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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
39/149

38.彼は家族に呆れる。

※誤字報告ありがとうございました!


side ラディンベル

 俺は、何もわかってなかったと思う。


 久々に実家に戻ってきて。

 魔道具がない生活というものが身に染みた。


 実家で生活していた頃は。

 俺は、正直、それなりに自分のことは自分でやってたつもりだったんだよね。

 そこまで使用人の手を借りてるつもりはなかった。


 でも、全然そんなことなかった。

 俺は、すごくたくさんの使用人に助けられて生活していた。


 魔道具を売り始めたとき。

 リディは、実は、雇用について心配していたんだよね。


 魔道具が普及すれば仕事をなくす人がいるかもしれない。

 だから、そうなってしまった場合は商会で雇ってほしい。


 そう言って、義母上やデュアル侯爵に相談していたんだけれど。

 俺はそこまで心配しなくても大丈夫じゃないかと思ってたんだ。

 そりゃ、魔道具は使用人の仕事をやってくれるようなものだけど、貴族宅での仕事は結構あるから。仕事をなくすまでいくかな?なんて思ってたけど。


 実際には、雇用の相談は結構多くて。

 驚いたのを覚えてる。


 今回、実家に帰ってきて、改めて邸を見回してよくわかった。

 記憶していた以上にたくさんの使用人が働いていて。

 魔道具が代わりにやっていることがどんなに重労働なのかをちゃんと理解した。

 これらの重労働がいらなくなるなら。

 そうだよね、仕事をなくす人もいてもおかしくない。


 俺は、やってもらうのが当たり前で。

 むしろ、自分でやってる俺って偉くない?なんて思ってたけど。


 全然そんなことなかった。

 俺は、本当に何もわかってなかったと思う。


 今回は一週間の滞在だけど、使用人たちにちゃんと感謝して生活しよう。

 魔道具の価値もきちんと理解しよう。


 ―――なんて思いながら、朝食の席に向かって。

 家族全員が揃って、談笑している光景に驚いた。


 は?なんだこれ。

 うちの家族って、みんな朝弱くなかった?

 俺、いつも一番早くて、朝食はひとりだった覚えしかないよ?


 それと、昨日から思ってたんだけど。

 母上と弟がちょっと浮かれすぎてない?


 母上は、人前では猫をかぶって伯爵夫人をがんばっているけど。

 本性はガサツな騎士だ。

 言葉使いだけは家でも女性っぽくしているけれど、ガサツには変わりない。

 我が家は男所帯だと言っても過言ではないくらいだ。


 それなのに、今、目の前では。

 おほほ、うふふ、なんて言いながらリディと仲良く話してる。


 弟だって人見知りだったはずだ。

 それが、リディには果敢に話しかけにいく。


 大体、義姉上って何だ。

 俺や兄上は兄様なんだから、そこは義姉様じゃないの?

 多分、義姉上のほうがかっこいいとか思っちゃったんだろうけど。


 リディもリディで、懐いてくる弟をすごく可愛がってくれて。

 笑顔で、目線を合わせて、優しく受け答えてくれている。


 いや、それはありがたいけど、距離が近いと思うんだよね。

 何なら俺よりも近くにいるよね?


 十歳の弟にやきもち焼いているわけじゃないけど。

 俺、結局、まだ告白できてないのに。

 弟に後れを取っているようで、若干面白くない。


「ラディ、どうしたの?」


 あ、顔に出ていただろうか。

 本当のことは言えないから、寝起きだからとかごまかしたんだけど。

 リディは、俺がグリーンフィールのことを気にしていると思ったみたいで、すごく励まされた。なんかごめん。


 グリーンフィールと言えば。

 朝起きたら新たな手紙が届いていたということだったから。

 朝食後に場所を移動して、話を聞いてみた。


「グリーンフィール側はレンダルの対応を待ってくれるそうです」

「…………リディ。そんなに穏やかに書かれてなかったでしょ?」

「え、そんなことないわ。だって、要約するとそうだもの!」


 とか言いながら、リディの目は泳いでいる。

 怪しさ満点だから手紙を読ませてもらったら。


「リディ。俺には、レンダル王家への嫌味と、レンダルの対応次第じゃ容赦しないぞ、って書いてあるように見えるけど」

「で、でも!対応次第ってことは、対応がわかるまでは何もしてこないってことだわ。ってことは、待ってくれるのと同じだと思うの!」


 ……………思いっきり好意的に捉えればね。

 でも、いつまでも待ってくれるはずはない。


 ということで、父上が、早速王宮に出向くことになった。

 陛下と王妃様に話をしてくるらしい。

 だた、どうも、後ろ髪を引かれてるみたいだったんだよね。

 そんなに俺たちが心配だろうか?


 そう思いながら父上を見送った後は。

 昨日の話の通り、リディがご飯を作ってくれることになって。

 俺も手伝おうと思ってリディと厨房に向かったら。

 母上も兄上も弟も付いてきた。


 なんで?


 って思って、三人の顔をよく見たら。

 この人たち、必死に隠しているようだけど、妙にうきうきしている。


 ……やっとわかった。

 朝早く起きたことも。妙に浮かれていたことも。

 リディのご飯を楽しみにしすぎた結果なわけね。

 きっと、さっきの父上の後ろ髪引かれた様子もそうだ。


 まあ、気持ちはわかるけど。

 でも、厨房にいられても邪魔だから。

 リディの調理を見たい料理人も勢ぞろいしてるしね。


「出来てからのお楽しみのほうがいいでしょ。それに、仕事や勉強があるんじゃないの?働かざる者食うべからず、だよ」

「ラディン兄様だって、仕事を休んでるじゃないですか」

「ここに来る前にどれだけやってきたと思ってるんだよ」


 そう言ったら、呼び出した張本人の兄上がちょっとたじろいで。

 申し訳なさそうな顔をして、みんなを引き連れて出て行ってくれた。

 うん。本当に大変だったんだよ?


「リディ、ごめんね。あの人たち、すごく楽しみにしてるみたい」

「なんかものすごくハードル上がった気がするけど、がんばるわ」

「いつもと同じで大丈夫だよ。普通に作ってくれるだけですごくおいしいから」


 にしても、何を作るんだろう?

 ここには米や醤油とかはないから和食は無理だよね?


「まずは、パンを作りましょう。それと、スープストックとソースを作っておけば応用ができるから、そこからかしら。実はね、昨日、冷蔵庫を置きに来た時に、くず野菜やお肉の骨を取っておいてもらえるように頼んでおいたのよ」


 さすが、抜かりなし。

 リディのスープは味に深みがあっておいしいよね、本当に。

 それに、パンはふわふわだし。

 ソースに至っては、もう料理の概念が変わるからね。

 俺、感動したし。


 今回作るソースは、マヨネーズとケチャップのようだ。

 うん。これがあると便利だよね。


「あ、そうだわ。料理長さん。こちら、よかったら使ってくださいませ」


 何かと思えば、そう言って渡したのはメモ帳とボールペンだった。

 リディは本当に優しいよね。レシピ教えちゃうんだ。


 でも、リディのレシピはグリーンフィールで売買されているものだから。

 この家以外では使わないように釘を刺しておいた。


「はい。取り扱いには十分に注意いたします。それにしても、野菜のくずや骨まで使われるんですねぇ。勉強になります」


 そうして、料理が始まった。


 今後のことを考えて、今回リディは魔法を使っていない。

 だから、混ぜたりするのは俺の担当だ。結構疲れるんだよね。


 料理人たちは、いちいち驚いて、味見して、感動して。

 結構早くから作り始めたのに、かなりの時間を使ってしまった。


 まあ、一番驚かれたのは、卓上コンロだけどね。

 いつかコンロを設置してあげたいけど、それは両親に相談だな。

 さすがにリディの卓上コンロをあげるわけにはいかないし。

 コンロは設置工事も必要だからね。


「ねぇ、ラディ。昼食はハンバーグにして、付け合わせはポテトサラダとナポリタンでいいかしら。それとコンソメスープ。これならフィン君も食べやすいわよね?」


 弟のこと、そこまで気にしなくていいよ。

 でも、そうだね。

 それならみんな喜んでくれると思う。


 リディが肉を細かく切り刻み始めたのに、また料理人が驚いて。

 これは結構重労働だから、俺も手伝って。


 パン粉はさすがに時間がなくて魔法でパンを凍らせて作った。

 パンを凍らせるなんて発想はないから、それもまた驚かれて。

 おろし金にも感動されてしまってリディはプレゼントしてた。

 ごめんね。ありがとう。


 そして、漸く出来たランチプレート。

 料理人たちは、泣いて感動していた。

 うん、おいしそうだ。


 ハンバーグの種はたくさん作っておいたから。

 後でみんなでおさらいがてら作って食べてね。


「ぎりぎりになっちゃったわ。皆さん待ってるかしら」

「え、いいよ、待たせておけば」

「そういうわけにはいかないわ」


 リディに急かされて、食堂にランチプレートを持っていったら。

 父上も席に座っていて驚いた。

 もう戻ってきたの?早くない?

 ………そんなに食べたかったんだね、リディのごはん。


 他のみなも、もう、わくわくした顔を隠しもせずに待ってた。


「リディア、本当にありがとう。手間をかけさせてごめんなさいね」

「いえ。料理人の方たちにも沢山手伝っていただきました」

「おお、これは俺も食べたことがない料理だな。楽しみだ」

「すごいです!なんか、いろんなものが乗ってます!」


 弟よ。もう少し、言葉を勉強しよう。

 兄上、ハンバーグ食べてないんだね。

 あの帰国時にもらった料理の中には入ってなかったのか。


「リディア、ありがとう。じゃあ、早速いただこうか」


 父上のその言葉を合図にみんなが一斉に食べ始めたんだけど。

 一口食べて固まって。その後は怒涛の勢いで食べ始めた。


「義姉上。すごくおいしいです!」

「ありがとう。お口に合ってよかったわ。これはハンバーグという料理なの」

「お肉が凄く柔らかいのね。おいしいわ」

「ありがとうございます。細かくしたお肉を焼いたものなんです」

「こっちの白いのや赤いのも、うまいな」

「白いのがポテトサラダで、赤いのはナポリタンというんですよ」

「このスープも本当においしいわね」

「パンもふわふわで、おいしいです」


 うん。リディのごはんが美味しいのは俺がよく知ってる。

 でも。我が家においてこんなに賑やかな食卓は知らない。


 すごいな、リディって。

 多分、みんながこんなに笑顔で食卓を囲んでいるのは料理のせいだけじゃない。

 リディがいるからみんなが笑っているんだと思う。


 何でも笑顔で答えてくれて。知識も豊富で。さりげなく気を遣ってくれて。

 そんなリディがいるから、みんなも自然に笑顔になる。

 リディ、ありがとうね。


「私、決めたわ」


 ちょっと俺的に感動していたんだけど、この母上の言葉でげんなりした。

 これ、絶対に碌なこと言わないと思うんだけど。


「リディアをお嫁さんにするわ」


 やっぱり。

 ほんと、何言ってんの?頭沸いてるの?


「母上。訳の分からないこと言うのやめてくれない?」

「だって。こんなに可愛くて、いい子で、お料理も上手なのよ?持ってきてくれたお土産だって素敵なものばかりだったし。お嫁さんにしたいに決まってるじゃない。貴方ばかりずるいわ」

「そうです!ラディン兄様ばかりずるいです」

「まあ、お前にはもったいないな」


 もったいないのはわかるけど!

 ずるいとかの問題じゃないし。いろいろおかしいでしょ?

 俺の奥さんなんだよ?渡さないよ?


「リディ、ごめんね。変な家族で」

「うふふ。楽しいわよ?」


 浮かれた家族に呆れていた俺だけど。

 そう言って笑ったリディに癒された。


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