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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第六章 陰謀巻き込まれ編
145/149

140.彼は彼女の暴走を心配する。

side ラディンベル

 ああ、うん、リディは立ち向かうよね。


 ガルシアの黒幕を揺さぶるべく。

 彼らの拠点の近くにパンとスープの店を構えることにした俺たちは。


 万全の準備をしてガルシアに入国して。

 裏で情報収集をしながらも、開店準備に勤しんでいたわけだけども。


 準備は大詰め、開店も間近、というところに来て。

 ガルシアの王子が突撃してきた。


 店は常にガルシアの間者に監視されているし。

 何かと探られているというのはわかっていたけれど。


 まさか、王子が正面切ってやって来るとは思っていなかったよね。


 っていうか、護衛を引き連れてきていたら。

 ここは狭い商店街だし、近所迷惑になってるんじゃないだろうか。


「あの、殿下がふたりともなると、結構な人数でいらしているのですか?」

「一応、お忍びという体らしく、其々がお供の方を三人ずつ連れておりました」


 供の中に護衛がいるんだろうけど。

 王子然とはしていなくて、それくらいの人数で来ているのならば。

 騒ぎになるのは避けられるかな?


 と言えども、急いでお迎えしないといけないよね。


 準備期間中の現在、店の警備というか結界は通常よりも強化されていて。

 ―――俺たちの秘密の情報交換の邪魔をさせないためと。

 まだ市場に米や大豆が出回っていないこの段階で。

 食料やレシピが流出して、混乱が生じるのを防ぐためだ。


 結界の解除はリディしかできないから。

 ルシル会長も王子たちを表に待たせて調理場まで来たんだと思う。


 だから、声を掛けようとリディに目を向けたら。


 リディは、俺が作ってたキャベツロールをマジックルームに隠して。

 鶏ガラスープと豆乳スープを作るように料理人たちに指示していた。


 なるほど。

 今日は、商品になり得るものは、パンしか作ってなかったからね。

 試食したいと言われたら、出すものがなくて困っていたところだ。


 しかも、粉末スープを使えばすぐにできるスープにするとはね。


 さすがはリディ、と思いつつも。

 リディの目に闘志の色を見つけて、俺はいろいろ諦めた。


 まあ、諦めたというよりも、疾うに諦めているんだけど。


 こうなったらリディは真っ向から立ち向かうだろうからね。

 俺は、リディが暴走しないように気を付けよう。


 そう思いながら、リディに扉の結界を解除してもらって。

 ルシル会長が王子たちを迎え入れる傍らで、俺たちも頭を下げておく。


『待たせやがって』

『兄上、突然やってきたのは私達です。中に入れてもらえただけでも感謝すべきところですよ』


 王子たちはガルシア語で話をしていたけれど。

 俺も少しは勉強してきたし、リディがこっそり通訳してくれているから。

 話の内容に困ることはない。


 とりあえず。

 大陸覇者を目指す王太子は、横暴というか俺様王子で。

 庶民派の第三王子は、丁寧で腰が低いタイプなんだね。


 目の前では、ルシル会長が店内の案内をしていて。

 スープ用の保温ケースやレジ台に食いつかれてはいるものの。


 話を聞いているのは第三王子だけで。

 王太子は面白くなさそうに付いていってるだけだ。


『これらも販売するのですか?』


 気づけば、話は壁際に飾ってある商品に移っていた。


 壁際には、保温水筒はもちろんのこと。

 持ち運びに便利なケース入りのスプーンやフォーク。


 そして、パン用のナイフやカッティングボードに。

 スープカップやスープ皿にカトラリーが並べられている。


『それらは見本品なのですが、ご要望があればお売りする予定でございます』

『なるほど。商売上手ですね』


 こちとら、商人が手掛けたお店だからね。

 売れるものは、当然売らせてもらうよね。


『おい、ここはパンとスープの店なんだろう?食い物はねぇのかよ』


 王太子ともあろう方が随分と乱暴は話し方をするもんだ。

 好戦的な騎士たちと一緒にいると、こうなるんだろうか。


 と思いながらも、ルシル会長がリディに縋る目を向けたのを見て。

 リディを突っついてみたら。


『恐れながら、開店前ですので、毎日すべての商品を作ることはございません。本日ですと、二種類ずつでしたらパンとスープをご用意できますが、商品にする予定とは言え、庶民の食べ物です。それでもよろしゅうございますか?』


 リディが流暢なガルシア語で答えたからか。

 王子たちだけでなく、お供の人たちまでもびっくりしていたけれど。


 第三王子は一瞬で立て直して、笑顔をむけてきた。


『それはありがたい。新しい食材を使うと聞いて気になっていたのです。すぐにでも試食をお願いしたいのですが、その前に厨房も見せていただけませんか?』


 調理場まで見ていくのか。


 レシピがバレることはないだろうけれど。

 設備に興味を持たれたら面倒だな、と思っていたら。


 案の定、王子たちは、水道に夢中になってしまった。


 冷蔵庫も気にはなったみたいだけど。

 多分、ガルシアの商人から話は聞いたことがあるんだろう。

 水道ほどではなかった。


 っていうか、米や大豆に興味を持つべきじゃないの?


 とは思えど、家畜の飼料と聞いてげんなりしていたし。

 実質食料に困っていない王族にとっては。

 内心では食糧難なんて他人事なのかもしれない。


 第三王子の庶民派というのも民へのポーズだけなんだろうか。


 そう思うと幻滅するよね。

 リディも白けた目で王子たちを見ていた。


『これは気に入った。王宮にも設置しろ』

『大変申し訳ございません。水道はグリーンフィールの技術でございます故、私共では設置することはできかねます』

『では、これは……?』

『共同経営者のリアン商会が、使用許可の取得と工事を請け負ってくれました』


 ルシル会長の返答を聞いて。


 水道を設置するならば、グリーンフィールかリアン商会を相手取ることになる。

 ということを理解した王子たちは、それ以降、強くは言ってこなかった。


 そうして、話を変えようとばかりに試食をすることになったから。

 ルシル会長が休憩室に案内していたんだけどね。


『こんなとこで食えっていうのか?!』


 王太子が、準備をしていた俺たちにも聞こえる声でそう言っていて。

 市井のパン屋に何を求めているのかと、呆れてしまったよね。


 それはともかく、王子を待たせるわけにはいかない。


 急いで豆乳スープと鶏ガラスープを温め直して。

 四角パンのスライスとじゃが芋入りピロシキを軽く焼いて。


 王子たちの前にお持ちして毒見もして。

 料理の説明をしたところ。


 家畜の飼料を食べるのは抵抗あれど。

 食べたいといった手前、意を決して口にしたようだけどね。


 ふたりとも、一口食べて目を見張ったあとは。

 王太子はがつがつと、第三王子も手を止めることなく食べていた。


 ふっ、リディの料理の素晴らしさがわかったか。


『小麦を使わずにこれだけのパンが作れるとは。スープも味わい深いですね』

『ふん、まあ、庶民の料理にしてはなかなかなんじゃねぇか?料理人を王宮で雇ってやってもいいぞ?』

『兄上。この店の料理人を雇ってもこれを食べることはできませんよ。レシピは門外不出でしょうから』


 第三王子に諭されて王太子が不機嫌になったものの。

 そんなの、当然じゃないかな?


『はい。恐れながら、商品のレシピを公開する予定はございません。とはいえ、米や大豆の販売体制が整いましたら、一般的な食べ方については紹介する予定でございます』


 ルシル会長のその話に、第三王子は甚く感激した顔をして。

 ぜひ食べ方を広めて食糧難の解消に努めてほしい、と言っていたけれど。

 結局他人任せなことに、またしても幻滅したよね。


 そうして、これで視察も終わりだろうと肩の力を抜いたのも束の間。

 王子たちはリディと俺を指名して、人払いをして話をしたいと言ってきた。


 まあ、そうなるか。

 視察はしたものの、本来の目的はそれだったんだろう。


 ルシル会長は、水道の交渉だと思ったのか、あっさりと場を譲ってくれた。

 ―――必要以上に巻き込むつもりはなかったから。

 ガルシアがしでかした事件については話してないんだよね。


 ガルシアも、国内で事件がなかったことを幸いに公表していないし。

 王女が暴走したレンダルはともかく。

 グリーンフィールやジングも、好戦的な人間に餌をやらないために。

 ガルシアが絡んでいることは一切伏せている。


 ということで。

 休憩室には、王子ふたりと俺とリディの四人が残ったわけだけど。


「何をしにガルシアに来た?」


 前置きもなしに、王太子が敵意丸出しで切り出してきた。

 共通語で話してくれているのは。

 リディがいちいち俺に通訳しているのがうざかったからだろうな。


「……見ての通り、お店の開店準備を手伝いに来たのですが」

「馬鹿を言うな。毎晩、従業員でもないやつらが出入りしているのはわかっているんだ。何を探っている?」

「まあ!四六時中わたくしたちを監視していたのは、殿下の手の者でしたか」

「話を逸らすな!」


 リディの言葉に。

 余計なことを言った失態を誤魔化すかのように、王太子が声を荒げてきた。


「あら、失礼しましたわ。出入りしているのは調査隊でございます。店舗運営に市場調査は欠かせませんでしょう?」

「成程。あくまでも店のための調査だと」

「さようにございますわ」


 直情的な王太子に任せるのは危険だと判断したのか。

 問答相手が第三王子に代わったね。


「では、なぜ貴女が直々にいらしたのですか?」

「我が商会でガルシア語を話せるのはわたくしだけですもの」

「囮になろうとしているのではありませんか?」

「囮、でございますか?犯人は既に拘束されていると聞いておりますが?」


 その後の話で、ガルシアは王弟にすべてを擦り付けるつもりだと聞いている。


 そんな結果に落ち着かせるつもりはないけれど。

 リディは、ガルシアの話に乗っておくことにしたらしい。


「だが、お前らは犯人は別にいると考えているんだろう?」

「………正直に申し上げれば、納得ができない点はございます。ですが、いずれ、きちんとご説明いただけると信じておりますわ」

「ほう…?こちらの説明を待つと?自分たちで捜査はせずに?」

「わたくしたちは一介の商人です。捜査をするならば別の人間がいたしますわ」

「成程。貴女方は何かを探っているわけではないと」


 そう言われて、リディはにっこりと笑った。

 肯定も否定もしないところが狡賢いね。


「では、最後にひとつだけ。どうして貴女は外出時に変装しているのですか?」


 そこを突っ込まれるか。

 確かにリディは、帽子に髪を隠し、色眼鏡をかけて外出している。


「まあ!それもご存じだとは。わたくし、絵本の改訂版を拝見して吃驚致しました。凝視されるのも居心地が悪くて、急ごしらえの変装をしてみたのですが、うまくできておりましたかしら?」


 何の絵本なのかはすぐに思い至ったようで。

 第三王子はバツが悪い顔をしていた。


「……あの絵本のせいでしたか。ですが、帽子はまだしも、色眼鏡まで持っているとは随分と用意がいいですね」

「あの眼鏡は、日差しから目を守るものなのです。いつも持ち歩いておりますわ」


 往生際が悪く、更なる追及をしたものの。

 リディの返答にため息を吐いた後は。


 多分、何を聞いても想定した返事が得られないのだろう。

 それ以上の追及は無駄だと思ったのか。

 王子たちは、本当に、変装の質問を最後に帰って行った。


 まあ、去り際に王太子からは忌々し気に睨まれたけどね。


 とりあえず、リディが暴走することもなく。

 王子たちにもお帰りいただいてホッとしていたら。


「大変です!ゼクスさんがいなくなりました!」


 今度は、商会の技術者が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 ゼクスさんというのは、もうひとりの技術者だ。


 王子たちの視察中にうちの人間がいなくなったのは、故意か偶然か。

 ということは気になるけれど。


 どうやら、俺たちは賭けに勝ったらしい。


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