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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第六章 陰謀巻き込まれ編
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143.彼女と彼は宴に招かれる。

side リディア

 え、そんなにおかしなことを言ってしまったかしら?


 ガルシアの黒幕王子を漸く拘束することができて。

 パンとスープのお店も無事に開店、営業も順調。

 米と大豆の普及についても少しはお手伝いができたと思う。


 そうして、長かったガルシア出張から戻ったら。


 早々に王宮に呼び出されて、労いのお言葉を賜って。

 黒幕のお話を聞いていたはずなんだけど。


 いつの間にか、レイラ様がわたしに御礼をしてくれる話になっていた。


 できれば辞退したいところだけれども。

 これまでの経験上、それは無理だとわかっているから。


 ならばと、先手必勝とばかりにこちらの要望を伝えてみたところ。

 物凄い注目を浴びてしまったのよね。


 想定外だったのはわかるけど、そこまでのことかしらね?


「簡易温室、ですの……?」

「はい。天候に左右されない農地があれば便利だと思うのですが、一般的な温室の設置は費用も嵩みますから。もっと簡易的な、パイプで基礎を作って透明な樹脂素材のシートで覆う程度の温室ができないものかと」


 要は、ビニールハウスがあったらいいな、と思っただけなのだけど。


「………それは、ガルシアのためか?」


 なるほど、そう捉えるのか。


 確かに、ガルシアの食糧難を目の当たりにして思い付いたし。

 ガルシアや、あとはレンダルとかの方が有効性は高いけども。


「最終的に売りつけ…、じゃなくて、お取引に繋がれば尚良いとは思いますが、そういうことではなく。この国でも天候不順に見舞われることはありますし、外的要因を気にしなくてもよいならば、栽培計画も立てやすくなって、食料を確保しやすくなると思うのです」


 グリーンフィールは、精霊のおかげで実りは多いけれど。


 精霊だって天候まで操るわけではないし。

 天候や気候が農作物に全く影響を与えていないとは言えないわけで。


 農業技術のひとつとして研究しておくのも無駄ではないと思うのよ。


「まあ、確かに、天候関係なく作物を確保できるのはありがたいが」

「降雨量が多かったり、寒暖差の激しい地域では喜ばれそうですね」

「設備を工夫すれば、品種改良や商品開発の場としても使えるのでは?」

「設置費用次第では、欲しがる農民もいるかもしれません」


 あら、男性陣には意外と好評かしら?

 話が早くてうれしいわ。


「あの、リディア?簡易温室の有用性が高いのはわかりますわ。でも、それが御礼でよろしいんですの?」

「はい!実は、いずれ着手したいと思っていたのです。でも、丸投げ、じゃなくて、専門家にお願いできるならば是非!」


 ここは笑顔で言い切るに限る。


「そ、そう……。リディアがいいのなら、私も異論はないのだけど……」

「最終的には国のためになることだしね、礼にならないというレイラの言い分もわかるけれど、ちょくちょく出てきていた本音を叶えてあげれば、まあ、礼にもなるんじゃないかな?」


 レイラ様は若干引き気味に。

 クリス殿下は苦笑しながら、そう答えてくれたから。


 今度は、皆で陛下のほうをじっと見たら。


「農業政策担当次第だ。交渉はお前たちでやるがいい」


 そう言ってくれて、交渉はレイラ様がやってくださることになったから。

 後日、概略をお送りするお約束をしたわ。


 本来はガルシアの話を聞くために集まっていたわけで。

 話がすっかりと変わってしまったけれど。


 わたしは、ガルシアが再度やらかさなければそれでよかったし。

 自分も狙われていたとはいえ。

 処遇や賠償はすべてお任せするつもりだったから。


 聞けた話だけで十分だったのよね。


 ということで、その日はそれでお開きになって。

 わたしたちに、本当に久しぶりに当たり前の日常が戻ったのよ。


 そして、それからのわたしたちは。

 通常仕事をこなしつつ、レシピ本第二弾の写真撮影に励み。


 レイラ様が早々に動いてくれたおかげで。

 無事、簡易温室の研究チームが発足して。

 時々、意見を求められて、研究チームの会議に出席したり。


 ルシル商会さんからお手紙が届いて。

 ガルシアのパンとスープのお店がその後も順調で。

 スープの大型注文があったことや、二号店の話まで出ていることを知って。

 ラディと喜んだりしていたんだけど。


 ガルシアから帰国して、二ヶ月ほどが経った頃。

 グリーンフィールの王宮から招待状が届いたの。


「わたしたちが王宮のパーティーに出席するの?平民なのに?」

「ガルシアの事件終結を機に五ヶ国同盟を結ぶことになったんだって。提唱したのがグリーンフィールだから、この国で式典を開くらしいんだけど、式典の後のパーティーにリアン商会も呼んでくれたらしいよ」


 なるほど。

 ガルシアの事件絡みならば、商会も関係なくはないし。

 気を遣ってもらって申し訳ないとは思うけども。


 気になったのはそこではなくて。


「五ヶ国?」

「元々は、グリーンフィールとレンダルとジング、そしてドラングルの四ヶ国の予定だったみたいなんだけどね、それを聞きつけたファーレスが懇願して加わることになったって話だよ」


 ドラングルに隣接している国はもちろん、ジングだって。

 武に優れたドラングルと敵対したくないのはわかる。


 それに、今回で言えば、情報収集の面でお世話になったしね。

 同盟という話が出れば、ドラングルにも声がかかったことだと思う。


 でも、ここで、ファーレスまで入ってくるとは思わなかった。


 今回の事件は、言ってみれば、ファーレスの魅了の魔石ありきだったし。

 一時は情報を隠蔽しようとしたのに。


 ―――その後の調べで。

 ガルシアが使った魅了の魔石はファーレスが紛失した魔石であり。

 盗んだのも、件の魔術師だったと判明している。


 おまけに、帝国の脅威に晒されている国なのに。


「ファーレスは、最終的に協力してくれたしね。特産の鉱石や魔石の優先取引を条件に入れたみたいだし、悪くない話じゃないかな。まあ、本音は、どの国も帝国の情報が欲しいんだと思うけど」


 ああ!そういうことなのね!


 ファーレスにとっては同盟が盾になって。

 他国は情報が手に入るってことね。


「なるほど。そして、ガルシアは加盟しないのね」

「そうだね。声を掛けたかもどうだか……。でも、ガルシアとは不可侵条約を結んだって聞いてるから、攻めてくることはないはずだよ」


 なるほど、なるほど。

 ガルシアに限っては、下手に同盟組むよりもそのほうがよさそうだわ。


 結構な事件を起こしてくれたのに捜査は雑だったし、後始末もお粗末。

 次代も、俺様王子に偽善王子だものね。


 同盟を結んでも、期待できる点が少なすぎる。


「そっか。同盟についてはわかったけど、っていうか、わかったからこそ、そのパーティーにわたしたちが出席するのはものすごく場違いな気がするんだけど」

「ああ、うん。俺たちには、別室を用意してくれるんだって」


 あら。ってことは、家族での豪華な外食みたいな感じかしら?


 そう言ったら。

 ラディは苦笑しながらも、そうだね、って言ってくれた。


 そうして迎えたパーティー当日―――――。


 パーティー開始よりも早い時間に呼び出されたことに疑問は覚えつつも。

 向かった王宮で、案内された部屋に入室したわたしたち家族は驚いた。


 入室早々に、お母様にはレンダルの王妃様が。

 お父様にはオスヴァルト陛下が飛びつくように抱き着いてきたのだ。


 わたしとラディも呆気に取られてその様子を見ていたのだけれど。

 どうやら、式典にいらしていたおふたりが話を通してくれていたらしい。


「本当は、アルフォードも連れて来たかったのだけど」

「……まだ時間が必要であろうな」


 アル殿下がいらしていなのは。

 まだ成人していないとか、立太子していないからかと思いきや。


「アンディールを降爵させたのだ」


 陛下の言葉は思ってもいなかった話だった。


 詳しく聞けば。

 クラウス様の件で責任を追及されるも、宰相閣下は被害者だと言い張って。

 宰相の地位を死守しようとしたものの。


 ずっと宰相の尻拭いをしてきた補佐官たちは我慢の限界だったようで。

 この機会にと、あれやこれやと告発したのだそうだ。


 ―――派閥に有利な事案を通すのは日常茶飯事で。

 言葉は濁されたけれど、犯罪もあったのだと思う。


 そして、宰相は辞職し、アンディール家も降爵することになり。

 今は、一部没収されて小さくなった領地に一家でひきこもっているという。


「クラウスも漸くまともに話せるようになったのだけど、自分がやってしまったことにすごく落ち込んでいてね。そこに、アンディール家のことが重なったものだから、学園も辞めて領地に行ってしまったわ。アルフォードは、魅了から回復して、それでもついてきてくれるならば側近にしたがっていたのだけれどね」


 想像よりも重い話に、言葉が出ない。


 アル殿下とクラウス様は小さい頃からずっと一緒で。

 おまけに、まだ十四歳なのだ。


 王子とその側近を自負する人間ならば。

 それくらいは乗り越えて当然なのかもしれないけど。


 まだ幼いと言ってもいいふたりには厳しい試練だと思うし。

 陛下の『時間が必要だ』という言葉も甘いとは思えなかった。


「アルフォードの婚約も白紙に戻ったわ」


 ああ、そうだったわ。

 クラウス様の妹君がアル殿下の婚約者だったのよね。


 妹君はとんだとばっちりだと思ったのだけど。


 王妃様が少なからずホッとしているようにも見えるから。

 実は、本人にも問題があったのかもしれない。


「アルフォード殿下もつらいわね」

「そうね。でも、フィンディベルもいるし、最近はルドルフやジョセフィーヌもよく顔を出してくれるのよ」


 ラディは微妙な顔をしているけど。

 フィン君が付いてくれてるなら安心ね。


 それに、ジョセフィーヌ様は、元王女にしてルド様の奥様で。

 きつい性格だけど家族愛は強いから、きっとアル殿下を守ってくれるはず。


 なんてことを考えていたら。


「アーロン……、」

「ああ!そうだわ!リディア、貴女、また素敵なことを思いついたんですって?」

「えっ?!あ、あの……?」


 今、陛下がお父様に何かを言おうとしていたのに。

 王妃様が遮ったのは気のせいではないわよね?


 それは確信しているのだけど。

 王妃様の笑顔の圧が物凄くて、どうしていいかわからない。


 ラディも、わたしの手をぎゅっと握ってくれてはいるけど。

 複雑そうな顔をしたまま、静観状態だ。 


「マリーったら、それだけじゃ解らないわ。リディアちゃんのアイデアはいつだって素敵なのよ?」

「あら、やだわ、私ってば。御免なさいね、嬉しくて舞い上がってしまったわ」


 おろおろしていたら、お母様が話を進めてしまったし。


 ちらっと陛下のほうを見れば。

 お父様が申し訳なさそうな顔でゆるく首を振っている。


「そんなに嬉しいことがあったの?」

「ええ、そうなのよ。今、グリーンフィールでは、リディアが提案した簡易温室の研究をしているんですってね?その研究に、レンダルも声を掛けて貰えたのよ!」

「まあ!」


 え、そうなの?

 それはさすがにびっくりだ。


「グリーンフィールの農業技術の素晴らしさは、ランクルム公爵領で実証済みだもの。すぐに参加するとお返事したわ」

「ランクルムの農地、うまくいっているのね?」

「ええ、それはもう。……あなた。いえ、陛下。サティアスがこの国にいるからこそ与った恩恵は数えきれないと思いません事?」


 王妃様の言葉に、陛下がハッとした顔をして。

 こう言ったら申し訳ないのだけど、すごく情けない顔をお父様に向けてから。

 小さく息を吐いて、口を開いた。


「ああ、そうだな。そうであるな。………今後も、同盟国として良き関係が続くことを期待しておる」

「陛下、有難きお言葉。私共も精進してしてまいります」


 ええと。

 これは、うまいこと話が纏まったってことよね?

 下手に突っつくのはきっと藪蛇だ。


 ということで。

 わたしたちは、気を取り直して積もる話に花を咲かせたのよ。


 皆、内心では思うところはあれど。

 今は、再会を楽しむのが一番よね?


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