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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第六章 陰謀巻き込まれ編
135/149

130.彼と彼女は間者を送り込む。

side ラディンベル

 これは、思っていたよりも仕事が多いかもしれない。


 ガルシアがふざけた計画を実行してくれているせいで。

 レンダルが厄介な状況に陥っていると知った俺たちは。


 何とかクリス殿下から許可を得て、レンダルまでやってきた。


 そして、まずは外交にかこつけて。

 アルフォード殿下とルドルフ様から話を聞いたんだよね。


 と言っても、聞いた内容のほとんどは知っていることばかりで。


 事前対策のおかげで、宝石工場と農地での被害は少ないものの。

 ガルシアの第二王女が送り込まれている学園のほうがね………。

 なかなか面倒なことになっているという話だった。


 おまけにね。

 このあたりの情報は俺たちも知らなかったんだけど。


 殿下の右腕でもあるクラウス様が魅了にやられてしまっているらしい。


 それはかなりの痛手だけれど。

 レンダルだって、ただ手を拱いていたわけじゃないようだ。


 『王女のために』という名目のもと。

 警備強化として各種魔道具――魅了検知含む――を設置したり。

 特別講師という名目で魔術師団員を派遣してたみたいなんだよね。


 でも、王女陣営は尻尾を掴ませなかった。

 どうやら、相当慎重に動いているようだ。


 まあ、恐らく、想定よりも計画はうまく進んでいないはずだし。

 各地に放った工作員とも連絡が取れなくなっているだろうしね。


 自分たちの計画がバレていることにも気づき始めているのかもしれない。


 とはいえ、バレているという確証が掴めないから。

 というか、むしろ、その確証はこっちが掴ませていないから。


 中途半端にやめることもできず、警戒して行動するしかないんだと思う。


 となれば、こっちも相応の抵抗をしなくてはいけないわけで。

 思っていたよりも仕事が多そうだ、なんて思いながら。

 視察や潜入といった今後の対策を話し合っていたんだけど………。


 さっきから、応接室の扉の外が結構うるさいんだよね。


 ここはいくつもの応接室が並ぶ区域だし。

 執務区域の入り口でもあるから、人通りがあってもおかしくはない。

 でも、商談や打合せをしているかもしれない部屋の前で騒ぐことはないはずだ。


 となれば、何かあったんじゃないかと不安にもなったけれど。


 騒ぎに気付いたアルフォード殿下が珍しく苛立ちを込めた顔をして。

 舌打ちまでしそうな勢いだったから、さすがに驚いた。


 あれ?殿下って、穏やかで品のある王子様だったはずだけど?


「すみません、多分、件の王女です……」


 あー…。なるほど。

 そりゃ、そんな顔にもなるか。


 この応接室は、内の声は外に聞こえないけれど、その逆は可能だ。

 だから、さっきから騒いでいるのが女性の声っていうのはわかる。


 何て言っているのかまではわからないけれど。

 その声に聞き覚えがあるんだろうな。


「僕、行ってきます。ルドルフ義兄様、この場をお任せしても?」

「それは構わないが、大丈夫なのか?」

「お目当ては僕でしょうし、魔道具を付けてますから」

「だとしてもだな……」


 ルドルフ様は少し前に、婚約していたレンダルの王女様と結婚されたから。

 このふたりは義兄弟になったしね、元々仲もよかったみたいで。

 すっかりと過保護な兄が出来上がっていた。


 でも、確かに。

 アルフォード殿下が直々に件の王女と対面する、というのは心配だよね。


 ということで。

 連れてきた精霊を一体、殿下に付けることを提案したら。


 挨拶がてら姿を現した精霊に、殿下が驚いて固まってしまったけれど。

 護衛に名乗り出てくれたのは、ダズル様の精霊だから。

 礼儀正しい精霊に、殿下も肩の力が抜けたようだった。


 ルドルフ様はね、我が家で精霊に会ったのを覚えてくれてたみたいで。

 すぐに賛成してくれたんだよね。


 そうして、殿下からも許可をもらって。

 王女を泳がせるため、今回は魅了を放置することに話がまとまって。

 フィンと姿を消した精霊を引き連れた殿下を見送ったら。


『一体、何の騒ぎですか?』

『アルフォード様!こちらにいらしたのですね。お手伝いに参りましたわ!』


 程なくして殿下たちの会話が聞こえてきたからびっくりしたよね。


 リディをちらっとみたら、にっこりと笑ってきたから。

 風魔法を使ってくれてるんだと思う。


『そのようなことをお願いした覚えはありませんが?』

『大変お忙しいと聞いたのです。ぜひお手伝いさせてくださいませ』


 気が利く王女様っていう設定なんだろうか。

 にしても、悪手に出たもんだ。


 学園ならまだしも、ここは王宮だよ?

 しかも、執務区域。他国の王女が突撃していい場所じゃない。

 手伝いなんてもっての外だ。


『…………それは、我が国の国政に介入する、ということですか?』

『っ………!』

『アル!なんてことを言うんだ!』


 これは、多分、クラウス様だよね。

 一緒にいるってことは、彼が強引に警備を突破してきたんだろう。


『せっかくのご厚意を……!』

『クラウス様、よいのです。私が悪いのですわ』

『セリーナ姫っ………』


 ものすごい茶番だけど。

 そうか、王女は、クラウス様に『姫』と呼ばせているのか。

 そこに他意はあるのかないのか……。


『アルフォード様、出過ぎた真似をして申し訳ありませんでしたわ。ですが、せめて、お茶だけでも淹れさせていただけませんか?』


 なかなか引き下がらないね。


『実は、我が国で評判の茶葉をお持ちしているのです。他国には出回っていないものですから、グリーンフィールからのお客様にも喜んで頂けると思いますの』


 ほう?口が滑ったね。

 なるほど、強引に来たのはリディの来国を確かめる為だったのか。


 今回の外交は公式ではあるけれど、関係者しか知らないはずだ。

 王宮内で噂が広がったとしても、確か、王女は学園の寮住まいのはず。


 それなのに、情報を持っているということは。


 父上、仕事がぬるいんじゃないですかね?

 まあ、今、かなり忙しいのはわかってるんだけどね。


『…………グリーンフィールからのお客様、ですか?』

『っ……!あ、いえ、その……、今、いらっしゃっているのではなくて?』

『そのようなお話をどこでお聞きになったのでしょうか?』

『え、あの、違いますの?』

『交易をしておりますので、グリーンフィールのお客様をお迎えすることはありますが、どうして、グリーンフィールを限定して今来ていると?』

『あ、あの、じゅ、従者が、グリーンフィールの馬車を見た、と……』


 王女、さすがにそれは無理があるよ。


 俺たち、大陸でよく見る、何の変哲もない型の馬車で来たんだよ?

 大体、寮住まいの王女の従者がどこで見たっていうんだ。


『そうでしたか。馬車を見ただけで国を限定できるなんてすごいですね。型や紋章に特徴でもあったのでしょうか』

『え?いえ、その………』

『申し訳ありません、細かいことを。色々とお気遣い戴いたところ大変恐縮なのですが、お気持ちだけ受け取っておきます。どうか、お引き取りください』


 アルフォード殿下、最後は畳みかけていたけれど。

 俺たちが来ているとは断言しなかったね。

 王女も、間者の存在を仄めかしてしまったからか強くは出れないようだ。


 結局、そのあとはお見送りの言葉だけだったから。

 何とか王女にご退散いただくことができたんじゃないかと思う。


 ルドルフ様が『俺の義弟、よくがんばった』とかなんとか呟いてるけど。

 それは放っておいていいよね?


「お待たせしてすみません」

「アル殿下、かっこよかったです!」

「え?」


 リディってばネタばらしが早いよ。


 まあでも、ちゃっかり話を聞いてたのは事実だからね。

 魔法を使って聞いていたことを伝えたら。

 殿下が真っ赤になって恥ずかしがってしまったから。


 勝手に盗み聞きして申し訳なかったな、なんて思ってたら。

 リディは早々に精霊に話しかけていた。


「それで、どうだったかしら?」

『確かに魅了を発動していました。魔道具は耳飾りです』


 ん?魔道具は目につくところにはなかったって話だったよね?

 髪で隠れてたのかな?


「え……?耳飾りですか?王女の耳飾りにピンクの石はなかったと思うのですが」

『前からは見えなかったかと。魔石は耳の裏側についていましたので』


 うわー、そんな小細工をしていたのか。

 だったら見つけられなくてもしょうがないのかも。


「そうだったの……。やってくれたわね」


 全くだよね。

 アルフォード殿下も悔しそうな顔をしている。


「クラウス様は?」

『一緒にいた少年は、残念ながら防御の魔道具を持っていませんでした』


 それなら、魅了され放題だ。


 何故外していたのかは分からないけど。

 ここで議論したところで答えが出るわけじゃないから。

 それについては後回しにして。


 問題は、クラウス様がかなり魅了にやられちゃってるってことだよね。

 精霊も早く救出したほうがいいって言ってるし。


 とはいえ、すぐに解除してしまうと王女陣営に感づかれてしまうから。

 これ以上魅了魔法にやられないように、精霊をつけることになった。


 加えて、王女陣営にも精霊を放って様子を探ってもらって。

 その間に俺たちは視察を済ませることにしたんだよね。


 そうして、ある程度、魅了対策を決めてから。

 もちろん、宝石工場と農地の条件改定の話もして。


 そのあとは一緒に来た外交官さんたちと合流して。

 王宮の客室に案内してもらったんだけど。


 俺たちは、内密に王宮を抜け出して実家に行かせてもらうことにした。

 当然、アルフォード殿下からは許可をもらってるよ?


「リディア様ー!ご無事でよかったです!」

「お義姉様、慌てないでください。ゆっくりでいいですから」


 シア義姉さん、実は今、お腹が大きいんだよね。


 たぶんね、今回、リディがレンダル行きを志願したのは。

 懐妊祝いをしたかったからっていうのもあるんだと思う。


「すみません、今回、私、動けなくて」

「そんな風に言わないでください。本当におめでとうございますね」

「うふふ。ありがとうございますー!」

「順調そうで安心しました」


 本当にね。元気そうでよかった。

 兄上もシア義姉さんも幸せそうで何より。


 そう思いながら、今回のお土産の妊婦さん用の洋服やベビー用品を渡して。

 その説明をリディに任せて。

 俺は、父上と兄上とフィンと一緒に王宮諸々の対策を練っていたんだけど。


 そうこうしていたら、王女陣営に放っていた精霊が一時的に戻ってきた。

 その後の様子を報告に来てくれたらしい。


 しかも録音してくれていたから、早速聞いてみたら。

 ガルシア語だったから、リディに通訳をお願いしたんだよね。


『王子のガードが固くて嫌になるわ。防御の魔道具も本当に厄介ね。いつからレンダルは魔法に強くなったのかしら』


 魔道具のこと知ってるのか。

 クラウス様、しゃべっちゃったんだね……。


 と言っても、クラウス様には魅了云々の話は一切していないと聞いているから。

 ガルシアと関連付けてはいないはずだ。


『宰相の息子が大した情報を持っていなかったのも想定外。王宮の警備も厳重だし、このまま王子も情報も手に入れられないんじゃ、兄様に顔向けできないわ』


 兄様?

 ということは、黒幕は王女の兄王子なのかな?


『それで、氷の姫がレンダルに来ているのは確かなの?』

『はい。グリーンフィールの使者として来ているようです。氷の姫は宝石工場やランクルム領の農地にも関わっていますから、その件ではないかと』


 やっぱり、王宮に間者が入り込んでるね。

 父上たちも苦い顔をしている。


『そう。本当にいるのね』

『どうしますか?』

『もちろん、氷の姫をいただくわ』


 ほう?リディにも手を出すと?

 クリス殿下の言った通り、やっぱりバカなのかもしれない。


 ガルシアの王女様は言い切ってくれたけれど。

 それならそれで、こっちも反撃させてもらうから。


 覚悟しておいてよね?


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