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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第六章 陰謀巻き込まれ編
130/149

125.彼女の表情筋は全力で働く。

side リディア

 わたしで、本当に役に立つのかしらね?


 王太子妃殿下であるレイラ様から呼び出されて。

 ついこの間提案したばかりのお豆腐や運動器具に食いつかれたり。

 御子の食事相談に乗ったりしていたら。


 クリス王太子殿下が乱入してきた。


 最近は以前にも増してお忙しいと聞いていたから。

 強引な行動に一体何事かと思えば。

 わたしの言語能力を確認した挙句にジングで事情聴収をしてこいと言う。


 ……………………いやいやいや。

 結論から仰ってくださったのだろうけれど。

 それにしたって、いろんな説明すっ飛ばしてないかしら?


 まあね。言語能力にジングとくれば。

 恐らく、魅了の件だということくらいは予想はつく。


 ジングで見つかった魅了の首飾りをばらまいた犯人は大陸の人間である。

 ということはわかっていても。


 周辺諸国に放った密偵もまだ確たる情報を掴むには至らず。

 現状、黒幕がどこの国の者かは判明してないものね。


 でも、だからと言って、わたしが出張っていいものではないと思うのだ。


 ジングの面子とか。

 グリーンフィールの関与疑惑とか。

 平民がしゃしゃり出るなとか。


 わたしが行くことで、むしろ面倒事になる予感しかしないのよね。


 それに、他国語を話せるだけで何とかなるとも思えない。

 わたし、そういう面では普通に素人だしね?


 ラディも、さっきまでは毎度の胡散臭い愛想笑いを浮かべていたのに。

 今は、少しだけど眉が寄っているわ。


「クリス。説明不足にも程がありますわ」

「うん、そうだね。申し訳ない。出来れば、場所を変えて話を聞いてくれないか」


 ………これ、断るっていう選択肢、あるの?

 王太子殿下からお願い?されて断れる平民っているの?

 いないわよね?


 ということで―――。


 レイラ様もわたしたちを呼んだ目的は果たせているからと言って。

 結局、お茶会はお開きになって、皆で応接室に移動したのだけど。


 応接室に入ったら。

 陛下がいらっしゃったことに驚いたのはもちろんのこと。

 伯父様に加えて、両親までいたことに相当驚いた。


 しかも、両親は仕事着のままだ。

 にも拘らず、伯父様は参内仕様だということは。

 陛下との話の流れで、急遽両親を拉致してきたと思われる。


「茶会を楽しんでいたところを呼びつけてすまないな」

「殿下からどこまで聞いたかはわからないけれど、魅了の件で動きがあってね」


 陛下からの謝罪にあたふたする間もなく、伯父様が早々に切り出した。

 話が早いのはありがたいけれど。

 伯父様、陛下に対する態度が年々雑になってないかしら。


「いや、私はリディアの言語能力を聞いただけで、大した話はまだしてないよ」


 え?つい先ほど、ジングに行ってこいって言ってましたよね?

 確かに、大した話は聞いてませんけれど。


「実は、今、シエルがジングに居てね。もともとは普通に外交に行ったんだけど、タイミングよく新たな魅了情報をつかんだんだ」


 なるほど。

 情報源はシエル様だったのね。


 シエル様には、あの旅行の後、魔法転送装置を融通している。

 だからこの情報は、早くてリアルタイム、遅くとも昨日の情報なのだと思う。


「あの首飾りの売り込みをした大陸の人間がね、雑貨店に現れたそうだ」

「のこのこやってきたからには、首飾りの正体がバレていることにはまだ気づいていないんだろうね。ある程度の魅了効果がわかった後は、監視を外していたのではないかと思う」


 なんとも杜撰だこと。

 年単位でバレなかったから、放置しても大丈夫だと思ったのかしら。


 もしくは、用無しと見て放棄することにしたのか。

 あ、でも、ならば、今更戻ってきたことに説明がつかないか。


「ただ、捕まえることはできたんだけどね、困ったことに、だんまりを貫いているらしいんだ」

「鑑定も効かなかったそうだよ。せめて、見た目でどこの国の者なのかがわかればよかったんだが、亜麻色の髪に茶色の目ということだから、どこにでもいるタイプでね。顔や体つきにも特徴はなかったと聞いている」


 きっと魔封じはされてるわよね?

 それでも鑑定ができないということは、体に何か埋め込んでいるのかしら。


 となれば、無理に取り除くのはやめておくに限る。

 どんな影響が出るかわからないものね。


 にしても、そんな平凡な見た目とはね。


 前世で言うファンタジーな髪色や目をしているのは魔法に長けた国の人間で。

 北のほうにいくほど色素が薄くはなりがちだけど。

 なんだかんだ、茶系の色味をした人間は大陸に多いのだ。


「大陸の言語で揺さぶりをかけようにも、ジングには大陸の言語に明るい人間が少ないようでね。ある一国の言葉なら話せても、何ヶ国語も話せる人間はいないらしいんだ。人を変えて代わる代わる尋問をしたって相手も慣れてしまうしね」


 そこで、わたしに白羽の矢が立ったと。

 そして、事情説明と許可取りのために両親も呼んでいると。


 そういうことですか。


「そんなことになっていましたのね……。確かに、リディアでしたらそつなく熟してくれるとは思いますが、危険はありませんの?」

「魔封じと拘束の徹底と尋問部屋への細工はもちろんのこと、リディアに手出しをしないように誓約させるよ。それが無理ならリディアは行かせない」


 え、尋問?

 事情聴取とは違うの?


 というか、そもそも、わたしでいいの?


「あの……」

「ああ、一方的に話して悪かったね。なんでも聞いてくれ」

「ジング的に、他国に任せたり、わたしのような何の権限もない平民に任せることに対して反発はないんでしょうか」


 正直なところ、今回の魅了の件については気にならないと言ったら嘘になるし。

 わたしで役に立つなら行ってもいいかな、とは思っている。


 でも、歓迎されていないとなれば。

 当然行きたくないし、行ったとしても動きづらいのよね。


「まあね、諸手を挙げて賛成ってことはないだろうけど。そこはシエルがうまくやってくれると思うよ」

「リディアは発見者で、ある程度のことは知っているわけだから、単純に他国語を話せるだけのジングの人間よりも話は早いだろう?私だったら、むしろ頼みたいと思うのだけどね」

「実を取る殿下はそうでしょうけれど、大抵は、手柄は渡したくないものですよ。とはいえ、ジングはリディアの実力を少しは知っていますし、旅行時には恩を売ってきてますしね。そこまで反発はできないかと」


 恩を売ったってなんだ。


 って思ったけど、養殖に加えて、救急箱や土砂災害の件か……。

 実は、ほかにも、木の実や樹木の有効利用についても話してきたから。

 まあ、恩を売ったとまでは言わないにしろ、役には立ったのかしらね?


 なんてことを考えている間に。

 両親やラディがわたしの安全確保についてくどいくらいに確認をして。

 誓約書面まで作ってしまっていた。


 ここまで来たらわたしも断ることはできず。


 よくよく聞けば、尋問と言っても話を聞き出せたら御の字で。

 揺さぶりを掛けられたらそれだけでもいいということなので。


 できるだけのことはやるけれど、確実な成果は保証できない。

 ということを理解してもらったうえで引き受けることにしたのよね。


 そういえば、陛下はずっと口を挟まなかったけれど。

 それは、もしや、王命にしないためだったのかしら。


 そう気づいて、その心遣いに感謝しつつ。


 打合せを重ねて事前準備を整えて。

 両親から、何度も何度も危険なことをしないように言い聞かせられて。


 その数日後―――――。


 漸く、ジングからサイン入りの誓約書面と共に要請が来たから。

 わたしはラディを護衛に、シェロの転移でジングに渡ったのよ。


 竜王のお出ましに、ジング側はひれ伏してしまったけれど。

 シェロが一喝して、その場を収めてくれたわ。


「わざわざ悪かったね。協力、感謝する」


 そう言って出迎えてくれたのはリュート様で。

 シエル様に、護衛のためなのかジョージ様も控えてくれていて。


 わたしたちに気を遣ってくれたらしい面子でちょっと安心したわね。


 この面子ならば積もる話はあるのだけど。

 わたしたち、実は、日帰りの予定だから。


 簡単なあいさつに留めて。

 実行犯はその後もだんまりを貫いていて事態は進展していないことを聞いて。

 段取りを打ち合わせて。

 尋問室の細工――録映機の設置や拘束椅子の強化等――をして。


 早速、尋問させてもらうことになった。


 尋問室に入室するのは、わたしとラディとシェロだけ。

 今までの尋問とは毛色が違う面子に、実行犯はどう出るかしら。


 内心はかなりドキドキで、心臓もうるさいくらいだったけれど。

 なんとか平静を保って深呼吸をして。


 ノックをしてから静かに入室したら。

 わたしを見た実行犯が目を見開いたから驚いた。


 え?なんで?


『なっ………!どうしてリディア姫がこんなところにっ……!』


 …………………………は?うそでしょ?


 思わず、といった感じで実行犯は口走ったけれど。

 わたしはその言語と内容に頭を抱えたくなったわよね。


 これ、わたしが何ヶ国話せようと関係ない。

 わたしが《リディア》だってことが、だんまりを崩したんだわ。


 実のところ、この時点で、実行犯の『主』が誰なのかはわかったし。


 今回の事件に自分が関わっていることに憂鬱にはなったけれど。

 と同時に、ものすごく嫌な思い出が溢れてきたけれど。


 今はそれに落ち込んでいる場合ではなく。

 聞き出せることは聞いておかなくちゃいけないわよね。


 相手がわたしの名前を知っていることで。

 ラディとシェロが動こうとしたけれど、それは押し留めて。


 予定では、世間話でも何でもいいから共通語で彼にしゃべらせて。

 訛りから何かわかればいいな、とか。

 最悪、シェロの威圧に頼ることも考えていたけれど。


 目の前の男が、あの男の手下ならば。

 《リディア》が寄り添えば、話を引き出せると思う。


『貴方様が捕えられていると聞いて、やってきたのです』

『……っ!姫……っ!やっぱり、姫はお優しい。あの方の仰る通りだ』


 わたしは嘘をついてはいないけど、都合よく勘違いしてくれて何よりだ。


 にしても、あの野郎。

 相も変わらず、わたしに変な夢見やがって。


『あの御方はお元気でいらっしゃいますか?』

『え……?まだお会いになっていないのですか……?』


 あ、まずったかも。

 あいつの情報を仕入れようとして気が急いてしまった。


 これはどう挽回しようかと、ちょっと下を向いたら。

 息をのむ声が聞こえたから、何かと思えば。


『っ……!まさか、解放されてすぐに僕のところに……?なんてことだ……』


 ほんと都合のいい頭をしてるわよね、この人。


 ってか、解放って。

 わたしは一体どこに囚われていたというのだ。


『ご安心ください。あの方はお元気です。姫のお帰りを楽しみに待っていらっしゃいますよ。姫の洗脳もすっかり解けたご様子。あの方もお喜びになるでしょう』


 今度は洗脳とか。

 こいつらが信じている《リディア》の設定がやばすぎる。


『あの……。わたくし、実は、詳しいことを知らされていないのです。こちらへは、貴方様おひとりで?』

『ああ……。仲間のことも心配してくださっているのですね……。今回は僕ひとりです。今は人手が足りなくて』

『まあ、そうでしたの。こちらでの御用時は済んでおりますの?まだでしたら、わたくしが手を回しますわ』


 これはさすがに突っ込みすぎかな、とは思ったけれど。

 驚くことに、この男、ぺらぺらと話してくれた。


 ここがどこなのか、すっかり忘れてしまっているのかしらね?

 《リディア》の威力って凄いわね。


 まあ何にせよ、話してくれるならばありがたいので。

 話が途切れるたびに、合いの手を入れて話を促したところ。


 うんざりするような話の連続で、内心、開いた口が塞がらなかったわ。

 それでも何とか顔を取り繕ったわたしの表情筋、偉すぎない?


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