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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第六章 陰謀巻き込まれ編
147/149

142.彼と彼女はやり遂げる。

side ラディンベル

 これで、漸く片が付いたね。


 囮役の商会の技術者――本職は侯爵家の護衛騎士――が本当に攫われて。

 リディが作ってくれたGPSを手に、敵地パン屋に向かったら。


 何とか中に居た人間に出てきてもらうことには成功したものの。

 やっぱりと言うべきか、建物内には入れてもらえなくて。


 いっその事、本当に警備隊を連れてきて強引に入ってしまおうかな?

 と思ったところで。


 まさかのクリス殿下がやってきた。


 いや、色々とすごく、物凄く問題があるとは思うけれど。

 きっと殿下のことだから、うまくやるんだろうし。


 隣国の王太子というだけで威力があるのは間違いなくて。

 敵地パン屋の従業員も、反論もできずに言われるがままだったから。


 やっと、本当にやっと、黒幕の拠点に足を踏み入れることができた。


 正直、黒幕王子もいたことには驚いたけどね。

 囮役を工作員だと思っていたのならば。

 多分、裏切り者だと言ってやりたい気持ちでいっぱいだったんだろうな。

 実際、ゼクスさんの録音内容を聞いたら、そんなことを言っていたしね。


 それはともかく。


 黒幕に加えてファーレスの魔術師に行方不明のはずの王弟の側近が揃い。

 証拠がわんさかあるこの状況で言い逃れはできないわけで。


 クリス殿下はもちろん、黒幕に迫ったんだけど―――――。


 実は、その場で尋問が行われたわけではないんだよね。


 クリス殿下は、連れてきた騎士に現場保存を指示して。

 黒幕たちを拘束して王宮に行ってしまったから。


 俺たちは、パンとスープのお店に戻ることにしたんだ。


 既にクリス殿下の騎士から救出したことを聞いていたようで。

 ルシル会長は、ゼクスさんの無事を手放して喜んでくれた。


 まあ、殿下の来国には絶句してたみたいだけどね。

 そんなの、俺たちも同じだしね。


 とりあえず、事の次第を説明しようと思うものの。

 本当のことは言えないから。


「ライバル店ができると聞いて、従業員を攫って情報を得ようとしていたそうです。攫われた技術者は、事情説明のために殿下と王宮に向かいました」


 そう説明して、やり過ごしたことにはちょっと罪悪感を感じている。

 本当にそう思ってたんだけど。


 実は、その後。


 事件のことを考える余裕すらなくなってしまうくらい。

 俺たちは無心で仕事をすることになったんだよね。


 というのも―――――。


 あの黒幕のパン屋は、当然ながら休業を余儀なくされたから。

 パンの供給が明らかに不足してしまったんだ。


 だから、パンとスープのお店の開店を急ぐことになって。

 早急に、米と大豆の販売体制を整える必要がでてきた。


 クリス殿下が今回の事件の全貌を解明するために。

 ガルシアにそのまま残ってくれていたのは幸いだったよね。


 さすがに、今すぐに。

 ガルシアで米や大豆を準備することはできないからね。


 グリーンフィールとの貿易についても対応してくれて。

 ジングにも口添えをしてくれたみたいで。

 本当にありがたいことこの上なかったよ。


 そうして、全力で準備を進めてきたわけだけど。


 今日、遂に。

 パンとスープのお店が開店する。

 穀物と豆のお店でも、米と大豆の販売が開始されるはずだ。


「ここまで辿り着けたのも、すべてはグリーンフィールとリアン商会のおかげです。本当にありがとうございます」


 ルシル会長がそう言ってくれたけれど。

 グリーンフィール側としては、会長の有能さがあってこそだと思っている。


「俺たちは、ほんの少しお手伝いしただけですし、きっと、これからのほうが大変です。小麦の不作がいつまで続くのか、米や大豆がどれだけ受け入れられるのか、常に状況を見据えて動くには多大な労力が必要ですから」

「お若いのにそこまで考えていらっしゃるとは。貴方やリディアさんがいるリアン商会が羨ましいですよ。ですが、その通りですね。教えていただいた市場分析を徹底して、最善を尽くしていくつもりです」


 ああ、そういえば。

 俺たちの市場分析結果――当然、調査してある――を見て。

 会長は甚く感動していたんだっけ。


「とはいえ、まずは今日を乗り越えないと」

「そうですね。会長、一体どれだけ宣伝したんですか……」


 店の外に集まった大勢の人たちを見て。

 俺が若干うんざりしながら会長に向けてそう言えば。


 会長は、にやりと笑って。


「いやいや、大したことはしていませんよ。皆さんのお目当ては、今日明日限定のおまけのおからクッキーなのでは?」


 抜けしゃあしゃあと適当なことを言ってくれた。


 そりゃあね。

 食糧難にあってお菓子が貰えるなら、喜ぶ人は多いだろうけど。

 この集客は絶対、会長が誇張して宣伝したことが原因だと思う。


 リディも大慌てで調理場に戻って。

 予定よりも多くの商品を作るのに必死になっているくらいだ。

 俺も気合を入れて裏方を頑張らないとね。


 そう思ってたんだけど。

 いざ、オープンしたら。


 パンはもちろんのこと、想像以上にスープの人気が高くて。

 おまけに保温水筒に興味を示す人が続出してしまったから。


 俺は、在庫確認や今後の仕入れについて。

 商会本部とひたすらやり取りする羽目になったんだよね。

 まあ、ありがたいけども。


 そうして怒涛の日々を過ごすこと一週間。

 漸く客足が落ち着いたところで、米と大豆の売れ行きを聞いてみたら。


「大豆もそれなりに売れておりますが、米が飛ぶように売れているそうです。粉よりも精米された米粒のほうが人気ですね。パンよりも腹持ちがいいですし、パンを焼くよりも白米を炊くほうが楽ですから」


 おお、意外と白米のウケがよさそうだ。


 更にはルシル会長から、炊飯器の輸入を増やしたいと相談があって。

 俺はまたしても、商会とのやりとりに集中することになった。


 そんなこんなで、更に一週間。

 俺たちはパンとスープのお店の手伝いをしていたんだけど。


 いつまでもガルシアにいるわけにはいかないからね。

 ―――本職の技術者と護衛ふたりは既に帰国していて。

 今は、俺とリディとゼクスさんだけが残っている。


 そろそろ帰国することを伝えたら。


 ルシル会長やボルグさんを始めとするお店の従業員が皆寂しがってくれて。

 お別れ会まで開いてくれたんだよね。


 そんな温かい気持ちを受け取って。

 リディも目に涙を浮かべながらガルシアを後にしたんだけど――――。


 俺たちは帰国早々、王宮に呼び出されている。


 集まっているのは。

 陛下に王太子夫妻、そして侯爵に義両親といういつもの面子だ。


「一時は、囮が不発に終わったかと強引な手も考えていたのだがな。無事黒幕を捕縛出来て何よりだ。お前たちもよくやってくれた」


 陛下のそのお言葉は大変光栄だけれども。


 俺たちががんばったのは、むしろ開店準備………。

 だということは、口にしないでおいた。


「幼い第四王子が黒幕だとは些か信じ難かったのですが、母親から王になれと常に言い聞かせられて、脅迫観念に苛まれていたのかもしれませんね」

「幼少期から英才教育を受けていて、帝王学も叩き込まれていたそうだよ。教育係からも誘導されていたんじゃないかな」


 デュアル侯爵とクリス殿下の話を聞いてなるほど、と思う反面。


 いくら王子とはいえ。

 第四王子という微妙な位置にいる幼い王子にとっては。

 さぞかし重圧だっただろうとも思う。


「警備員からファーレスの魅了の話を聞いて計画を立てたのは、第四王子自身だということだしな。最初の立案が十歳やそこらだと考えると、方向性を間違えなければ、玉座はともかく国にとって重要な人物になり得ただろうに」


 続いた陛下の言葉には驚いた。


 警備員や王弟の側近から誑かされていたのかと思いきや。

 まさか、王子自身が進めていた計画だったとは。


「まあ、今回に限って言えば、警備員やファーレスの魔術師、そして王弟の側近という悪知恵が働く人間が仲間にいましたしね、絶対の忠誠を誓う妹姫もいたわけです。第四王子だけの力ではなかったと思いますけどね」


 悪知恵が働くと称された三人は三人とも。

 自分の実力が認められていないと現状に不満を覚えていて。


 今回の計画がうまくいけば、のし上がれると相当奮起していたそうだ。

 がんばる場所、間違えてたけどね。


 妹の第二王女については。

 第四王子と同じく、母からの洗脳が強かったんじゃないかな。


「ともあれ、拠点の地下室が見つかったからには、ガルシアも事実を受け入れざるを得ん。先の目論見通り、王弟ひとりに罪を擦り付けることができれば楽だっただろうが、王族が三人も絡んでいるとなれば、後始末に苦労するな」


 そう言った陛下の声に同情心は一切含まれておらず。

 むしろ、ざまあみろ的な顔をしていたから、俺は視線を外しておいた。


 まあね、ガルシアの王族は保身に走ってばかりだと言うし。

 この期に及んで、まともな謝罪もなく、皆言い訳ばかりで。

 賠償金を値切ったりしているみたいだからね。


 温情だってなくなるよね。


「ガルシアは今後も今回の事件を公表するつもりはないそうですし、多分、三人とも幽閉されて、人知れず病死したり事故死したりするのではないでしょうか」


 実質処刑ってことかな?

 なんだかんだ言って、幽閉で終わるのかもしれないけれど。


 今回の件で人が死ぬことはなかったとはいえ。

 禁術使っちゃったしね、軽い処罰では済ませられないよね。


 ちなみに、第二王女をはじめ。

 各国で拘束されていた工作員は既にガルシアに送り返されていて。

 処罰もガルシアに一任したそうだ。


「ああ、そうそう。ガルシアの王太子と第三王子がね、リディアたちにしてやられた、嵌められたって煩かったからね。攫われたリアン商会の人間が工作員に似ていたのは偶然だったって言い切っておいたよ」


 囮の件だよね。

 まあ、王子たちの反応が普通だと思うし。


 クリス殿下の悪い顔を見るに。

 相当面白がって、ふたりの王子をやりこめてきたんだと想像できたから。

 ちょっとだけ王子たちに同情しておく。


 偶然と言えば。


 王子たちの視察中に囮が攫われたことについては。

 王太子と第三王子のどちらかが、もしくは両方が。

 実は、第四王子と繋がっていたんじゃないかと内心警戒したんだけどね。


 同時に起きたのは、本当に偶然だったそうだ。


「まさか、ジングのみならず、我が国やレンダルにまで被害が及んで、解決にこんなに時間がかかるとは思ってもいませんでしたよ。陛下、リアン商会もかなりの費用と人員を割きました。賠償金の一部、回してくださいね」

「わかっておる」


 ふと気づけばそんな会話が聞こえてきて。

 ちゃっかり者の侯爵に感心してしまった。


 でも、確かに、結構な費用が使われたと思う。

 工作員を拘束し続けるのにも、お金がかかっただろうしね。

 俺たちの出張費用だって商会持ちだったから。


 だから、この際、がっつり貰っておきたい気持ちはわかる。


 にしても、侯爵が言った通り。

 ここに至るまで長かったよね。


 ジング旅行で魅了の首飾りを見つけてから半年以上。

 基本的に捜査はお任せしていたとはいえ。

 俺たちも、ジングにレンダルにガルシアと飛び回っていたからね。


 レシピ本の第二弾の制作が終わったら。

 さすがに、少しでもいいからゆっくりしたいな。


 なんて思っていたんだけど。


「そうでしたわ。私もリディアに御礼をしないと」


 レイラ妃殿下のお言葉に、リディがきょとんとして。


「赤子の食事と減量の件でお世話になったでしょう?」

「まあ!わたくし、そんなつもりでお話したわけでは」

「もちろん、わかっていますわ。でも、私が御礼をしたいのよ」


 押しの強い妃殿下に若干怯みながらも。

 リディは少し考えて口を開いた。


「では、簡易温室の研究をお願いすることは可能でしょうか?」


 その答えに、皆の視線がリディに集まる。


 ええと、リディ?

 もしかして、新しい仕事とか言わないよね?


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