44.彼と彼女は開店する。
side ラディンベル
ふたりの残念な王子の件が片付いた。
どうしてかリディは残念な王子たちと縁があって。
巻き込まれてばかりいたけれど、これで漸く心配がなくなったかな。
やっと安心できるね。
……あ、ふたりの残念な王子、とまとめてしまうと、グリーンフィールのアラン第二王子が可哀そうか。残念加減で言えば、レンダルのハインリヒ第一王子のほうが比べるまでもなく酷かったからね。
アラン王子がリディに付きまとっていた理由には驚いたけれど。
まあ、わからなくもないんだよね。
聞けば、アラン王子はちゃんと努力していたようだから。
認められたい、なんて、普通の感情だと思う。
今回はやり方を間違えてしまったけど、まだ十四歳ということだし。
これから挽回するチャンスはいくらでもあるはずだ。
もうリディに突撃しないなら、応援したいとは思う。
王子に対して上から目線ではあるけど、迷惑をかけられたのは事実だからこれくらい許してほしい。
ハインリヒ王子のほうは、二国間の問題にまで発展してしまったけれど。
陛下がリディの提案を受けてくれたからレンダルが生き残る道ができた。
カイン陛下は、やっぱり、なんだかんだ優しいよね。
俺たちがレンダル出身だとか、リディが外交再開をお願いしていたこととか。
そういうことも考えてくれての処遇だったと思う。
もちろん、グリーンフィールにかなり有利な条件を付けているだろうから。
レンダルにとっては厳しい条件もあると思う。
それに、唯一他国に誇れる加工技術を安く提供するとなれば痛手も大きい。
でも、やり方次第では、今よりも発展することだってできるはずだ。
そういう道を作ってくれた陛下には、感謝しかないよね。
―――今回は、本当にリディの知識に助けられたと思う。
きっとレンコンじゃこうはいかなかった。
ただ、提案してしまったせいで、リディは今、すごく忙しいけれど。
レンダルに綿やハーブを安く育ててもらう。
簡単に言えばこういう話だけれど、問題があるんだよね。
レンダルの土地は痩せているから植物が育ちにくいのだ。
いつもなら、ここでリディの知識が活躍するところなんだけどね。
畑をやり始めたときも。
リディはそこまで畑仕事の知識はなかった覚えがある。
でも、肥料と魔法と精霊のおかげで、うちの畑は成功しているから。
その経験を書き出して、まとめてはいるけれど。
リディ的にはもう少し確実な策が欲しそうなんだよね。
それで、苗や種を売るお店や農家に相談に行ったりもしていて。
かなり飛び回っていて、外出も増えている。
もちろん、俺も護衛で付いていってるけど。
おまけに、レンダルの土を取り寄せることにしたみたいで。
その土が届いたら検証を始めるんだそうだ。
リディは俺たちのことを仕事が好きすぎ、ってよく言うけど。
リディも負けず劣らず、仕事が好きだと思うよ?
そんなことをしているから、確かに忙しいのだけれど。
実は、お弁当屋さんのほうだってちゃんと進めていた。
お店の内装や外観・看板も完成して。
レシピの書き起こしも完了して。
デュアル侯爵領の店舗の料理人さんたちに調理指導して。
各店舗の売り子さんを商会やギルドに紹介してもらった。
着々と準備を進めていたのだ。
――――そして、今日。
遂にランドルにお弁当屋さんがオープンする。
ギルドの裏通りだけど、元々こぢんまりやる予定だったから問題ない。
それに、販売数限定・売り切れ次第閉店予定のお店だ。
だから、そんなに目立つところにある必要もないんだよね。
お店はガラス張りだから、外からも中の様子が見えるし、逆もしかり。
マルコさんやバルスさんが宣伝してくれたみたいで、ギルド職員や冒険者らしき人たちが中を伺っているのが見えた。
お昼時にはまだ早い時間。
冒険者はわかるにしても、ギルド職員も時間に融通が利くようだ。
「リディ、おめでとう。ようやく開店できたね」
「ラディ、ありがとう。ラディもおめでとうね。思ってたよりも時間がかかっちゃったけど、明るいいい店舗が出来てうれしいわ」
うん。本当に。
魔道具店オープンのあとは、そう間を置かずにお弁当屋さんも開店できると思ってたんだけど。
リディが港町の食品加工事業を提案したり。
レンダルの案件に巻き込まれたりして。
予定よりもかなり遅いオープンとなってしまった。
でも、リディが言う通り、明るくて、そして、清潔で。
何よりも並べられているお弁当が美味しそうだからね。
みんなが笑顔になるお店になったと思う。
お弁当はガラスケースに入っていて、温度管理がされている。
これなら、どんなお弁当があるのか、とか、後どのくらい残っているのかがわかるからいいよね。
販売するお弁当とスープは。
出店交渉時に試食してもらったものは、すべて販売決定となって。
ローストビーフサンドと炊き込みご飯のおにぎりが追加となった。
もちろん保温水筒も販売する。ギルドや商会の店舗でも買えるけどね。
そして、みんなから懇願されたハンバーガー。
これは、なんと、出来立てを提供することになったんだよね。
オーダーを受けてから、鉄板でハンバーグを焼いて、パンも炙って、その場で具を挟んで出すんだって。
俺はサンドウィッチみたいに作り置きでもいいと思ったんだけど。
リディが、温かいほうが美味しい、って言い始めて。
限定二十食にして、正午から作りたてを販売することになった。
数量と販売時間を制限すれば、何とかできるんじゃないかという判断だけどね。
これでうまくいくといいな。
「そろそろ開店しましょうか。サナちゃん、カレンちゃん、よろしくね」
「「はーい!」」
サナちゃんはギルドから、カレンちゃんは商会から紹介された売り子さん。
ふたりとも俺たちよりも年下だけどしっかりしていて、明るく元気ないい子たちだ。会計のための計算もすぐに覚えてくれて助かっている。
「いらっしゃいませー」
お店の扉を開けたら中を伺っていた人たちが早速入ってきてくれて。
お弁当を見て、不思議そうな顔をしたり驚いたりしていた。
確かに、見慣れないものが多いかもしれないね。
「嬢ちゃん、坊。開店おめでとうな。カツサンドとおにぎり全種類。それとおかずセットとコンソメスープをくれや」
どれを買おうか悩んで、ガラスケースの前に集まっているお客さんの後ろからひょっこり顔を出したのはマルコさんだった。
「マルコさん!早速ありがとうございます」
「それにしても食べすぎじゃないですか?」
ハンバーガーの販売までには、まだ時間があるから。
俺たちも売り子さんと一緒に売り場にいたんだけど。
さすがにマルコさんの購入量は尋常じゃないから思わず突っ込んでしまった。
ありがたいんだけどね。
「俺ひとりの分じゃない。頼まれた分もだ」
なるほど。暴食の理由がわかった。
よかった。一人分じゃなくて。
「ギルド長、どれがおすすめですか?」
「全部うまいぞ」
「それじゃ全然わからないですよ……」
ほんとだよね。
マルコさん、その答えじゃギルド職員さんが可哀そうだよ。
それを補うべく、俺たちも売り子さんと説明したり、質問に答えたりして、お客さんを捌いていったんだけど。
どうやら、買ってくれた人が早速食べてくれたみたいで。
それが更なる宣伝になったのか、どんどんお客さんが来てくれて。
よく見たら、店の外には行列らしきものまでできてしまっていた。
お店の売り場は狭いからね。
これもありがたいけど、今後の課題かな?
っていうか、お弁当足りるかな?
なんて思いながら、接客をしていたら。
ふと行列に目をやったリディが、突然、ピキッと固まった。
「ラディ。あの列の中に、ここに居てはいけない人を見つけたわ」
は?ここにいてはいけない人?
不思議に思いながら、行列を見てみたら。
………………うそでしょ?
なんで王女様がいるかな?しかも行列に並ぶとか辞めてほしい。
町娘みたいな恰好をしているけど、オーラが滲み出てるよ。
一緒に並んでいる人たちは王女様だとは気づいてないようだけど、高貴な人ってことはわかるみたいで若干前後に間隔があいている。
護衛も確認できたけど、そもそもこんなことさせていいの?
ほんと、何かあったら困るんだけど。
「ちょっと手紙を渡してくるわ」
そうだね。
列から連れ出して、他の人から優遇だとか文句言われたら大変だしね。
手紙を読んで、こっそり裏とかから入ってくれるとうれしいんだけど。
どうか、行列から外れて欲しい。
という俺たちの願いも空しく、王女様は行列に並び続けて。
みんなと同じように購入してくれた。もう、本当に勘弁してほしい。
その後で、裏に来てくれたんだけどね。
そんなことをしていたらハンバーガーの販売時間になってしまって。
王女様を休憩室に案内して――他に場所がないのだ――。
俺たちも鉄板の前にスタンバって。
サナちゃんが販売開始の声を掛けたら。
「待ってました!開店おめでとう!ハンバーガーください!」
という元気な声が聞こえた。
誰かと思ったら、内装工事をやってくれたケントさんだった。
うわー、早速来てくれたんだ。ありがとう!
そう言えば、差し入れのハンバーガーを相当気に入ってたよね。
「ハンバーガーの方は、こっち側にお並びくださーい!」
サナちゃん、予定通り、ちゃんとやってくれてるね。
お弁当とハンバーガーのオーダーがごっちゃになってしまうと、さすがに捌ききれないからね、並ぶ場所を変えることにしたんだ。
早速リディが作り始めたら、お店にお肉を焼くいい匂いが充満して。
実はフライドポテトがセットで付くから揚げ物の匂いまで重なって。
そうなったら、お弁当を選んでいた人もすっかりハンバーガーのほうが気になってしまったようで。
限定二十食はすぐに売り切れた。
「これだよ、これ。よかった、無事に買えて」
「何だ、にーちゃん、食べたことあるのか?」
「物凄くおいしいよ。俺、毎日でも食べたい」
ケントさん。それはどうかと思う。
リディも毎日はやめたほうがいいって言ってたよ?
そう思いながら、二十食分を急いで作り上げていたら。
王女様も気になったみたいでこっそりやってきて護衛の分を頼まれてしまって。
…………これは、特別待遇も仕方ないか。
そうして、何とか作り終えたのと同時に。
少しの間お店をサナちゃんたちに任せて、俺たちは休憩室に向かった。
お弁当も少なくなってきたし、お客さんの波も落ち着いたからね。
「アンヌ様!お待たせいたしました。びっくりしましたわ。押されるとか、足を踏まれるとか、お怪我されたようなことはありませんでしたか?」
「うふふ。大丈夫よ。リディアのお店だって聞いて、どうしても来たかったの」
「それはすごく嬉しいですけれど。でも、生きた心地がしませんでしたわ……」
「大袈裟よ」
いえ、全く大袈裟じゃありませんから。
っていうか、もう食べていたんですね。
どこから出したのか、お皿に乗せてナイフとフォークで食べてるけども。
それ、むしろ食べづらくないかな?
「このおにぎりというのは初めて食べたけれど、おいしいわ」
「ありがとうございます。お口に合って安心いたしましたわ」
「王都にはこのお店を出してくれないの?」
「それは、デュアル侯爵にお任せしてます」
「そうなのね!いいことを聞いたわ。ふふ」
これは、デュアル侯爵に直々にお願いする気だな。
侯爵、がんばってください。
―――その後は。
王女様も長居はされなかったから、俺たちもすぐにお店に戻ったんだけど。
いつの間にか用意していた分が完売していて。
結局、予定よりも早く閉店したのだった。
行列のこととか、店の外で食べ始めちゃう人がいることとか。
今後の課題は出来たけど初日にしては上出来じゃないかな?




