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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第二章 平民ライフ稼働編
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28.彼と彼女は交渉する。

side ラディンベル

 本当にリディは留まることを知らないよね。


 遂に魔道具店がオープンして。

 想定以上の売れ行きに販売戦略を練り直して。

 情報管理部の人たちに仕事を振り分けて。

 やっと、自分の仕事が落ち着いた。


 仕事の流れも見えてきたし、今後の俺の仕事は、新商品の発売時と新店舗の出店があればその時が大変なくらいで、後は定型的な作業が多くなるはず。

 リディの仕事も随分と落ち着いたようだ。


 だから、そろそろ。

 リディがやりたがっていた、お弁当屋さんの方を実現したいと思ったんだ。

 商会のほうを優先していて、ずっと後回しにしてしまっていたけれど。

 リディの希望だから絶対に叶えようと思ってたし忘れてなんかいなかった。


 それで、話だけでも進めておこうかなって思っただけなんだけど。

 まさか、ここにきて新商品が出てくるとは思わなかったよ。

 ほんと、リディは新しいことをポンポンと言い出すよね。

 異世界の当たり前ってきっと凄いんだろうけど、凄すぎてちょっと怖い。


 いやね?すごくいい案だと思うよ?

 お弁当は冷たいから、温かいスープが付いたら嬉しいよね。


 それに、保温水筒は、かなり便利だ。

 食事の時だけじゃなくて、休憩の時にだってかなり使える。


 その有効性はものすごくわかるんだ。

 でもね?

 やっと商会の店舗がオープンしたところで、それがかなりの評判を呼んでいて、今扱っている商品の製造だけでも追い付いていない状態なんだよ?


 しかも、リディには言っていないけれど、実はバスルームリフォームの受注がかなり多いんだ。だから、技術者が圧倒的に足りていない。


 今のこの状態で、正直、新商品はキツイ。


 それに、俺としては、次の新商品は野宿セットのつもりだったんだよね。

 店舗を出さなくても、騎士団やギルドに直接営業すれば売れると思うから、製造側に余裕ができれば、実現できると踏んでたんだけど。


 ここで、保温水筒か。

 うーん。悩ましい。……ん?けど、これ、野宿セットにつけられるね?

 なら、いっそ、全部まとめて作り始める?


 ―――なんて、思わず、思考に耽っていたら。


「ラディ?」

「あ、ごめん。考え事に没頭してた」

「ううん。わたしが言い始めたことだから。いつもごめんね?」


 あれ?こういうことよくあるし、何ならいつものことなのに。

 どうしたんだろう。いつもよりも、罪悪感感じちゃってない?

 え、なんで?

 本当にどうしたんだろう。何がこうさせているんだろうか。


 って思ってたら、きたよ、また、新たな提案。

 その罪悪感か!


 うわー。本当に、君は留まる事を知らないね?


 当然ながら、その新たな提案にもすごく有益性がある。

 マリンダも活性化する。いいことばかりだと思う。思うけども!


「リディ。それ、商会にお願いして済むことじゃない。ミンスター卿にも許可とらないといけないし、マリンダの人たちの協力も必要だよ?」

「あ、そうね。そうよね。でも、できなければいいのよ?」

「いや、多分、最終的にはやってくれると思う。ただ、時間がかかるよ?」

「それはいいのよ。わかってる。………ごめんなさい。いつも思い付きで」


 あ、リディがしゅんとしてしまった。

 そんな顔をさせたいわけじゃない。


 ………ああ、もう。

 本当にいいことなんだよ。やれるならやったほうがいい。

 それにリディには笑ってほしい。


 となったら。これは、絶対にやるしかないじゃないか。


 俺は、もう腹を括ることにして。

 早急にミンスター卿と商会とギルドに連絡をとることにした。

 もうひとつミンスター卿にお願いすることを思い出したしね。


 ―――そうして、それから数日後のこと。


 ミンスター邸に、義父上と義母上、デュアル侯爵、商業ギルド長と俺たちが集まった。この界隈で最も忙しいと思われる人たちが一堂に会するってすごいな。

 まあ、俺とリディが呼び出したんだけど。


「今日はお時間を頂いて申し訳ありません。お忙しい中、ありがとう存じます」


 今日は交渉という場だから。

 リディが畏まって挨拶をしたんだけど、その雰囲気はすぐに壊される。


「リディア、固いよー。いつもみたいに気楽に話そうよ」

「リディアちゃん、待ってたわ~」


 気の抜けたような言葉を言ったのは、デュアル侯爵と義母上だ。

 そんなおふたりに、義父上が苦笑していた。

 最近は義父上もよく笑う。


「本当に楽にしてくださいね。新しい提案があると聞いて、私たちも楽しみにしてたんですよ」


 そう言ったのはミンスター卿。

 いやいや、あなたこそ、敬語なんですが。

 でも、ミンスター卿は誰に対しても敬語だからしょうがない。

 夫人も隣でにこにこ笑っていた。


「また忙しくさせようってんだ。覚悟してきたぞ?」


 荒っぽい口調なのは、商業ギルド長のマルコさん。

 これでかなりの人望があって、みんなに慕われている。


 そんな歓迎を受けて、俺たちはちょっとだけ力を抜くことができた。

 とはいえ、ある意味、勝負の日だからがんばらないと。


 今日の主題、お弁当屋さんについては、実は前もって手紙で伝えてある。

 だから、すぐに話が始まった。


「お弁当屋さんをやりたいんだよね?」

「ありそうでないですよね、お弁当屋さんって」

「そうだな。確かにあれば便利なんじゃないか?」

「わたしはいいと思うわよ?リディアちゃんならおいしいもの作ってくれるし」


 この反応であれば。

 基本的には、概ね賛成してくれてると思って大丈夫かな?


「安いってことなら、うちの職員も冒険者とかもありがたいがな。携帯食みたいなやつなら、あんまり評判はよくないぞ?」


 携帯食といえば、固いパンと干し肉だ。

 確かにあれはおいしくない。

 でも、リディのお弁当はおいしいのだ。


 これは、やっぱり、食べてもらうのが一番だな。


「早速なんですが、検討しているお弁当をお出してもいいでしょうか?」

「うん。それを楽しみにして来たんだよ」


 ああ、試食会みたいなつもりだったのかな?

 間違いじゃないけど。


 そういうことなら、早速、テーブルに広げさせてもらおう。


 今日持ってきたのは。

 カツサンドにフィッシュフライサンド。野菜とハムと卵のサンドウィッチ。

 そして、おにぎりは、海老天、ツナマヨ、焼きサバ、たらこ、昆布の五種。

 おにぎりのおかずは、唐揚げ、卵焼き、焼き野菜。

 スープは、コンソメとクラムチャウダーと味噌汁の三種を持ってきた。


 リディは、なんで鮭がいないのー!と言っていたけど、サケっていう魚は俺も知らない。異世界では定番らしいんだけど、ないものはしょうがないよね。


 あと、本当は、焼き野菜じゃなくて、煮物とかにしたいらしい。

 俺は結構好きだけど、和食はなじみがないしね、焼き野菜が妥当だと思う。


 ちなみに、今回俺が驚いたのは、たらこ。

 前に作ってもらったときはなかったと思う。

 というか、生なんだよ。しかも魚の卵。

 俺、生の魚なんて無理だと思ってたけど、表面を炙ってもらったら食べれた。

 今回のおにぎりにも、炙ったものを入れている。


 そんなことを思い出しながら並べてたら。

 並べたそばからみなさまが食べ始めていた。


「あ、これ、おいしい。豚肉なのかな?これならお腹にもたまるし、いいね」

「サンドウィッチと言えど、食べ応えがありますね」

「パンがふわふわでおいしいわ。パンを売ってほしいくらい」

「リディアちゃんのごはん、やっぱりおいしいわ~」


 サンドウィッチのほうは概ね好評かな?


「こっちの黒いのは何だい?」

「黒いのは海苔なんですが、それは、米を握ったおにぎりというものなんです。上に少し乗っている具が中にも入っていて、握ったお米を海苔で巻いています」

「おお。こりゃ、いいな。腹にたまる。こっちの茶色いのもうまいぞ」


 抵抗なく食べてくれてるけど、米や海苔は初めて見たのかもしれない。

 それに、この様子だと、揚げ物にもなじみがなさそうだ。

 まあ、俺も、リディに作ってもらって初めて食べたしね。


「お弁当は冷たいけど、温かいスープがあるのがいいわね」


 ですよね。スープも好評、と。


「いや、確かにうまい。これが安いならうれしいが、どれくらい持つんだ?」

「日の当たる場所を避けていただければ、物にもよりますが、半日くらいは大丈夫です。冷蔵庫に入れてもらえれば、もう少し持つと思いますが」


 うん。今出してるのも、三時間前に作ったものだしね。

 そう言ったらみなが驚いて、だんだん納得顔になっていって。


「これなら、いいんじゃないかな?」

「そうですね。これなら、喜ぶ人も多いでしょう。ぜひお店を出してください」

「え、いいのですか?!」

「おお、ギルドの奴らは多分常連になるぞ」


 そうして、あっさりと許可が下りた。

 リディは驚いていたけど、やっぱりそうだよね。食べればわかる。


 許可が下りたのを実感したのか、リディも笑顔になってきた。

 かわいいな。よかったね。おめでとう。


 でも、実は勝負はここからだ。


「ありがとうございます。それで、あの、実は、もし、ランドルのギルド通りに空き店舗があればそちらに、と思っているのですが」

「おお、そうか!ちょっと今すぐに思いつかないが、探しといてやるよ」


 これは、ギルドで動いてくれるってことかな?


「えー。リディア、うちの領にも出店してほしいんだけど」


 そして、これは、いきなり多店舗展開?

 そこまでは考えてなくて、リディと顔を見合わせてしまったら。


「それなら、お弁当屋さんも商会で進めるわよ?レシピを共有して、いくつか店舗を出しましょう。リディアちゃんにそのうちのひとつを任せるわ」

「え、でも、商会は忙しいでしょう?」

「もうすぐ落ち着くと思うわよ?特に魔道具は頻繁に買うものじゃないから、波も引くんじゃないかしら。大変なのは製造の方だし、商会自体は動けるわよ?」


 そう言われて、リディと再度顔を見合わせた。


「それなら、お母様。ほかにもお願いしても?」

「お弁当屋さん以外に?」

「スープを温かいまま持ち運べる保温水筒も販売したいの」

「…………………………。新商品ってことね?」


 義母上が真顔になって、真顔のまま口を開いた。

 義父上もデュアル侯爵も真顔だ。


 その真顔を受けながら、リディがしずしずと保温水筒の試作品を捧げて。

 義母上を上目遣いで見ながら、更なるお願いをした。


「はい。それと、お弁当に使っている食材の加工をマリンダでできないかと思ってるの。その支援をしていただくことは、難しいかし、ら……?」


 そう。これが、リディからの新しい提案。

 海苔やたらこやツナは、今は俺たちが食べるだけだから自作しているけど、加工をマリンダにお願いして商売にできれば、マリンダは潤うし、俺たちも嬉しい。

 その支援を商会にお願いしたいのだ。もしくは主導で動いてほしい。


 有益性を示すために、リディはツナの缶詰とかいうものまで試作している。

 缶に詰めれば一年以上持つと言われて、俺も聞いたときはめちゃくちゃ驚いた。

 そんなの、俺たちの保存食の常識を超えているからね。


 そんな話をするにつれて、みなさまの顔が唖然としていくのがわかったけど。

 俺は、どさくさに紛れて、ミンスター卿にもうひとつのお願いをした。


「できれば、お米の輸入も、ご検討ください……」


 調査のときもさっきも思ったんだけど、この辺には米文化がなくて。

 どうやら輸入もしていないようなんだよね。

 でも、お弁当屋さんを始めたらサティアス家の取引分だけでは足りなくなる。

 だから、王家直轄領の貿易港で、ジングとの交易を検討してほしいのだ。


「「「「「「……………………………………」」」」」」


 全員が無言になった。

 沈黙ってこわいよね。緊張するよね。


「君たちはまったく。お弁当屋さんはいいと思うよ。全部おいしいしね。僕だってお店があったら通いたい。でも、お弁当屋さんってこんなに大変なのかい?」


 いえ、お弁当屋さんだけなら、そんなことはないです。

 リディの思い付きが、ちょっと絶好調だっただけです……。


※誤字報告ありがとうございました!

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