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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
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34.彼と彼女は母国に行く。

side ラディンベル

 俺とリディは、今、テーブルを挟んでダズル様と対面している。


 兄上から、王子の説得――なんだと思う、結局は――を懇願されて。

 俺たちの連れ戻し命令なんて到底従うことなんてできないけれど。

 状況を聞いたら、レンダルに行くことまでは断り切れなくて。

 こちらの状況が整うまで待ってもらうことにした。


 とはいえ、そのまま帰ってもらったわけではなくて。

 お疲れだろうからとリディが気を遣ってくれて。

 遠路はるばる来てくれた兄上と侍従のサムをもてなして。

 一晩泊めて、さっき、国境まで送ってきたところだ。


 そういえば、予想外のことばかりで兄上とサムが混乱していたから。

 リディだからって説明したんだけど、リディはご不満のようだった。


 でもね?

 前世知識のことは話さなかったけど、兄上は諸々察してたと思うよ?

 まあ、俺も、断りやすくするためだったんだけど、わざわざ爵位のこととか持ち出したしね。


 それにね?

 見たことのない魔道具に料理、魔法転送装置にマジックバッグ、極めつけは精霊王様による長距離転移なんて、規定外以外の何物でもない。


 それを齎したのが俺じゃないってことは兄上やサムが一番理解してる。

 リディが優秀なのはレンダルでも有名だったし、外交実績もあるしね。

 だから、総合的に考えれば、リディだから、で十分通じるんだよ?諦めてね?


 そんなこともありながら、兄上たちを送ってきて。

 帰宅した俺たちは、今、ダズル様と対面しているわけなんだけど。


 別に、ダズル様を単なる高性能移動手段として呼んだわけじゃなくて。

 実は、言葉は悪いけど、探りを入れるために呼んだのだ。


 今回兄上が持ってきた話は、昨夜のうちにサティアス家と陛下に手紙で知らせてある。どちらにも魔法転送装置があるから、すぐに届いたはずだ。


 義母上からは、デュアル侯爵に伝えるってことと、近いうちに招集をかけるって連絡が朝届いていたけれど、陛下からは特に連絡はない。

 まあ、それが当然だし、それでいいんだけどね。

 兄上には許可を取らないと、と言っておいたけど、たぶん、必須じゃない。

 でも、話だけはしておいたほうがいいはずだ。


 ってだけだから、別に返事はいらないんだけどね。

 反応は気になるよね?


 ってことで、陛下の様子を探るためにダズル様に来てもらったんだけど。

 たぶん、ダズル様も、単に俺たちの要請を聞いてくれただけじゃなくて、今回の話を聞いて、情報収集のために来たんだと思う。


「カインは……、まあ、苛ついておったな」


 ですよねー。

 陛下からしたら、外交時から狙いを付けてたリディがやっと国に来てくれたのだ。それなのに、わけのわからない理由で連れ戻そうとされてるなんて聞いたら、苛つくのもわかる。


「デュアル侯爵を呼んでおったから、お前たちには、後日侯爵から話があるだろう。にしても、本当に身勝手な王子がいたものだな」


 ええ。まったくです。


「お前たちは、行く気なのか?」

「王子のためじゃなくて、ラディのお兄様や王宮の人たちのために、だけどね」

「そうか。戻ってくるのだな?」

「それは、もちろん」


 ダズル様は、リディがはっきりそう言ったことに安心したようだった。

 それからは、やっぱり、レンダルでのことや今回の経緯の詳細を聞き出されて。

 俺たちも素直に答えて、ダズル様は帰って行った。

 もちろん、お土産という名の賄賂のために、ダズル様の分は当然ながら、陛下の分も料理やお菓子をお渡しするのも忘れなかった。


 ―――そして、その数日後。


 サティアス邸に、俺たちとデュアル侯爵が集まった。

 そこには、シェンロン様もいてびっくりしたけれど。


「シェロも来てたの?」

「我のことで、お前にくだらん難癖が付いていると聞いてな」

「そんなのシェロのせいじゃないのに。王子の難癖なんていつものことよ?」

「だが、お前たちがレンダルに行くなら、我も一緒に行って説明したほうがいいのではないかと思ったのだが」


 相変わらず、シェンロン様は律儀で優しいよね。

 ほんと、全然気にしなくていいのに。


「シェロ、ありがとう。気遣ってくれてうれしいわ。でも、今、レンダルで竜が飛んでたら、帰ってきてくれたと期待する人が出てきちゃうと思うのよ」

「そうだな。それに、リディアと一緒に行ったら、難癖を加速させてしまうだろう。シェンロンとリディアが仲いいことは一目でわかるからな」


 補足してくれたのは義父上だったけど、どっちもその通りだと思う。

 シェンロン様の気持ちはうれしいけど、逆効果にもなり兼ねないよね。


「なるほど。そうか」

「シェロの気持ちは本当にうれしいのよ?」

「いや、我も考えが足りなかった。だが、竜にならなくとも転移くらいはできる。ダズルは他国で力を使わないだろうから、移動手段が必要なら言ってくれ」

「ありがとう。場合によっては相談させてもらうわね」


 そっか。ダズル様の魔法はグリーンフィール限定なのか。

 他国で使えないわけではないと思うから、王家との契約なのかな?

 いろいろあるんだなー。


「シェンロン、ありがとう」

「貴方が味方でうれしいわ」


 義父上や義母上も、当然ながらシェンロン様と仲がいい。

 そういえば、リディは幼い頃からシェンロン様に懐いたらしくて、ご先祖様たちよりも頻繁に竜谷に行っていた、と聞いたことがあるから、今代のサティアス家は特別仲がいいのかも。リディは更に胃袋も掴んでいるしね。


「サティアスの者たちにはずっと世話になってきたのだ。これくらい当然だ」


 シェンロン様は当たり前のようにそう言った後、デュアル侯爵の方を向いた。


「こちらの話から先にしてしまってすまなかったな」

「いえ、全く問題ありません。お気遣いありがとうございます」


 それに、侯爵はちょっと姿勢を正して返事をして。

 今度は、侯爵が俺たちのほうを向いた。


「じゃあ、僕からは、陛下からの伝言を伝えるね」


 え、陛下直々の言葉ってこと?

 侯爵は、打ち合わせてきたのではなく、陛下の意思を聞いてきただけなのか。


「まず先に言っておくと、陛下は君たちをレンダルに戻す気はない。リディアは外交時から、そして今では、君たちはふたりとも商会で重要な立場にいるからね。陛下は、商会のことをすごく買ってくれている」


 リディは当然だけど、俺のことも評価いただいているのは素直にうれしい。

 でも、それは、王子の説得に行くのも許可が下りないってことだろうか。


「だから、基本的には国から出す気はないんだ。と言ってもね、君たちがあの国の現状に心を痛めていることもわかってるからね、行きたいなら止めることはないとおっしゃっていた」


 リディは、陛下のことを、腹黒だの、威圧感がすごいだの言っていたけど、根本的に恐れていなかったのは、こういう判断をしてくれる人だからなのかもしれない。っていうか、普通に優しい人だよね。


「ただし、向こうの命令に従わないことと、絶対戻ってくることが条件だ」


 その条件は、守れると自信を持って言える。

 リディと俺は、強くうなずいた。


「ああ、そうだ。それとね、行くなら、今まで我慢して言えなかったことも全部ぶちまけて来いって言っていたよ。リディアは冤罪だったのに言われっぱなしでこっちに来たみたいだし、ふたりとも、あちらの殿下には随分といいように使われていたと聞いているからね。ぶちのめしてこいってさ」


 続いた言葉に、俺たちはちょっと目を丸くしてしまったけど。

 陛下からそんな許可?が出てるなら心強い。

 そう思って、リディと顔を見合わせて笑ってしまった。


「リディアちゃんは行く気なのね?」

「お義兄様や文官の方たちの苦労はわかりすぎるもの。以前のわたしたちと同じような目に遭っているのよ。それなのに放っておけないわ。それに、レンダルが聞いた通りの状況ならマリアンヌ様が倒れてしまうと思うの。マリアンヌ様には、できれば直接お詫びと今までの御礼をしたかったから、可能ならこの機会に、とも思ってるんだけど」


 義母上の言葉に頷いてから答えたリディの話の内容にちょっと驚いた。

 前半はわかるんだよね。俺も同じだから。


 でも、後半のことは思ってもいなかった。

 マリアンヌ様――レンダルの王妃様――の話は、こっちに来てから一度も聞いていなかったから。


 確かに、頼りない陛下を支えるべく、王妃様は執務にも積極的だったと聞くし、文官たちからは陛下よりも頼られていると聞いたこともある。

 今の状態なら、それはもう大変だと思う。


 リディのことだから、最後に手紙くらいは書いただろうけど、挨拶する間もなく出てきたことを後悔してたんだろうか。


「マリーは今、執務で精いっぱいよ。それで息子の教育ができないことを嘆いていたわ。リディアちゃんには、申し訳なくて顔も合わせられないって言ってたけれど。そうね、会ってあげたら喜ぶわ」

「お母様、マリアンヌ様と連絡とってるの?」

「学生時代からの友人だもの。リディアちゃんのこと、ずっと気に掛けてるのよ。でも、自分の話をしたらレンダル時代の嫌なことも思い出すだろうからって、話をしないように言われていたのよ」

「そんなことないのに。わたし、ちゃんと殿下の婚約者ができなくて幻滅されたんだと思ってた……」


 リディはそう言って泣きそうになってしまって。

 俺は、義母上が慰めるのを見ていることしかできなくて歯がゆかった。


 そして、リディが落ち着くのを待って、義父上が口を開いた。


「王妃殿下にはリアンティアから知らせてもらうようにしよう。私たちも一緒に行くことも考えたんだが、それだと余計に面倒なことになりそうだからな。今回はふたりに任せるよ。遠慮せず、言いたいことを言っておいで」


 確かに、義父上たちが来てくれたら更に心強いけど、それこそ、戻ってこいとか言われ兼ねないしね。俺たちだけで行くのがいいと思う。


 そうして、俺たちのレンダル行きが決定した。


 それからの俺たちは、とにかく、旅立つ前の仕事の処理に忙しくて。

 いや、商会の仕事はもう落ち着いているし、お弁当屋さんについても、ある程度のことは決まってるから、店舗探しの依頼と内装の希望を出すくらいでよかったんだけど。


 漁港のある町での食品加工事業のほうがね。

 もっとゆっくり進めるはずが、数日仕事を休むことになってしまったから。

 事業の肝になる知識を持つリディがいなくても進められるように。

 必死で事業計画案を書面にまとめて、俺も手伝って、何とか片付けたのだ。


 その間、俺はレンダルの兄上にも連絡を取って。

 陛下を始めとするみなさまの許可が下りたことと、その条件。

 そして、レンダルに行く日程を伝えたら、俺たちがレンダルに到着する日の翌日に、殿下との面会の場を設けたという返事が返ってきた。


 その内容を、こちらの面々にも伝えて。

 仕事の方も最終確認をして。

 リディは、陛下にレンダルとの外交の再検討をお願いする手紙も書いたりして。


 そんなことをしていたら、あっという間に旅立つ日になった。


 当日は 義父上と義母上、デュアル侯爵が見送りに来てくれて。

 侯爵から、王家の紋章の入った封筒を渡されて慄いた。


「気を付けてね」

「シェンロン、よろしく頼むよ」


 そうなのだ。

 やっぱり、ダズル様は他国では魔法を使わないようにしているらしく――加護を受けられると勘違いされるのを避けるためだそうだ――、今回は、シェンロン様が転移で送ってくれることになった。


「わかっておる。場所も確認したし、大丈夫だ」

「行ってきます」

「向こうに着いたら、すぐに連絡します」


 そう言って、俺たちはレンダルに向かった。


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