03.彼女は彼を巻き込む。
side リディア
卒業パーティーで婚約を破棄されて。国外追放を言い渡されて。
散々な日だけれど、これでまだ終わりではない。
この後には、両親への報告と話し合いが待っている。
卒業パーティーを中抜けしたわたしを送ってくれたラディンベル様が、両親に一緒に説明してくれるというので、お言葉に甘えて残ってもらった。
乗ってきたグラント伯爵家の馬車と侍従さんには、ラディンベル様のご家族への説明のために先に帰ってもらっている。彼はうちの馬車で送ればいいしね。
応接室までの案内の間、ラディンベル様は物珍しそうに周りを見ていたけれど、うちに珍しいものなんてあったかしら。我が家はシンプル志向だから面白いものなんてないと思うんだけど。
でも、まあ、特に何か聞かれたわけじゃないから、気にしなくていいかしら。
「じゃあ、ごはん食べましょう」
「は?」
ラディンベル様にはきょとんとされてしまったけれど。
いやいや、だって。卒業パーティーは昼食を兼ねていたのよ?
あんなことがあって食べ損ねたんだもの。さすがにお腹もすく。
それに、この残り香!今日は絶対カレーだった!
スパイスが入手しづらいからってあまり食卓にあがることはないのに。わたしがいないときに食べてるなんて、許さん!
急いで準備してもらったら、並べられた料理を見て、ラディンベル様が不思議そうな顔をしていた。うん、この国ではカレーは珍しいからね。
「お口に合えばいいのだけど。よかったら召し上がってね」
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくいただきます」
はいはい、ぜひ食べてくださいな。
わたしも早速食べ始めたけれど、ラディンベル様の反応が気になる。こっそり見ていたら、恐る恐る口に入れたものの、一口食べたら目が輝いて、二口目からはガツガツ食べていた。よし!カレーは気に入られた!
「初めて食べた料理だったけどすごく美味しかった。ありがとう」
「それならよかった。カレーっていうのよ」
「へぇ……。さすが公爵家だな。他にも珍しい料理がありそうだ」
そうね。うちの料理は我が国基準とは違うから珍しいものばかりだろう。
ぜひいろいろ食べてみてほしいわ。
そんなことを話しながら食後のお茶をしていたら、やっと両親がやってきた。
お父様は王宮から急いで帰ってきてくれたのか若干疲れた顔をしてるけれど。
さっき、執事のセバスチャンにも簡単に説明しておいたし、今日のことはある程度聞いていると思って大丈夫かな?
「お父様、お母様。面倒なことになってしまってごめんなさい」
「大変だったな。簡単には聞いているが、詳しく説明してくれるか?」
「ええ。まず、こちら、グラント伯爵家のラディンベル様よ。今日の茶番で、わたしを助けてくださったの」
「そうだったか。面倒をかけた」
「いえ、私はさほど。本日は突然お邪魔して申し訳ありません」
「いや、第三者の目も助かるからな。見たままを教えてほしい」
そうして、わたしとラディンベル様は、馬車で打ち合わせした通りに説明した。
途中、脳筋バカが抜刀した件では両親ともに額に青筋が立ったけれど、それも致し方ないだろう。あれは、ない。
一通り話したところで、応接室には沈黙が下りた。
そして、しばらくしてお父様がため息ついて一言。
「やってくれたな」
ええ。本当に。バカ王子もそのご学友も、あ、ラディンベル様以外のご学友か、彼らは大抵において問題児だけれど、今回は本当にやらかしてくれた。
「婚約破棄と国外追放は受けるんだな?」
「ええ。罪、とやらについては認めるつもりはないけれど」
「冤罪だろう?それはこちらで対処する」
さすが、お父様。頼りにしています!
わたしが仕事をしない王子に振り回されてることや、王子とわたしがお互いに気持ちがないことを知っている両親は、婚約破棄への反対はないはずだ。それに、隣国に家があるから国外追放についてもあまり心配されていないと思う。
「この際、明日にでも国を出ようかと。それで、ラディンベル様が、護衛を引き受けてくださると言ってくれているのよ」
「リディア嬢を庇ったことは、殿下の意思に反したとされる可能性もありますが、あの場で助けられなければ後悔していましたし、殿下の学友として、今回の暴走を止められなかったこと、大変申し訳なく思っております」
さっきも言っていたけど、そんなのラディンベル様のせいじゃないのに。
王子はもちろん、学友も残念な人ばかりだと思ってたから、ラディンベル様みたいな人もいたなんて。周りをちゃんと見れていなかった自分が恥ずかしいわ。
「殿下を諫めようとしていた者がいたとわかって安心したよ。娘の恩人だということもあるが、私は君の行動を支持している。君が罰せられることがないよう、私からも陛下に進言しておくよ」
「ありがとうございます。処罰がないのであればなおさら、リディア嬢に申し訳が立ちません。おひとりで国を出るとのことですし、どうか挽回の機会をいただけませんでしょうか。私は騎士科で学び、討伐経験もあります。護衛として彼女をお守りさせてください」
「……………ひとりで?」
ラディンベル様のこと、お父様、さすがだわ、ちゃんとわかってくれてるわ、なんてちょっと感動してたのに。
え、そこなの?護衛のことよりもひっかかるのは、ひとりってことなの?
ラディンベル様にも言われたし、やっぱり無謀なのかしら。
でも、自分のことは自分でできるし。できれば誰かを巻き込みたくないし。
今後のためにも、使用人たちには公爵家に残ってもらいたい。
そんなわたしと心配性な両親が言い合った結果。
両親が譲歩して侍女や執事の同行はなくなったけれど。
護衛はやっぱり必要だということで、ラディンベル様が説得を続けてくれるも、お父様はなかなか首を縦に振らない。
「これでもグラント家の端くれです。鍛錬は怠っておりません」
「確かに、伯の倅ならば腕の心配はしなくてもいいのだろうが」
「力の限り、リディア嬢をお守りいたします」
あらま。その言葉はちょっときゅんときちゃうわ。
なんて、ときめいている場合じゃないか。
グラント伯爵家って信頼あるのね。さすが騎士の家系だわ。
きっと、ラディンベル様の腕も立つのだろう。
お父様も大方は認めているんだろうけど、もう一押しが必要かしら。
「君を認めていない訳ではないのだ。ただ、娘とふたりとなると……」
なるほど。そうか、そうね、外聞も悪いわね。
婚約も結婚もしていない男女ふたりが伴もつけずに旅立つなんて。
しかも、向こうに着いてからも護衛してくれるという話だから、ふたりで移住することになるわけで。隣国の家はそこそこ広いから、ラディンベル様にも一緒に住んでもらおうと思っているのよね。
令嬢と護衛という組み合わせはありだとは思う。
だとしても、使用人もいない家にふたりきり、となると変な勘繰りをされる可能性は否定できない。というより、絶対にされる。
……ん?婚約も結婚もしていないふたり?
そうか、そこが問題ならば。
「ねぇ、ラディンベル様。わたしと結婚してくださらない?」
「なっ……!?」
「まあ!まぁまぁまぁ!リディアちゃんったら!大胆だわ!」
お母様、テンション高いな!
お父様はフリーズしちゃったけど、これが一番いい方法じゃないかしら。
わたしたちはお互い十五歳で成人済み。結婚もできる年齢だ。
ラディンベル様も護衛の話を持ち掛けたってことは婚約者いないのよね?
そう思って彼を見つめていたら。
彼は、一瞬目を見張って、そして、ふっと笑った。
「願ってもない。ものすごく光栄な話だ」
「きゃーーーーーーーーーーーーー!!」
お母様、テンション爆上がりですね。
奇声を聞いてもフリーズが解けないお父様、大丈夫かしら。
にしても、さすがにすんなり受けてもらってちょっとびっくり。
今は好きな人もいないってことでいいかな?でも。
「もちろん、ラディンベル様に好きな人ができたら弁えるわ」
「………………リディア嬢を好きになってもいいんだよな?」
「え?」
「いや、何でもない。俺はリディア嬢がよければ問題ないよ」
一部聞こえなかった部分はあったけれど。
大丈夫ならよかった。これで何とか解決にならないかしら。
なんて思っていたら、お父様がいつの間にか復活していた。
「本当にいいのかい?」
「はい。リディア嬢をお守りするという言葉に嘘はありません。どうか共に行くことをお許しください」
「そうか……………………わかった。娘を頼む」
やったわ!お父様も何とか認めてくれたみたい。
お母様はいまだにテンション爆上がり中だから、問題なし!
「ラディンベル様のご家族は大丈夫かしら…?」
「たぶん大丈夫。陛下に恩を売れる機会は逃さないと思うから」
「……ああ。君が一緒にいてくれるのなら、娘の保護と監視、どちらにも取ってもらえるだろうし、対外的な理由にもできるな」
陛下に恩?保護?監視?
ああ、バカ王子のやらかしで、公爵令嬢が冤罪を着せられてひとりで国を放り出されたなんて、問題以外の何物でもない。陛下も後始末が大変なことだろう。
でも、王子の学友を護衛につければ、保護していると言えなくもないのか。
最悪、冤罪が罷り通ってしまっても、監視していることにするのだろうか。
「君のご両親には私からも伝えよう。手紙を書くから伯に渡してもらえるか」
「はい。ありがとうございます。お手数をおかけします」
「明日にでも、伯爵家にお邪魔させてもらうよ」
「ご面倒をおかけして申し訳ありません。よろしくお願いいたします」
「お父様、色々ありがとう!」
そうして、わたしとラディンベル様は夫婦として国を出ることになった。
まあ、仮夫婦なわけだけど。