42.彼は絡まれ彼女は隠れる。
side ラディンベル
リディが開催した海鮮パーティーは大成功だったと思う。
みんなが楽しそうに笑顔でごはんを食べてて。
そりゃ、あんなにおいしいんだから、笑顔にもなるけど。
リディの感謝の気持ちが伝わったからこそかな、と思う。
パーティーの間はリディとほとんど話せなかったけど。
その分、ミンスター夫妻やダンさん夫婦、ギルド長たちとたくさん話せて。
いろんな気づきをもらえて、俺としてはすごくいい時間だった。
俺も感謝する側にいたつもりだったけど。
あんなパーティーを開いてくれたリディに俺も感謝してる。
ちなみに、パーティーでのメニューのレシピも売ってほしいとせがまれてた。
多分このまま売ることになるんだろうけど、それで魚料理が広まったら、みんなも美味しいし、港も活性化するから、いいことだらけだよね。
リディの料理――リディ曰く異世界料理であって、自分が開発したんじゃないって言うけど、もうリディの料理でいいと思う――は、人を幸せにするから。
こうやって広まっていくのを見るのが最近の楽しみだ。
リディが幸せにしてくれるのは、もちろん料理だけじゃなくて。
いや、俺は、リディがいてくれるだけで幸せだけどね?
しかも毎日、俺がプレゼントしたヘアピンをしてくれてるしね。
似合っててかわいいよね。
って、そういうことじゃなくて。
リディの前世知識は留まることを知らなくて。
パーティーから帰宅してからもらったスケジュール帳には驚いたよね。
―――ん?俺、この前もバッグとかペンケースとかもらってるし、最近、リディから物をもらいすぎだね?これはよくない。ちゃんとお金を払おう。
スケジュール帳。これ、本っ当に便利なんだよね。
出来たものを見れば、なるほどって思うんだけど。
なかったら思いつかなかったというか。
なかなかに衝撃を受けたんだ。
商会のほうは、オープン時ほどの混乱はもうなくなってきて。
製造も販売も落ち着いていて新商品も考え始めてた時だから。
―――保温水筒も量産体制ができたからあとは売るだけだ。ついでに、俺の一押しだった野宿セットも量産化に向けて動き始めてうれしい。
スケジュール帳はすぐに商品化が決まった。
そうしたら。
カレンダーもあったらいいんじゃないかってリディが言い始めて。
月日を並べただけなのに、あると便利なんだよね。
どうして今までなかったのかな、って思うもので。
カレンダーの有効性も当然認められて、今は印刷ってのを開発中だ。
リディは魔法転写で作ったみたいなんだけどね。
特殊魔法が使えなくても量産できるように、技術者ががんばっている。
義父上ともよく話すけど、本当に、リディの前世ってのはすごいよね。
そんなに便利な世の中で、人は何をするんだろうって思う。
リディにしたら、今再現しているものはほとんどが時代遅れってことだけど。
いや、これ以上進化したらどんな世の中になるのか、ちょっと怖いくらいだ。
そんなわけで、商会もまた少しバタついてきたんだけど。
リディは商品化案を出してしまったし。
俺も調査と分析が終わったから、俺たちは少し余裕がある。
だから、また後回しになってたお弁当屋さんのほうを進めておくことにした。
レンダルの件も確定したら忙しくなるしね。
その前にやっておこう、ってことになって。
そうしたら、タイミングよく店舗も見つかって。
今は内装工事中だから、時々、進捗状況を見に行ったりしている。
お弁当屋さんは、当初は、リディと俺でこぢんまりやる予定だったんだけど。
デュアル侯爵領での出店も決まって、チェーン――同じ形態の店舗を複数経営する場合はチェーン展開というそうだ。異世界は何でも名前があるな!――化することになったから。
俺たちがやるだけだったら、我が家で調理して、出来たものを店舗で売ればよかったんだけどね。そうもいかなくなったわけで。
それで、店舗内ですべて作業ができるような内装にすることになったんだ。
ここで、またリディの前世知識が炸裂して。
知識というか、この準備期間にリディが差し入れてくれたものがね。
みんなの心を掴んで離さなかった。
「それじゃあ、ファーストフード店だわ」
って言われたけど、俺たちには何のことかわからないよ?
とにかく、その差し入れてくれた『ハンバーガー』が大人気で。
販売してほしい、ってみんなから懇願されてしまって。
元々、調理用のコンロとパンを焼く竈、そして、揚げ物用のフライヤーっていうのは設置が決まっていたんだけど。
ハンバーグを焼く鉄板の追加設置が決まった。
お弁当屋さんはそこで食べるわけじゃないから、販売スペースだけを取っておけば、あとのスペースを調理に使えるのがよかったよね。
じゃなければ、見つけた店舗じゃ狭いところだったよ。
そんな追加工事もあったけど、内装工事は順調に進んでいると思う。
リディは最近はメニューのレシピの書き起こしを必死でやってる。
複数店舗で作るとなると、同じものを作れないといけないからね。
どうやら、デュアル侯爵領の店舗のほうはサティアス邸の料理人が担当するらしくて。リディもよく知る人だから、教えやすいっていうのはよかったと思う。
レシピの書き起こしが終わったら、調理の指導を始めるそうだ。
そして、俺はと言えば。
食材確保のための根回しをがんばっている。
俺たちは商会の仕事と掛け持ちでお弁当屋さんをやるから。
お弁当の販売数は限定する予定で。
だから、必要な分量があらかじめ決まっている。
もちろんギリギリってわけにはいかないから、量の調節はあるけれど。
最初から量を提示できると交渉もしやすいよね。
確保する分量は既に算出済み。
それと予算を元に、俺は今、それぞれの食材の販売店さんに交渉してまわっているところなのだ。
今日も、リディは家でレシピを書き起こしていたから。
俺はひとりで販売店をまわっていたんだけど。
帰宅しようと我が家に近づいたところで足が止まった。
厳密には、ルーカスに乗ってたから、ルーカスの脚を止めたんだけど。
我が家の門の前で騒いでいる人がいるんだよね。
「なぜ、この家には入れないのだ!」
「どうかお静かに。結界が張ってあるので入れないのです」
「結界だと?!生意気な。すぐに結界を壊せ!」
「無茶を言わないでください」
うわー。あの人、多分、グリーンフィールの第二王子だよね?
どうして、王族がこんな南の辺境の平民の家の前にいるかな。
一気に帰りたくなくなってきた。
リディの顔は早く見たいけども。
かなりげんなりしながらルーカスから降りて。
俺に気づいて近づいて来てた精霊に、リディへの言付けを頼んだ。
―――うちの精霊たちはいつも俺たちを出迎えてくれるいい子だ。
『わかったー。りでぃーにいえからでないようにいえばいいんだね?』
「そう。絶対に出ないように伝えておいて」
『はーい』
そうして、ルーカスを引っ張って歩いて我が家に近づいたら。
第二王子のアラン殿下が俺に気づいた。
「お前はリディアの旦那だな?」
「はい、そうですが……。恐れながら、殿下。このようなところで何をしていらっしゃるのですか?」
「リディアに会わせろ」
は?それはあまりにも横暴すぎないか?
約束があったわけでもないし。勝手に来て会わせろって。
いや、まあ、王族には逆らえないけども。
だからって、はいそうですか、とは言えない内容だよね。
ここはもう、偽証罪覚悟で嘘をつこうと思う。
会わせたら、ろくなことがない気がするから。
「大変申し訳ないのですが、妻は外出中なのです」
「何だと?」
「今日は別行動でしたが、予定は聞いています。時間がかかるようなことを言っていましたので、まだ帰宅していないはずです」
「なら、待たせてもらう。中に入れろ」
は?いや、ここは帰るところじゃないの?
「何をおっしゃってるのですか。ご迷惑ですから帰りますよ」
確か、側近のグレンさん。
その調子でがんばって。そのまま連れて帰ってくれ。
「別に構わないだろう」
いや、構うし。
王女様のお茶会のときもそうだったけど。
この王子、どうしてこうも自分の都合を優先しまくるのか。
「大変恐縮なのですが、この家の結界は妻にしか解除できないため、現状、殿下を我が家にお迎えすることができないのです。何卒ご容赦ください」
面倒だから、偽証罪を重ねていくことにする。
実際は俺でも解除できるけど、解除する必要なんてないよね?
「はあ?なんだそれは。じゃあ、お前も入れないじゃないか」
「私はこの結界に入れるように設定してもらっているのです」
「なるほど!さすがですね!ほら、殿下。お邸にも入れませんし、帰りますよ」
そうだ、そうだ。
グレンさん、もう少しがんばって。
「いや、俺は待つ。なんとかしろ」
ええー。すごい面倒なんだけど。
っていうか、そもそも、何の用なんだろう。
事前に用件言ってくれてたら、それなりに対応したかもしれないのに。
こんな風に来られても、むしろ対応したくなくなるよ。
それに、今はまだ周辺に俺たちしか人がいないから何とか話してるけど。
もし誰かに見つかったらかなり大騒ぎになっちゃうんだけど。
王子がこんなところにいるなんて結構な事態だから。
それはものすごく避けたいんだよね。
なんて思いながら、結構本格的にどうしようかと悩み始めたところで。
救世主が現れた。
「ここで何をしておるのだ」
ダズル様!なんていいタイミングで来てくれたんだ!
ありがとう!
「精霊王?なぜここにいるんだ?」
「王子が城を抜け出したから大騒ぎになっているのだ。大々的な捜索が始まる前に捕まえに来た」
「………大変申し訳ございません」
「お主がついていながら、何をやっているのだ。早く帰るぞ」
グレンさんが怒られるのはかわいそうだけど。
お目付け役みたいだしね。これはしょうがないのかな。
にしても、黙って出てきたのか。
そこまでしてリディに会いたいってほんと、何の用なんだろう。
聞いてあげたりはしないけど。
とりあえずは、ダズル様。
どうか、そのまま連れて帰ってください。
「いや、私はリディアに用があるのだ」
「だったら、手紙でもいいだろう。とにかく帰るぞ」
「なっ!わた、」
最後まで言葉を聞くこともなく、ダズル様が強制的に転移したようだ。
本当にありがとう、ダズル様。
リディにおいしいご飯作ってもらっておきます!
そうして俺は。
時間にしたら大したことなかったんだけど、王子とのやりとりですっかり疲れてしまって、ぐったりしたまま邸に入った。
玄関を入ったところでリディが出迎えてくれて。
リディは精霊に何があったか聞いていたみたいですごく労ってくれた。
「ラディ、お疲れ様。大変だったわね」
「何なんだろうね。王子ってひとりは残念な感じになるのかな」
「……………………」
リディは否定も肯定もしない。
つい最近、レンダルの王子にもやられたばかりだしね。
リディはどうしてこう、残念な王子と縁があるんだろうね?
「用件は聞かなかったんだけど、聞いたほうがよかった?」
「ううん。聞いたら応えなくちゃいけないもの。聞かないのが賢明よ」
あ、そうか。そうだね。
聞かなかった俺、よくやった。
――――そして、その夜。
アラン第二王子の件の謝罪と、レンダルの件の報告のために参内してほしいという書状が届いた。




