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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
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29.彼女は爆弾を落とす。

side リディア

 この場にいるオトナたちからの視線が痛い。


 いや、うん。わかってる。

 お弁当屋さんの出店交渉に来たのに。

 そのついでに調子に乗ってあれこれとお願いをした自覚はある。


 今は商会がまだ落ち着いていなくて、特に製造ラインはてんてこ舞いだ。

 この時期に新商品なんて、青筋立てられて怒られてもしょうがない。


 おまけに、町を挙げての事業をさらっと提案した。

 さらっと、なつもりはないけど、きっとそんな勢いで提案をした。


 で、この皆からの視線。


 当然だとは思うけど、どうにも居た堪れなくて視線を彷徨わせていたら。

 ここで、このどうしようもない空気を壊す声が響いた。


「くっ……ははは!弁当屋を出す話が随分でかくなったもんだ。でも、それでこそ嬢ちゃんだよ。嬢ちゃんはこう来なくっちゃな!」


 いや、マルコさん。

 それってどうにも微妙な気持ちになるんですけど。


「ごめんなさい……」

「いやいや。謝ることはねぇよ。俺は楽しくなってきたしな!」

「まあね。リディアだしね。確かに、普通には終わらないよね」

「そうですね」


 いやいや、皆さん、認識がおかしくない?

 今回、ちょっと思い付いちゃって口に出しちゃっただけなのよ?


 そう言ったら、皆からの視線が強まった。

 何故だ。解せない。


 そう思いながらも、何とかその視線を受け流していたら。

 伯父様が真面目な顔になって、口を開いた。


「正直に言えばね、僕としては、すべて採用したい」

「ええ。ここまでのこととなると私の一存で決めることはできませんが、私も、正直に言えるならやりたいです。マリンダも活性化しますし」

「だよね。僕だって、うちの領でやりたいよ」


 え、これって、もしや、このまま検討してもらえるってことかしら。

 いいの?またものすごく忙しい生活になっちゃうわよ?


 提案しておきながらなんだけど、実のところは。

 言うだけ言って、対応というか、詳細は落ち着いてからね。

 ってのを想定していたのよ?


 そんなわたしの考えはお構いなしに話は続いていたけども。


「まあ、やれるならやりたいな」

「そうねぇ。わたしだってやりたいわ。でも、現実問題、人手がないわ」

「そこだな」


 はい。そこは、重々理解しています。

 だから。


「あの、すぐにやりたいわけではないの。ただ、将来的にそう言うことができたらいいなって思っていただけで」

「ええ、わかってるわよ、リディアちゃん」

「ああ、そうだとも」


 やだもう。うちの両親ったらわたしに甘いわ。

 なんて思ってたら、他の皆も、うんうんと頷いていた。

 え、みんな、過保護なの?どうしたの?


「とりあえず、ひとつずつ検討してみようか」


 結局、そんなお父様の言葉を皮切りに、この場が会議の場になってしまった。


「まずは、保温水筒からいこう」

「リディア、これは、魔道具じゃないんだね?」


 伯父様のその質問から始まって色々聞かれたけれど。


 保温水筒は真空にできれば精霊石はいらないし。

 真空処理ができるか魔法が使えれば問題なく作れる。精霊もいるし。


 そんなことを説明したら、マルコさんが職人を探してくれると言う。

 え、いいの?


「お弁当屋さんの開店に間に合わなくても大丈夫かい?」

「それは、もちろん。保温水筒がなくても、保温はできないけど、紙のカップに入れて提供しようと思っているの」


 そう言ったら、皆が頷いていた。


 というか、これは。

 どうやら、保温水筒を作れる運びになったみたい?


「えっと、もしかして進めていただけるということ?」

「そうよ?まあ、時期が時期だからちょっと渋っちゃったけど、スープ以外にも使えるから絶対に売れるもの。作るに決まってるわ」


 あらやだ。うれしい。

 ちょっと展開に付いていけてなかったけど、やっと状況を理解し始めたわ。

 みなさま、前向きに考えてくれているのね。


「ありがとう。お母様。マルコさん」

「少し時間をもらうけど、許してね」

「作ってもらえるだけでうれしいわ」


 そんな風にお母様と微笑み合ったのもつかの間。


「次は、米のことにしようか」

「我が家ではよく食べるけど、こっちでは食べてないのね?」

「俺は初めて食ったな」

「僕も初めてだよ。米なんて知らなかったし」

「私たちもです」


 ええ、そうなの?

 お米ってグリーンフィールでもそこまで浸透してないの?


 それなのに、さっきは抵抗なく食べてくれてたのね。

 皆が優しくてわたしは泣きそうよ。


「サティアス家では、ジングと直接取引してるんだよね?」

「そうね。レンダルでもお米は食べられてなくて、貿易までは難しかったわ」

「我が国でも食べているという話は聞きませんね」

「いや、前に入ってきたことはあったんだ。ただ、食べ方がわからなくてな」


 そうだったのか。


 それなら、言ってくれれば教えたのに。

 ジングも、営業が足りないと思うわ。


「リディアちゃんのほうは、後どのくらい残ってるの?」

「それが残り少ないの。お店の分もぎりぎり出せるかどうか」

「あら、もうそんなに食べちゃったの?」

「わたしたちじゃないわよ。ダズルとシェロが大喰らいなの」

「ああ。あの方たちじゃあ、しょうがないわね」


 両親は、うちにご飯を食べにくる人外どものことを知っているから。

 その時の光景を思い出しながら、ラディと四人で頷き合っていたら。


「ちょっと待って。ダズル様って精霊王様だよね?それにシェロって?」

「レンダルから来た竜のシェンロンよ?」

「「「「は?」」」」


 あ。また、唖然とさせてしまったみたいだ。


 シェロは、結局こっちに住むことになって。

 シェロが守護竜だと言われてたことも、違うことも、全部知ってはいるけれど。

 この国の人は竜の強さに敬意を払って大切にしてくれているらしい。


 シェロ、よかったね。


「嬢ちゃんの家には、そんな御方が遊びに来るのか……」

「リディア、君って子は……」


 マルコさんと伯父様が目も虚ろに何か言っていた。

 ミンスター夫妻においては、口を開いたままだ。


「そのお話はまた今度ね。それよりも、お米がそんなにないのなら、複数の店舗で出すのはちょっと難しいわね」

「いやでも、お弁当屋さんをやるなら、おにぎりは売ってほしいな」

「俺は、断然おにぎりだぞ。あれなら腹もふくれるからな」

「ならば、輸入は必須だな。ミンスター卿、いかがだろうか?」


 そのお父様の言葉で皆で揃ってミンスター卿を見たら。

 やっと我に返ってくれたようだ。


「ああ、失礼しました。ええと、お米の輸入ですね。確かジングとは交易をしていないわけではないのです。ですから、無理なお話ではないと思いますが、今、確約はできないですね。すみません」

「我が家が取引をしている伝手でよければ紹介しよう」

「それはありがたいです。よろしくお願いします」


 この様子なら、お米の輸入のほうも何とかなりそうだわ。


 もし無理でも、これまでの伝手でお願いすれば。

 お弁当屋さんの分くらいは確保できるんじゃないかしら。


「お米は、おにぎり以外だとどうやって食べるんだい?」

「リディアちゃん。何か持ってない?」


 お母様、そこで無茶ぶりですか。

 ええー、何かあったかな?


「オムライスと親子丼と牛丼ならあるわよ」

「あら、結構持ってるじゃない」


 元々はラディの夕食のために作ったんだけど。

 帰りが遅い日が多くて。

 がっつり食べる時間は過ぎてたからストックしたままになってた分なのよね。


 ラディも、ストックのことは知っているから。

 みんなの前に出したらすごく悲しそうな顔をしていた。


 今度、もっとおいしく作るから!

 今は我慢してね。


 なんて思っている間にも皆は食べていて。


「こりゃ、すごいな。うまい。嬢ちゃん、レシピ売ってくれ」

「リディア、酷いよ。こんなおいしいもの隠していたなんて」

「こんな風に食べれるなら、お米の輸入をがんばらないといけないですね」


 あらま。想像以上に気に入ってくれているわ。

 ラディの犠牲はあったけど、これで、輸入は決定かしら?


「君たちはよく食べるな……。じゃあ、米の輸入はミンスター卿に任せよう」

「そうだね。よろしく頼むよ。できればこっちでも栽培したいけど、それもまた今度検討しよう」

「となれば、残すはマリンダでの食品加工か」


 これが一番問題よね。

 言ってみれば、町興しの事業になり兼ねないもの。


「海苔とたらことツナ、だったな?ツナは缶詰にもできると」

「はい。海苔とたらこを使った料理ならストックがあるかも」

「「「出してくれ(ください)」」」


 伯父様もマルコさんもミンスター卿も、まだ食べられるのね?

 その胃袋には驚くけれど。


 ならばと、鳥の磯辺揚げにタラモサラダ、それと、たらこパスタに加えて。

 せっかくだから、生のたらこもお出ししたら。

 ミンスター夫人が手を口に当てて固まってしまったから焦ってしまったわ。


「あ、すみません。魚の卵に驚いてしまって。でも、確かに見た目はちょっとアレですし、生で食べるのは初めてですが、おいしいですわ。私は好きです」


 やっぱり、たらこの見た目には抵抗があるわよね……。


 内臓と一緒に捨てられることもあるって聞いたし。

 たらこの普及は難しいかもしれない、なんて考えていたら。


 しょんぼりとしたように見えたのか、ラディに頭をぽんぽんとされた。


 最近、ラディはこうやってスキンシップを取ってくれるようになって。

 なぜしてくれるのかはよくわからないけど、実は嬉しくて。


 けれど、人前だとちょっと恥ずかしくて。

 それに、お母様からの視線もどうにかしてほしい。


 とは思うものの、今はどうでもいいわね。


 試食の結果としては、皆さん満足してくれたようで。

 食品加工も前向きに検討してくれることになった。


「リディア、缶詰のことをもう少し教えてくれるかい?」

「はい」

「缶詰にできるのは、ツナだけなのかい?」

「いえ。加工したものなら他のお魚でもできると思います。何もかも、ってことはないけれど、水煮とかオイル漬けにすれば。あとは、お魚以外でも、果物のシロップ漬けやスープとかも缶詰にできるんじゃないかしら」

「シチューやカレーもできそうね?」


 ん?それなら、レトルトのほうがいいわよね?

 レトルト、できるかしら。熱に強い素材が作れれば可能かも?


 そんなことを考えてたら、皆が一斉にこっちを見たから驚いた。

 え、なに?


「リディ、声に出てたよ」


 なんてことだ。


「えっと、今のは忘れていただいても?」

「無理だよね?」

「今日の追求はやめるが、今度話してもらうぞ?」


 うわー、やってしまった。


 でもしょうがない。

 がんばって色々思い出しておこう。


「そうだね。それは今度にして、今は缶詰だ。それだけいろいろできるなら保存食としても携帯食としても有効だね。一年は持つんだよね?」

「確か、二~三年は持ったと思うのだけど」

「それなら、やらない理由がないね。ツナに関しては、今まで売れ残って捨ててた分も缶詰にできるし、いいことしかない」

「そうですね。他の代官たちも賛成すると思います」


 と、ここまで話が進んで何だけど。

 携帯食と聞いて、わたし、今更ながらに気づいたことがある。


 え、どうしよう。

 この場で言ったら、絶対場の空気が壊れるけど。

 でも、言っておいたほうがいいような気もする。


「リディ、どうしたの?」


 目敏く気づいてくれるのは、やっぱりラディで。

 ラディの言葉で他の皆もわたしの方を見たから。


 わたしは思い切って口を開いた。


「あの……、缶詰が戦の理由になったりは、しません、よ、ね……?」

「「「……っ!」」」


 息を呑んだのは、たぶん、お父様と伯父様とミンスター卿。

 ラディも固まってる。


 そうして、この場がまた無言に包まれた。


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