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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
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48.彼は決意し、彼女は。

side ラディンベル

 俺は今、人生で一番緊張している。


 レンダルから家族が来て。

 何かと思えば、業務用冷蔵庫と水道の設置を依頼されて。

 ともにイレギュラー対応だけど、急いではいないということだから。

 リディと商会のみんなの協力を得て少しずつ進めている。


 とはいえ、言ってしまえばイレギュラー対応なんていつものことで。

 商会の仕事とお弁当屋さんのほうもすっかりとルーティンが決まってきて。

 俺とリディが目指した生活もようやく軌道に乗ったところだ。


 俺たちが手に入れた生活は。

 誰かに縛られることもなく、自由に、自分の意志で動ける生活で。

 そんな理想とも言える生活を手に入れたけれど。

 それでも、俺には、まだできてないことがある。


 …………結構前なんだよね、リディに告白しようって決めたのは。


 それなのに、俺はいつまで経っても行動できていない。

 いや、まあ、仕事がね?忙しかったりね?

 レンダルの王子からよくわからない命令を受けたりね?

 実家に帰ってたりしてたしね?

 それに、毎度、リディの思い付きが絶好調だったりしてね?

 いろんなことがあって、それどころじゃなかったんだけど。


 でも、そんなのは全部言い訳だ。

 単に、自分が臆病だっただけで、いつだってチャンスはあった。


 それに、自惚れが強いのもわかってるけど。

 リディとはかなりいい雰囲気だと思うんだ。

 そんな現状にかまけて。

 今の空気を壊したくなくて逃げていたけれど。


 これからも今の状態のまま、っていうのはね。

 やっぱりよくないよね。


 いくらいい雰囲気だからって俺たちが仮夫婦であることには変わりない。

 書類上はね、夫婦だけどね、俺たちはまだ仮夫婦の延長線上にいるから。


 俺は、そこから抜け出したい。

 ちゃんと夫婦になりたいのだ。


 ということで、俺、決意しました。

 俺なりにこっそり準備してました。


 ―――――そして、今日。


 俺は、リディを前に覚悟を持って挑んでいる。


 リディはいつもと違う雰囲気の俺にちょっと怯んでいるっぽいけど。

 怖がらせてたら逆効果だけど、残念ながら、俺はかなり必死なのだ。

 これを途中でやめたら。もし止められたりしたら。

 このばくばくいってる心臓も止まるかもしれない。


 だから、リディには申し訳ない、けれど。

 この勢いのままいかせてもらおうと思う。


 俺は決意を新たに深く息を吸って吐いて。

 リディの前に跪いて。


「俺と、結婚してください」


 決死の覚悟でそう言った。

 今日のために準備していた指輪を、捧げて。


 ……………そうして、そのまま数分経った。


 え、どうしよう。

 跪いて捧げているからリディの表情は見えないけれど。

 言った瞬間、リディが息を呑んだことはわかった。

 でも、何も言ってもらえない。


 俺は、今、人生で一番緊張しているし、動くこともままならない状態だ。

 このまま、永遠に時が止まっちゃうんじゃないかな、と思ったところで。


 ふと。いや、俺たち、結婚はしてるんだよね?と今更自分に突っ込んだ。

 あれ?言葉、間違えた?


「あ、いや、その、結婚はしてるけど、俺たちは仮夫婦で。でも、俺はリディが好きだから、ちゃんと結婚したい、っていうか、それで、あの、」


 うわー、俺、何言ってるの。超格好悪くない?

 え、こんなはずじゃなかったんだけど。

 でも、全然、いい言葉が思いつかない。え、本当にどうしよう。


 内心は焦りながらも、身体は固まったままで。

 結構、俺的に収拾がつかなくなった頃。

 指輪を捧げていた俺の手が、あたたかいリディの手に包まれた。


「はい。よろこんで」


 ………………………………え?

 今、リディ、なんて言ったの?

 よろこんでって言ってくれた?

 俺の今更のプロポーズ受けてくれたってこと?


「ラディ、顔を上げて」


 正直、俺は、今、情けない顔をしていると思う。

 あんな格好悪いプロポーズになっちゃったから。

 ちょっと、じゃなくて大分恥ずかしいんだよね。

 だからおずおずと顔をあげるしかなかったんだけど。


「すごく、うれしい。ラディ、ありがとう。わたしも大好きよ」


 目の前にめちゃくちゃかわいい笑顔のリディがいて。


 そんなこと言われたら、我慢なんてできるわけない。

 俺は、指輪を握りしめたまま、リディを思いっきり抱きしめた。


 ………けど、リディの呻き声で我に返って。

 すぐに腕を緩めたんだけどね。

 どうやら気持ちが高ぶって、強く抱きしめすぎたみたいだ。


 できれば、そのまま、ずっと腕に囲っていたかったけれど。


「指輪、よく見せて」


 と言われたら、そうもいかなくて。

 一旦、離れて。もう一度、指輪を捧げた。


「すごくきれいな指輪。こんなの、いつ用意してたの?」

「一ヶ月くらい前からかな?なかなかうまくできなくて時間かかっちゃった」

「え、ラディが作ってくれたの?」

「うん。あんまりうまくなくてごめんね?」

「そんなことないわ。お店のお品だと思ったわよ?」


 そう言ってもらえて一安心だ。


 というのも、実は―――――。


 数ヶ月前に、商会のメンバーの結婚話があったのだ。

 それを聞いたリディが、ウェディングケーキは任せて!と張り切っていて。


 どうやら、異世界の結婚式というのはそれはそれはすごいみたいで。

 ケーキはタワーみたいに数段重ねになっていて。

 結婚披露パーティーで、新郎新婦がそのケーキにナイフを入れるらしく。

 夫婦の初の共同作業なのよ!って言っていたけれど。

 いや、その前にもふたりで何かしたりするんじゃないかと思ったのは内緒だ。


 それ以外にも、いろんなことをやるらしくて。

 新郎新婦がゴンドラとかいう乗り物に乗って登場したり。

 過去の思い出をみんなの前で披露させられたり。

 両親に感謝の手紙を送ったり。


 なんだか、すごく派手で豪華なパーティーをするんだと聞いた。


 その時に、結婚指輪の話も聞いたのだ。

 婚姻の誓いのときにおそろいの指輪を交換するらしくて。

 それを、お互いにつけて一生共に歩んでいくそうなのだ。


 こっちの世界でだって、結婚の記念になる贈り物をすることはあるけれど。

 指輪って決まってるわけでもなく、ずっと身に着けるものだとも限らない。


 俺も告白にあたって。

 何かプレゼントしようとは思っていて悩んでいたところではあったから。

 そんな時にこんな話を聞いてしまったら。


 おそろいの指輪を一生。


 それは、いいんじゃないかなって。

 かなり、いいんじゃないかなって思ったんだ。


 それで、単なる興味を装って。

 どんな指輪か聞いたんだけど、すごくシンプルな指輪っぽかったんだよね。

 こっちでは、指輪と言えば、宝石が付いたゴテゴテしたものが多くて。

 シンプルなものって、下手したらお金がない人みたいに見られちゃうから、人気がなくてほとんど売られていないくらいで。


 でも、ずっとつけてる指輪って聞いたら。

 俺だってシンプルなほうがいいと思うし。

 そもそも、俺たちの趣味的にもゴテゴテしたのは避けたい。


 ということで、また、単なる興味を装って。

 リディが好きそうなデザインを聞き出して。

 それをオーダーしようとも思ったんだけど。

 お店の人は、あまりいい顔をしないんだろうな、って予想もついたから。

 せっかくだから作ろうと思って。


 で、こっそり材料を入手して。

 自分の部屋で、夜な夜な作ってたんだよね。

 自分だけじゃうまくできなくて、精霊にも手伝ってもらったけど。


 それでも何度も何度も作り直して、やっと出来たんだ。

 俺としては渾身の作だけど、それをリディが気に入るかは別だからね。


 渡すまではすごく心配してたんだけど。

 どうやら、気に入ってもらえたみたいですごくうれしい。


「ラディ、ありがとう。本当に素敵な指輪」

「よかった。気に入って貰えて。今日に間に合わないかと思って焦ってたんだ」

「今日?何かあった?」


 あー、やっぱり、リディは覚えてないか。

 というか、セットで付いてくる思い出がいらないからね。

 忘れてくれていていいんだけど。


「一年前の今日だよ。リディが俺にプロポーズしてくれたのは」


 そうなのだ。

 あの卒業パーティーはちょうど一年前の今日だったのだ。

 俺たちが初めて話して。

 そして、リディがプロポーズしてくれた日。


 あのときは、お互いに打算的だったけどね。

 でも、今となれば、あれがなければこうして一緒にいなかったわけで。

 王子たちの暴走には迷惑したけれど、それがあって、今がある。

 だから、俺としては、実は感謝していなくもない。


 とはいえ、リディとしては決していい記憶ではないと思うから。

 できれば俺が上書きしたかったし。

 それに、やっぱり、俺からプロポーズしたかった。


「……そっか。あれから、一年経ったのね」

「うん」

「ラディ、一緒に来てくれてありがとうね。わたし、今、幸せよ」

「それは俺の台詞。あの時、俺を護衛にしてくれて、ありがとう」


 そう言って、ほほえみ合って。

 俺たちは初めてのキスをした。


 ………………………んだけど。


 リディが、甘い雰囲気をぶち壊すようにばっと俺から離れて。

 結婚記念日のお祝いをする!と言って。

 妙に張り切りって畑に出て。料理をし始めた。


 俺としては、もう少しリディを堪能したかったんだけど。

 そんなリディを止めることなんてできなくて。

 俺も料理を手伝うことしかできなかったんだよね。


 でも、照れてるリディがかわいかったから、まあ、いいか。

 真っ赤なリディって、貴重だしね。


 そうして、ものすごく短時間に俺の好物を大量に作ってくれた後は。

 お酒を飲みながら、自前のお祝いをしたんだけど。


 俺は、ちょっと気になっていたことを聞いてみた。


「指輪って婚約するときにも渡すんだよね?」

「そうよ。婚約指輪は、結婚指輪よりも高価で宝石とかついてるの」

「それは、結婚したあとはどうするの?」

「え、大切にするわよ?」

「じゃなくて。嵌めないの?」

「……嵌める人もいるけど、大抵は結婚指輪しかしないんじゃないかしら」


 それなのに、高価なもの渡すのか。

 異世界の文化って難しいね。


「そうなんだ……。でも、給金の三ヶ月分もかけるんでしょ?」

「そうしなきゃいけないわけじゃなかったけど、そう言われていたわ」

「それなのに、あんまり嵌めてもらえないなんて、ちょっと寂しいね」

「あー、万が一の時の換金用みたいなとこもあるから」


 は?換金用?

 男が気合見せるところじゃなくて、もしもの保険?

 まあ、確かにね、病気や事故に遭ったり何かが起きることもあるし。

 最悪、婚約が解消になっても、慰謝料の変わりになるかもしれない。


 なるほど。かなり現実的だけど、納得できる話だね。

 でも、それならば。


「じゃあ、俺も、用意、」

「しなくていいからね?」


 俺の言葉をぶった切られた。

 でも、そういうことなら、高価なのもわかるし。

 あったほうがいいんじゃないかな?


「そもそも、わたしたち、婚約はしてなかったわ」

「そうだけど。そういう理由なら」

「それだけが理由じゃないのよ。むしろ、そんな意味はほぼ廃れてるし。そういう意味より、愛情を示す意味のほうが大きいから」

「なら余計に」

「いりません」

「でも」

「もういっぱいもらってるから!大丈夫なの!」


 え、それって愛情のことって思っていいのかな?

 ちょっと照れるけど。


 でも、せっかくだから、と婚約指輪の攻防をつづけた結果。

 リディが、それよりも、温室が欲しい、と言い出したから。

 今回は見送ることにした。


 けれど。こっそりと。

 婚約指輪に代わるような何かを用意しておくつもりだ。



 ――――そうして、リディとちゃんとした夫婦になれて。

 俺が本当に理想とする生活が手に入ってからは。

 なんてことない時間だって特別に思えるからすごいよね。


 仕事も順調で、リディもかわいい。

 俺は、本当に幸せ者だ。


 手に入れた幸せは、想像以上に大きなものだったから。

 抱えきれないほどだけど。

 ほんの少しも逃すことなく大切にしていきたいと思う。


 これからも、リディの笑顔がたくさん見れますように。


 このお話で第二章終了となります。

 ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございます。


 第三章では新しい登場人物も出そうと思っています。

 よろしければ、引き続き、お付き合いくださいませ。

 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。



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