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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第一章 平民ライフ突入編
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17.彼女は新たに思い付く。

side リディア

 畑に加えて、魔道具販売も始めることになった。


 魔道具販売については、わたしも忘れていたわけではない。

 断じてない。


 実際のところ、魔道具は試運転中だったから。

 ただちょっと、魔道具よりも他のことに意識が傾いていただけなのだ。

 言ってしまえば、単に、わたしのスローライフを彩る畑を優先してしまったということなのだけど。


 いや、だって、ほら。畑も結構な労働だし。

 一度にいろんなことをやり始めるのは大変だと思うの。


 でも、確かに、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。

 ラディが魔道具販売に乗り気なのもわかってる。

 やっぱり、後回しにしていてはいけないわよね。


 ラディに、魔道具販売を始めないか聞かれた時。

 実は、後回しにしているのがばれたのかと少し動揺してしまったけれど、そこは誤魔化せたと思う。こういうのは貴族時代の賜物かしら。

 誤魔化すためにちょっと真剣に魔道具販売について考えていたら、思わず考え込んでしまったのは申し訳なかったけれど。


 気づけば、予定していた試運転期間もそろそろ過ぎようとしているし。

 魔道具に不具合もなかったし、改良も必要ないようだ。

 量産方法についても目途がついた。

 ラディと話していたら、これなら魔道具販売も大丈夫そうだな、なんてちょっと楽しくなってきたから、わたしも現金なものだと思う。


 でも、陛下への献上は気づいてほしくなかったわ……。

 わたしは王家への接触は最小限にしたいのだ。

 あの陛下のことだから、ちょっと隙を見せただけでも、取り込まれて使い潰されそうなんだもの。


 献上については人任せにすることにして。

 やる気のラディのためにも、魔道具販売をがんばろうと思う。


 魔道具については設計図も技術者もアーリア商会が握っているから、製造や販売を誰にお願いするかは別として、まずはお母様に手紙を送ることにした。


 魔道具をグリーンフィールで販売しようと思うこと。

 できれば、アーリア商会に製造と販売をお願いしたいけれど、それが難しいのであればギルドを頼ろうと思っていること。

 販売する魔道具の相談もしたいし、技術者派遣も検討してほしいこと。


 それと、これはラディにはまだ話していないのだけど。

 せっかくアーリア商会を巻き込むのだから。

 魔道具だけじゃなくて、雑貨等のほかの商品の販売も考えていきたいこと。


 そんなことを書いて送ったら、ものの数日で返事が届いて驚いた。

 いくら魔法転送でやりとりしていると言っても、お母様、仕事が早いわ。

 そして、その内容は―――――


「ラディ。魔道具販売のこと、お母様にお手紙を書いたのだけど」

「あ、早速やってくれてるんだ」

「やってるっていっても、まだ手紙を出しただけよ?でね、アーリア商会としても、結構前向きに考えてくれているようなの」

「お、それは心強い」

「それで、調査期間が欲しいそうなの。いきなりグリーンフィールで商売を始めるのも大変だから、ギルドとの連携も考えているらしくて。そういうこと含めて、諸々検討するから時間が欲しいって」

「ああ、うん。それはそうだよね」

「だから、魔道具販売については『待ち』状態になったの」


 そうなのだ。

 やり始めようと思ったところだけど、一旦保留状態になってしまった。

 かといって何もしないわけでもなく、企画書くらいは書こうと思うんだけどね。

 そう話したら、ラディはギルドについて調べてくれるらしい。


 だとしても、すぐには動かないということは。

 結構時間ができるのではないかと思う。

 畑の方も、魔道具販売を始めるなら、と負担が少なくなるように作業内容を考え直したのだ。精霊任せが多くなった、とも言うけれど。


 というか、よく考えたら。

 技術者派遣だけじゃなくて、商会が一手に引き受けてくれるならば。

 魔道具販売が始まったとしても、わたしたち、あまりやることなくない?

 魔道具販売のほかにも、何かできたりするんじゃない?


 なんて思うんだけど、どうかしら。


「ねぇ、ラディ。この状態、結構な勢いで商会に丸投げできるってことよね?」

「まあ、うまくいけばそうなるかな?でも、リディは新商品の開発とかするんじゃないの?」


 あら。そんな風に考えていてくれたのね?

 確かにずっと同じ商品を売っていてもしょうがないから新商品は考えるけども。

 要望によっては改良だって考えていく予定だ。


「それはするけれど。ラディにも意見を聞くことが多くなると思う」

「うん。がんばるよ」

「ありがとう。でもね、それってレンダルでもやっていたことで、そこまで時間を取られることじゃないのよね。わたし、基本的にアイデアを出すだけだから」


 だから、やっぱり、あまりやることがないと思うのよ。

 仕事にはなるけど、動くことは少ないというか。


「ってことでね、お弁当屋さんをやってみたいのだけど」

「は?」


 毎度、突拍子もないことを言ってごめんなさい。

 でも、ふと、思いついてしまったのだ。


 時間があるのなら。魔道具販売以外のこともできるなら。

 そう考えたときに、ふっと湧いて出てきたのがお弁当屋さんなのだ。

 なぜかと言われてもわからない。

 もしかしたら、前世と何か関係があるのかもしれないけれど。


 でも、我ながらいい考えだと思う。

 わたしは料理が好きだし、異世界料理という強みがある。

 お弁当屋さんなら昼だけ営業でもいいし、食堂よりも時間を取られないはず。

 それならば、魔道具販売と並行してやっていけると思うのだ。


「今度は何の話?」

「魔道具販売にあまり時間をかけなくてもいいなら、やってみたいと思って」

「うん。商会に任せられるなら時間が空くことはわかったけど」

「だから、お弁当屋さん?」

「………。そもそも、お弁当って売るものなの?」


 あら?この世界にお弁当屋さんってなかったかしら?

 と思い返してみたけれど。


 …………そうね、そういえば、見たことがないわ。

 遠出の時はお弁当を用意するし、学園にお弁当を持ってくる人はいたけれど。

 わざわざ外でお弁当を買うことってないわね。

 基本的に、自宅以外で食事をするときは食堂に行くし。

 もしくは、その場所にいる料理人に作ってもらったり、デリバリーとかでその場に用意してもらっていた気がする。


 でも、それって貴族だからじゃないのかしら。


「自宅以外で仕事をしている平民には需要がないかしら」

「あー、そっか。それはあるかもしれない」

「買っておけばいつでも食べれるし。食堂みたいに温かいご飯を食べることはできないけど、待つ必要もない。配膳がない分お安くすればどうかな?」

「なるほど。それなら喜ぶ人もいそうだね」


 だよね?

 時間と場所を気にせず食べれて安価なら、興味を持ってもらえると思うのだ。

 まあ、場所は気にしないといけないこともあるだろうけど。


「それにね、こんなことを言ったら申し訳ないんだけど、この世界の料理って残念だと思うのよ。特にこの国は、素材はいいのに単調な味ばかりで勿体ないと思うの。わたしはもっとおいしいものをみんなに食べてもらいたい」

「確かに、リディの料理を食べてからだと、今まで食べてたものが単調に感じるな。調理方法も味付けも種類が少ないんだよね」


 そうなのだ。これはずっと思っていたこと。

 この世界の料理は、本当につまらないのだ。


 異世界料理はこの世界で流通していない食材を使うことも多いし、必要な食材を求めて市場が混乱するのも避けたくて、レシピ公開は避けてきた。

 でも、公爵家のみんなもラディも、すごくおいしそうに食べてくれるから。

 そろそろいいんじゃないかと思う。

 お弁当くらいなら、提供を始めてもいいと思うのよね。

 使う食材に気を付けていけば、少しずつなら広げていいと思うのだ。


「正直、リディの料理が食べれるのなら、俺なら通う」

「あら。そこまで言ってもらえると作り甲斐があるわ」

「いや、本当に。でも、だったら食堂のほうがいいんじゃないかな?」

「さすがに食堂を開くほどの手間はかけられないわ。お弁当って言っても、貴族が食べていたような豪華なものにするわけじゃないのよ?サンドウィッチとかおにぎりとか。手軽に食べれるものを目指そうと思うの」


 ラディは馴染みのないお米の料理も抵抗なく食べてくれるから、おにぎりも作ったことがある。それを思い出したのか、ちょっと目が輝いた。


「ああ、おにぎりか!あれなら携帯食にもなるし、腹持ちもいい。確かにお弁当向きだね。そういうのを売ってくれるなら、お弁当屋さん、いいかも」

「サンドウィッチもね、ボリュームのあるものを考えようと思って」

「え、それ、食べたい」

「ふふ。今度作るわね。他にもお弁当にできそうなメニューを考えてみるわ」

「何か、楽しみになってきたな。お弁当屋さん、俺も手伝うよ」

「え、もう賛成してくれるの?」

「うん。話を聞いてたら、そういうお店なら俺も行きたいと思ったし」


 あらやだ。ちょっと、だいぶうれしい。

 まだ話始めたばかりなのに、賛成してもらえるなんて。


「ありがとう。畑とか魔道具販売のこともあるから、なるべく負担がないようにするつもりよ。お昼だけの営業にするつもりだし、販売数も限定するわ」

「ああ、それ、気になってたんだ。忙しすぎてリディが倒れちゃったら嫌だし」


 あらやだ。二回目。

 そんなことまで気にしてくれていたのね。

 相変わらずラディはやさしいわ。


「気にしてくれてありがとう。その辺は気を付けるわ。レンダル時代みたいな多忙な生活はしないから」

「うん。それね。今の生活をして俺もよくわかったよ。あれは異常だった」

「ほんとよね。やることが増えてしまったけれど、作業時間配分はちゃんと調整するから。ラディも負担が多い場合はちゃんと言ってね」

「了解。でも、今は本当にゆっくりしているから、余程のことがないとそんな風に思わないと思うよ」


 ラディならそういうと思ったわ。

 異常だと気づいたなら、少しはましになっているかもしれないけど。

 でも、結構詰め込んだとしても当たり前にやりそうな気がする。

 ワーカホリック思考なところ、矯正したいわ……。


 って思ったところだったのに。

 ラディがお弁当屋さんの出店調査をしてくれると言ってきた。

 そりゃ、助かるけども。どうか、程々のペースでお願いね。


 ………仕事を増やしたのはわたしだけど!


 畑に魔道具販売にお弁当屋さん。

 一度にいろんなことをするのは大変だと思ったそばからこんなだけど。

 自業自得ながら、なかなかハードな生活になりそうね。

 でも、楽しみになってきたのはわたしも同じよ?


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