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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第六章 陰謀巻き込まれ編
137/149

132.彼と彼女は反撃する。

side ラディンベル

 なんていうか、すごく残念な感じなんだよね。


 宝石工場と農地の視察から帰ってきたら。

 ガルシアの王女が、弟のフィンを通じて俺たちに会いたいと言ってきた。


 そんな話、リディは飛びつくに決まっている。


 いくら俺がリディを危ないところに行かせたくはないと思っていても。

 それを裏切るかのようなお誂え向きな状況にうんざりするけれど。


 今回ばかりは、チャンスだというリディの主張もよくわかるし。

 今なら、精霊のおかげで、王女陣営の動きを知ることができる。


 ―――これまでは。

 学園寮の王女の部屋は王族用だから、造りからして防犯に優れていて。

 正直、うちの手の者も近づくことが難しかったんだよね。


 でも、場所的にもこっちが有利で、事前対策を施せるならば。

 勝算は十分にある。


 ということで、かなりの警備を敷いたうえで対峙することになって。

 いざ、招待を受けた王女のお茶会に向かったら。


 道中の襲撃は、まあ、予定通りあっさりと撃退したものの。

 身体検査はさすがに想定外だったよ。


 いやいや、そちらは護衛が帯剣してるし。

 従者も皆、武器を隠し持ってるよね?


 そもそも、身体検査を求めてきた従者からして何か変なんだよね。

 見た目は執事っぽいけど、動きや言葉使いが執事のそれじゃない。


 まあ、ただ単に未熟なだけかもしれないし。

 平民の俺たちを見下しての雑な態度なのかもしれない。


 母国語ではないレンダル語を操るのも難しいとは思うんだけどね。


 とはいえ、王女の執事というならば。

 もっと他に人選がなかったもんかな?とは思う。


 理不尽な身体検査にムカついた俺が放った圧に怯んだくらいだし。

 擬態にしても本当の執事にしても、教育が足りないよね。


 護衛も侍女もそれなりに動けそうではあるけど。

 ふたりとも若いし、歳の割に有能、程度じゃないかな?


 という、俺評価『残念』な王女陣営だけれど。


 俺たちが漸く挨拶までこぎつけて、許可をもらって着席をしたら。

 執事風の男はこっちを凝視してるし。

 侍女は驚いた顔をして、護衛も眉を寄せていた。


「………え?どうして………?」


 王女に至っては、声まで出ていたよね。


 俺たちは、その様子に不思議そうな顔をするしかなかったんだけど。

 実際は不思議でもなんでもない。


 王女たちは、この東屋に転移陣を敷いていたからね。

 俺たちが座ると同時に起動させようとしたんだろう。


 でも、そんなのは、精霊がとっくに無効化している。


「王女殿下?いかがいたしましたか?」

「……いえ、何でもないわ。えっと、今日は特別なお茶を用意したのよ」


 お、なかなか切り替えが早いね。


「まあ!そのようなお心遣い、恐悦至極に存じますわ」


 リディが無邪気に喜ぶ様を見て、王女がにっこりしたから。

 今度こそお茶会が始まると思いきや。


 従者たちの視線は忙しないし。

 王女もよく見ればそわそわしている。


 ということは。

 純粋にお茶を出してくれるってことではないんだろうな。


 だとすれば、周辺に忍ばせていた仲間に俺たちを襲わせるのかな?

 フィンはまだ戻ってきてないから、今が絶好の機会ではあるよね。


 でも、そんな仲間は既に捕えられているはずだ。

 学園内は魔術師団が警備してくれているからね。


 だから、俺たちはそのまま、お茶を楽しみにしてる風を装ってたんだけど。


 一向に何も起こらないことに、王女陣営は焦り出した。

 王女は顔を歪ませて下を向いてしまったし。

 執事や侍女はきょろきょろし始めて、護衛は舌打ちまでする始末だ。


 いやいや、君たち、隠す気はないのかい?


「あの、もしかして、ご気分が優れないのですか?」

「えっ!?いえ、そんなことないわ。マイラ、お茶はまだかしら?」


 リディの言葉にハッとして、王女が状況を立て直したけれど。

 侍女の手つきは覚束ないし、執事や護衛はまだ周辺を窺っている。


 それらをこっそりと眺めつつ。

 王女を気遣ったりしていたら、漸くお茶の用意ができたようで。


「お待たせいたしました」


 お茶を淹れることで落ち着きを取り戻したのか。

 侍女は元の無表情に戻って、てきぱきとお茶を給仕してくれた。


(あー!ミスラ草がはいってるよー)

(飲んじゃだめー)


 精霊よ、ありがとう。


 お茶の細工については、事前に掴んでいなかったけれど。

 なるほど、侍女の手つきがおかしかったのは仕込んでいたからか。


「どうぞ?自慢のお茶なのよ」

「「ありがとうございます」」


 お茶を勧められて、御礼を言ったものの。

 飲もうとしない俺たちに、王女は訝し気な視線を向けてきた。

 まあ、当然だね。


「どうしたの?気に入らなかったかしら」

「とんでもございません。大変貴重なお茶に感激しております。ただ、眠ってしまうとお話ができなくなってしまいますから、色と香りを楽しませて頂ければと」


 ミスラ草は、香りだけなら穏やかな気分になる程度なんだけど。

 摂取すると、強烈な眠気を誘うんだよね。


 俺は実家の仕事柄、知ってたけど。

 さすがリディ、薬物にも詳しいね。


「な、何を言っているの?」

「こちらのお茶、ミスラ草の成分が入っていますでしょう?」


 ずばりと言い当てたからか、王女が少しだけ目を見張った。

 侍女や執事も驚いた顔を隠せていない。


「………私がお茶に細工をさせたとでも言いたいの?」

「殿下のご意思なのかは存じませんが、この香りはミスラ草だと思いますわ」

「私も同じポットのお茶を飲んでいるのよ?眠ったりなんかしてないじゃない!」

「ポットは同じでも、カップは違いますもの」


 そう言われた王女は忌々し気な表情をしたけれど。


 ふと真顔になったと思ったら、今度は蔑みの笑みを浮かべたから。

 ろくでもないことを思いついたんだと思う。


「ああそう、そういうこと……。貴方達、商会の取引を有利にするために、自作自演して私たちを貶めようとしているのね?」

「なっ!何という卑劣なことを………!」


 えええ?それはさすがに無理があるよね?

 思わず、リディと顔を見合わせちゃったよ。


「わたくしたちが細工できないことは、殿下がよくご存じのはずですが?」

「念入りに身体検査をしてくださったではありませんか」

「「………っ!!」」


 本当にね?ついさっきの話だよ?

 どうしてすっかり忘れてるかな。


 っていうかね。

 俺たちを嵌めようとするのなら、その身体検査の時だったよね。

 もちろん、そう簡単には嵌められてあげなかったけれど。


「じ、自作自演ではないとしても、言いがかりには違いないだろう!?」

「そ、そうだわ!お茶にミスラ草が入っているという証拠があるの!?」


 今度は証拠と来たか。


 さっき、リディが香りについて言及していたけど。

 その発言だけでは認めてもらえないってことかな?


 とはいえ、証拠を提示しようにも、精霊の存在を知られるのは避けたいし。

 リディのマジックルームから魔道具を出すわけにもいかない。


 これは、どうしたもんかな。

 …………って思っていたら。


 なんと、このタイミングでフィンが戻ってきたんだよね。

 しかも、魔術師団長と一緒に。


 団長は、クラウス様の保護にあたっていたはずだ。

 併せて、他の魅了被害者のこともお任せしていたんだけど。


 フィンに出くわして話を聞いて、援護に駆けつけてくれたのかな?


 そう思いながら、俺があからさまに視線をフィンたちに向けたら。

 リディや王女達も漸く彼らに気づいてくれた。


「あら……?フィン君と……、魔術師団長だわ」

「そうだね。何かあったのかな?」


 とりあえず、すっとぼけてみたら。


 俺たちの会話を聞いた王女陣営は唖然と団長を見ていたから。

 この事態は、本当に想定外だったようだ。


 その様子をリディは何食わぬ顔で見ていたんだけど。

 ほんの一瞬、口角が上がったのを俺は確かに見た。


「そうですわ!魔術師団長にこのお茶を鑑定してもらいませんこと?」

「なっ………!」


 リディ、さすがが過ぎる。

 満面の笑みがまぶしいよ。


「魔術師団長の鑑定なら、証拠となりますよね?」

「くっ………!」


 俺も重ねて追いつめてみたら。

 王女陣営は言い返す言葉が見つからず、わなわなするだけで。


 すごく悔しそうにはしているけれど。

 もう、次の手はない感じかな?


 俺たち、王女陣営の企てをずっと無効化してきているからね。

 たぶん、心も折れてきてると思うし。

 そろそろ畳み掛けちゃってもいいんじゃないだろうか。


 そう思って、リディに合図をしようとしたら。


 ここで王女の護衛が動いた。

 剣に手をかけながら、団長とフィンに向かって踏み込んだんだよね。


 さっきから護衛の視線や姿勢がどこか不自然だと思っていたら。

 このタイミングを計っていたのか。


「殿下!お逃げください!」


 どう考えても逃亡は悪手だと思うんだけど。

 王女たちはハッとして、本当に逃げ出そうとしたから驚く。


 魔術師団長の登場に混乱して思考能力が落ちたのかな?

 なんて呑気に考えてはみたものの。


 俺もね、ただぼーっと見ていたわけじゃなくて。

 護衛が動いた瞬間にリディの鉄扇で護衛の足を狙っておいたんだよ?

 一瞬でも足を止めておけば、フィンが拘束してくれるだろうからね。


 それに、リディと精霊も、魔法で王女と執事の体の動きを止めて。

 更には、緑魔法で侍女を拘束してくれていたんだ。


 うん、咄嗟に動いたにしては上出来だよね。


「捕えろ!」


 逃亡は捕縛の理由になるからね。


 団長の一言で、周辺に潜んでいた魔術師団員がわらわらと出てきて。

 中には、王女の仲間と思われる不審者を引きずっている人もいたから。


 その様子に王女は目を見開いていたけれど。


「私は王女なのよ!?王女にこんなことしていいと思っているの!?」


 ここにきて権力を使うなんて、往生際が悪すぎるよ。

 ここは、全部バレていたと悟って大人しくする場面じゃないの?


「襲撃未遂に誘拐未遂。そして、お茶への薬物混入。これだけでも拘束の理由にはなると思いますが、王女殿下は禁術まで使っていらっしゃる」

「っ………!なっ、何よ!また言いがかり!?」

「先ほど風が吹いたときに、耳飾りにピンクの石がついているのが見えましたの。その石から魔力が放たれていますわ、……わたくしの夫に向けて」


 その風を起こしたのはリディだけどね。


 それにしても、リディのこんな低い声、初めて聞いた。

 これは相当お怒りだ。


「ほう……?それは聞き捨てなりませんな」


 王女以外の拘束が完了したのか、魔術師団長も俺たちの話に混ざってくる。


「確かにその耳飾りは魅了の魔道具のようだ。王女殿下、大変残念ではございますが、お話を伺わなくてはなりません」


 いつの間に鑑定したのかはわからないけど。

 魔術師団長がそう言うなら反論はできまい。


 団長は王女に話しかけながら魔封じの魔道具を嵌めていたから。

 それを見て、リディも動きを止める魔法を解除したようだ。


「貴女方の根城も押さえております。どうか、抵抗などなさいませんように」


 おお。そっちにも突入してたんだね。

 精霊と一緒に父上たちががんばってたから、うまくいってよかった。

 まあ、表で動いたのは騎士団だろうけどね。


「手荒にするなよ」


 団長がそう言いながら王女を団員に引き渡していたけれど。


 仲間も根城も制圧されたことを知って、王女はがっくりと項垂れていたから。

 もう、抵抗もしないんじゃないかな?


 そう思った通り。


『兄様、ごめんなさい………』


 最後に小さな小さな声でガルシア語でそう呟いてから。

 王女は大人しく連行されていった。


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