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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
33/149

32.彼と彼女はため息をつく。

side ラディンベル

 兄上が突然やってきて、不穏なことを宣った。


 リディと御礼の海鮮パーティーを開こうということになって。

 楽しくなってきたところに一報が入って。

 俺たちが探られていることを知らされた。


 リディが持つ知識の価値は計り知れないから。

 画期的なアイデアを出し続けているのがリディだということが知れ渡ってしまったら、リディ争奪戦が始まってもおかしくはないと思う。それがわかっているから、リディを知る人は彼女のことを広めることなく陰ながら守ってきたのに。


 それがここに来て探られているなんて。

 最近のやらかし――悪い意味でなく――は缶詰だったけど、それは、商会の事業として広まってるから、リディ個人が注目されることはないはずなんだけど。


 でも、リディの知識が使われているのは商会だけだから。

 ――それ以外にもないわけではないけど、俺が恩恵を受けるくらいだ。


 商会の拠点があるデュアル侯爵領で探られていることから考えても、知識狙いだとあたりをつけて、仕事もすべて自宅作業に切り替えて護衛に当たってきた。


 まあね、リディとずっと一緒にいれるわけだから、正直うれしいし。

 こんなことで喜んではいけないと思いつつも、ここぞとばかりに側にいて。

 絶対にリディを守り切ろうと護衛してきたけど。


 まさか、探ってるのが兄上だとは思わなかった。

 しかも、探られた原因は、俺が居場所をちゃんと伝えてなかったからで。

 影が無駄な矜持を示して自分で探そうとしたから、俺たちも無駄に警戒に当たることになってしまったけど、まあ、変な誘拐犯とかじゃなくてよかったかな?


 そう思ったのもつかの間。


 来た理由を聞けば、俺たちを連れ戻す?

 意味が解らないんだけど。


 言いたいことはたくさんあるけど、まずは話を聞くことにしたら。

 やっぱりうんざりするような内容だった。


「今、レンダルは大変なことになっている」


 うん。俺でも想像がつくよ。

 あの王子の暴走は、結構な余波を残したと思う。

 それに、あのお方もこっちにきてしまったしね。


「シェンロン様のことで?」

「それはもう国中で大騒ぎだ。だが、それについては何ができるわけでもないし、生活が変わったわけでもないしな」


 何かするとすれば、守護をお願いするとか契約するとかになるんだろうけど、それはあまりにも人間に都合がよすぎる。


 だって、今までシェンロン様と友好的な関係を結んでいたのはサティアス家だけで、他の人間や国は何もしていなかったんだから。

 俺だって、何かをした覚えはないし。

 それなのに、恩恵だけを欲しがるなんて厚顔無恥なこと、できないよね。


 聞けば、ほんの少し、見捨てられただの、裏切られただの言う人がいるらしいけど、ほとんどの人は、少しずつ事実を受け入れ始めているんだそうだ。

 竜との神話――捏造なんだろうけど――を掲げていた神殿が困ってるって話も聞いたけど、まあ、それも言ってみれば自業自得だ。


 ともかく、聞いた限り、シェンロン様が悪者になっていないようでよかった。


「問題はそこじゃないんだ。今、王宮は大混乱していてな」


 ああ、やっぱり。

 王子の暴走の余波は未だに広がっているようだ。


「まず、新しく宰相になったアンディ―ル公爵が使えない」


 リディと顔を見合わせて、同時にため息をついた。


 いや、わかってたよね?

 前宰相の義父上の頭脳と業務処理能力が異常だったことなんて。


 俺も、今、商会で目の当たりにしているけど、本当にすごいからね?

 瞬時に物事を見抜いて、誰よりも早く的確に判断して動くあの手腕は、真似したくたってできるもんじゃない。調査結果あってのことだよって言ってくれるけど、それにしたって凄いと思う。


 アンディール公爵は、義父上が当たり前みたいな顔をしてやってたから自分にもできると思ったんだろうけど、あれ、俺からしたら神業だから。


 権力欲に負けて、義父上を引きずり落した代償は大きかったね。

 公爵、ご愁傷様。

 周りの人間だって、今の人事に反対しなかったんだから文句は言えないよ?


「そして、グリーンフィールとの外交がうまくいっていない」


 これには、リディが目を伏せて俯いてしまった。

 慰めたいけど、兄上の前ではさすがにし辛いな。

 一瞬だけ、テーブルの下で手を握ってしまったけど、勝手に触れてごめんね。

 こんなことしかできなくて情けないんだけど、リディが悪くないことはわかってほしい。


 ずっと良好とはいえない関係が続いていたグリーンフィールとの外交を成功させたのはリディだ。強引に言えば、リディだから成り立っていた外交だったのだ。


 そんなリディを追い出したのはレンダル――王子だけど――だし。

 グリーンフィールはその経緯も知っている。


 こんなの、今でも外交がうまくいってたら、そのほうが不思議だ。


 でも、こんなことを聞かされたら、リディは動いちゃうのかな。

 動かなくてもいいと思うけど、リディが変な罪悪感を持つのなら俺も協力しようと思う。


「一番の問題は、ハインリヒ第一王子殿下だ」


 この言葉に俺とリディは同時に顔を上げて。

 再度顔を見合わせて、再度ため息をついた。


 うん。これは、一番想像がつく。

 きっと仕事から逃げ出したり、やらなくちゃいけないことが多くて癇癪を起こしたり、例え仕事をやったとしても、まともにできないことが多いんだろう。


 聞けば、俺の予想は大方外れてはいなくて。

 殿下も側近――あの学友たちは側近になったらしい――も、今までさぼっていたツケが回ってきていて、それはもう酷い仕事ぶりなのだそうだ。


 おまけに、シェンロン様の件についても、リディが誑かしてグリーンフィールに連れて行ったなんて、ふざけた難癖をつけているという。

 これには、さすがに俺もむかついて。

 思わず兄上をすごい形相で見てしまったけど、兄上は悪くないので謝っておいた。ごめん。


「そんなわけで、お前たちの連れ戻し命令が出た」


 どんなわけだよ。

 言いたいことはわからなくもないけど、わかりたくない。


「ちなみに、それは、誰からの命令?」

「ハインリヒ殿下だ」


 そう聞いて、リディと同時にまたため息をついた。

 もう、俺もリディもため息をつくことしかできないよね。


「あの、でも、わたしたちが国を出て、もう九ヶ月?くらいは経っているんですけれど、今になってそのようなご命令が出たんですか?」


 そうだよね。今更が過ぎる。

 ここまでリディがいなくたってやってきたんだから、もうよくない?


「ああ、実は、お前たちが国を出てから、殿下たちはしばらくは謹慎となったんだ。みな高等学院に進んだから、それまでの短い期間だが」


 高等学院、行けたんだ。

 まあ、王立学園はなんとか卒業できたんだから、最低限の学力はあったのかな。

 高等学院を卒業しないと箔もつかないしね。行くしかないんだけど。


「俺としては、その謹慎は、沙汰が下りるまでの自宅待機だと思っていたんだが、今思えば、あれが、沙汰だったんだろう」


 は?結構なやらかしだったと思うんだけど、それだけだったの?

 相変わらず、レンダルの陛下は息子に甘いよね。


「その謹慎中にリディア嬢の冤罪が晴らされたし、不貞も咎められたから、殿下も自分が何をしたか理解できていると思っていたんだが、そうでもなかった」


 だろうね。

 あの人は、言い訳と話のすり替えだけは得意だ。

 自分の正当性を主張していてもおかしくはない。


「それで、さすがに周りも困ってな。根底から変えないといけないとわかって、学院に通わせる傍ら、王子教育を再度やり始めたんだ。半年続けて、三ヶ月前から執務も少しずつ任せるようになった」


 そうしたら、まともにできなかったと。


 これまでは俺たちが代わりに仕事をやっていたことを知って。

 その俺たちがいない現実を思い知らされて。

 で、癇癪を起して、俺たちを連れ戻せと喚き始めたと。


 バカなの?

 知ってたけど。


「そんなわけなんだ」


 だから、どんなわけだと問いただしたい。

 明らかに自業自得。俺たちに話を持ってこないでほしい。

 でも、今になってこんな話になったことはわかった。


「そうは言われましても、わたしたちは既にグリーンフィール王国民なのです。レンダルでも除籍されていますのに」

「そうだよ。そもそも、リディを追い出したのは殿下だ。俺は付いてきただけだけど、その理由も知ってるだろうし、別に反対してなかったでしょ?それで俺たちは他国民になったんだ。それなのに連れ戻すって、おかしくない?」


 兄上に怒ってもしょうがないんだけどね。

 思わず責めるような口調になってしまう。


「わかってる。それでも俺たちは臣下だ。王族の命令に逆らえない」


 それを言われると、こっちも強く言い辛い。

 でも。


「俺はまだしも、リディは、何年も殿下の代わりに執務をやって、殿下が引き起こす騒動の後始末をしてきたんだ。めちゃくちゃ大変だったと思うよ?王子妃教育だってあったし、外交まで任されてたんだから。それだけ殿下に、国に尽くしたリディにあんな仕打ちをしたのは殿下だ。それなのに今更戻ってこいなんて虫が良すぎるよ。今、俺たちはグリーンフィール王国民で、レンダル王族の臣下でもない。従う理由なんてないよね?」


 俺が一気にそう言ったら、兄上も黙ってしまって。

 少しの間を置いたあと、諦めた顔をして口を開いた。


「わかってる。断られることなんてわかってて言いに来たんだ」


 兄上がわかってて来ているのは俺だって理解している。

 さっきから何度も、わかってる、って言ってくれてるし。


「うん。わざわざ来てもらって悪いんだけど、だからって、こっちも、はいわかりました、とは言えないよ」


 これは譲れないよね。


 っていうかね?

 俺、さっきからずっと思ってたんだけど。


「ねぇ、兄上。この話、手紙でもよくない?」


 レンダルからここは遠いし。

 きっと兄上も忙しいだろうに、ここまでくる必要なんてないよね?

 しかも、事前連絡なしに突撃するほどのことはないと思うんだけど。


「手紙で送ったら無視しただろう?」

「無視はしないよ?………………………断るけど」

「事前に連絡したら逃げただろう?」

「逃げもしないよ?………………………断るけど」


 さすがに、無視したり、逃げたりはしないよ?


「でも、こうやって来ないと説得ができない」

「いや、説得されてもこっちの返事は変わらないし。え、もしかして、俺たち、今から説得されるの?」


 それは面倒なんだけど。


 リディは説得の言葉に驚いたのか目を丸くして首を振っている。

 だよね、説得されても無理だよね。

 俺たち、どれだけ説得されても返事は変えないよ?


 そう思ってたら、兄上が突然、がばっと頭を下げた。

 え?なに?


「頼む!一度でいいから、レンダルまで来てほしい!来るだけでいいんだ。どうか、俺と一緒にレンダルまで帰ってくれ!」


 そう言って、兄上は頭を下げ続けた。


 説得内容はこれか。

 これって、突撃して拉致しに来たって言ってるようなもんだけど。


 俺とリディは、そんなことを思いながら兄上のつむじを見つめて。

 同時にため息をついた。


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