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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第一章 平民ライフ突入編
13/149

13.彼女は呼び出される。

side リディア

 グリーンフィールに来て十日ほど経った頃。

 庶民の家には場違いな重厚な手紙が届いた。


 王家の封筒に封蝋がされたこれは、手紙というよりは書状だけれども。

 思っていたよりも早かったな。


 陛下と王女様には到着の報告と入国手続きの御礼の手紙は出している。

 今後の目途が立ったら頃合いを見て再度手紙を出すつもりだったけれど、先を越されてしまったわ。


 これはラディにも話をしておかないといけないわよね。


「ラディ、重々しいお手紙が届いちゃった」

「は?」


 ぴらぴらと封筒を目の前で振ってみせたら。

 誰からの手紙なのかを理解して、ラディが顔を引き攣らせた。


「俺は、関係ないよね?」

「ないわけないわよね?」


 陛下からの書状には、簡単に言うと、王宮に参内しろ、ってことが書いてあったんだけど、もちろんラディにも同行してもらうつもりよ?


「国民登録してもらうんだから、ラディもよ?」

「ああ、そういうことか。……ん?じゃあ、文官の人と会うだけ?」

「わたしだってそう願いたい。けど、行き先は謁見の間だと思うわ」

「だよね。リディ、カイン陛下と仲良さそうだしね」


 ラディ。あなたは一体、わたしを何だと思っているのだ。

 大国の王様とわたしが友達みたいに言うのやめてほしい。


「わたし、陛下とはまだ三回しか会ったことないわよ?」

「ええ?!そうなの?」

「グリーンフィールの外交担当は第一王女のアンヌ様だったし、水の環境整備のことを話すときはダズルや技術者とばかり会っていたから。だいたい、陛下はそんな気軽に会える方じゃないでしょう?」

「そりゃそうだけど、リディなら月一くらい会ってても納得する」

「やめて。あんな食えない御仁、そんなに何度も会ってたらおかしくなるわ…」


 初対面時は、わたしが小娘だったからかすごく優しく接してくれた。

 穏やかでいい人そうで、裏なんかなさそうなお顔の通りの人だった。


 でも、大国の王様がそんな人であるわけがなかった。

 実は、ものすごく腹黒で計算高くて己の利をとことん追求する人なのだ。

 国王ともなればそれくらい当然なんだろうけど、あまりにも顔と性格にギャップがありすぎた。


 毎回、五分話すだけでも神経を削られている。

 お世話になっているし、賢王なあのお方を尊敬しているけど、会わなくて済むのなら、そのほうがいい。


「へぇ……、カイン陛下ってそういうお方なんだ」

「レンダルのオスヴァルト陛下の顔と性格を逆にした感じよ」

「あー……。オズヴァルト陛下って確かに腹に一物抱えてそうな顔してるけど、実は、純粋で腹芸もできないタイプだよね。なるほど」


 レンダルの陛下は結構素直な方だと思う。

 あまり話の裏を読まないし――読めないのかもしれないけど――、言葉遊びも苦手そうだ。だからか、外交の場ではあまり口を開かないようにしているらしい。

 初対面なら大抵あのお顔に警戒を抱くから、それでいいのかもしれないけど。


「ラディはカイン陛下とお会いしたはないの?」

「それこそ、あるわけないでしょ。そもそも俺、今回初めてこの国に来たし」

「そうなの?」

「王子はグリーンフィールと交流なかったから」


 なるほど。それなら来る理由がないか。

 あっても旅行くらいだろうけど、ラディにそんな時間はなかっただろうし。

 この国については、調査すらしていないかもしれない。


 そっか、初めてなのか。

 じゃあ、王宮の帰りに王都とか寄ったほうがいいかな?


「帰りに観光してく?」

「そんな、遊びに行くみたいに」

「王都は遠くてあまり行けないから、いい機会だと思って。それに、そのくらいの気持ちでいないと緊張に押しつぶされそう」

「ええ?!リディでもそんなに緊張するの?」


 だから、ラディ。君は一体、わたしを何だと思っているのか。

 相手は大国の王様で、油断ならない御仁なのだよ?


「するわ。普通に緊張するわ」

「…………ごめん」


 ちょっとムッとしてしまったのが顔に出てしまったのか、ラディに謝られた。

 いや、別に責めているわけではないから。

 そんなに気にしないでね。


「今回も謁見するだなんて思ってなかったのよ。国民登録はこの領の代官様にお願いするつもりだったし、そりゃ、時期を見て挨拶はしようと思っていたけど、それも、アンヌ様にお会いできたらいいな、と思ってたくらいで、陛下に謁見なんて全力で避けたい決まってる。それに……」

「それに?」

「陛下がどう出てくるかわからないんだもの。緊張もひとしおよ」

「………国民登録だけじゃないってこと?」


 聡い彼のことだから、それなりに気づいていると思うけど。


 外交で情報を対価にしたわたしは、陛下に興味を持たれた。

 それはわかる。小娘が無駄に知識を持っていたのだから。


 他にも利のある情報がないか、会う度に探られた。

 文官の方にも聞かれたし、何なら影まで使われた。

 ――そういえば、アンヌ様はそういったことをされなかったわ。


 更には、この国に誘われたりもした。

 この誘いを断るときだけね、王子の婚約者でよかったと思ったのは。


「最初の外交からずっと、陛下との攻防が続いているのよ」

「まあ、それはそうだろうね。リディの知識を欲しがる気持ちはわかる」

「情報は出さなければいいだけだし、これまでは王子の婚約者という大義名分があったから、いろいろな誘いも辞退できていたんだけど」

「あー…、さすがにこれからはそうもいかないね。でも、リディのことだから、いろんなこと想定したうえでこの国に移住したんだよね?」


 ラディの言う通りだ。わかっててこの国に来た。

 むしろ、移住先はグリーンフィール以外考えなかった。


 家があることが大きいけど、外交で何度も来てこの国が大好きになったのだ。

 陛下も王女様も文官の方々も、ダズルだって、柔軟な思考を持って民のためにがんばっている。民の笑顔がそれを証明している。

 恵まれた豊かな国土も魅力的だけど、そういう人の力が素敵だと思う。


 王家に取り込まれるのは嫌だけど、この国には住んでみたいという我儘。

 それを叶えられる状況になったのだ。

 せっかく、しがらみのない、自由な身分でこの国に来れたのだから。


「そうね。そうよね。これくらいで怯んじゃだめね。絶対に乗り切るわ!」

「お、さすがリディ。格好いい」

「でも、ひとりじゃ怖いから、ラディも隣にいてね」

「…っ!…俺にもできることがあればいいんだけど」


 あら?今の発言、気に障ったかしら。甘えすぎ発言だった?

 しかも、ラディ、少し顔が赤くない?でも、怒ってる風ではないわよね?

 力にはなってくれそうだから、これ以上甘えすぎなければ大丈夫かしら。


「一緒にいてくれるだけで心強いのよ。だってラディは旦那様だもの」


 と言ったところで、厄介なことを思い出した。

 そして、自分たちの状況が誤解を招く可能性に気づいた。


「あ、あのね?別にそういうつもりじゃなかったのよ?えっと、その……」

「え、何。どうしたの?何のこと?」

「……第二王子殿下がね、かなりの野心家なの。婚約者もいなくて」

「ああ、なるほど。了解。殿下はリディを狙ってたのか。俺なら盾になれるね」

「あの、そのために結婚をお願いしたわけじゃないのよ?」

「はは、それは解ってる。だってリディ、殿下のこと、今思い出したでしょ?」


 ラディがお見通し過ぎてこわい。

 はい、そうです。たった今思い出しました。

 ついさっきまで、すっかり忘れていました。


「また巻き込んじゃってるわね………利用するみたいでごめんなさい」

「いいよ、そんなの。それに、さすがに離縁はさせられないと思うよ」

「それはそうだけど」

「それよりも、陛下がどう出るか、だよね」


 そう!そこなのだ。それが気になって余計に緊張しているのだ。

 話が戻った。


「リディを王家に取り込めないとなると。うーん、外交官とか政策関連の文官とかに任命してくるかな?あ、まずは、爵位を渡して懐柔するかも?」

「どれも辞退したいわ……。わたしはここで自由に暮らしたいのよ」

「だよね」


 王宮で働くのも、貴族の責務を負うのも避けたい。

 わたしは、この恵まれた国で、スローライフしたいのだ。


「ラディは貴族に戻りたい?」

「え?んー。そうだな、ここでの生活は気に入ってるよ」

「それって、平民のままでいいってこと?」

「俺、次男だし。レンダルに居たって、貴族でいれたかわからない身だよ?」

「それでも、貴族になれるなら?」

「……正直、そこまで貴族に魅力を感じていないよ」


 よし。ラディも平民でいいのなら、道は決まった。

 やっと掴んだ自由だもの。奪われたくはない。


「よかった。わたしも平民がいいの。だから、爵位の話が来たら辞退するわ」

「リディがいいならいいけど。………断れるの?」

「カードを切るわ」

「カードを切る?」

「役に立ちそうな情報を渡して、賄賂にするのよ」

「それをやったら、これからもずっと情報を求められるんじゃないの?」

「今回の件、賄賂は賄賂だけど、こちらの要望を聞いてもらうための対価だもの。情報には対価が必要でしょ?それはこれからも変わらないわ」

「要望を聞いてくれなかったら、もう情報は渡さないと?」


 そんな脅しみたいなことは言葉にはしないわよ?

 でも、今、自分がすごく悪い顔してるのはわかる。


「うふふ。王家になんか負けないんだから」


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