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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第一章 平民ライフ突入編
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04.彼は家族に報告をする。

side ラディンベル

 サティアス公爵家での話し合いの後、恐れ多くも公爵家の馬車で我が家まで送ってもらった俺は、帰宅後、執事のケインから父の執務室に行くように言われた。


 卒業パーティーであったことや馬車でのリディア嬢との打ち合わせの内容については、先に戻った侍従のサムから説明されているだろうから、後は公爵家での話を説明すればいいかな、なんて軽く考えて執務室に入って驚いた。


 なんで家族全員がいるんだ。

 父上や兄上はわかるとして、母上や弟までいるのがよくわからない。母や弟は領地にいたと思うんだけれど。俺が公爵家にいる間に転移陣で来たのかな?


 あ、サムからの話で俺が護衛に立候補したのが伝わったのかもしれない。

 国を出たらなかなか会えないしね。なるほど。


「ずいぶんと遅い帰りだな」

「うん、ごめん。色々と話してたら長くなっちゃって。聞いていると思うけど、公爵家にお邪魔してきたよ」

「ああ、聞いている。それで?」

「リディア嬢と結婚することになったから、明日ルーカス連れて国出るね」

「「「「は?」」」」


 おお。一瞬の差もなくきれいにハモったな。

 その反応もわからなくもないけど、要約するとそういうことだし。

 嘘は言っていない。いろいろ端折ってはいるけど。

 ちなみに、ルーカスというのは俺の馬だ。


「護衛じゃなかったのか?」

「説明が雑すぎる。詳しく話せ」


 まあ、そうなるよね。

 面倒だけど、もしかしたら齟齬もあるかもしれないから、パーティーでのことから公爵家で話したことまで、順を追って最初から説明をしたんだけど。


 まだ幼い弟がどこまで理解しているかは微妙だが、家族はみな、王子の不貞行為については以前から知っていたし、リディア嬢が無罪なのも把握していた。

 今回の王子の愚行を残念がっていたものの、公衆の面前での宣言だったこともあり、王子たちの婚約破棄は致し方ないと判断していたようだ。

 リディア嬢の国外追放については、従うことはない、という意見で一致していたが、止めるつもりもないようだった。


 問題になったのは俺の結婚だ。

 どうやら、彼女の護衛をすること自体には反対はないらしい。

 陛下に恩を売れることもわかっていたし、護衛は俺が適任だとも言う。

 ただ、護衛としてリディア嬢について行くだけで、今回の件が落ち着いたら、俺は国に戻ってくるものだと思っていたようなのだ。


 リディア嬢とも話したが、俺もリディア嬢も国に戻るつもりはない。

 お互い王子に辟易としていたし、この機会に新しい生活を始めるつもりだ。

 もちろん、旅の道中も移住してからも護衛の任務を怠るつもりはないけど。


 リディア嬢の家族も、あの場では一時的な国外退避なのか移住なのかは確認していなかったが、多分、彼女の移住をわかったうえでの話し合いだったと思う。


「彼女の家に居候させてもらうんだ。ただの護衛とふたりきりで住むなんて外聞が悪いし、婚姻関係というのはいい打開策だと思うんだけど」

「お前はそれでいいのか?」

「俺には得しかないよ。美人で頭がよくて才能があって。未来の王妃だったかもしれない子だよ?そんなお嫁さんもらえることなんてないでしょ?」

「彼女がお前にもったいないことはわかっている」


 え、もしかして、そこが問題なの?

 そりゃ、俺だって、気後れがないわけじゃないけど。


「本当に戻ってくる気がないのか?」

「そのつもりだよ。次男だし、見聞広げるいい機会だしね」

「そうか……」


 あれ?もしかして案じてくれてるのかな?……うん。いい家族持ったな。

 でも、俺のことを考えてくれてるのはうれしいけど、この機会は外したくない。


 って、そうだ、忘れてた。


「公爵閣下から手紙預かってるんだった。さすがにこれは断れないよね?」

「それを早く言え。……でも、まあ、そうだな。公爵家からの要請を断ることが難しいのは確かだが、お前がいいならもう反対はしない。好きにしろ」

「そうね。あなたはもう決めてしまったようだし、反対できないわね」

「……っ!父上!母上!ありがとう!」


 兄上と弟も、まだ完全に納得はしていないようだけど反対はしてこない。

 よし!これで我が家でも許可が下りた。


「じゃあ、俺、支度があるからこれで」

「まあ待て。話はまだ終わっていない」


 ……ですよね。逃げたかったけど、しょうがないか。

 話の内容は予想がつく。公爵家のことを知りたいんだよね?


 我がグラント伯爵家は、騎士の家系だと思われている。

 両親は騎士だし、息子も三人とも騎士を目指しているわけだから、間違ってはいないのだけれど、それは表向きの姿。


 実際は、王家の影を担っている。

 公にされていないし、王家以外には知られていないはずのことだけれど、諜報活動から暗部組織の編成まで、あらゆる影の任務を担っているのが我が一族だ。

 俺も幼い頃から、騎士としての鍛錬だけでなく影としての教育も受けている。


 今回、俺がリディア嬢の護衛に適任というのも、騎士としての下地があったり、王子の学友だったこともあるが、影の一族だからこそ、保護や監視に向いている人材だというのも大きいはずだ。王子の愚行の後始末において、使い勝手のよい俺を犠牲に差し出した、とも言えなくない。………俺個人としては、犠牲としてではなく、自ら行きたくて行くのだけど。


 公爵家での話し合いで、俺以外の護衛候補があがらなかったことから、公爵は我が家のことを知っているのではないかと踏んでいたが、最後に陛下の名を出して鎌をかけたら、公爵は俺の意図を汲んで答えてくれた。更に、帰りがけにわざわざ土産を持たせてくれたことで、我が一族を知っていると確信した。


 それだけでも収穫ではあるのだけど、父上が一番聞きたいのは、そのことじゃなくて公爵邸のことだろう。


 我が一族が任務を遂行するうえで、貴族の邸に潜入することが多々ある。

 サティアス公爵邸にも何度か潜入を試みているのだが、一族として恥ずかしいことに、ここ何年もの間、一度たりとも成功したことがないのだ。


 基本的に、我が家と公爵家に接点はなく、一族の名が泣いているこの状況下で降って湧いたのが今回の訪問。実際に見てきた俺に、公爵邸について聞きたいと思うのもわからなくはない。


「公爵家は、どうだった?」

「一言で言えば、ふつうの家だったよ」

「……答えになっておらん」

「そうなんだけど。でも、それしか言いようがないんだよ。門番がふたり。他には警備の人間は見なかったし、気配も少なかった。もし影がいるとしてもほんの数人だし、使用人すら少ない。仕掛けも見当たらなかったし、変わった建物でもなかった。なんで潜入できないのか、全くわからないんだ」


 そうなんだよね。

 俺だって、一族として受けた教育に則って、探れる範囲ではあるけど、見れるだけ見てきたつもりだ。それでも特殊なところは何一つ見つけられなかった。


「ただ、これをもらった。火傷に効く薬なんだって。お大事にって言われた」

「…………っ!」


 つい最近、公爵邸に潜入しようとした影は、成果も出せずに火傷をして帰ってきた。影なんて他家の者もいるだろうに、うちの者と断定したのだ。


「うちのこと、ほとんど把握されてると思う。凄腕の影や護衛の話は聞かないし、どんな秘策があるのか全くわからないけれど」

「そうか………」


 うわー。空気が重い。俺の報告のせいだけど。

 うーん。ちょっとだけ話を逸らしてみよう。


「あのさ、公爵家、真っ当でしょ?なんでそんなに拘るの?」

「きれいすぎるのも怪しい」

「そんな理由で?なんでも疑うって、この仕事も難儀だよね」

「…………………王子のこともあったからな」


 そういうことか。

 王子が愚行ばかり続けてたから、公爵家の出方を見たかったのか。


「……父上だったらもっと情報が取れたと思う。役に立たなくてごめん」

「いや。今日の報告で十分だ。それよりも今は令嬢を守ることを考えろ」

「はい。全力で守ります」


 あの王子はリディア嬢の命までは狙ってないと思うけど。

 道中何があるかわからないし、一族の名に恥じないように護衛しよう。


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