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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
31/149

30.彼と彼女はお茶会に行く。

side ラディンベル

 リディが爆弾を落とした。


 お弁当屋さんの出店許可を取るためにミンスター邸での交渉の場を作って。

 実際に食べてもらって、無事許可を得て。

 その後、付随する提案をしたら、やっぱりみなさまが唖然として。

 でも、この人たちが、その有益性に気づかないなんてことはあるわけもなく。

 保温水筒も、米の輸入も、そして、マリンダでの食品加工も。

 この場では、ほぼ決まったも同然となった。


 リディの料理があってこそだけど、ここまではそれなりに順調にきたはずだ。

 でも、リディの爆弾発言によって、場は沈黙に化した。


 缶詰が戦の理由になる。


 その発言に俺ははっとして。

 俺のオムライスや親子丼や牛丼がみんなのお腹に消えたことも吹っ飛んだ。


 確かに、俺が産まれてからは母国でも周辺国でも戦は起きていない。

 大陸の西側にある帝国周辺では今でも国盗りの戦が行われているけれど。

 東側は、多少のいざこざはあっても、比較的平和に過ごしている。

 騎士や冒険者の討伐も盗賊や魔獣相手で、戦が起こることはない。


 だから、戦のことなんてすっかり頭から抜けていたけれど。


 戦を断念させる理由のひとつである食料問題が解決できるなら。

 缶詰を携帯することで長期遠征が可能になるのなら。

 好戦的な人は戦をしようと動き始めるかもしれない。

 リディは携帯食に反応していたから、そこを気にしたのだと思う。


 でも、もうひとつ。

 缶詰の技術を狙われて、攻め込まれる可能性だってある。


 たぶん、みながそんな考えに陥っていたと思う。

 しばらく続いていた沈黙を破ったのは義父上だった。


「………。なるほど。そういう可能性があるか」

「陛下は、今のところは考えていないはずだけど。だからって可能性がないわけじゃない。確かに気にしておかないといけないね」

「いや、でも、缶詰は遠征や討伐に便利だぞ?騎士団や冒険者は喜ぶ。それに、遠洋の漁師も欲しいはずだ。戦に使わないって約束で作ってはくれねえか?」

「確かにね、それはそうだし、僕も作りたいよ」


 デュアル侯爵がそう言った後はまた沈黙が続いて。


「できるだけ実現させる方向で進めたいとは思ってる。でも、一度、陛下に相談させてほしい。どのみち、新商品は献上しなくてはならないんだ」


 その言葉で、その日はお開きとなった。


 リディは、最後にみなに、今更気づいてごめんなさい、と何度も謝っていて。

 帰ってきてからも、しばらく落ち込んでしまって。

 俺は必死に慰めたけれど、笑顔が戻るまでは少し時間がかかった。


 リディが少しずつ笑ってくれるようになって、仕事も再開させて。

 俺たちの仕事は落ち着いていることもあってのんびりとさせてもらっていたけれど、デュアル侯爵はものすごい速さで仕事を進めてくれていたようだ。


 あの交渉の日から半月後には、あらゆる準備が整っていた。


 まず、ジングとの米と調味料の貿易が始まった。

 おまけに友好国の同盟まで結んでいた。


 そして、マリンダを始めとする漁港のある町で食品加工事業が進められることになった。リアン商会が主導権を握るけど、国も支援してくれるそうだ。


 問題の缶詰も製造が決定されている。

 陛下は、戦をしないことと防衛強化を約束してくれたと言う。

 防衛強化にはダズル様も協力してくれるというから、恐らく鉄壁の防衛だ。

 それと、技術管理も徹底することになっている。


 それらが決まった背景には、当然ながらリディの料理があって。

 デュアル侯爵から何度か料理の依頼があったから、きっと、それを陛下に持って行って交渉したんだと思う。


 それに関連してか、リディは、今回、かなりのレシピを売ったようだ。

 マルコさんが喜んでたけど、リディもものすごく稼いだだろうな。


 あ、マルコさんと言えば、職人を本当に見つけてきてくれて。

 保温水筒も製造が開始されることになった。


 そうして、問題も片付いて、俺たちも日常の仕事に戻って。

 お弁当屋さんや食品加工事業についても話を詰めていって。

 俺たちが目指していた平民ライフに向かって、また少し忙しくしていたら。


「ラディ、お茶会のお誘いが来たわ」

「誰から?」

「アンヌ様」


 …………王家からのお誘いか。

 これは、商会や缶詰のことを聞いてのことかな。

 だとしたら辞退したほうがいい気もするけど、王女様なら大丈夫かな?


 リディはだんだん前みたいにかわいく笑ってくれるようになったけど。

 王女様とは仲がいいし、気心知れた人と会えばもっと元気になるかもしれない。


 それに、王女様は、今、十八歳で、学院を卒業したら、グリーンフィールの西の隣国――レンダルの南の隣国――ドラングル王国に嫁ぐと聞いた。

 だから、今のうちにリディと会っておきたいのもわかるんだよね。


「そっか。気を付けて行って来てね」

「ええ?ラディも行くのよ?」

「俺も行くの?」

「一緒に行ってくれないの?」


 …………行きます。

 リディ、上目遣いは反則だと思う。俺も大概単純だけど。


 そして、あっという間にお茶会の日になって。

 いつものようにダズル様に迎えに来てもらって王宮に行ったら。


 お茶会が開かれる庭園に向かう途中でよりにもよって第二王子に出くわした。

 俺たちは礼を取って、通り過ぎるのを待ったんだけど。


「リディアじゃないか。王宮にいたのか、ちょうどいい。話があるんだ」


 は?あんたに会いに来たわけじゃないけど。

 何言ってんの?と、眉が寄りそうになるのを必死に我慢してたら。

 あろうことか、リディの手を引こうとした。


 俺は咄嗟にリディを抱き寄せて、腕に囲ったんだけど。

 ああ、もちろん、すぐに抱きしめた手は離したけどね。


「誰だ、お前。邪魔をするな」


 と言われて、さすがに眉が寄った。


「何を言ってるんですか。リディア嬢の旦那様でしょう?殿下は一度お会いしていると聞いていますが?」

「ああ、お前が旦那か」


 側近らしき人が間に入ってくれたけど、ほんとむかつくな、この王子。

 一応お辞儀はしたし、名乗らなくてもいいよね?


「おふたりはご用事があって王宮にいらしているのですから、邪魔をしてはいけません。殿下、行きますよ」

「別に少しくらい構わないだろう」


 いや、構うし。

 早く行ってくれないかな、と思っていたら、助けが入った。


「リディア!」


 庭園まですぐのところだったから、王女様が気づいて来てくれたようだ。

 ありがたい。


「この方たちはわたくしのお客様です。あなたは鍛錬があるでしょう?」

「姉上、少しくらいいいではないですか」

「よくありません。グレン、早く、この子を連れて行って」

「はい、王女殿下」


 側近の人はグレンっていうんだな。

 王子の腕を取って引っ張っていったし、強引そうだけど。

 あの人がいるから、王子もやっていけてるんだろう。


「リディア、ラディンベル。愚弟がごめんなさいね」

「こちらこそ、わざわざ申し訳ありません」


 ふたりで礼をとってお詫びをしたけれど、王女様は、謝るのはこちらよ、と申し訳なさそうに言って、そのまま庭園まで連れて行ってくれた。

 王女様は変わらずリディの味方なことがわかってうれしい。


 そして、庭園に着いて、お土産のリディ自信作のマーブルケーキを渡して。

 和やかにお茶会が始まったんだけど。


「ふたりとも、大活躍のようね?」

「アンヌ様、唐突に何のお話ですの?」

「わたくし、リアン商会の商品をすべて取り寄せたのよ?素晴らしい品ばかりで驚いたわ。あなたたちが進めていたんでしょう?」

「まあ、ありがとうございます。確かにわたくしたちも商会に籍は置いていますが、すべては母とデュアル侯爵の采配の賜物ですわ」

「うふふ。謙虚ね。でもそうね、あのおふたりも、とても優秀ね」


 これは、結構な勢いでいろんなことがばれてる気がする。

 たぶん、缶詰のことも知っているんだろうけど、諸々深く突っ込んでこないところが王女様だな。


「ああ、そうそう。湯殿の改装もお願いしたのよ。わたくし、湯あみはひとりで済ませるのだけど、シャワーを付けてもらって物凄く快適になったわ」

「え、そうだったんですの?改装を商会に?」


 ああ、そうだった。王宮からもリフォーム依頼が来てた。

 けど、バスルームのリフォームのことは、リディに黙ってたんだよね。

 俺が改装の言葉に反応してしまったのがバレてないといいんだけど。


「え、ええ。その依頼も多いと聞いてるのだけど……。わたくし、何かいけないことを話してしまいました?」


 ……バレてた。王女様、目敏いですね。

 リディも俺が怪しいとわかったみたいで、こちらをじっと見ている。


「いえ。おかげさまで、改装のご依頼はたくさんいただいています。ショールームをご覧になった方に興味を持っていただいたようで」

「そうなの?それなら、技術者が足りないでしょう?言ってくれればいいのに。わたしも現地調査くらいならできるわよ?」

「そう言うと思って言わなかったんだよ」

「わたしじゃ、不安だってこと?」

「違うよ。リディはひとりでも行っちゃいそうだし、一緒に行けないのに誰ともわからない家に行かせるわけないでしょ?」


 思わず、王女様そっちのけでリディと話してしまったら。

 王女様のくすくす笑う声が聞こえてきた。


「ふふ。そう言うことでしたのね?ラディンベル、余計なことを言ってしまって申し訳なかったわ。それにしても、ふたりはとっても仲がいいのね?」

「「えっ?」」


 まさか、そんな突っ込みをもらうなんて思わなかった。

 でも、自分の発言を思い起こして、揶揄われるのも自業自得だと気づく。

 俺、めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってたね?


 顔が赤くなってるのは自覚してたけど。

 無駄に誤魔化して、王女様が嫁ぐドラングル王国の話に誘導したりして。

 王女様も全部わかったうえで誘導されてくれて。


 リディもちょっと顔が赤くなってたから、勘づいたかもしれない。

 でも、ふたりで王女様の話を盛り上げて。

 恥ずかしかったことなんてなかったように、ドラングルと王女様の婚約者の王太子殿下の話に徹した。


 そうして、お茶会を楽しく過ごして。

 またダズル様に送ってもらって帰ってきたんだけど。


「ラディ、今日はありがとうね」

「え?お茶会に行ったこと?」

「それもそうだけど、助けてくれたこと」


 ああ、第二王子に出くわしたことか。

 そんなの当たり前なのに。

 というよりも、抱きしめちゃって嫌じゃなかったかな?


「あー…。咄嗟だったから、引き寄せちゃってごめんね?」

「ううん。えっと…………、うれしかった、よ?」


 え?今なんて?

 うれしかった?本当に?


 それは、俺の都合のいいように受け取っていいんだろうか。


 最近は、俺も堪え性がなくて、リディが落ち込んでたら髪を撫でてしまったり、呼ぶときに肩に触れてしまったりして、スキンシップが増えていると思う。

 いや、だって、やっぱりね?

 好きな子が目の前にいるわけだし。無意識に手が伸びちゃうんだよね。


 嫌がられていないみたいだったから、調子に乗ってたとは思うけど。


 でも、この反応は。

 俺、もっと調子に乗っていいんだろうか。


 ……いや、それはしないにしても。

 脈ありって思っていい?


 今日は、これ以上の話にはならなかったけど、俺は決めた。

 近いうちに絶対に告白する。


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