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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第六章 陰謀巻き込まれ編
134/149

129.彼女と彼は隣国に乗り込む。

side リディア

 やっぱり、大人しくしている場合じゃないと思うのよ。


 ジングで得た情報を報告してからの王家と商会の動きは早かった。

 即座に対策を練り直して、状況も洗い直して。

 ものの一週間で送り込まれていた工作員を突き止めたのだ。


 ただ、残念ながら、黒幕がまだ判明していないのよね。

 そこで、工作員を泳がせて情報を集めることになったんだけれど。


 グリーンフィールはそれでいいとしても。

 実は、レンダルがかなり面倒な状況に陥っている。


 まさか、ガルシアの王女が送り込まれているだなんてね……。


 不自然な短期留学を訝しんだとしても。

 ガルシアからの要請を力のないレンダルが断れるわけがない。


 ガルシアって貧しい土地が多いとはいえ、国土の広さは大陸一だし。

 鉱山をいくつも有しているから、それなりに影響力があるのよ。


 だから、王女を受け入れるしかなかったのはわかる。

 わかるけども、してやられたわよね。


 王女まで出てきたということは、今回の計画は国家ぐるみなのかしら。


 とは思いつつも、それを調べるのはグリーンフィールに任せて。

 まずはレンダルを何とかしなくてはならないわ。


 わたしだってね。

 国を出たとはいえ、祖国には潰れてほしくないのよ。


 ラディに至っては、家族がいるんだもの。

 わたしよりもその気持ちは強いはず。


 となれば、当然、黙って見過ごすことはできなくて。


 魔術師不足なら、わたしの魔法を使ってくれたらいいし。

 わたしの魔法とラディの隠密に精霊の力が加われば。

 ガルシアに感づかれずに事を進めることだってできると思うのよ。


 そもそも、今回の件にはわたしもがっつり関わってるしね!

 正直、さっさと終わらせたい。


 そう思って、レンダル行きを志願したんだけども。


 やっぱり二つ返事とはならなくて。

 伯父様が陛下に相談した結果、クリス殿下に呼び出されてしまった。


「リディア、自分が狙われていることは理解しているよね?」

「はい」

「リディアがレンダルにいることを知られれば、手を出されるかもしれないよ?」

「さすがに、他国の使者を襲うほどバカじゃないと思うんですけれど」

「今回の国盗り計画がうまくいくと考えているくらいにはバカだよ?」

「…………………」


 確かに、そう言われればそうだわね。


「まあね、姫であるリディアに手荒なことをするとは考えにくい。でも、ラディンベルには容赦なく襲い掛かってくる可能性が高いんじゃないか?」

「それは、グリーンフィールにいても同じです」


 この件については本当に反省している。

 わたしってば、考えなしだったわ。


 わたしを攫うために邪魔なラディが危険な目に逢う可能性があるのよね。

 後からそれに気づいて絶望したんだけど。


 ラディに謝ったら、きょとんとされてしまって。

 そんなことよりも、わたしの暴走のほうが心配だと言ってきて。

 今回は勝手な行動をとらないように、きつく約束させられた。


 ラディに迫る危険については有耶無耶にされてしまったけれど。

 ならば、わたしがラディを守ってやる!と心に決めたのよ。


 そんなことを思い出していたから、その決意が顔に現れていたのか。


「ふたりの意志は固そうだね……」


 そう言われて、なんかちょっと違う方向に勘違いされたようだけど。

 レンダル行きの意志が固いのは間違いない。


「正直なところ、こっちも手一杯だからね。ここでレンダルが落とされて、ガルシア側につかれるのは避けたい。だから、君たちが行って危険分子を潰してきてくれるならば有難いけれど。本当にいいんだね?」

「「はい」」


 わたしたちが揃って返事をしたら、クリス殿下もひとつため息をついて。


「しょうがないな……。わかったよ。では、行って貰おう。ただし、外交官に同行してくれ。ふたりだけよりは相手の目も誤魔化せるだろうからね」


 渋々ながらも、レンダル行きの許可を出してくれた。


 ただ、ふたりでも理由があれば怪しまれないと思っていたのは甘かったらしい。

 まあそうか。そういえば、わたしたち、商人だったわ。


 と、毎度の自分の詰めの甘さを反省しつつも。


 レンダル行きに向けて、外交官さんも交えて打合せをして。

 その翌日からは、レンダルと連絡を取って段取りを決めたり。


 もちろん、溜まっている仕事も片付けて。

 ―――ドラングルのレシピ本の撮影は気合で終わらせたし。

 圧力鍋に炊飯器、そして運動器具についても打ち合わせてきたわ。


 迎えたレンダルへの旅立ちの日。

 わたしたちは、国境で外交官さんを待っていた。


 実は、こっそり、精霊たちもついてきている。

 それもジング旅行に一緒に行った四体全員だ。


 というのも。

 ダズルとシェロがまたしても過保護を発動したのには違いないのだけど。

 精霊たちは魔法の検知と解除に優れているから。

 こちらからもお願いしてついてきてもらっているのよね。


 そんなわけで、精霊たちと戯れながら待っていたら。


「お待たせしました」


 ほぼ時間通りに外交官さんがやってきて。

 見れば、打合せした方とは別にもうひとりいらしたから。

 ご挨拶をして、馬車に同乗させてもらったのだけど。


「シエル殿から伺いました。まさか、貴方様があの伝説の外交官とは」

「いえ、あの、その呼び名はやめていただきたいのですけれど」


 馬車に乗って早々にそんな話をされて、げんなりしちゃったわよね。


 シエル様ってば、何ばらしてくれちゃってるのかしら。

 ラディも苦笑してないで助けてほしい。


 結局、レンダルの王都に着くまで伝説話をされて。

 愛想を保つのも一苦労だったわ。


 レンダルにも公共の転移陣が導入されていて本当によかった。

 おかげで馬車の旅が数時間で済んだもの。

 以前のように何日もかかっていたら、わたしは屍になっていたと思う。


 そうして、わたしだけ死んだ魚の目をしつつも。

 レンダルの王宮にあがったわたしたちは。


 形ばかりの謁見を済ませた後。

 打合せの通り、二手に分かれて話し合いに入った。


 外交官さんたちは、通行税と貿易手数料の担当で。

 わたしたちは宝石工場と農地の条件改定の担当なのだ。


 この担当分けならば。

 わたしたちがアルフォード殿下とルド様と話をすることができる。


 おふたりとも、それぞれの現担当者だから状況も把握しているし。

 この面子なら話しやすいと思って、事前に打診しておいたのよね。


 だけど、わたしはどうやらお気楽すぎたらしい。


「わざわざ来て頂いてすみません。僕たちが不甲斐ないばかりに……」

「私からも、協力感謝する」


 まさか、応接室に入ってすぐに頭を下げられるとは思っていなかったし。


「リディア姉様はご自分も狙われているというのに」

「私も話を聞いて驚いたよ。こっちに来て大丈夫なのか?」


 おまけに、わたしの心配までしてもらって恐縮してしまったわ。


 でもね、今回は、わたしが来たくて強引に来たわけだし。

 今現在わたしが若干疲れているのは、馬車での伝説話のせいだから。


 そこは気にしないでほしいのよね。


「変にひきこもっているよりは、こうして出掛けたほうが警戒されないと思うんです。今回はきちんとした理由もありますし」

「無理矢理、理由を作ってくれたんだろう?」

「そういうわけでもないですよ。本当にそろそろだとは思っていたんです。確かに、今回のことがなければ使者は別の者だったと思いますが」


 これは、本当に本当だ。

 ルド様は定期的に手紙で状況を教えてくれていたから。


 本当に、時期を見て殿下に進言しようと思っていた。


「そうか。ならば、二重の意味で感謝しなくてはならないな。条件改定も魅了の件も、こちらとしては願ってもないことだったから」

「本当に。姉様たちには助けてもらってばかりですね」


 そんなことはないけれど。


 わたしが勢いで国を捨ててしまったのは事実だから。

 陰ながらでも何かできているならいいな、とは思う。


「うちは、アーロン殿が事前に対策を施してくれたおかげで、まだ大した被害は被っていないんだが、見逃してしまった奴らがいてな」


 詳しく聞けば。

 ランクルム公爵家の使用人として邸に入り込んだ工作員は捕えたものの。

 ―――お渡しした魔道具が活躍して魅了魔法に気づけたようだ。


 農地や宝石工場の警備員に近づく輩がいたり。

 職人の引き抜きはよくあることだったため、流してしまったらしい。


 でも、その後、警備員や職人の様子がおかしいことがわかり。

 魅了魔法を使われたのではないかと目下捜査中なのだという。


 これを聞いて、ラディがちらっと目を上げた。

 目線の先はフィン君だ。


 実は、フィン君もアル殿下の護衛としてこの応接室に控えているのよね。


 ふたりが目配せし合っているということは。

 グラント家が手を回してくれるんだと思う。


「魅了の被害に遭った方は大丈夫ですか?」


 グリーンフィールとは違って。

 レンダルでは魔石の効果がそのまま発揮される。


 だから、被害者はまともに魔法を浴びてしまっているはずなのだ。

 その被害は如何ほどなのだろうか。


「解除すると、魅了されていた間の記憶が曖昧になるようなんです。なので、自分がしでかしたことを知った後の精神的な打撃が大きくて……。皆、復帰には少し時間がかかりそうです」


 ジングではこの話が出なかったけれど。


 実験台だったあの国では、若い娘がちやほやされた程度で。

 政治的な話ではなく、恐らく恋愛がメインだっただろうから。

 介入が難しくて対応も検討中なのかもしれないわね。


「そうでしたか……。予定では、視察という名目で宝石工場や農地に伺って、結界の改良や魅了を解除させていただこうかと思っていたんですが、それはやめたほうがいいでしょうか?」

「いや、できれば、私たちが見落とした被害者がいないか確認して貰えないだろうか。軽い症状の者なら、そのまま解除して貰えると有難い。結界についてもぜひ相談させてくれ」


 なるほど。そういうことなら、お任せあれ。

 精霊を連れて視察に行かせていただきます!


「となれば、後は、学園ですね」

「はい。疑ってはいましたが、本当に持ち込まれていたとは……」

「しかも随分と慎重な様子でな」


 どうやら、アル殿下たちも、ただやられっ放しだったわけではなくて。

 特別講師として魔力の流れがわかる魔術師団員を呼んで確認させたり。

 検知用の魔道具を設置して、現状打破に努めていたようだ。


 でも、検知されそうな場合は魅了魔法を発動しないのだという。

 まったく、小賢しくて嫌になるわね。


「クラウスまで取り込まれてしまって……」


 あああ、アル殿下の声がどんどん小さくなっていくわ。


 クラウス様というと、アンディール公爵家のご嫡男よね。

 アル殿下の乳兄弟で、右腕で、現宰相閣下のご子息。


 そんな人まで魅了にやられたんじゃ、泣きたくなってもおかしくはない。


「クラウス様は防御の魔道具をしていなかったのですか?」

「渡したんですが、していないようなんですよね。それを確認しようにも、ずっと王女にべったりで」


 あー、それじゃ確認はできないわね。


「あの、可能ならば学園に潜入する許可をいただけませんか?」

「リディアは姿を晒さないほうがいいんじゃないか?」

「隠匿魔法を使いますわ」


 そう言ったら、ふたりともぽかんとしてしまったけれど。


「リディアは何でもできるな」


 ルド様が苦笑して、アル殿下からはぜひとお願いされた。


 そうしてわたしたちは、視察や潜入の計画を立てていたんだけど。

 さっきから、どうにも外が賑やかなのよね。


 これって、もしかして、まさかのまさかなのかしら?


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