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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第一章 平民ライフ突入編
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18.彼は疑問を解消する。

side ラディンベル

 リディの想定外が絶好調だ。

 本当に、次から次へと、いろんなことをよく思い付くよね。


 畑に鶏に魔道具販売ときて、更にお弁当屋さん。

 リディといると本当に飽きないと思う。


 魔道具販売は『待ち』状態になってしまったけれど。

 リディの母君の言うことは尤もだからね。

 こちらはお願いしている身なんだし、待つのも仕事だ。


 にしても、お弁当屋さんか。

 最初はピンとこなかったけれど、確かに妙案だと思う。


 何よりも食べて実感した。

 ――あれから結構すぐにリディが候補メニューを作ってくれたのだ。


 サンドウィッチは俺が知っている、いわゆる軽食的なものじゃなくて。

 本当にボリュームがあって食べ応えがあった。

 おにぎりは冷めてても問題ないし、おかずまで付いてるからそれこそちゃんとした食事になる。


 それでいてあんなに美味しいのだから。

 お弁当屋さんはむしろやるべきだよね。調査にも力が入るってもんだ。


 あ、そういえば。

 調査を買って出たときに、リディが俺の働きすぎを心配してくれたけど。

 それ、リディもだからね?

 いくら時間ができそうだからって、仕事増やしたのリディだから。

 今回、労働配分はちゃんと考えてるみたいで安心したけど、リディだって働きすぎには気を付けてほしい。倒れられたら、俺、泣くよ?


 そんな風にお互いがお互いに働きすぎを牽制している毎日だからなのか、おのずと生活パターンも決まってきた。


 朝は、馬と鶏と畑の世話をして―――ちなみに、鶏小屋はもうできている。

 午前中は、ふたりでお弁当屋さんと魔道具販売について検討して。

 午後になったら、俺は調査に出かけて、リディは色々な企画書を作ってる。

 帰ってきたら、また馬と鶏と畑の世話をして。が基本パターン。


 もちろん、時々は仕事をやめてふたりで買い物に行ったり遊んだりもする。

 来客もあるしね。………主にダズル様だけど。

 ダズル様は実は結構な頻度で遊びに来ている。リディの和食目当てに。

 決して、高性能な移動手段としての付き合いだけではないのだ。


 家事も役割分担ができてきた。

 俺が鍛錬している間にリディがやってくれていることも多いんだけどね。

 基本的には、俺が掃除担当で、リディが料理担当だ。

 お互いに手伝ったりするけど、やっぱりこの形に落ち着いた。


 そんなこんなで、俺は、今、すごく充実した生活をしていると思う。


 不満なんてない。あるわけがない。

 快適すぎるから、以前の生活になんて戻れない。

 何の問題もなく、自由に楽しく生活できている


 ただ、ものすごく気になっていることがあるだけだ。

 そう。ものすごく気になることがあるのだ。


 このリディの邸は、貴族邸と比べたらさすがにこぢんまりしているけれど、平民にしては、敷地面積も広い上にかなり贅沢な造りをしている。

 なかなかに立派な塀や門があることからして、普通の平民の家ではない。


 敷地の西側には畑と厩と鶏小屋。馬車寄せやちょっとした庭もある。

 そして、東側に邸が建っていて、その裏には倉庫がある。これが何気に便利だ。

 倉庫は邸の半分程度の大きさで、東寄りに建っているから西側が空いている。

 ちょうど、畑と倉庫の間に空き地がある形だ。


 ここに井戸があることもあって、どうやらこの空き地の下に水道設備の諸々が埋まっているようだ。そしてこの空き地は休憩スペースになっている。

 休憩スペースにはテーブルと椅子が置かれているんだけど、倉庫の壁に、出し入れができる防水布の屋根が付いていて、よく工夫されていると思う。

 本当によくできた家だよね。


 ただ、邸の裏手の西寄りの壁によくわからないものがあるのだ。

 それがものすごく気になっている。


 その壁は、休憩スペースの前の壁だから、畑仕事や鍛錬の休憩の時によく見えるんだよね。表からは見えないから、気にしなくてもいいんだろうけど。


 俺はそれなりに背があるんだけど、そんな俺よりも高いところの壁から鉄の棒が突き出ていて、その棒の先に板が張り付いているのがまずおかしい。おまけに、その板には、鉄の輪っかに網がぶらさがっている奇妙なものが付いているのだ。


 あれは本当に何なんだろう。


 リディも特に何も言わないからずっと聞けなかったけど。

 そろそろ聞いてもいいよね?


「ねぇ、リディ。あれ、何なの?」

「え……?ああ!あれね、すっかり忘れてたわ。ちょっと待っていてね」


 え、あんな目立つもの、忘れてたの?

 あんまり重要なものじゃないのかな?


 説明はしてくれるようだけど、リディは倉庫に消えてしまった。

 と思ったら、すぐに球体の何かを手に戻ってきた。

 よかった、放置されなくて。


「あれはバスケットゴールっていうんだけど、このボールをあのゴールに入れる遊びよ。元は、異世界のバスケットボールっていうスポーツなんだけど」


 えーっと。鉄の輪っかに網がぶらさがっているのが『ごーる』で、リディが手に持っているのが『ぼーる』ってことだよね?

 で、『すぽーつ』というのが運動競技で、その競技の名前が『ばすけっとぼーる』なんだと言う。なるほど、わからん。


 とりあえずはゴールとボールだけを覚えればいいと言うので、そうしよう。

 いきなり何でもかんでも覚えられないしね。


「ちょっとやってみるわね」


 そう言って、少しゴールから離れた場所に立ったリディは。

 ボールを地面に落とした。

 と思ったら、ボールが跳ねた。……跳ねるの?


 その跳ねたボールをリディが手で受け止めて、何回かそれを繰り返してから、リディはボールを両手で持ってゴールを見据えた。

 なんだか、すごく真剣な顔をしている。


 そして、リディはゴールに向かってボールを放ったのだった。

 ……投げるんだね。確かに、最初の説明でもこの一連の流れでも、それしかないとは思ったけども。そうか、投げるんだ。


 果たして、ボールはすっぽりとゴールを抜けて下に落ちた。


「入ったーーーーー!!成功ーーーーー!」


 喜んでいるリディはかわいいけど。

 意外に地味な遊びだと思ったのは内緒だ。


「ラディもやってみる?」

「うん」

「最初はボールに慣れたほうがいいかも」


 せっかくなので、俺もやってみようと思う。

 リディは楽しそうだし、これくらいなら俺もできる気がする。


 ボールは、持ってみたら想像していたより重くて。

 表面はしっとりとしていて、手になじみそうな感触だった。


 まずはリディを真似することから、ということで、ボールを下に落としてみたんだけど、たいして跳ねずに転がっていってしまった。

 だから、強めに落としてみたら、今度は跳ねすぎて驚いた。


「結構強く下に突き落として手の平で受け止めるの。あとは手首を使うのよ」


 リディはそういうけど、意外と難しい。なんだこれ。

 リディは、魔法を使っているんじゃないかってくらいボールを操っているのに。

 下に落としたボールが跳ねて手の平に吸い付いて、また落ちたと思ったら手に吸い付いていって。大して手を動かしていないのに、流れるような動作をしてる。

 しかもボールを見てない。


 やっぱり、魔法を使ってるのかな?

 って穿った目をして見てしまったら、リディに「使ってない」って言われた。

 え、俺、声に出してた?


 でも、何度もやっていたらコツを掴めてきて。

 リディほどうまくはいかないけど、それなりに様になってきた。

 これ、できると楽しいね。


 その後はお互いにボールを放って受け止めて。

 これがまた、思いのほか、うまく飛ばなくて。

 思ったよりも距離が飛ばなかったり、変な方向に飛んで行ってしまったり。


 っていうか、リディに向かって、強くは投げれないよね?

 ボール当たったら痛そうだし。


 リディは強いボールでもちゃんと受け止めるって言ってくれてるし、リディが放つボールは確かにそれなりの強さだけど。

 そうは言っても、及び腰になってしまうのはしょうがないと思う。


 でも、このボールのやり取りのおかげで、ボールの重さとか、飛距離がわかってきた。投げるにしてもコツがいるんだな。


「じゃあ、そろそろ、ゴールに入れてみよう」

「わかった。がんばる」


 さっきのボール投げでよくわかったけど、これは意外と難しいんだと思う。

 地味な遊びだと思った天罰かな。すみませんでした。


 案の定、なかなかボールがゴールに入ることはなくて。

 届かなかったり、板や輪っかに当たって跳ね返ってきたりしてばかりだった。

 板を超えて壁に当たらなかったことだけが救いだ。


 あ、周辺の窓ガラスには全部柵がしてあった。

 さすがの対策。


 その後、通算十五回目でやっと入ったときは、思わず、声が出たよね。

 リディも喜んでくれて、ハイタッチもしてしまったくらいだ。

 令嬢をやめたリディは、触れ合ったりするのもそんなに抵抗はないみたい。

 それは、俺たちは夫婦だからってのもあるのかもしれないけれど。


 というか。

 今回は、実は、テンション的に抱き合って喜べそうでもあったんだよね。

 さすがに自重しました。


「これからもこれで遊んでいいかな?」

「もちろん。他にも遊び方があるから、いろいろやりましょう」


 お、それは楽しみだ。

 でもまずは、毎回きっちりと入れられるようにがんばろう。


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