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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第三章 平民ライフ出張編
53/149

51.彼女と彼は出迎える。

side リディア

 料理ばかりしてるけど、お弁当屋さんは休職状態なのよね。


 お弁当屋さんをシフト制に変えて。

 その変更がスムーズにいったのはよかったのだけど。

 それに安心して他の仕事を入れたら、あまりお弁当屋さんに行くことができなくなってしまった。これは想定外だわ。


 というか。

 サナちゃんたちにもバカップルだと思われていたのには驚いたわよね。


 後からこっそりと聞いたら。

 お揃いの結婚指輪がそう思わせているようなのだけど。

 そう言われれば、確かに、この世界ではお揃いとかペアとかのものを身に着けている人は見ないかもしれない。


 でも、この指輪は外せないから。

 これは開き直るしかないかしら。

 後は、やっぱり、手をつなぐのはやめたほうがいいかしら?


 なんてことを考えたりはしていたけれど。

 実際のところ、今は、そんなことよりも目の前のことに必死だ。


 やっぱり、公爵様をお迎えするのって大変だわ。

 特にサティアス邸は、魔道具があるから使用人はいるとは言っても少数だし。

 それにわたしたち家族は堅苦しいのが苦手だから、基本的に色々と緩いのだ。


 ということで。

 お母様は使用人たちの教育に明け暮れて。

 わたしは厨房に籠って、料理長と打ち合わせに調理実習の毎日だ。


 今回は、栽培予定の大蒜と生姜を使った料理をお出しする予定なのだけど。


 庶民的な料理だし、匂いがきつかったりするから、改良が必要だったり。

 作ったことがなかった料理もあるから、イチから教えたり。

 盛り付け方も試行錯誤して。

 なんだかものすごく時間がかかっているのだ。


 おかげでお料理ばかりしてるけど、お弁当屋さんには行けてない。

 その分、お料理でストレス発散してしまって。

 お肉のミンチなんか風魔法も使わずに張り切って包丁で切り刻んでいるわ。


 わたしが、そんな、一歩間違えれば刃物を持ったヤバい奴に化していた頃。

 ラディはと言えば、お父様やルイス伯父様と日々打ち合わせしていた。


 ラディは、ルドルフ様の担当だしね。

 確認することが多いのかもしれない。


 そうしてお互いに忙しくしていたら。

 あっという間にランクルム公爵御一行様を迎える日になった。


 今日はさすがにラフな格好はできないから、わたしはドレス風ワンピース。

 ラディは三つ揃えのスーツだ。

 濃紺の細身スーツはラディによく似合ってる。


 公爵家御一行は、予定通りにご到着されたから。

 公爵閣下たちが馬車から降りてきたところで。

 ルイス伯父様を筆頭に両親とわたしたちで礼を取って迎えたのだけど。


「なっ!頭を上げてください。どうか、普段通り、楽にしてください」


 という、焦った公爵閣下の声が下りてきた。

 あらま。相変わらず、腰の低い方だわ。


 お父様たちもそう思ったようで苦笑しながら公爵のお言葉に甘えて。

 玄関前だから、簡単に挨拶をして。

 ドミニク様の件を再度謝罪されて。

 お邸に迎えようと誘導したのだけれど、ここでストップがかかった。


「邸に入る前に、ひとつ伺いたい」


 誰かと思ったら、ふたりいる護衛の片割れの方からの質問のようだ。


「ラス。後にしてくれないか」

「いや、構いませんよ。何でしょうか?」


 ルドルフ様が護衛を窘めたものの、伯父様はここで解決する気らしい。


「この邸には門番どころか、護衛の姿も見えない。公爵家を迎えるというのに、このような杜撰な警備体制とはいかがなものか。すぐに対応していただきたい」

「ラス、口を慎め」

「いえ、こちらも説明不足で失礼いたしました。警備につきましては、まず、この邸には強力な結界が張られています」

「結界?」

「ええ。邸の主が招き入れるか許可していないと敷地内には入ることができません。精霊王様の力作ですから、破れる者はいないと言ってもいいと思います」


 そうなのよね。

 サティアス邸にも、我が家と同じ結界が張られている。

 商会も敷地内にあって機密情報とかも保管してるから結界を強化したのだ。


「精霊王の……、それはすごいですね」

「本当に。こんな結界、この邸とリディアの邸にしかありません。それに、結界に加えて精霊たちも守っていますから、侵入は難しいはずです」

「精霊ごときが守れると?」


 なんだと?

 相変わらず、レンダル人は精霊を見下しすぎだ。


「お言葉ですが、姿の見えない精霊からの魔法攻撃を防ぐのは至難の業ですよ」

「そうですね。お恥ずかしながら、グラント家の面々も惨敗しました」


 伯父様が表情を消して答えれば、ラディも援護をしてくれた。


 そういえば、そうだったわ。

 この前、グラント家の皆さんがいらした時に精霊と手合わせしたのよね。

 残念ながら、精霊たちにいいように遊ばれてしまってたわ。


「グラント家の精鋭が……?」

「そう言っていただけるのは光栄ですが、我が家は剣一辺倒ですので。どこから来るかもわからない魔法攻撃には太刀打ちできませんでした」

「武家であるグラント家でそうなのであれば、我々ならばもっと敵わないだろう。精霊とは素晴らしい護衛ですね。ラス、いい加減に失礼なことを言うのはやめたまえ」


 まったくだわ。

 そう思って護衛を見たら、物凄く憮然とした顔をしていた。

 この人、どうにも失礼過ぎない?


「それと、ルドルフ殿はお気づきかもしれませんが」

「ええ。影の護衛を付けてくださっているのですね。ありがとうございます」

「こちらの勝手な判断で恐縮なのですが、表立った護衛も煩わしいかと思いましてこのような形にいたしました。姿を出したほうがいいでしょうか?」

「いえ。そのままで結構です。過分なご配慮をいただき、こちらこそ恐縮です」

「そうですか。では、このまま警護を続けますね。……ラス殿。何か足りない点はあるだろうか?」

「……………いえ」


 え、それだけ?

 しかも納得いかない顔してるけど。


 っていうか、あの護衛、ちらちら、わたしのこと睨んでくるのよね。

 わたし、今の話に入ってないのに。

 ラディもそれに気づいてあの人からわたしを隠そうとしてくれてる。

 一体、何だって言うのかしら。


「ラス!………申し訳ありません。後で言って聞かせますので」

「お構いなく。事前に説明しておけばよかったですね。仕事熱心で何よりです」


 伯父様は笑ってそう答えたけど、目が笑ってない。


 もう一人の護衛さんがラスって護衛に何か言ってるけど無視されてるし。

 ほんと、態度が悪い人ね。どうしてこんな人を連れてきたのかしら。


「では、そろそろ邸に入りましょう」


 護衛の様子を見てこれ以上はもう埒が明かないと判断したのか、お父様がそう促して公爵たちを中に引き入れていたのだけど。

 伯父様はわたしたちのほうに向かってきた。


「リディア、知り合い?」

「うーん…、わたしは全く見覚えが……」

「レンダルで拉致された時のドミニクの護衛です。リディが倒した相手ですね」


 え、そうだったの?

 あの時は咄嗟に魔法で撃退して、その後は顔なんて見なかった。


「そういうことか。公爵は謝罪させようとでも思ったんだろうか」

「本人、全くその気はなさそうですね」

「だね。リディア、あの護衛には近づかないように。ラディンの側を離れちゃだめだよ。ラディンも気を付けて」

「「はい」」


 これは、なかなかに厄介ね。

 これ以上この視察で問題が起きないことを祈るのみだわ。


 そして、邸に入った後はまずはお茶をして長旅を労って。

 改めて、自己紹介や雑談なんかをしたんだけど。

 あの護衛からの視線が気になりつつも、無視してやり過ごした。


「じゃあそろそろ、今回の視察のことを話そうか」

「ああ、そうだね。オスカー殿もルドルフ殿も到着早々申し訳ない」

「いや、それはこちらの方だよ、アーロン」


 先の雑談で、伯父様もすっかり言葉がいつも通りになって。

 お父様と公爵はレンダルにいた頃のように名前で呼び合っていた。


「セバス。用意していたものを持ってきてくれるかい?」


 あら?お父様ってば、何を用意していたのかしら。

 なんて思って見ていたら、公爵とルドルフ様の前に、ノートとメモ帳と三色ボールペン、そして、ラッピングされた箱が置かれた。


「これは……?」

「その箱の中には、万年筆という、インクが装備されたペンが入っているんだ。ちょっとデザインが違うが、これと同じものだよ」


 お父様がそう言って。

 スーツのジャケットの内ポケットから、お父様愛用の万年筆を取り出した。


 なるほど。

 ラディのお父様もすごく喜んでいたし、プレゼントには打ってつけね。


「公爵閣下の歓迎には不十分なもので申し訳ない。友好の証として受け取っていただければうれしいのだけど」


 うわー。伯父様、警備の件で難癖付けられたの、根に持ってる。

 公爵もルドルフ様も、一瞬、苦い顔をしたわ。


 思わずあの護衛のほうをちらっと見たけど、逆に睨まれた。

 もう、あいつ、本当に何なの。


「いや、とんでもない!こんな便利なものをわざわざ用意していただいて、こちらこそ申し訳ない。ありがたく使わせていただくよ。それに、この紙の冊子も素晴らしいね。こんなに薄くて滑らかな紙は初めて見たよ」

「手前どもの物で恐縮だがね。あと、そのもうひとつのペンも、インクが組み込まれていて色も付いているから、よかったら使ってくれ」

「これも大変便利ですね。いろいろとお気遣い頂き、ありがとうございます」


 護衛は無視ね、無視。

 公爵たちは喜んでくれたし、こっちはいい雰囲気なんだから。


「早速だけど、今回の視察案を確認してもらえるかな」

「ああ、本当に何から何まで申し訳ない。ありがとう」


 伯父様が今回のスケジュール案が書かれた紙を配ったら。

 公爵が感激して御礼を言ってくれた。


 それにしても、印刷機が間に合ってよかったわ。

 おかげで何枚も書かずに済んだ。

 できればパソコンも欲しいところだけど、それはまだまだ先ね。

 しばらくは手書きか活字だけど、印刷できるだけでも違うから。

 パソコンは我慢よ。


 そんなことを考えているうちにも話は進んでいた。


 今回の視察は五日間の予定で。

 今日はこの打ち合わせの後はゆっくりしてもらって。

 二日目は、我が家の温室と畑の見学。

 三日目は、商会の店舗に行って商品を見てもらう予定だ。

 栽培する綿を使った商品が多いから参考にしてもらえると思う。

 四日目は、商会の工場見学。見せられる範囲で、だけど。

 最終日は、せっかくだから王都にご案内。

 あらゆるものが集まる王都なら、ヒントもあるかもしれないし。

 王都は北にあるから、レンダルにも近くてお帰りも楽なはずだ。


 そのスケジュールには、無事、ご納得いただいて。

 公爵とルドルフ様は、各々見て意見を持ち寄りたいとのことで別行動になり。

 明日の温室見学のあとは、公爵はサティアス邸に戻り、ルドルフ様は我が家に残ることになった。


 それは想定済みだから、後は、わたしたちががんばるのみね。


 そうして、話がまとまったところで、お部屋にご案内したら。

 魔道具や設備に驚かれて感動されて。

 お夕食も、みなさん美味しく食べてくださって一安心。


 ちなみに、今回のディナーはフレンチコース。

 前菜の盛り合わせにビスクスープに白身魚のレモンソースがけ。

 メインはガーリックステーキにしたわ。


 貴族向けならばもっと上品なメインのほうがいいのだろうけど。

 わかりやすく大蒜を使うとなれば、一度は作るべきよね。

 それに、特に男性は好きだと思うの。


 結果、公爵家御一行様たちは皆すごく喜んでくれて。

 大蒜栽培への気合も入ったようだった。よかったわ。


 よし。これで、今日のミッションは終了。

 明日の準備もあるし、わたしとラディはお暇しましょう。


「では、明日、温室でお待ちしていますね」


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