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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第六章 陰謀巻き込まれ編
132/149

127.彼女と彼は指摘する。

side リディア

 なんで、こんな話になっているのかしら。


 魅了の首飾りばらまき犯への尋問が終わって。

 その内容をわたしから説明することになって。

 リュート様たちの質問に答えていたら。


 こともあろうか。

 わたしが王子の婚約者だったことに、シエル様が食いついてしまった。


 いやまあ、別にいいんだけどね。

 公爵令嬢だったことだって隠していたわけじゃなくて。

 わざわざ口にしないだけだしね。


 ただ、わたしたちが貴族だったことに妙に納得されたのが腑に落ちない。

 最近はすっかり令嬢感が抜けたと思ってたんだけどな。


 まあでも、一度身に着けた作法とかはなかなか崩せないし。

 そう思われても仕方がないのかな、なんて思っていたら。


 シエル様が大きな声を出したから驚いたわよね。

 一体何事かしら。


「ということは、リディア君の父君は、あの氷の宰相閣下ってこと?」

「え、お父様ってば、そんな風に呼れてたんですか?」

「で、リディア君が、あの伝説の外交官だってことだ」

「は?いや、何ですか、それ」


 え?そんな話?

 わたしたちの素性暴露大会、まだ続くの?


 っていうか、お父様についてはまだしも。

 わたしが伝説って、どうにも恥ずかしいんですけど。


「リディアは外交官だったのか?その歳で?」

「王子の婚約者時代だけですよ。でも、伝説を残した覚えはないんですけど」

「何を言ってるんだい?交易で、情報を切り札にしたのは君が初めてだよ?」


 あー、そういうことかぁ。

 でも、あの時のわたしには情報しかカードが残ってなかったし。

 ほかに手がなかっただけなんだけどね。


 というか。


「あれは、レンダルがほかに何も差し出せなかっただけで、本当に苦肉の策だったんですよ。…………あの、物凄く話が逸れてませんか?」


 このまま暴露大会が続くのもしんどいので。

 この辺で強制終了させていただきたく。


 そう思って指摘したら、皆がハッとして気まずげな顔になってしまった。


 いや、別に、責めたわけじゃないんだけどね。

 逆の立場だったら、わたしだって気になるし。


「ああそうだね。いや、すまなかった」

「ちょっと衝撃的でな」


 え?それは大袈裟では?


「あー…、どこまで話が進んだんだったかな?」

「えっと、あの実行犯はガルシアの王弟殿下の手下である可能性が高いことと、王弟殿下がわたしに夢を見ているということしかまだお話しできていないかと」

「夢を見てるって……」

「あながち間違いではないが」


 王弟って、わたしよりも十歳以上年上なのよ?

 いい加減目を覚まして現実を見てほしい。


 とは思えど、まずは話を進めないとね。


「あの実行犯は、わたしのことを、洗脳が解けて、どこかから解放されて、自分を助けにきた姫だと思っているんです」

「それはまた……」

「随分と自分に都合よく勘違いしたものだな」


 皆からの『何を言ったらそうなるんだ』的な視線が痛いわ。


「貴方が捕まったと聞いてやってきたって言っただけですよ」

「………嘘ではないが」

「リディア君の機転が凄いのか、彼の毒された思考がどうしようもないところまでいってしまっているのか、判断に困るね」


 もちろん、後者でしょう!


「にしても、洗脳か。本当は氷の姫の生まれ変わりなのに、そうではないとリディア君が洗脳されていてガルシアに帰ることができない、といったところかな?」

「むしろ、洗脳されてるのはあの男だがな」

「ガルシアはずっと天候不順が続いていて、食糧難も深刻な状態だからね。縋れるものがあれば信じてしまうのかもしれないな」


 ああ、そうだったのか。

 だからって、実在しない姫の生まれ変わりに縋るのはどうかと思うけど。


「あの男は洗脳が解けたと思ってるんだよね?ということは、リディア君の周辺に工作員を放ったってことなんじゃないか?」

「そうなんですけれど。魅了の件を聞いて、わたしたちも対策は取っていたんです。でも、特に何かあった覚えはないんですよね……」


 ジング旅行から帰国して陛下から注意喚起をされた後。

 真っ先に商会の上層部を集めて対策会議を開いたのだ。


 当然、両親だって気を付けていたはずだけど。

 問題があったとは聞いていないのよね。


「狙われるとしたらラディンベルだろう?何か変わったことはなかったのか?」

「俺、ですか……。いや、特には……」

「最近、特定の女の子からよく声をかけられたりとかしなかったかい?」

「え?えっと、うーん…………」


 最近はよくお買い物に行ってもらっていたしね。

 そこで声を掛けられていてもおかしくはないか。


 でも、ラディの様子を見るに、心当たりはなさそうよね?


「あ、いや、そうか。ラディンベルは防御の魔道具をしているわけだし、そもそもリディア以外の女に興味を見せることはないか。女の区別も、リディアかそれ以外しかなさそうだしな」

「まあ、そうなんですけど」


 さすがにそれはないでしょ?

 と思ってたのに、ラディが真顔で肯定した。


 なんてことだ。

 顔が赤くなったのがわかったけど、平静を装うことにする。


「俺も気づきませんでしたが、義両親や商会からも何も聞いていないんですよね」


 あの実行犯が疑いもなく洗脳が解けたと思ってたってことは。

 何かしているのに違いないのにね。


 どうして誰も気づかなかったのかしら?

 という疑問には、シェロが答えてくれた。


「効力が微弱すぎたのではないか?魔石とはいえ、効き目がなければただの石だ」


 なるほど。グリーンフィールでは魔石の効果は弱まるし。

 こちらは過剰なくらいに防御態勢を取っていたしね。


 効果が弱すぎてスルーした可能性はある。


「そういうことですか。となると、グリーンフィールにはまだ工作員が残っている可能性が高いですね……。もし、あの男が拘束されていることに気づかれていれば撤退しているかもしれませんが」


 助言をくれたシェロにリュート様が答えてくれたけれど。

 ここでラディがわたしのほうを向いた。


「リディ、あの男に一緒に来た仲間がいるかはわかる?」

「この国にはひとりで来たって言っていたわ」

「そっか。なら、まだ気づかれていないかもしれない。………帰国したら、周辺に注意してみます」

「そうだね、ご両親や商会の仲間にも注意を促したほうがいいだろう」

「はい」


 ここまで話したところで、誰ともなく息を吐きだして。

 少しだけ沈黙が続いたんだけど。


 残念ながら、話は終わっていないのだ。


「えっと、すみません。まだ話には続きがあって」

「まだ何かあるのか?」

「実は、あの人たちの計画はもっと壮大なんです」

「どういうことかな?」


 ここから先の話をするのは、わたしの心が大分抉られるのだけど。

 事が事だから、きちんと話さなければならないわよね。


「あの男が人手がないって言っていたのが気になって、そのあたりを突いてみたんですけど」

「それは確かに気になるね」

「姫のために、肥沃な国土と先進的な技術を用意すると言っていました。要は、周辺国を乗っ取ろうとしているんだと思います」

「なっ………!」


 シエル様が思わずといった感じで声を上げていたけれど。

 ほかの人たちも一斉に息を呑んでいた。


 当然よね。


「それは、戦をするということかい?」

「武力で、というよりは、内部から崩していく方針のようです」

「ああ、成程。それで魅了の魔道具なのか……」

「はい」


 ここまで話せば思うところも多いらしく。

 皆がそれぞれ思案し始めたけれど。


 忘れないうちにこれも話しておかないと。


「今回あの男が舞い戻ったのは、魅了の魔石が足りなくなったから、実験に使った首飾りを回収にきたということでした」


 そう言って、わたしは聞き出した回収場所を紙に書いて渡しておいた。

 ほんと、あの男がぺらぺら話してくれて助かったわ。


「これはありがたい。早速対処しよう」

「よく聞き出せたね」

「姫の威力というか、姫への信頼というか……」

「ああ………」


 お願いだから。

 憐みとか同情とかを織り交ぜた複雑な視線を寄こすのはやめてほしい。


「大陸に放った工作員の居場所はわかるかい?」

「今のところは、グリーンフィールとレンダル、ということしか」

「レンダルも?……ああそういえば、レンダルも技術力が上がっているんだったか。我が国と共同開発もしているようだしね」


 そう言いながらシエル様がわたしたちをチラリと見てきたけれど。

 さっきの暴露大会の内容から色々と察しているんだろう。


 ここは曖昧に笑っておくに限る。


「グリーンフィールは守りが固いので、レンダルのほうが御しやすいと考えたのではないかと思います。レンダルも対策はしているはずですが、念のため王家に進言してもらいますね」


 誰から、とは言わなかったけれど。

 これも察してるわよね?


「そうだね。我が国には、君たちから伝えてもらえるかい?」

「はい。帰国したらすぐにでも」


 シエル様は、今後の対応のためにジングに残るということだ。


 多分、大陸側の対処が終わるまで。

 ガルシアへの抗議を延期してもらえるように交渉してくれるんだと思う。


「なあ。計画が壮大なことはわかったが、ガルシアはそんなに沢山の魅了の魔石をどこから手に入れたんだ?あの国、たいして魔石が採れる国ではないだろう?」

「そこまでは探れなくて申し訳ないです。ただ、大きな魔石を手に入れて、それを砕いて数を増やしたみたいなんですけど」

「ああ、だから実験をしたのか」


 砕いた魔石にどこまで効力があるかは未知数だものね。

 海を渡ったジングなら、大陸にバレずに実験できると踏んだんだろうな。


「成程な。まったく、いくら姫の生まれ変わりを手元に置きたいからって、そこまでするとは。王弟も面倒なことをしてくれたもんだ」


 本当に傍迷惑な話なんだけど。


 せっかくレンダル王家からの抗議で収まっていたのに。

 たとえ、国が食糧難に陥って何かに縋りたくなったにしたってね。

 わたしを思い出すのはやめてほしかった。


「あの、王弟殿下のことなんですけど」

「ん?何か気になることがあるのかい?」


 ここでしばらく黙ってたラディが口を開いたから。

 どうしたのかと思えば。


「ガルシアの王弟殿下って、公務に積極的な人ではなかったと思うんです」

「君はガルシアに詳しいのかい?」

「あ、いえ、詳しいという程でもないんですけど。レンダルにいた頃、ガルシアと交流会があって少し調べたことがあるんです」


 ああ、バカ王子にこき使われていたころの話ね。

 そんなことまでさせられてたのね。


「まあ確かに、あまり評判のいい人ではないね」

「仕事は部下に任せっきりで、好きなことばかりしている人だとか」

「だから今回、姫の生まれ変わりを攫おうとしているんじゃないか?」

「姫に執着していて取り戻そうとするところまではわかるんです。でも、いくら姫のためとはいえ、国の技術力をあげようとか、ましてや国を盗ろうとまでするかなって思うんですよね」


 なるほど。

 確かに、あの男はそういうタイプじゃないわよね。

 あの男からの手紙を盗み見て、潜むヤンデレ感に恐怖したもの。


「ラディが言いたいことがわかったわ。自分で言うのはすっごく嫌なんだけど。物凄く口にしたくないけれど。あの人って、どう考えても、わたしを監禁して満足するタイプだと思う」


 わたしがそう言い切ったら。

 皆が何とも言えない顔になってしまったけれど。


「ということは、姫の件をダシに王弟を唆した人がいるってことかな?」

「ではないかと」


 そう、問題は、王弟が残念だということではなくて。

 王弟の背後に真の黒幕がいるということなのだ。


 ああもう、本当に厄介なことだわね。


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