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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第一章 平民ライフ突入編
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19.彼女はプレゼントをする。

side リディア

 バスケのことなんてすっかり忘れていたわ。


 あのゴールは確か、この邸を賜ってすぐに設置したと思う。

 わたしにとっては、壁にゴールが付いていることなんて日常風景なのよね。

 あるのが当たり前すぎて気に留めることもなかったのよ。


 でも、バスケを知らないラディからしたら、気になるのも仕方がない。

 使うわけでもなければ、意味のあるような物にも見えないだろうゴールを不思議に思うのは当然よね。うん。


 ラディは、あれから時間があればボールを持っている。

 すっかりバスケに嵌まったみたいだ。


 元から身体能力が高いんだろうけど、多分、センスがあるのだと思う。

 練習し始めたら、フリースローもあっという間にモノにしていて。

 ドリブルやシュートだって、教えたらすぐに覚えていた。

 今では、時々わたしと1on1――身長がだいぶ違うからわたしにはすごく不利だと思う――をするくらいには、バスケに慣れてきている。


 わたしは、もともと、身体を動かすのが好きなのだけど。

 この世界にはスポーツらしいスポーツがあまりないのよね。

 乗馬や剣技大会はあるけど、あとは本当に思い付かない。

 ――――――わたしが知らないだけかもしれないけれど。


 そもそも令嬢という生き物は運動をしないのだ。

 乗馬だって横乗りする令嬢が多いし、騎士にでもならなければ、走ることだって咎められる始末。


 それで、こっそりと邸の敷地内でできることを考えたのだけど。

 その時に思い付いたのがバスケ。

 ゴールがあれば、ひとりでも複数人でもできるからいいと思ったのよね。


 でも、今思えば、お弁当屋さんのときのように、バスケという言葉がふと湧いて出てきたように思う。理由は後付けで、何の脈略もなく思い付いた気がする。

 わたし、前世では、学生時代バスケ部でお弁当屋さんになったのかしら?

 前世の自分のことは本当に思い出せないから、そんなこと考えてもしょうがないのだけど。


 前世のことはいいわね。

 考え始めるとどっぷりと思考に浸かってしまうから、やめておこう。


 で、バスケ。

 両親や使用人や商会のみんなを巻き込んで必要道具を作ったんだけど。

 それはもう大変だった。


 この世界、球技というものがないのだ。

 ボールを使って遊ぶ、という概念がないから、それはもう説明に苦労した。

 そう言えば、ラディもボールを不思議そうな顔で見ていたわね。


 そんなわけで説明が大変だったから、最終的には、とにかくボールとゴールを作ってもらって、後はわたしが実施披露した。見てもらったほうが早いから。

 結果的に、みんなに受け入れられて、公爵家ではたまにやってたんだけど。


 この家に来てからは全くしていなかった。

 思い出しもしなかったのは、きっと、グリーンフィールでの生活が充実しているからだと思う。


 レンダル時代に比べたら、かなりゆとりのある生活だけど、毎日が楽しくて。

 ラディと一緒に、遊びにいったり、家事したり、畑仕事したり、魔道具販売やお弁当屋さんのことを話し合ったり。ごはん食べながらいろいろ語ったり。

 何てことはない生活なのかもしれないけど、ラディのおかげもあって、いい時間を過ごせていると思うのだ。


 ということで。

 日頃の感謝を込めてラディにプレゼントをしようと思います。


 実は、バスケ道具を作ったときにジャージ的なものも作ったのだ。

 ジャージというよりはスウェットに近いんだけど。


 それと、この世界って、貴族はどうにもかっちりした洋服ばかりで。

 ラディも、鍛錬や畑仕事の時だって結構こぎれいな恰好をしているのよね。


 わたしは、かっちりした服は着ているだけでも疲れるタイプなので。

 公爵邸にいるときにだけ着る、という約束で、カジュアルな洋服も作ってもらっていた。カットソーとかストレッチパンツとかチュニックとか。靴もね。


 あと、下着ね。これ、一番大事。

 この世界の下着って、前世の中世くらいのイメージというか。

 かぼちゃパンツみたいな感じで、個人的にものすごく落ち着かないのだ。

 男性用もね、うん、褌かステテコかって感じでね、機能的ではないよね。

 だから、前世的な下着も当然作ったのだ。


 カジュアルな洋服もスウェットも下着も。

 両親や使用人の分も作ってプレゼントしたらみんな喜んでくれて。

 今では公爵邸内限定で、みんなで着ていたりする。


 本当は、畑を始めたときにラディにプレゼントしたかったんだけど。

 男性用の洋服はさすがに持ってきていなくて。

 レンダルに連絡して、取り寄せていたのだ。


 それがやっと届いたので、ラディにプレゼントしようと思います。


 メインはスポーツセット。

 Tシャツにスウェットパンツ、パーカーにスニーカーを付けてみました。

 あとは、普段使いのチノパンと綿シャツをおまけで。もちろん下着もね。

 ――ジーンズはまだ実現できていないから、今後の課題ね。がんばるわ。


 ラディは喜んでくれるかしら。

 カジュアルといっても、デザイン的にはこぎれいにしているから、そこまで抵抗はないと思うんだけど。


「ラディ、ちょっといい?」

「うん、どうしたの?」

「はい。これ、よかったらどうぞ?」

「………………………」


 あらま。突然すぎたかしら。

 ラディが反応できていない。目をぱちくりさせるラディって新鮮だ。

 ラディが驚くときって、大抵は石化して瞬きもしないから。


「プレゼントです」

「なんで?」

「え?えーっと、日頃の御礼です」


 なんで、ってどういうことだ。

 御礼はもちろん、プレゼントはしたいときにするのがわたしの信条だ。

 だから、貰ってくださいな。


「え、それは俺のほうが感謝したいところなんだけど」

「じゃあ、その感謝はいただくわ。だから、ラディもこれを貰ってください」

「……………ありがとう」


 ラディはまだちょっと戸惑っているけれど。

 遠慮がちな人だから、押し付けるくらいが丁度いいわよね。


 一応ラッピングはしたけど、その場で開けてもらって。

 スポーツセットを着てみてもらおう。


「あのね、この洋服、すごく動きやすいのよ。着てみて?」

「え、あ、うん。わかった。着替えてくるね?」


 あ、そうか。

 男だから、そのままここで着替えちゃうかと思ったんだけど。

 さすがに、わたしの目の前では着替えないわよね。

 この世界ってどうにも奥ゆかしいから。


 ………そうだわ、わたしも着替えよう!

 ラディにあげたのと同じ、スポーツセットがいいかしらね?


 なんて思いながら、自分の部屋に戻っていたのだけど。

 急いで着替えたつもりだったけど、ラディのほうが早かったようだ。


「リディ、これでいい?…………あれ?リディ?どこ?」

「ごめん。こっちよ。わたしも着替えたの。お揃いね?」


 あら。ラディってばちょっと顔が赤くなったわ。

 お揃いって何となく照れるものね。

 ピュアだわ。わたしが忘れかけているピュアな心をラディは持ってるわ。


「この服、本当にすごいね!リディの言う通り動きやすいし、肌触りもよくて着心地抜群だよ。すごくうれしいけど、本当にもらっちゃってよかったの?」

「もちろんよ。畑とか鍛錬とかバスケとか、動きやすいほうがいいでしょ?」

「確かに。この服なら、楽に動けるね」


 でしょう、でしょう。そうでしょう。

 やっぱり、こういう服、必要だと思うのよね。

 どうしてこの世界の貴族は着ないのかしら。

 ―――畑仕事やバスケなんてしないからなのはわかってる。


 平民用なら近いものもあるんだけどね。

 どうも、肌触りが悪そうなのよね。

 我が家で作ったものはわたしが無駄に拘ったから、着心地がいいのよ。


「あ、そうだ。リディ、これってどうなってるの?」


 そう聞かれたのはファスナーだった。

 そうか、この世界にはないものだったわ。


 だから、上げ下ろしできることを伝えたら、何かすごく感動された。

 こういうちょっとした物もないから、この世界って本当に不便よね。


「この靴も履きやすいし。こんなにたくさん、本当にありがとう」

「どういたしまして。喜んでもらえてよかったわ」

「これ、グリーンフィールで売ってるの?」


 ああ、そうか。そうよね、気になるわよね。

 でも、これは公爵家オリジナルだから。

 グリーンフィールはもちろん、レンダルでも売られていない。


 そう話したら。


「…………非売品、多すぎない?」

「だって、レンダルって素材の確保が難しいんだもの」


 そうなのだ。

 わたしたちが着るのは公爵家限定だったけど、実は、デザインを変えて平民に売る話もあるにはあった。


 ただ、レンダルは植物が育ちにくくて布地の素材の大量確保が難しかったのだ。

 それだけじゃなくて、大量生産体制が整っていないこともあったけれど。


「あー…。精霊石に加えて、植物系の素材も確保が難しかったのか」

「そうなのよ」


 あ、でも、待って。そうだったわ。

 お母様からお手紙が届いていたわ。


「でも、グリーンフィールでは売れそうよ?」

「え!本当?!」

「実はね、お母様に、こっちで商会が動いてくれるなら、魔道具以外にも他の商品も売れるようにできないか相談してたの」

「あ、そうなんだ。さすがリディ」

「アーリア商会で扱ってる商品とこの洋服たち。あと、紙とボールペンとかも」

「お、それはすごい。……あ、そうだ。野宿セットも売れると思うよ?」

「え、あれが?」

「遠征にめちゃくちゃ便利だよ」

「そうなのね。へぇ…。じゃあ、お母様に伝えてみようかしら」

「うん。ぜひ!」


 グリーンフィールなら素材も豊富だ。

 体制さえ整えば量産もいけると思うのよね。


 最初の手紙から、お母様はグリーンフィール進出に前向きだったけれど。

 その後も、進出することを前提に話を進めてくれている。


「他にも、この家にある物とかでよさそうな物があったら教えてね」

「わかった。俺としては、この家まるごと売れると思うけど」

「それは、やめておきたいわ」


 こうやっていろんな話をして、いろんな気づきがあるのもラディのおかげ。

 やっぱり、プレゼントをしてよかったわ。


 ちなみに、翌朝、プレゼントした下着にものすごく感謝された。

 それはもう下着の信者みたいにすばらしさを語っていた。それも一日中。

 そんなラディにちょっと引いたのは内緒だ。

 でも、喜んでもらえてよかったよ。


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