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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
34/149

33.彼女と彼は兄をもてなす。

side リディア

 お義兄様――ラディのお兄様――が頭を下げ続けている。


 突然やってきたお義兄様に何事かと思えば。

 レンダルの王子からわたしたちの連れ戻し命令が出ているという。


 話を聞けば、レンダルは今混乱していて。

 それは、わたしが無責任に国を出てきたことも理由のひとつで。

 いくら王子の所業にむかついたからって、引継ぎもせずに出てきたことを今更ながらに反省した。大人げなかったと思う。

 だから、外交については陛下に進言くらいはするつもりだ。


 でも、王子の命令には従えない。

 代わりに仕事をしていたわたしを冤罪までかけて追放したくせに、自分が仕事をするのが嫌だからって今更連れ戻そうとするのはあまりにも身勝手すぎる。


 ラディはお義兄様のお話を聞く間、ずっとわたしの味方でいてくれて。

 外交の話でわたしが落ち込んだら、こっそり慰めてくれて。

 王子の命令の話では、わたしを全面的に肯定してくれて断ってくれて。

 わたしは凄くうれしくて心の中で何度もラディに感謝した。


 お義兄様も、わたしたちの言い分はわかってくれているようだったから。

 せっかく来ていただいたけどお断りしてこの話は終わりなのかと思えば。


 お義兄様が一緒にレンダルに帰ってほしいと言って頭を下げてきた。


 そして、今に至るのだけど。

 さすがにこの展開は考えてなかった。


 だって、一緒にレンダルに行ったところで返事は変わらない。

 わたしたちには断る以外の選択肢はないのだから。


 だからって、このまま頭を下げさせておくわけにはいかないわよね。


「あの、頭を上げてください」

「うん。兄上、頭を上げて。なんで、そこまでして一緒に行ってほしいの?」


 そうよね。

 そこまで頭下げてまで頼んでくる理由をわたしも知りたい。


「こんなことを頼んですまない。さっきは逆らえないとは言ったが、俺たちも一応命令解除に向けて動いたんだ。お前たちが断ることなんて明白だったから。でも、俺たちが何を言ってもどうにもならなくてな。更に仕事をしなくなるし、癇癪は酷くなる一方で。関わっている文官たちも爆発寸前なんだ。このままだと、文官たちは一斉に辞めかねない」


 え、そこまで酷いの?

 癇癪を起すのは昔からだけど、悪化してない?


「それで、本人たちから断ってもらったら理解してくれるんじゃないかと」


 それはどうかしら。

 あの王子、都合の悪いことは認めない人だけれど。


 でも、今の王宮の状況を聞いたら無下に断れない。


「はあ……。そこまで酷いのか。でもなぁ……」

「そのような状態ならば、みなさまのお気持ちお察しします。でも……」


 たぶん、わたしとラディは同じ気持ちだ。

 現状を聞かされてここまでされたら、行ったほうがいいとは思う。

 でも。


「俺たちも仕事があるし、さすがに一緒に行くのは難しい」

「そうね。行くとしても、すぐには行けないわよね」

「そこを何とか!」


 うわー。本当に必死だ。

 これはどうにかしてあげたいけど。でも、難しいわよね。


「っていうかね、兄上。そもそも俺たちだけの独断では無理なんだ。義父上や義母上はもちろん、陛下や侯爵にも許可を取らないと国を出れない」

「は……?陛下にも、か……?お前たちは平民だと聞いてるんだが。この国では、平民が少し国を離れるのにも、陛下の許可が必要なのか?」

「いや、そうじゃなくて。リディは陛下のお気に入りなんだ」


 え、ラディ、その言い方は語弊があると思う。


「そう、なのか?」

「兄上は口外しないと信じて言うけど、陛下はリディの能力を買っているんだ。爵位と領地を与えようとしたくらいに。リディは辞退したけどね」

「………そうだったのか」

「それに今回は理由が理由だ。そんな理由で陛下がリディを国から出すわけがない。それは、義父上や侯爵だってそうだと思う」


 あの、ラディ?

 何か、わたしがすごい人っぽくなってない?

 わたしのこと持ちあげすぎじゃないかしら?


 って思ってラディを見たら、反論はさせないって顔された。

 えー。そこまでじゃないわよ?


「だからね、行くとしても、最短で二週間後。できれば一ヶ月は見てほしい」

「となると、レンダルに来るのは一ヶ月以上先になるってことか?」


 ん?最短で二週間って言ってるのに、なぜに一ヶ月以上になるの?


「え、いや、そこまでかからないけど」

「いやでも、ここからレンダルまでは半月以上かかるだろう?」

「「え?」」


 いくら何でもレンダルに行くのにそこまでの日数はかからない。

 これは、わたしたちに認識の違いがありそうだわ。


「あの、兄上?もしかして、ここまで、ずっと陸を走ってきた?」

「そりゃそうだろう。レンダルは内陸国だぞ?海に出るほうが大変だ」

「そうじゃなくて、この国には公共の転移陣があるんだけど」

「は?」


 うわ。お義兄様、まさか、転移陣使わずにここまで来たの?

 なんてことだ。

 それなら半月以上かかってもしょうがないけど、なんて疲れることを。


 それから、ラディから公共の転移陣の話を聞いたお義兄様は。

 信じられないって顔して固まっていた。


 あ、驚いたときのラディと同じ反応だ。

 さっきみたいに大きな声出すのは珍しいことだったのかしら。


「帰りは送るよ………」


 そうね。そうしましょう。


 ちょっと話が逸れてしまったけれど、話を戻して、仕事の話も含めてわたしたちの状況を知ってもらって、独断で国を出れないことをわかってもらって。

 レンダルに行くにしても、少し時間をもらうことにした。


 とはいえ、その間、通常の手紙のやり取りでは時間がかかるから。

 グラント家にお渡しする予定だった魔法転送の装置を持って帰ってもらおう。

 ――お義兄様はその装置にもびっくりしてまた固まってしまった。


「こっちでの話し合いの内容や判断結果は随時連絡するから」

「わかった。何とか、レンダルに来れるように調整してくれ。頼む」


 できるだけ、がんばります……。


「じゃあ、兄上。この話はこれで終わりね」


 そうね。

 終わりにして、お時間があるなら休んでいかれてはどうかしら。

 ずっと陸を馬で来たのなら、絶対に疲れているはずだもの。


「あの、帰りは転移陣を使うならば、一日二日はこちらにいられます?」


 わたしのこの言葉に、お義兄様は不思議そうな顔をしたけれど。

 ラディはわたしが言いたいことがわかったようだ。


「リディ、いいの?」

「せっかく来ていただいたのだから」

「そう。ありがとね。じゃあ、兄上、泊っていきなよ」

「は?」

「一泊したって、予定よりも早く帰れるんだからいいでしょ?」

「あ、ああ。それはそうだが。いいのか?」

「お部屋はありますから」


 そんなことを話していたら、珍しく精霊たちがやってきた。

 いつも畑に居て、知らない人がいるときはあまり出てこないのに。


『りでぃー。らでぃー。そとにだれかいるよー』

『さっきからいえのなかをみてるのー』


 え、もしかして、お義兄様以外にも探っている人がいたの?

 ちょっとびっくりして、ラディと顔を見合わせて。

 ラディに外に見に行ってもらったら。

 ――精霊を初めて見たらしいお義兄様はまた固まっていた。三回目。


 驚いたことに、ラディは外にいたらしき人物を連れてきた。

 でも、わたし、この方に見覚えがある。


「もしかして、卒業パーティーの時にラディと一緒にいらした方?」

「リディ、すごいね。覚えてたんだ」


 そうよね。やっぱり、あのときのラディの侍従さん。

 聞けば、お義兄様と一緒に来ていたんだけど、帰りの食料とかを買いに行っていたのだとか。ラディとはあれきりだったから心配していて。それで、今回、お義兄様にお願いして付いてきたと聞いて、ちょっとほっこりしたわ。


 それに、伯爵家の嫡男であるお義兄様がひとりで来てるのはおかしいと思っていたから、侍従さんも一緒だと聞いて一安心。

 お義兄様が無謀なことしてなくて本当によかった。


 ということで、侍従のサムさんも一緒に泊まることになって。

 ラディにはこの家の案内をしてもらって。

 わたしはおもてなしの準備を始めた。


 夕食は何にしようかしらね?

 お義兄様やサムさんは、ラディと好みは似ているのかしら。

 でも、あまり冒険はしないほうがいいわよね?


 そんなことを考えながら料理をしていたら。

 お義兄様たちが、商会の洋服を着て戻ってきてびっくり。

 お義兄様はがっちりしているから、ラディの服だとちょっとパツパツだけど。

 でも、おふたりとも似合ってるわ。


「この家は何もかもがすごいな」

「本当に。夢みたいな空間です」


 そう言ってもらって、ラディと顔を見合わせて笑って。

 あと少しでお料理もできあがるから、席に座ってもらって。

 サムさんが使用人だからと遠慮するのを無理やり同じテーブルに座らせて。

 ラディに、できているものからテーブルに並べてもらって。

 私も料理の仕上げをして、席に着いて。


「ようこそ、グリーンフィールへ」


 そう言ってエールで乾杯をした。


 テーブルには、野菜スティックにポテトサラダにローストビーフ。

 唐揚げにフライドポテト、そしてペスカトーレが並んでいる。

 マヨネーズとケチャップも忘れてはいない。


 なんだか雑多な居酒屋みたいなメニューになってしまったけれど。

 喜んでもらえるかしら?と思っている間に、お義兄様とサムさんはがつがつ食べ始めていた。お口に合ったならよかったけど、足りるかしら……。


「どれもうまい!」

「本当においしいですね。ラディン様、いつもこのようなお食事を?」

「うん。そうだよ。羨ましいでしょ?」

「惚気か!まったく、全然連絡してこないと思ったら、誰よりも快適な生活してやがって。殿下の件で来てはいるが、お前の様子も見てこいって父上に言われてきたのに、報告する気も失せるくらい幸せそうだな、お前」


 幸せそう?本当に?

 ラディは、この国に来てよかったってよく言ってくれるけど。

 おふたりもラディがこの国に来た事、よかったと思ってくれるかしら。

 そうだったらうれしいな。


「うん。おかげさまで。幸せに暮らしてるよ」

「まあ、お前を見てすぐわかったよ」

「ええ、本当に。こんなに活き活きしているラディン様は初めてみました」

「リディア嬢、いろいろとありがとう」

「えっ」


 まさか御礼を言われると思わなくて、少し挙動不審になってしまったけど。

 わたしは大したことはしていなくて、ラディにどれだけお世話になっているかを熱く語ったら、ラディに止められて。それをおふたりに笑われて。


 ちょっと和んだところで、わたしを呼び捨ててもらうことと、お義兄様と呼ばせてもらう――実は本人にはまだそう呼んでない――ことを了承してもらった。


 その後は、水道や魔道具の話になって。

 わたしがアイデアを出していることは伏せて、この国の水環境や商会のことを話したら、おふたりともすごく驚いたけれど。

 ラディが大活躍していることも話したから、ラディを冷やかしながらも、ちょっと誇らしげにされていて、微笑ましかったわ。


 ちなみに、やっぱり料理は足りなくてピザとリクエストの唐揚げを追加した。


 そうして、翌日。

 三人がバスケに夢中になっている間に、わたしは大量の料理を用意して。

 その料理と魔法転送の装置をマジックバッグに入れてお義兄様にお渡しして。

 ダズルを呼び出して、お義兄様とサムさんを国境までお送りした。


 おふたりとも、多分、いろんなことが理解できていなかったけれど。

 ラディが、リディのやることだから、とかいうわけのわからない説明をして。

 おふたりもそれに何故か納得されて、何度も御礼を言ってから帰って行った。


 とりあえず、ラディにも納得されたおふたりにも、いろいろ問いただしたい。


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