夢中になってしまいました……。


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