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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第一章 平民ライフ突入編
24/149

24.彼は衝撃の事実を知る。

side ラディンベル

 最近、リディと目が合う回数が多い気がする。


 いや、それは俺がリディを見てしまっているからなんだけど。

 義父上にリディは顔に出やすいと聞いたからか、楽しそうなのか、そうでないのかとかを無意識に確認しているのかもしれない。


 そんなだからか、買い物に行ったときに、たまにリディが不機嫌になったりしてることにも気づいたりして。まあ、それは、欲しいものがなかったのかなって思うんだけど、そういう少しの変化でもわかるとうれしいものだと思う。


 でも、目が合うってことは、リディも俺を見てるんだよね?

 俺が何かしでかしている可能性もあるけれど。

 負の感情は読み取れなかったから、何かしてしまったのではなくて、俺のことを気にしてくれてるって思ってもいいのかな?


 それに、最近は、リディといるときの距離が今までよりも近い気がする。

 これも、少しは、心を許してもらってきていると思っていいのだろうか。

 少しは脈ありだったりする?


 リディは、自由にやりたいことをやっているようでいて、実は俺にすごく気を遣っている。きっと、今でも巻き込んだ責任――なんてないのに――を果たそうと思っているんだろうけど、俺が不自由なく過ごせるように気をまわしすぎているところがあるのだ。


 俺が嫌がるだろうことは避けるし、俺がやりたそうにしていることは、当たり前に賛成してくれて、俺はすごく優先してもらってると思う。


 そういう、責任感からくるような行動がよくあって、それが、どこか一歩引いているように見えたこともあるけれど。


 最近はそういうのがなくなってきてて、距離が近いと思うんだよね。

 俺の都合のいい解釈かもしれないけど。


 でも、リディに近づけたと思えることは素直にうれしい。

 ここで一歩踏み出して告白しようとも思うけど、俺の勘違いだったら俺的に大惨事になるから、どうにも行動に移せない。

 こんなに一緒にいるのにうまくいかないもんだな、なんて思っていたら。


「ラディ?」


 リディが俺のすぐ後ろにいて、肩に手を置かれて驚いた。

 思わず、ビクッとしてしまったら、不安そうな顔をさせてしまって焦る。

 すぐに俺の肩から手を離して謝られてしまった。


「急にごめんなさい。あと、慣れ慣れしくしてしまってごめんなさい」


 ん?馴れ馴れしい?……あ、肩の手のことか。

 いや、全然そんなことないけども。むしろ、うれしいけども。


「いや、全然平気だから。俺こそごめん。考え事しててぼーっとしてた」

「もう、こんな風にしないから」

「は?いや!ほんと、気にしないで。むしろ、これからもそうして」

「え?」


 あ、思わず心の願望が出てしまった。

 これはもう、追求されたら自爆しそうだから、話を変えよう。


「あ、いや、その、本当に気にしなくていいから。それよりもどうしたの?」

「え、あ、ああ、そうね。今日ダズルが来るでしょう?その前に、少し、商会のことを話しておきたいと思って」

「うん。わかった。何か進展でも?」


 全然スマートにできていないけれど、最初は怪訝そうな顔をしていたリディも、商会の話を始めたら、そっちに集中しはじめてくれて助かった。


「あのね、商品化を提案したものはほとんど承認されそうよ」

「お、すごいね。かなりの数だよね?」

「うん。この国は植物素材が豊富で質もいいから、大抵のものは作れるみたい。素材確保のために農地を買い取って自家栽培も始めるそうよ。どんな素材も育つ環境はやっぱり強いわよね。おまけに、鉱山の採掘量も豊富だし」

「グリーンフィールだからこそか。レンダルじゃ実現できなかったな」

「ほんとね。でもね、それだけの大きな事業になったから、人員が足りなくて。ギルドも巻き込むんですって。デュアル侯爵領のギルドとランドルのギルドも」

「うわ、本当に大事業」

「そうなのよ」


 元はと言えば、リディと俺が魔道具を販売しようと思ったことから始まって。

 それが、義母上の商会やデュアル侯爵を巻き込んでの事業となって。

 遂には、ギルドまで絡んできた。


 まさかこんな大きなことになるなんて。少しだけ怖じ気づきそうだけど。

 でも、これはいい経験だから、俺もがんばりたい。


 というか、人が足りないのなら。


「リディも製造を手伝うの?アイデアだけとか言って、実は作れるでしょ?」

「え?んー、まあ、作れるものもあるけど、さすがに全部は無理よ」

「そうなの?」

「魔法のアレンジや付与ならできるけれど、鉄の加工や特殊な素材を作り出すことはできないもの。それに、わたしの作り方は量産に向かないのよ」


 なるほど。そういうことだったのか。

 確かに、完成までの作業を考えたら全部作るなんて無理だよね。

 まあ、魔法のアレンジや付与だけでもすごいんだけど。


「そんなわけで、ギルドとの調整が始まるから、わたしたちはまたしばらく『待ち』状態になったの」

「うん。わかった。でも、できることがあったら言って」


 と言ったところで約束の時間になって、ダズル様がやってきた。

 ……………また、見たことのない、人外的に美しい人を連れて。


「え、シェロ?戻ってきてたの?」

「ああ、随分とガルシアのに引き止められていてな。久しぶりに竜谷に戻ったら、お前たちがレンダルを出ていて驚いたぞ」

「挨拶したかったのに、いないんだもの」

「ああ、悪かった」


 そこでシェロさんが俺のほうを向いた。


 ガルシアは、グリーンフィールとレンダルの北の隣国だ。

 そこに行っていたということは、外交官か何かだろうか?


「あ、シェロ、こちら、わたしの旦那様よ」

「はじめまして。ラディンベルと申します」

「話は聞いた。お前の結婚にも驚いたものだ」

「うふふ。ラディ、こちら、今は人型になってるけど竜のシェンロンよ」


 は?え?竜?っていうか、その名前は……。

 もしかして?いや、まさかね?


「え、あの、シェンロン様って…」

「ふふ。そうよ。多分ラディの思ってる通りよ。この人、じゃなくて、この竜はレンダルの守護竜とか言われちゃってるシェンロンよ」


 ………はあ?いや、意味がわからないから。

 なんで、守護竜のシェンロン様がこんなに普通に遊びに来るわけ?

 リディ、本当に君の人脈はおかしいね?

 人じゃないから、人脈って言っていいのかわからないけど。


 っていうか、シェンロン様って人型になれるんだね?話せるんだね?


「とりえず座って。シェロもダズルも」

「なかなかいい家に住んでいる」

「ありがとう。にしても、急に来るからびっくりしたわ」

「久しぶりにお前の飯が食いたくなってな」


 え、シェンロン様もリディのご飯目当てなの?

 なんなの、この人外なふたりは。

 リディのご飯が美味しいのは同意するけど、だからって色々おかしくない?


 どうやら、シェンロン様は、リディの洋食がお好きなんだそうだ。

 ダズル様は和食党だから、竜と精霊は好みが違うのかもしれない。

 ――と思ったら、単に、個体的な問題で、種別は関係ないらしい。


 急なことにも関わらず、リディの食料ストックは完璧なので。

 さっそく料理をしていたけれど、あろうことか俺が邸を案内することになった。

 こんなお役目、光栄だけど、緊張するってば。


 しどろもどろに案内して戻れば、テーブルには既においしそうな料理がたくさん並んでいて。魔法を使ったんだろうけど、リディ、早業すぎだよ。


 シェンロン様には、ステーキにハンバーグ、ワイン煮込みにローストチキン。

 この世界にある料理も多いけれど、リディの場合はソースが違うんだよね。

 にしても、見事に肉料理。そして、膨大な量。これは竜仕様なのだろうか。


 ダズル様には、生姜焼きと鳥の照り焼きを用意したようだ。

 いつも魚ばかり食べてる気がするけど、肉も食べるんだな。


 それらのおこぼれを俺もいただきながら、彼らの話を聞いていたんだけど。


「シェンロンよ。それにしても、今回は長く留守にしていたな?」

「そうよ。半年以上も竜谷を空けていたでしょう?」

「ガルシアの竜に赤子が産まれてな。子守をさせられていた」

「「「は?」」」


 いやいやいや。

 守護竜様が何をしているのですか。


 リディは信じられないというような目でシェンロン様を見て。

 ダズル様は、最初は絶句してたけど、次第に笑いがこみあげてきたようだ。


「シェロが子守……」

「くっ……お主、子守なぞできたんだな」

「うるさい。赤子は魔力の循環が下手なのだ。それを手伝っただけだぞ」


 ああ、そういうことをするのか。

 聞けば、母竜は、産卵で体力を使ったからか、弱っていたらしい。その母竜の看病もしていたと聞いて、リディもダズル様もちょっと態度を改めていた。


「そうなのね。シェロってばやさしい」

「竜の助け合いか。美しいではないか」


 とはいえ、シェンロン様が拗ねてしまったので、リディの婚約破棄のことやこちらでの生活のことに話を変えて。

 一通り盛り上がったところで、俺は意を決して疑問を呈してみた。


「あの、半年以上もレンダルから離れていたと仰っていましたが、その間のレンダルのご加護はどうなっていたのでしょうか?」

「うん?加護などしていないが?神でもないしな」

「「は?」」


 え、え、ちょっと待って。

 どういうこと?

 シェンロン様って守護竜じゃないの?

 驚いていたところを見るに、リディも知らなかったようだ。

 ダズル様は特に反応していないから、知ってたのかな?


「え、そうなの?守護竜なんじゃないの?」

「いや、お前たち人間が勝手に竜谷のそばに国を造っただけだろう?守護竜なんぞになった覚えはないぞ」

「うそでしょ……」

「こんなことで嘘をついてどうする。だいたい、守護だの加護だのをされているようなことがあったか?」


 そう言われると。

 過去に戦に負けたことはあるし、国土は恵みの少ない土地ばかりだ。

 …………………うん。ないかも。


「そう、そうね。確かにそうね。ないわね」


 リディが呆然として答えているけど、俺も同じ気持ちだ。

 え、この事実を知った俺たち、どうしたらいいの?


「まあ、シェンロンがいることで牽制にはなっているだろう。過去に戦をしかけた輩もいるようだが、随分前だと聞いているし、普通は守護竜がいると思えば攻め込む輩も尻込みする。お主に直接挑む輩はいないだろうしな」

「直接来るならば相手をするが」

「やめて。そんなことしたら、レンダルが戦場になるじゃない」


 本当にやめてほしい。

 いくら国を出てきたと言っても故郷だし、家族もいるのだ。


「お前がそういうなら、善処しよう」

「シェンロンに楯突くほど無鉄砲な輩はいないだろうよ」

「だといいのだけど」


 そんなことを話しながらも、俺たちが未だ呆然としているのを見て。

 シェンロン様が眉を下げた。


「すまなかったな。守護竜でなくて」

「なんでシェロが謝るの?謝るのはこっちよ。勝手に崇めて頼ったりして」

「だが、そこまで落胆されるとな……」

「落胆してるわけじゃないわ、わたしたちはただ吃驚しただけよ。それと、人間の愚かさに気づいただけ。だから気にしないでね」

「そうか。お前がいいなら、いいが」

「それに、守護竜かどうかなんてどうでもいいわ。シェロは大切な友人だもの。また、遊びに来てね。ごはん作っておくから」


 眉を下げっぱなしだったシェンロン様は、そう言われてやっと笑ってくれた。

 そして、ダズル様と帰っていったのだけど。


 サティアス家は、シェンロン様と友人関係を築いてきたんだな。

 守護竜だなんだとお門違いな思いばかりぶつけられても、友がいるから、あの竜谷にずっと住んでいるのかもしれない。


 ―――それにしても。

 グリーンフィールに来てからは、本当に驚くことばかりだ。

 精霊王様や陛下に会って。リディの知識と才能と秘密に驚いて。

 サティアス家が国を出て。シェンロン様の衝撃の事実を知った。


 これまでは、休んだり、準備をしてばかりだったけど。

 そろそろ俺たちの平民ライフも本格稼働するはずだ。

 折角手に入れた自由な生活だから、リディと一緒に楽しんでいきたいと思う。


 リディとの仲も、勇気がなくてなかなか進展しないけれど。

 早く本当の夫婦になれるといいな。



 このお話で第一章終了となります。


 ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございます。

 よろしければ、第二章もどうぞよろしくお願いします。

 第二章は、王子たちも登場予定です。


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