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追放令嬢は隣国で幸せになります。  作者: あくび。
第五章 平民ライフ旅行編
124/149

120.彼と彼女は披露する。

side ラディンベル

 うん、やっぱり可愛いよね。


 ジングから戻った俺たちは。

 旅行の余韻に浸りつつも様々な雑用を片付けて。


 義両親や侯爵たちに報告がてらお土産を渡しに行ったら。

 長かった休暇も、遂に終わりを迎えてしまった。


 まあでも、最後のサティアス邸での餅つきまで目一杯楽しんだしね。

 最高の休暇を過ごせたと思う。


 それに何よりも。


「ラディ、本当にありがとうね。この一ヶ月、すっごく楽しかったわ」


 リディがそう言って可愛く笑ってくれたから。

 それだけで、俺は十分満たされている。


 言ってみれば、俺は、休暇を取っただけだし。

 旅先では想定外のことばかり起きたし。

 面倒なことに首を突っ込んではいるんだけど。


 リディのその笑顔を見て。

 今更の新婚旅行を計画してよかったって心から思ったんだよね。


 そうして大満足の休暇を終えた後は。

 当然ながら、怒涛の仕事が待っているわけで。


 俺たちは、すっかり業務に追われる日々を送っている。


 いや、溜まった仕事はしょうがないと思うけどね。

 正直、思っていたよりも仕事が多い。


 というのも―――――。


 生ハムについては、まだ熟成中で発売には至らないし。

 海老の貿易や魔動自転車の販売は旅行前から順調だし。

 録音音楽は予定よりも早いペースで進んでると聞いている。


 だから、これらは製造部隊や販売部隊にお任せしてるんだけど。

 問題は、レシピ本なんだよね。


 俺たちが休暇に入ってすぐに発売されたレシピ本は。

 瞬く間に初版が売り切れて、現在増版を続けているという。


 料理人はもちろんなんだけど。

 平民も、お金を出し合って皆の共有本として購入してくれていて。

 更には、貴族でも、写真が綺麗だから、という理由で買う人がいるそうだ。


 おまけに、この現象はグリーンフィールだけじゃなくてレンダルも同様で。

 両国から、既に第二弾の要望が出ているんだよね。


 もっと言えば、ドラングル版も急かされている。


 ということで、新たなレシピ本制作に専念できるように。

 俺たちは溜まっていた仕事を大急ぎで片付けているのだ。


 実は、リディは、ジングで思いついた新商品を提案する予定だったんだけどね。

 それはしばらくお預けになりそうかな?


 あ、貴族向けの焼き鳥屋さんの出店準備はちゃんと進めている。侯爵が。

 リディも、メニューや盛り付け方法を提案しているみたい。


 ってなわけで、ちょっと慌ただしくしている俺たちだけど。


 そんなある日。

 俺たちに、陛下からお呼び出しがかかった。


 どうやら、俺たちが持ち込んだ案件の進捗を教えてくれるようなんだけど。

 お土産もお渡ししたかったからね。

 ちょうどいいタイミングだと思いながら、王宮に向かったら。


「まあ!リディア!なんて美しいのかしら!」

「ラディンベルも見違えたよ。見事に着こなしているね」


 王太子夫妻に絶賛された。


 というのも、今日の俺たちは。

 リディはピンクのキモノを、俺は羽織袴を身に纏っているから。

 俺たち、というよりは、キモノを絶賛されているんだと思う。


 正直、リディはあの紺色の夜桜?のキモノを着ると思ってたんだけど。

 実は、キモノの柄は季節に伴っているらしくて。

 今は桜の季節ではないから、年中着通せるピンクのほうにしたらしい。


 そんな裏事情に感心しつつも。


 うん、やっぱり可愛いよね。

 さすが俺のリディ、なんて内心は自慢一色だった。


 ただ、あまりにも食いつきがよくて。

 中庭で撮影大会が始まってしまったのは想定外だ。


 ………実は、さっきまでサティアス邸でも同じことしてたんだけど。

 皆さま、ちょっと、写真が好きすぎないだろうか?


 とは思いつつも、相手が相手なので突っ込むのも憚れて。

 どうしようもないから、皆の気の済むまで撮られ続けた。固まった笑顔で。


「付き合わせて悪かったな。妃たちは、そのキモノとやらが随分と気に入ったようだ。珍しいものに目がなくてな」


 陛下にはそう言われたけれど。

 陛下も、結構ノリノリでしたよね?


「さて、本題に入るか。全く、お前たちは次から次へと騒動に巻き込まれよって……。もはや、体質なのだろうな」


 これ、呆れられてるのかな。

 でも、迷惑をかけたのは事実だから。


「いろいろとご面倒をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした」

「気にするな、たいした手間でもなかった。お前たちが無事で何よりだ」

「外交官を守ってくれたしね。魅了の情報はありがたかったし、新たな取引まで持ってきてくれたんだから、むしろ感謝してるんだよ。巻き込まれた君たちは大変だっただろうけどね」


 おお、陛下もクリス殿下もなんて優しいんだ。

 逆に怖い気もするけど、こう言って貰えるとありがたい。


「魅了については、ジングもとんだ災難に見舞われたものだ。実験台にされた上に、厄介な娘に行き当たったなぞ、目も当てられん」

「ちょっとジングには同情してしまいますね……。ただ、黒幕が大陸となると我々も傍観しているわけにはいかないからね、我が国の関与を今調べているよ」


 海を挟んでいるとは言え、隣国だしね。

 ジングに手を出しやすいこの国は疑われやすいかもしれない。


「と言ってもな、我が国の者が国内で何らかの謀をするとしたら、魅了の魔石を使うとは考えづらい」


 これね、俺も、この国に来るまで知らなかったんだけど。

 グリーンフィールって、魔石の効力が弱いんだよね。


 どうやら、精霊と魔石って相性が悪いらしくて。

 反発したり浄化されたりして、魔石本来の力が発揮されないと聞いている。


 だから、魔石を使って事を起こそうとするわけがないんだ。

 他国で実験したって意味がないしね。


「他国に仕掛けるにしても、現状、周辺諸国は侵略しても旨みはないしね。今のところは、我が国が主犯だという可能性は低いと見ている」


 確かに、周辺諸国はグリーンフィールよりも国力が低いから。

 国土を奪ったとしても、その後が大変だ。


 強いて言えば、ドラングルの資源や武力は魅力的だけど。

 王女が嫁いだ先に侵攻なんかしないよね。


「念のため、引き続き馬鹿なことを考えている輩がいないかは調べていくけどね、それよりも、仕掛けられた際の対策を検討することに重点を置く予定だよ」

「仕掛けられるとすれば、我が王家も狙われるだろうが、最も狙われる可能性が高いのはリアン商会だ。気をつけろよ」


 なるほど。

 最も、というのは言い過ぎだと思うけど、確かに可能性はある。


 商会が持つ技術は元より、リディの記憶のこともあるしね。

 再度防衛を強化したほうがよさそうだな。


「ああ、そうだ。ドラングルにはね、アンヌを通して忠告しておいたんだけど、レンダルはどうかな?」

「恐れながら私共のほうからレンダル王家に報告させて頂きましたところ、現段階では、魅了の魔石や首飾りは発見されておらず、怪しい動きもないようです」


 義父上が答えてくれたけれど。

 俺も実家に伝えたし、義母上も王妃様と連絡を取ってくれてるんだよね。


「そうか。漸く友好関係を築けたところだしね、我が国としてもレンダルには斃れてほしくないんだ。宝石工場や任せている農地もあることだし、協力は惜しまないつもりだよ」


 なんともそれは心強い。

 義父上も感激した様子で御礼を言っていた。


 そうして、もう少し細々とした話をしてから。

 魅了の件は終了となったんだけど。


 話はまだ続く。


「貿易の件も話しておくか」

「本当に君たちには驚かされるよ。ただの旅行と言えども無駄にしないとはね」

「交渉していた魚と米だが、取引条件が此度ようやっと纏まってな、輸入の手筈も整ったぞ」


 おお!これで、鮭のおにぎりやスモークを販売できる!

 思わずリディと顔を見合わせて笑いあったよね。


「だからルイス。外交官に圧力をかけるのはやめてもらえないかな?」

「ははは、一体何のことやら」


 あ、侯爵、本当に脅してたんだ。


「程々にしてやれ。にしても、お前がそこまで出張るとは、鮭とやらはそんなに旨い魚なのか?」

「味は勿論ですが、様々な加工ができますので、有用な魚だと思いますよ。今日もリディアが幾らか用意してくれていたはずですが」

「はい」


 毒検知だなんだもあるだろうから。

 お土産も含めて、今日持参したものはすべて事前に渡してあるんだよね。


 だから、話を振られたリディがお付きの方のほうを向いたら。

 すぐに、陛下たちの前に差し入れたお重を並べてくれた。


「まあ!話には聞いていましたが、本当に色鮮やかなお魚ですのね」


 早速声を上げたのは王妃様だった。

 王太子妃殿下も前のめりでお重を覗き込んで目を輝かせている。


 今回は、鮭と粘り米と言ったら鉄板の鮭おこわに、鮭の漬け焼。

 そして、海鮭スモークといくらの手毬寿司を用意したから。

 見るだけでも綺麗だと思う。


 ということで、リディの自信作ではあるんだけどね。

 ここで、陛下と殿下方がきょろきょろし出したから何かと思ったら。


「箸はないのか?」

「フォークでもいいんだが」


 なんて言い出したから驚いた。

 もしや、今ここで、皆でお重を突こうとしているんだろうか。


 いや、まさかね?とは思ったものの。

 陛下方の言葉を聞いて、王妃様や妃殿下までもが期待に満ちた目をして。

 お付きの方をじっと見ていた。


 ああ、これは逆らえないね。

 王族全員からそんな目で見つめられたら従うしかないよね。


 とはいえ、お重から食べて貰うわけにもいかなくて。

 お皿に移し替えてくれることになったので。


 俺たちはその間にお土産を渡すことにした。


「まあ!まあまあ!これがジングの髪飾りですの?」

「これはまた美しい髪飾りですこと。花の意匠が大陸とはちょっと違うのね」

「留め金がないけれど、髪を結ってから挿せばいいのかしら?」

「実は、これ一本で髪が纏まるんです」

「「まあ!!」」


 王妃様と妃殿下へのお土産はキモノのお店で買った簪だ。

 奮発しただけあって、宝石の付いた逸品なんだよね。


「おお!!これは、もしかしてカタナか?」

「ご存じでしたか。模造剣ですので飾りにはなりますが」

「え……、私の分も……?」

「もちろんです。ご兄弟で色違いのお揃いにさせて頂きました」


 王子殿下方には、カタナの模造剣を。


 ふたりとも剣術にも長けていると聞いているから。

 興味を持ってもらえると思ったんだ。


 案の定、造形の美しさや性能に食いついていたよね。


「私には何もないのか?」


 もちろん、あるに決まってますよ、陛下。

 ただ、ちょっと、仰々しく披露したかっただけです。


 ということで、リディが、掛けられていた布を大袈裟にはぎ取った。


「陛下にはこちらをご用意しました!」

「……………………。なんだ、これは」

「臼と杵です!」

「……………………」

「しかも、王家の紋章入りです!彫ったのはわたしですけれど!」

「……………………」


 うん。

 こんなに困惑した顔をした陛下を見たのは初めてかもしれない。


「粘り米を加工する道具なんですよ。こちらを御覧頂ければわかりやすいかと」


 おお。侯爵、ナイスアシスト。


 どうやら、サティアス邸での餅つきの映像を持って来てくれてたらしくて。

 早速この場で流してくれた。


 王家の皆様は、興味深そうにそれを見てくれたんだけどね。

 まさか、陛下が拗ねてしまうとは思わなかったよね。


「随分と楽しそうだな?」

「ええ、物凄く楽しかったですよ」

「なぜ、呼ばぬのだ」

「……………。お忙しい陛下を煩わせたくなかったのですよ」


 侯爵は一瞬『何言ってんだ、この人』的な顔をしたけれど。

 すぐに立て直して、人好きのする笑顔で他意はなかったことを伝えていた。


 そうこうしていたら皿に移し替えられた鮭料理が登場したから。

 皆様に食べて頂いて。

 大好評のうちに、その日の非公式の謁見?は終了したんだ。


 そして後日。


 王宮でも餅つき大会が開催された。

 その際、侯爵が。

 王家の皆様のユカタを用意していたのはさすがだったよね。


 このお話で第五章終了となります。

 ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございます。


 この後、閑話を一話挟みまして。

 少しお時間をいただいてから第六章を開始する予定です。


 もしよろしければ、引き続き第六章もお付き合いくださいませ。


 今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。


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