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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
37/149

36.彼と彼女は切り捨てる。

side ラディンベル

 リディが固まっている。

 …………いや、まあ、俺もだけど。


 実家に着いたと思ったら拉致されて。

 義父上は長期休暇中だと陛下が思っていたことに気が遠くなって。

 小動物娘がいまだに言いがかりをつけてくることに驚いたけれど。


 そんなことも全部吹っ飛んだ。

 今、殿下は何を言ったんだろうか。


 金を返せって?


 いや、金を渡すのはむしろ殿下の方だと思うんだけど。

 婚約破棄したの殿下だし。慰謝料とか払うべきでしょ?


「えぇ~。信じられなぁい。ハイン様からお金借りてたんですかぁ?」


 相変わらずバカっぽい言葉を使う小動物娘の言葉で我に返った。


 いやいや、さすがにそれはないでしょ。

 そもそも、リディは金に困っていない。


「今度は一体何のお話ですの?わたくし、お金を借りた覚えはありませんわ」

「お前はかなり金を持っているという話だ。だが、お前程度がそんなに稼げるはずがない。ということは、国を出るときに盗んだということだろう」


 は?一体どんな思考回路をしているんだ。

 リディが金を持っている、イコール、盗んだ金。なんで?

 殿下ってこんなにバカだっけ?


 まあ、確かに、リディは金を持っていると思う。

 でも、それは、殿下がどう思おうがリディが稼いだものだ。


 多分、商会で儲けてるとかの話が歪曲して伝わったんだと思うけど。

 いくら何でも悪意を持って捉えすぎじゃないか?


「どこをどうしたらそんな結論になるんです?証拠でもありますの?」

「お前が金を持っていることが証拠だ」

「そのどこがわたくしが盗んだという証拠なのです?だいたいどこから盗んだというのですか。国庫や殿下の個人資産でしたら帳簿を調べればわかることでしょうに。その帳簿に不足分や使途不明金などありまして?」

「わけのわからないことを言うな。とにかく、返せ」


 え、リディの話、わけわからなくないけど。

 殿下、なんでわからないの?


「あくまでも返せと仰るわけですわね?申しておきますが、わたくし、既に他国民なのです。他国民のわたくしがレンダル王国のお金を盗んだとなれば、ここだけの話では済みませんわ。国の問題になりますから、二国間での協議や審議が必要になります。ですから、まずはグリーンフィール王国まで証拠をお送りくださいませ。カイン陛下にも確認してもらいますわ」


 リディが国を絡めてきた。


 殿下は事が大きくなることにちょっと怯んだようだけど。

 でも、殿下は知ってるようでよかったよ、グリーンフィールの王様の名前。


 ちらっと、公爵子息のドミニクを見たら、目を丸くしていた。

 やっと気づいたか。


「そこまでする必要はないだろう」

「できないの間違いではなくて?」

「くっ……!いいだろう、証拠を見つけて送り付けてやる」


 うわー。

 リディも挑発したけど、殿下、それは一番やっちゃいけないよ。

 本当に冤罪だから。国を跨いで冤罪とかシャレにならないよ?


 殿下は、今に見ていろとでも言いたげな顔でリディを見ていたんだけど。

 急に何かを思いついたような顔をして口を開いた。


「金の話は持ち越しだな。じゃあ、早く仕事をしろ」


 持ち越しでもなければ、じゃあ、でもないよ。

 本当に次から次へと勝手なことばかり言ってくれるよね。


「……何か勘違いされているようですけれど、わたくしたちは仕事をしに来たのではございません。貴方様からのご命令とやらをお断りするために来たのです」


 リディはだんだん表情を隠せなくなってきているけれど。

 でも、都度、殿下の話に答えてて本当にすごいよ。


 俺は、もう放棄したくなってきた。

 兄上、俺には説得は無理そうです。


「王族の命令が聞けないというのか?」

「先程も申しました通り、わたくしたちは他国民なのですよ。グリーンフィール王国民なのです。貴方様の臣下ではございませんわ。従う理由がありません」

「何を勝手に他国民になっているのだ」

「貴方様がご自分でわたくしを追放したのですわ」

「じゃあ、戻してやる」

「結構です」

「ラディンベルは戻りたいだろう?」


 え、ここで俺?


 戻りたいわけないでしょ。

 だって、俺、今めちゃくちゃ充実してるし。幸せだし。


「いえ、戻りたくありませんが」

「なんだと?お前まで俺に歯向かうというのか」

「私も、今はグリーンフィール王国民ですので」


 俺にも従う理由がない。


「本当に生意気な奴らだな。なら、爵位をやるから戻ってこい」

「「いりません」」


 俺たちがあっさりと断ったら。

 殿下は、他に何かないか考え巡らせているようだけど。

 何を言われても無理だよ?


 なんて思っていたら、ノックもなしに執務室の扉が開いて。


「リディア!」

「っ!……マリアンヌ様!」


 王妃様が登場した。

 息を切らしているから、かなり急いで来たようだ。

 俺たちが拉致されて王宮に来ているのを誰かから聞いたのかもしれない。


 王妃様は、礼を取ろうとした俺たちを止めて。


「そんなことしなくていいのよ。本当にごめんなさいね、こんな風に呼びつけてしまって。うちの愚息が迷惑をかけたわ」

「母上!迷惑をかけられているのはこちらです!」

「黙りなさい!大方、仕事を押し付けようとして断られたのでしょう?それは貴方の仕事だと何度言ったらわかるのです。リディアたちにやる理由がありません。まったく、冤罪をかけて追放などと理不尽なことをしておいて、よくもそんなことが言えます事。……それよりも、謝罪はしたのでしょうね?」


 それね。俺もずっと思ってたんだ。

 殿下、一度も謝ってないんだよ。

 それで仕事させるために命令を出すなんてどうかと思う。本当に。


「なぜ、私が謝罪など」

「貴方はまだわかっていないのですか!」


 王妃様、血管キレそうだけど、大丈夫かな。

 そうなるのもわかるけど。

 殿下、本当に、自分がしたことわかってないの?


「マリアンヌ様。もういいのです。それよりも、わたくし、追ってお時間を戴きたいのです。お忙しいとは思うのですが」

「私も貴方とお話したいわ。息子の言うことなんて聞かなくてもいいから、よかったら、この後、私の部屋に来ない?お茶しましょう」

「よいのですか?でしたら、ぜひ!」

「ええ。もちろんよ。ラディンベルも来てちょうだい」

「あ、はい。ありがとうございます」


 うわ、俺も誘ってもらってしまった。

 まともに話すの初めてなんだけど、俺の名前知っててくれて感動だ。


「あ、そうですわ。殿下。とにかく、わたくしたちは貴方様のご命令には従えません。ご自分の仕事はご自分でどうぞ。それと、カイン陛下から書状を預かっておりますので、こちらをお受け取りくださいませ」

「は?なんだと?……はっ。さっきからグリーンフィールの王の話を出しているが、そんなのはただのはったりだろう?俺は騙されないぞ。これだって偽造に違いない。平民が王から書状を預かるわけがないからな!」


 え、殿下、何言ってるの?

 紋章見えないの?偽造できるわけないでしょ?


 って思ってたら、殿下が受け取った書状を、破った。は?


「嘘だろ…………」


 思わず声が出たけど、許してほしい。

 だって、あの書状には魔力が流れていた。俺だってわかったのに。


 多分、破棄したらわかるようになっているはずだ。

 他にもいろいろ細工はしてあるだろうけど。


 これ、瞬時に陛下に伝わってるよね?


「終わったわ……」

「終わったね……」


 俺たちは、それっきり言葉を話せず。

 額に手を当てて絶望的な顔をするしかなかったんだけど。


 いち早く立ち直ったのは、王妃様だった。


「リディア。書状に何が書いてあったのかはわかる?」


 さすがに、俺たちも内容まではわからない。


 書状はもうびりびりに破られた後だ。

 文字が残ってればつなぎ合わせて何とか解読できるかもしれないけど。

 破棄されたら文字が消えるように魔法がかけられていたらアウトだな。


「いえ、封は開けていませんから」

「じゃあ、想像は出来ない?どんなことが書いてあったか憶測できないかしら」

「……そうですわね。陛下からはグリーンフィールに必ず戻ってくるように言われております。ですから、わたくしたちのことと、ご命令には従えないことは書かれていたと思いますが。……あとは、有るとして、外交のことでしょうか。向こうを発つ前にお願いしてきましたので」


 そうだね。俺もそんなとこだろうと思うけど。

 陛下のことだから条件付きの内容もあったかもしれない。


「なっ!これが本物のわけがないだろう!」

「グリーンフィールの王家の紋章が入っていたではないですか。偽造なんてできませんわ。それに、魔力が流れていたのがわからなかったのですか?」

「なんだ、と……?」

「本当に、貴方はなんて事をしてくれたのです。とにかく、それは私が預かります。そして、貴方は今から自室で謹慎です」

「そんな……。おい、リディア、何とかしろ!」


 できるわけないでしょ?


「ご自分がしでかしたことくらい責任持ってくださいませ」

「お前がちゃんと説明しないからだろう!」

「陛下からの書状だと伝えたはずです。それ以外に何を説明しろと?」


 その後も殿下は何か喚いていたけど、王妃様は無視だ。

 護衛に命じて、殿下を執務室から自室まで連行させていた。


 殿下は一体、どこまでやらかせば済むのだろう。

 これは想像以上に酷い。


 そうして、俺たちも用はなくなったから王妃様と執務室を出たのだけど。

 去り際に、王妃様が小動物娘のほうを向いて言葉を放った。


「貴方はどうしてここにいるのです?王宮の出入りを禁止しているはずですが」

「え、それはぁ…………」

「すぐに出て行きなさい」


 え、そうだったの?

 小動物娘、勝手に入って来てたの?それであの言い草だったの?

 しかもそんな言葉と態度で王妃様に返事するとか、頭大丈夫か?


 王妃様が軽く説明してくれた話によると。

 どうやら、どうしてもあの娘を婚約者にしたいと殿下が懇願したらしく。

 一応は王子妃教育をしたそうなのだけど、二週間も持たなかったらしい。

 そのうえ、王宮で礼儀を欠く態度ばかり取り続けて出入り禁止になったと。


 それなのに王宮に入れていた殿下って、何を基準に動いているんだろう。

 まあ、自分の欲望かな?

 殿下。あの娘のどこがいいのか、俺にはさっぱりわからないよ。


 ―――そして、その後は。

 俺たちは結局王妃様とお茶はできずに帰宅することになった。

 王妃様は後始末をしなくてはならなくなったからね。


 でも、リディが別れ際にこれまでの御礼とお詫びをしたら。


「御礼もお詫びも、それは私がすることよ。お茶会や王子妃教育でリディアと過ごした時間は私の宝物なの。とっても楽しかったわ。リディアが娘になることも楽しみにしていたけれど、あんな息子にリディアは勿体ないわね。今、貴方が幸せそうで本当によかった。貴方が元気で笑ってくれてたら私もうれしいの。だから、これからもどうか笑顔で過ごしてね。今度はお手紙を書いていいかしら?」


 そう言われてリディは泣き出してしまって。

 そんなリディを抱きしめながら、王妃様は俺の方を向いた。


「ラディンベル。お話するのは初めてね?やっとお話することができたわ。貴方の調査結果にはいつも感心していたのよ?あの調査に何度助けられたことか。息子のこともたくさん助けてもらって、貴方には本当に感謝しているの。ありがとう。これからもリディアをよろしくね」


 まさか、俺が調査をしていたことまで知ってるなんて思わなくて。

 俺は、はい、と返事するのが精いっぱいだった。


 ちょっと泣いてしまいそうだったのは、内緒だ。


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